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第53話「西日野亜美」② 加筆修正版
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そんなすごい彼女のそばで、俺が今読んでいるのは、彼女が中学生時代に新人賞を取った「デビルエクスマキナ」というラノベだった。作者名は「ひのにし みあ」で、彼女の本名のアナグラムになっていた。
結構前に、確か文芸部に入部した日に、彼女が部内用に書いた小説といっしょに受け取っていたが、なかなか読む時間を作れずにいたのだ。
彼女は自分の作品を目の前で読まれるのは苦手だと言っていたから、ブックカバーを付けてバレないように読んでいた。
デビルエクスマキナというタイトルは、デウスエクスマキナという、機械仕掛けの神という意味の言葉をもじったものだった。
古代ギリシアの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法があったらしい。
その手法や、その絶対的な力を持つ存在がデウスエクスマキナと呼ばれていたらしいのだが、きっとその演劇を見ていた観客は、一生懸命読んだり観たりしていた作品が夢オチで終わったときのような気持ちになったことだろう。
ひのにし みあのデビルエクスマキナは、デウスエクスマキナが機械仕掛けの神という意味の言葉であるという点だけに着目し、世界中にある神話の神々は実は遠い未来や外宇宙からやってきた機械仕掛けの存在であったという設定だった。
デウスエクスマキナは人類にさまざまな叡知を与えたが、それから数千年が過ぎた地球を見て、自分たちがしたことは誤りであったとし、機械仕掛けの天使の軍勢を率いて人類を滅亡させようとする。
デウスエクスマキナたちに対抗するべく、人類は悪魔と手を結び、死を待つだけの人間に機械仕掛けの体と悪魔の力を与え、デビルエクスマキナという存在を産み出しては戦いに身を投じさせる、そんな物語だった。
デビルメンズにサイボーグ007、それからゲームの男神転生シリーズを足し算ではなくかけ算したような作品で、物語は完結しているのだが、続編がぜひ読みたい作品だった。
破魔矢梨沙の文体というよりは、とりにくチキンの文体に似ていた。
ラノベであることから、ひのにし みあ時代の文体を、現在の破魔矢梨沙が真似たのがとりにくチキンの文体なのかもしれない、そんな印象を受けた。
「なんでこれ、売れなかったんだ? 俺、もっとこの続きを読みたいんだけど」
読み終わった俺は、わざわざブックカバーをつけてまで読んでいたというのに、そんなことを亜美に言ってしまっていた。
彼女はノートパソコンから顔をあげ、一瞬きょとんとしたが、すぐにため息をつき、
「何を読んでるのかなって思ってたけど、デビルエクスマキナを読んでたのね」
俺から文庫を取り上げてブックカバーをはずした。
「章くんはわたしのことが大好きだから、身内の贔屓目よ、きっと」
そう言って、彼女は赤面し、
「あ、今のは、わたしの小説がって意味だから!」
と慌てて訂正した。
こういうところを見ると、珠莉が彼女をいじめたくなる気持ちが本当によくわかる。
彼女が本気で怒るギリギリ手前までいじりにいじり、恥ずかしがったり悶絶する彼女を思いっきり堪能したい気持ちになるのだ。
まだ俺は珠莉のようにそのギリギリ手前がどこなのかよくわかってはいないから、やりすぎると部室にある古い広辞苑などの鈍器で頭をかちわられかねないので、
「小説ももちろん大好きだけど、確かに亜美のこと超好きだな」
それくらいのことしか言えないのだが、今度は言われた彼女だけでなく、言った俺まで赤面することになってしまった。
もろばの剣とはまさにこのことだ。
売れなかった理由は、なんとなくわかった。
ラノベは内容ももちろん大事だが、内容が評価されるためには、まず書店で手にとってもらったり、通販サイトで興味をもってもらえるような表紙のイラストが必要不可欠だからだ。
特に新人作家ならなおさらだろう。
デビルエクスマキナの表紙や挿し絵は、お世辞にもうまいと言えるイラストではなかった。
結構前に、確か文芸部に入部した日に、彼女が部内用に書いた小説といっしょに受け取っていたが、なかなか読む時間を作れずにいたのだ。
彼女は自分の作品を目の前で読まれるのは苦手だと言っていたから、ブックカバーを付けてバレないように読んでいた。
デビルエクスマキナというタイトルは、デウスエクスマキナという、機械仕掛けの神という意味の言葉をもじったものだった。
古代ギリシアの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法があったらしい。
その手法や、その絶対的な力を持つ存在がデウスエクスマキナと呼ばれていたらしいのだが、きっとその演劇を見ていた観客は、一生懸命読んだり観たりしていた作品が夢オチで終わったときのような気持ちになったことだろう。
ひのにし みあのデビルエクスマキナは、デウスエクスマキナが機械仕掛けの神という意味の言葉であるという点だけに着目し、世界中にある神話の神々は実は遠い未来や外宇宙からやってきた機械仕掛けの存在であったという設定だった。
デウスエクスマキナは人類にさまざまな叡知を与えたが、それから数千年が過ぎた地球を見て、自分たちがしたことは誤りであったとし、機械仕掛けの天使の軍勢を率いて人類を滅亡させようとする。
デウスエクスマキナたちに対抗するべく、人類は悪魔と手を結び、死を待つだけの人間に機械仕掛けの体と悪魔の力を与え、デビルエクスマキナという存在を産み出しては戦いに身を投じさせる、そんな物語だった。
デビルメンズにサイボーグ007、それからゲームの男神転生シリーズを足し算ではなくかけ算したような作品で、物語は完結しているのだが、続編がぜひ読みたい作品だった。
破魔矢梨沙の文体というよりは、とりにくチキンの文体に似ていた。
ラノベであることから、ひのにし みあ時代の文体を、現在の破魔矢梨沙が真似たのがとりにくチキンの文体なのかもしれない、そんな印象を受けた。
「なんでこれ、売れなかったんだ? 俺、もっとこの続きを読みたいんだけど」
読み終わった俺は、わざわざブックカバーをつけてまで読んでいたというのに、そんなことを亜美に言ってしまっていた。
彼女はノートパソコンから顔をあげ、一瞬きょとんとしたが、すぐにため息をつき、
「何を読んでるのかなって思ってたけど、デビルエクスマキナを読んでたのね」
俺から文庫を取り上げてブックカバーをはずした。
「章くんはわたしのことが大好きだから、身内の贔屓目よ、きっと」
そう言って、彼女は赤面し、
「あ、今のは、わたしの小説がって意味だから!」
と慌てて訂正した。
こういうところを見ると、珠莉が彼女をいじめたくなる気持ちが本当によくわかる。
彼女が本気で怒るギリギリ手前までいじりにいじり、恥ずかしがったり悶絶する彼女を思いっきり堪能したい気持ちになるのだ。
まだ俺は珠莉のようにそのギリギリ手前がどこなのかよくわかってはいないから、やりすぎると部室にある古い広辞苑などの鈍器で頭をかちわられかねないので、
「小説ももちろん大好きだけど、確かに亜美のこと超好きだな」
それくらいのことしか言えないのだが、今度は言われた彼女だけでなく、言った俺まで赤面することになってしまった。
もろばの剣とはまさにこのことだ。
売れなかった理由は、なんとなくわかった。
ラノベは内容ももちろん大事だが、内容が評価されるためには、まず書店で手にとってもらったり、通販サイトで興味をもってもらえるような表紙のイラストが必要不可欠だからだ。
特に新人作家ならなおさらだろう。
デビルエクスマキナの表紙や挿し絵は、お世辞にもうまいと言えるイラストではなかった。
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