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第54話「西日野亜美」③ 加筆修正版
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俺でも描けるレベルなんておこがましいことを言うつもりは毛頭なかったが、デビルエクスマキナが出版されたのは亜美が中学二年のときだから、今から5年も前の作品になる。
だが、5年前でもすでに古いと言わざるを得ない絵柄で、作品の内容にもその絵柄は合ってはいなかった。機械仕掛けの神や悪魔のデザインが、あまりにも酷かった。
スマホでそのイラストレーターについて調べてみると、同じ出版社の週刊少年漫画雑誌で一度だけ連載をしたが、すぐに打ち切られてしまった漫画家が担当していたことがわかった。きっと原稿料を安くすませようとしたんだろう。
後の破魔矢梨沙をつかまえておいて、惜しいことをしたものだと思った。
とはいえ、デビルエクスマキナやその少年漫画雑誌には合わなかっただけで、その漫画家も充分にすごい人なのだ。
打ち切り漫画やその作者はネットなどで馬鹿にされがちだが、あれは漫才やコントの有名な大会で、決勝戦にまで勝ち上がったのに、そこで最下位になってしまったコンビが、日本一つまらないコンビだと認識されてしまうことに似ているように思う。
新人賞を取るだけでも大変なことであり、デビューするのはさらに大変で、連載にまでたどりつくのはもっと大変なことなのだ。週刊漫画雑誌は毎週がお笑いコンテストの決勝戦のようなものなのだ。
だからみんな、打ち切り漫画をもっと愛そうな。
この作品を本気で売りたいなら、俺が大好きなゲームのキャラクターや悪魔をデザインしていた悪魔絵師と呼ばれるお方にイラストを頼むべきだったのではないか。まぁ、そんなことをしたら、原稿料が大変なことになるだろうし、印税の取り分もあらかたそのイラストレーターがかっさらっていくことになりかねなかっただろうが。
有名なイラストレーターに表紙や挿し絵を依頼すると、印税の取り分が小説の作者よりもイラストレーターの方が多くなるというのは、よく聞く話だった。いとういじるさんとかは特にすごかったって話だし。
「それの続きが読みたいなら、このパソコンの中にあと8冊分はあるから、あとで送っておくわ」
続編を出せるかどうかもわからないのに8冊分も続きを書いていたのだろうか。
それとも、出せないとわかってからも、本当の意味での完結まで書かずにはいられなかったのだろうか。
たぶんその両方だろうな、と俺は思った。
亜美は、破魔矢梨沙になる前、ひのにし みあの時代からきっとそういうストイックな作家だったんだろう。
「それは勿論読みたいんだけど、今この作品の権利ってどうなってるんだ?」
「さぁ? 重刷はされなかったし、担当編集者もすぐに電話に出なくなって、メールもずっと返信がないまま5年が過ぎちゃってるから」
何それ。編集者っていうか出版社、超怖い。
こんなにかわいくて、こんなに能力も高い、技も強い子をつかまえておいて、バケモンボールに入れもしないで、すぐに誰かのパソコンの中に放り込むとか、何なの? 関東地方の図鑑埋めたいだけなの?
「でも、どうしてそんなことを気にするの?」
「出版社や編集者にとってどうでもいい作品でも、俺にとってもとりにくチキンの読者にとっても、そのパソコンに埋もれさせておくのはもったいないって思ってさ。
この1冊目から未発表の残り8作、キヅイセと同時連載できないかなって思ったんだよ。
将来的には、ふたつの作品のクロスオーバーとかも読んでみたいし」
「聞いてみる」
亜美はすぐにスマホで誰かに電話をかけた。デビルエクスマキナを出版した出版社の編集部だろうか。
「あ、えっと、破魔矢梨沙、です。あ、いえ、障害年金を題材にした作品は、ま、まだ書いている途中なんですけど、今日は別件で……」
どうやら、相手は現在の担当編集者さんらしかった。
それにしても、亜美は俺と同じで電話も苦手なんだな、と思った。
勢いよくかけたわりに、声が上ずっていた。
俺の彼女、かわいすぎるだろ。
だが、5年前でもすでに古いと言わざるを得ない絵柄で、作品の内容にもその絵柄は合ってはいなかった。機械仕掛けの神や悪魔のデザインが、あまりにも酷かった。
スマホでそのイラストレーターについて調べてみると、同じ出版社の週刊少年漫画雑誌で一度だけ連載をしたが、すぐに打ち切られてしまった漫画家が担当していたことがわかった。きっと原稿料を安くすませようとしたんだろう。
後の破魔矢梨沙をつかまえておいて、惜しいことをしたものだと思った。
とはいえ、デビルエクスマキナやその少年漫画雑誌には合わなかっただけで、その漫画家も充分にすごい人なのだ。
打ち切り漫画やその作者はネットなどで馬鹿にされがちだが、あれは漫才やコントの有名な大会で、決勝戦にまで勝ち上がったのに、そこで最下位になってしまったコンビが、日本一つまらないコンビだと認識されてしまうことに似ているように思う。
新人賞を取るだけでも大変なことであり、デビューするのはさらに大変で、連載にまでたどりつくのはもっと大変なことなのだ。週刊漫画雑誌は毎週がお笑いコンテストの決勝戦のようなものなのだ。
だからみんな、打ち切り漫画をもっと愛そうな。
この作品を本気で売りたいなら、俺が大好きなゲームのキャラクターや悪魔をデザインしていた悪魔絵師と呼ばれるお方にイラストを頼むべきだったのではないか。まぁ、そんなことをしたら、原稿料が大変なことになるだろうし、印税の取り分もあらかたそのイラストレーターがかっさらっていくことになりかねなかっただろうが。
有名なイラストレーターに表紙や挿し絵を依頼すると、印税の取り分が小説の作者よりもイラストレーターの方が多くなるというのは、よく聞く話だった。いとういじるさんとかは特にすごかったって話だし。
「それの続きが読みたいなら、このパソコンの中にあと8冊分はあるから、あとで送っておくわ」
続編を出せるかどうかもわからないのに8冊分も続きを書いていたのだろうか。
それとも、出せないとわかってからも、本当の意味での完結まで書かずにはいられなかったのだろうか。
たぶんその両方だろうな、と俺は思った。
亜美は、破魔矢梨沙になる前、ひのにし みあの時代からきっとそういうストイックな作家だったんだろう。
「それは勿論読みたいんだけど、今この作品の権利ってどうなってるんだ?」
「さぁ? 重刷はされなかったし、担当編集者もすぐに電話に出なくなって、メールもずっと返信がないまま5年が過ぎちゃってるから」
何それ。編集者っていうか出版社、超怖い。
こんなにかわいくて、こんなに能力も高い、技も強い子をつかまえておいて、バケモンボールに入れもしないで、すぐに誰かのパソコンの中に放り込むとか、何なの? 関東地方の図鑑埋めたいだけなの?
「でも、どうしてそんなことを気にするの?」
「出版社や編集者にとってどうでもいい作品でも、俺にとってもとりにくチキンの読者にとっても、そのパソコンに埋もれさせておくのはもったいないって思ってさ。
この1冊目から未発表の残り8作、キヅイセと同時連載できないかなって思ったんだよ。
将来的には、ふたつの作品のクロスオーバーとかも読んでみたいし」
「聞いてみる」
亜美はすぐにスマホで誰かに電話をかけた。デビルエクスマキナを出版した出版社の編集部だろうか。
「あ、えっと、破魔矢梨沙、です。あ、いえ、障害年金を題材にした作品は、ま、まだ書いている途中なんですけど、今日は別件で……」
どうやら、相手は現在の担当編集者さんらしかった。
それにしても、亜美は俺と同じで電話も苦手なんだな、と思った。
勢いよくかけたわりに、声が上ずっていた。
俺の彼女、かわいすぎるだろ。
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