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第45話「小説投稿サイト攻略指南(仮)」⑪
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「それから、今回尽力してくれたどっかのインフルエンサーさんが今そばにいるから代わるな」
俺がそう言うと、亜美と珠莉は、
「はぁ? 何それ?」
「日永くん、どういうことなの?」
と驚いていた。まぁ、そりゃ驚くよな。
俺だっていまだに信じられないんだから。
リビングでテレビを観ていた妹は、自分を指差し、わたし? という顔をした。
「破魔矢梨沙っていうか、西日野亜美とその双子の姉ちゃんの珠莉からだ」
そう言って、俺はスマホを妹に手渡した。
「どうもー、どっかのインフルエンサーさんの日永雪でーす」
何その漫才の最初の挨拶みたいな口調。
「いつも、うちの愚兄がお世話になってまーす。あ、これ別に謙遜じゃなくて『マジ愚か兄』って意味で」
マジ愚か兄って何!? マジオロカアニってカタカナにしたら何か呪いの言葉っぽいんだけど!?
俺は新しいJK用語が生まれた瞬間に立ち会っていたのかもしれなかった。
「バカでしょー、うちのお兄ちゃん。家でいつも美少女フィギュアのパンツばっかり見てるんですよー。気持ち悪いですよねー。
亜美さんと珠莉さんも、うちの性犯罪者予備軍にスカートめくられたり、盗撮されたりとかしてません? 大丈夫ですか?」
ちょっと雪さん? いきなり何ぶっこんでんの?
めくらないよ? 盗撮とかもしないからね?
あと「亜美さんと珠莉さんも」って言い方だと、雪さんはされちゃってるみたいじゃない?
「え!? 亜美さんが部屋で下着姿で寝てるときに、お兄ちゃんガン見してたの!? うわー最悪、キモ……
いやいや、その亜美さんの写真を撮ってて、お兄ちゃんに送ってあげたとか、珠莉さんグッジョブです!!」
妹はそんな風にうまくふたりと打ち解け、その後は俺に代わってうまく事情を説明してくれた。
少しでいいからその珠莉よりも高いコミュ力をこのマジ愚か兄にも分けてもらえないものだろうか。
妹は、俺の様子がこの2週間ほどおかしかったため、無理矢理話を聞き出したということにしてくれていた。
最後の最後まで、亜美が破魔矢梨沙であるということを俺が黙っていたことにもしてくれた。
電話が終わったあと、
「いい人そうだね。亜美さんも珠莉さんも」
と妹は安心したように言った。
「あぁ、ほんとにな」
本当にいい奴らだった。
「お前もそう思われてると思うぞ」
と俺は言った。
俺も心からそう思っていた。
その日は俺は2限からの講義で、8時半くらいに家を出ればよかった。
先に家を出る妹を俺は玄関で見送った。
「なんか悪かったな」
俺はありがたいなと感じていると同時に、妹の手まで借りてしまったことについて、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
10万人というフォロワー数が、芸能人などではなく一般の女子高生のインフルエンサーとして多いのか少ないのかは正直よくわからなかった。
だが、妹がSNSにおける情報発信によって世間に対して大きな影響を与える人たちのひとりであることは間違いないのだ。
妹のリツブヤキートによって俺たちは大きく助けられたわけだが、インフルエンサーとしての信用問題に関わるようなことをさせてしまっていた。
「なんで謝るの? わたしが本当に面白いって思ったネット小説に、たまたまお兄ちゃんが関わってただけでしょ?」
だが、妹はそう言った。そう言ってくれた。
「つまんなかったら、わたしはリツブヤキートなんかしてないよ。わたしはわたしのセンスを信じてるから。
フォロワー10万人なんて本物のインフルエンサーから見れば下っ端みたいなもんだけど、それでもDMで宣伝を頼まれたりすることもあるんだ。
でも、よく知らないものとか、わたしがイマイチだと思ったものは全部断ってるし」
我が妹ながら、本当にしっかりしていらっしゃる。
たまに、こいつは本当は俺より年上なんじゃないかとさえ思うくらいだ。
女子は男子より精神年齢が高いとよく言われるが、2つ年下の妹の精神年齢は俺より10歳くらい年上で、姉御肌の頼れる大人の女性に思えた。
男の収入に頼らなくても全然ひとりで生きていけるくらい仕事のできるアラサーの女の人が増えているらしいけれど、たぶんこんな感じの人たちなんだろう。
もういっそ、今日からお姉ちゃんって呼ぼうかな。
「ま、確かにちょっとはお兄ちゃんと亜美さんを応援したいなって気持ちはあったけどね」
亜美さんを逃したら、わたしが一生お兄ちゃんの面倒を診てあげないといけなくなりそうだったからちょうどよかった、と妹は言った。
俺がそう言うと、亜美と珠莉は、
「はぁ? 何それ?」
「日永くん、どういうことなの?」
と驚いていた。まぁ、そりゃ驚くよな。
俺だっていまだに信じられないんだから。
リビングでテレビを観ていた妹は、自分を指差し、わたし? という顔をした。
「破魔矢梨沙っていうか、西日野亜美とその双子の姉ちゃんの珠莉からだ」
そう言って、俺はスマホを妹に手渡した。
「どうもー、どっかのインフルエンサーさんの日永雪でーす」
何その漫才の最初の挨拶みたいな口調。
「いつも、うちの愚兄がお世話になってまーす。あ、これ別に謙遜じゃなくて『マジ愚か兄』って意味で」
マジ愚か兄って何!? マジオロカアニってカタカナにしたら何か呪いの言葉っぽいんだけど!?
俺は新しいJK用語が生まれた瞬間に立ち会っていたのかもしれなかった。
「バカでしょー、うちのお兄ちゃん。家でいつも美少女フィギュアのパンツばっかり見てるんですよー。気持ち悪いですよねー。
亜美さんと珠莉さんも、うちの性犯罪者予備軍にスカートめくられたり、盗撮されたりとかしてません? 大丈夫ですか?」
ちょっと雪さん? いきなり何ぶっこんでんの?
めくらないよ? 盗撮とかもしないからね?
あと「亜美さんと珠莉さんも」って言い方だと、雪さんはされちゃってるみたいじゃない?
「え!? 亜美さんが部屋で下着姿で寝てるときに、お兄ちゃんガン見してたの!? うわー最悪、キモ……
いやいや、その亜美さんの写真を撮ってて、お兄ちゃんに送ってあげたとか、珠莉さんグッジョブです!!」
妹はそんな風にうまくふたりと打ち解け、その後は俺に代わってうまく事情を説明してくれた。
少しでいいからその珠莉よりも高いコミュ力をこのマジ愚か兄にも分けてもらえないものだろうか。
妹は、俺の様子がこの2週間ほどおかしかったため、無理矢理話を聞き出したということにしてくれていた。
最後の最後まで、亜美が破魔矢梨沙であるということを俺が黙っていたことにもしてくれた。
電話が終わったあと、
「いい人そうだね。亜美さんも珠莉さんも」
と妹は安心したように言った。
「あぁ、ほんとにな」
本当にいい奴らだった。
「お前もそう思われてると思うぞ」
と俺は言った。
俺も心からそう思っていた。
その日は俺は2限からの講義で、8時半くらいに家を出ればよかった。
先に家を出る妹を俺は玄関で見送った。
「なんか悪かったな」
俺はありがたいなと感じていると同時に、妹の手まで借りてしまったことについて、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
10万人というフォロワー数が、芸能人などではなく一般の女子高生のインフルエンサーとして多いのか少ないのかは正直よくわからなかった。
だが、妹がSNSにおける情報発信によって世間に対して大きな影響を与える人たちのひとりであることは間違いないのだ。
妹のリツブヤキートによって俺たちは大きく助けられたわけだが、インフルエンサーとしての信用問題に関わるようなことをさせてしまっていた。
「なんで謝るの? わたしが本当に面白いって思ったネット小説に、たまたまお兄ちゃんが関わってただけでしょ?」
だが、妹はそう言った。そう言ってくれた。
「つまんなかったら、わたしはリツブヤキートなんかしてないよ。わたしはわたしのセンスを信じてるから。
フォロワー10万人なんて本物のインフルエンサーから見れば下っ端みたいなもんだけど、それでもDMで宣伝を頼まれたりすることもあるんだ。
でも、よく知らないものとか、わたしがイマイチだと思ったものは全部断ってるし」
我が妹ながら、本当にしっかりしていらっしゃる。
たまに、こいつは本当は俺より年上なんじゃないかとさえ思うくらいだ。
女子は男子より精神年齢が高いとよく言われるが、2つ年下の妹の精神年齢は俺より10歳くらい年上で、姉御肌の頼れる大人の女性に思えた。
男の収入に頼らなくても全然ひとりで生きていけるくらい仕事のできるアラサーの女の人が増えているらしいけれど、たぶんこんな感じの人たちなんだろう。
もういっそ、今日からお姉ちゃんって呼ぼうかな。
「ま、確かにちょっとはお兄ちゃんと亜美さんを応援したいなって気持ちはあったけどね」
亜美さんを逃したら、わたしが一生お兄ちゃんの面倒を診てあげないといけなくなりそうだったからちょうどよかった、と妹は言った。
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