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第46話「とりにくチキン」①
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「ちなみに、お前がインフルエンサーになるきっかけって何だったんだ?
何気なく呟いたことがバズったって言ってたけど」
昨夜からずっと気になっていたことを俺は妹に訊ねてみることにした。
妹は「んー」と、どう説明したものか少し迷っていた様子だったが、
「須田将利くん似の兄に、須田将利くんが着てそうな服(でも安い)を着せたら、どこまで須田将利くんに寄せていけるか検証してみた、っていう、お兄ちゃんの写真つきのつぶやき」
意を決したようにそう言って、「てへぺろんちょ」と舌を出した。
「思いっきりバズらせる気満々じゃねーか!!」
どうりで俺が服を買うときに毎回ついてきては、「それは須田のズボンの太さじゃあ!」と思わず岡山弁でツッコミたくなるような服ばかり毎回選んできていたわけだ。
どうりで家に帰るとすぐに買ったばかりの服に着替えさせられ、バシャバシャ写真を撮られていたわけだ。
ていうか、俺の須田将利くん気取りの写真、全世界に発信されてたの?
なんかいろいろポーズを取らされたりしてたけど、あれも須田将利くんが雑誌の表紙とか写真集でしてたポーズなのか?
あ、だめだ、俺。萌え袖のロンTに、やたら丈が長めで袖のないパーカーを重ね着したとき、調子に乗って「さぁ、検索を始めよう」とかやってた! やっちゃってた!!
俺、まじ痛いヤツじゃん……これが「マジ愚か兄」というやつなのか……
妹のアカウントを見てみると、案の定というかなんというか、
「熱中症になった須田将利にしか見えない」
だとか、
「暴漢に襲われて顔をボコボコに殴られた須田将利が病院で診察を待ってるのかな?」
だとか、誉められているのか、けなされているのか判断しかねる感想がフォロワーたちによって書かれていた。
エゴサはマジで心が折れるなと思った。
なんでこいつはそんなに俺の写真ばかり撮りたがるのだろう。
もしかして妹萌えのラノベやアニメみたいに、実はお兄ちゃんのことが大好き! とか?
って、現実には絶対にありえないことを想像しちゃったりしてた自分が滅茶苦茶恥ずかしくなった。
妹は笑いながら、
「でもそのおかげで、お兄ちゃんの18年の人生で一番の難問を解決するのに役に立ったでしょ?」
確かにその通りではあったので、俺は何も言い返せなかったし、今はとにかく感謝するしかなかった。
それはわかってるんだけど、恥ずかしくて死にたい! もうお嫁に行けない!!
「わたしの一番の難問も、亜美さんのおかげで解決しそうだし、万々歳じゃん?」
そう言って妹は出かけて行った。
妹は、本当に俺の面倒を一生看てくれるつもりだったのかもしれなかった。
大学に向かう電車の中で、俺は亜美や珠莉と連絡を取り、昼休みに一度部室で集まることになった。
苦手だった無料通話アプリでのやりとりや、とりにくチキンのメンバー間で情報を共有するために珠莉が作ったグループチャットも、最初は嫌だと思ったものだが、楽しくなり始めていた。
俺は亜美や珠莉に出会ったことで変わりつつある、ということだろうか。
亜美からは、バイト先のコンビニにグループチャットがあり、自分が休みの日にも業務連絡が来るのは本当に気が滅入ると聞いていた。それは本当に気が滅入りそうだな、と思った。
グループチャットなんてものを職場で使おうとするヤツはバカなんじゃないかと思う。大抵店長やら何やら社員がやり始めるのだろうが。
グループチャットだけじゃなく、個人間でのやりとりもそうだが、立場が上のヤツが威圧的な発言でもすれば、それを受けた側はいくらでもスクショが可能なものを使って業務連絡をするなど愚の骨頂だ。
グループチャットは、友達だからこそ成立するものなのだ。
妹以外には、親からたまに連絡があるくらいで、ほぼほぼゲームアプリをするためだけに持っていたスマホが、最近ようやくスマホらしくなってきていることも、俺は嬉しく感じていた。
――西日野、まだ家か?
――そうだけど、何かしら?
――俺に拾わせるためだけのダミーのスマホにつけてた、手帳型のスマホケースあったろ。
あれ、もう使ってないなら俺にくれないか?
俺はスマホにケースどころか保護フィルムさえ付けていなかったのだが、ケースを付けたいと思うくらいには、愛着を持ち始めてもいた。
――確か、全機種対応のやつだったよな?
――別にいいけど。どうしたの? 急に。
それに、わたしとお揃いになるけどいいの?
――だからそのケースがいいんだ。
――わかった。持ってく。
俺が初めてスマホを手にしたのは中学生になったときだった。
その頃にはもう格安スマホがあったから、月々の支払いが機種代込みで3000円くらいですむようなものを選び、それ以来一度も機種変をしたことがなかった。
この5、6年のほどの間、俺にとってスマホはあくまで3DeuSやPTP、PTPbetaと同じようなゲーム機でしかなかった。音楽を聴くことはあっても、写真や動画を撮るようなことも滅多になかった。
過去に機種変を考えたこともあったが、最新のゲームアプリがプレイできなくなってきたからという理由でしかなかった。そんな理由でスマホを買い替えるくらいなら、新しいゲームソフトやゲーム機を買った方がずっといいと思ったからやめていた。
今はケースだけではなく、機種変して亜美と同じスマホにしたいとさえ考えていた。確か彼女のスマホの色はマゼンダだったから、俺のはシアンがいいなと思った。
ずっとデフォルトのままだったロック画面や待ち受け画面は、亜美がピノアのコスプレをした写真に変えていた。
ちなみにロックされているときはそんなにえっちなものではなく、ロックを解除するとちょっとえっちな写真に変わるようにしていた。
電話やメールの着信音も、破魔矢梨沙原作の映画の主題歌や挿入歌に変えていた。
待ち受け画面の亜美の写真を見るだけで、心が躍った。
電車の車窓から空を見上げると、子どもの頃からずっと、晴れていても曇り空のようにいつも感じていた空が、澄み渡るほど美しいものだったということに俺ははじめて気づいた。
やはり俺は少しずつ変わっているのだなと思った。
何気なく呟いたことがバズったって言ってたけど」
昨夜からずっと気になっていたことを俺は妹に訊ねてみることにした。
妹は「んー」と、どう説明したものか少し迷っていた様子だったが、
「須田将利くん似の兄に、須田将利くんが着てそうな服(でも安い)を着せたら、どこまで須田将利くんに寄せていけるか検証してみた、っていう、お兄ちゃんの写真つきのつぶやき」
意を決したようにそう言って、「てへぺろんちょ」と舌を出した。
「思いっきりバズらせる気満々じゃねーか!!」
どうりで俺が服を買うときに毎回ついてきては、「それは須田のズボンの太さじゃあ!」と思わず岡山弁でツッコミたくなるような服ばかり毎回選んできていたわけだ。
どうりで家に帰るとすぐに買ったばかりの服に着替えさせられ、バシャバシャ写真を撮られていたわけだ。
ていうか、俺の須田将利くん気取りの写真、全世界に発信されてたの?
なんかいろいろポーズを取らされたりしてたけど、あれも須田将利くんが雑誌の表紙とか写真集でしてたポーズなのか?
あ、だめだ、俺。萌え袖のロンTに、やたら丈が長めで袖のないパーカーを重ね着したとき、調子に乗って「さぁ、検索を始めよう」とかやってた! やっちゃってた!!
俺、まじ痛いヤツじゃん……これが「マジ愚か兄」というやつなのか……
妹のアカウントを見てみると、案の定というかなんというか、
「熱中症になった須田将利にしか見えない」
だとか、
「暴漢に襲われて顔をボコボコに殴られた須田将利が病院で診察を待ってるのかな?」
だとか、誉められているのか、けなされているのか判断しかねる感想がフォロワーたちによって書かれていた。
エゴサはマジで心が折れるなと思った。
なんでこいつはそんなに俺の写真ばかり撮りたがるのだろう。
もしかして妹萌えのラノベやアニメみたいに、実はお兄ちゃんのことが大好き! とか?
って、現実には絶対にありえないことを想像しちゃったりしてた自分が滅茶苦茶恥ずかしくなった。
妹は笑いながら、
「でもそのおかげで、お兄ちゃんの18年の人生で一番の難問を解決するのに役に立ったでしょ?」
確かにその通りではあったので、俺は何も言い返せなかったし、今はとにかく感謝するしかなかった。
それはわかってるんだけど、恥ずかしくて死にたい! もうお嫁に行けない!!
「わたしの一番の難問も、亜美さんのおかげで解決しそうだし、万々歳じゃん?」
そう言って妹は出かけて行った。
妹は、本当に俺の面倒を一生看てくれるつもりだったのかもしれなかった。
大学に向かう電車の中で、俺は亜美や珠莉と連絡を取り、昼休みに一度部室で集まることになった。
苦手だった無料通話アプリでのやりとりや、とりにくチキンのメンバー間で情報を共有するために珠莉が作ったグループチャットも、最初は嫌だと思ったものだが、楽しくなり始めていた。
俺は亜美や珠莉に出会ったことで変わりつつある、ということだろうか。
亜美からは、バイト先のコンビニにグループチャットがあり、自分が休みの日にも業務連絡が来るのは本当に気が滅入ると聞いていた。それは本当に気が滅入りそうだな、と思った。
グループチャットなんてものを職場で使おうとするヤツはバカなんじゃないかと思う。大抵店長やら何やら社員がやり始めるのだろうが。
グループチャットだけじゃなく、個人間でのやりとりもそうだが、立場が上のヤツが威圧的な発言でもすれば、それを受けた側はいくらでもスクショが可能なものを使って業務連絡をするなど愚の骨頂だ。
グループチャットは、友達だからこそ成立するものなのだ。
妹以外には、親からたまに連絡があるくらいで、ほぼほぼゲームアプリをするためだけに持っていたスマホが、最近ようやくスマホらしくなってきていることも、俺は嬉しく感じていた。
――西日野、まだ家か?
――そうだけど、何かしら?
――俺に拾わせるためだけのダミーのスマホにつけてた、手帳型のスマホケースあったろ。
あれ、もう使ってないなら俺にくれないか?
俺はスマホにケースどころか保護フィルムさえ付けていなかったのだが、ケースを付けたいと思うくらいには、愛着を持ち始めてもいた。
――確か、全機種対応のやつだったよな?
――別にいいけど。どうしたの? 急に。
それに、わたしとお揃いになるけどいいの?
――だからそのケースがいいんだ。
――わかった。持ってく。
俺が初めてスマホを手にしたのは中学生になったときだった。
その頃にはもう格安スマホがあったから、月々の支払いが機種代込みで3000円くらいですむようなものを選び、それ以来一度も機種変をしたことがなかった。
この5、6年のほどの間、俺にとってスマホはあくまで3DeuSやPTP、PTPbetaと同じようなゲーム機でしかなかった。音楽を聴くことはあっても、写真や動画を撮るようなことも滅多になかった。
過去に機種変を考えたこともあったが、最新のゲームアプリがプレイできなくなってきたからという理由でしかなかった。そんな理由でスマホを買い替えるくらいなら、新しいゲームソフトやゲーム機を買った方がずっといいと思ったからやめていた。
今はケースだけではなく、機種変して亜美と同じスマホにしたいとさえ考えていた。確か彼女のスマホの色はマゼンダだったから、俺のはシアンがいいなと思った。
ずっとデフォルトのままだったロック画面や待ち受け画面は、亜美がピノアのコスプレをした写真に変えていた。
ちなみにロックされているときはそんなにえっちなものではなく、ロックを解除するとちょっとえっちな写真に変わるようにしていた。
電話やメールの着信音も、破魔矢梨沙原作の映画の主題歌や挿入歌に変えていた。
待ち受け画面の亜美の写真を見るだけで、心が躍った。
電車の車窓から空を見上げると、子どもの頃からずっと、晴れていても曇り空のようにいつも感じていた空が、澄み渡るほど美しいものだったということに俺ははじめて気づいた。
やはり俺は少しずつ変わっているのだなと思った。
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