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第44話「小説投稿サイト攻略指南(仮)」⑩

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 インフルエンサー。
 SNSでの情報発信によって世間に対して大きな影響を与える人物の総称。
 一般的にはヨーチューバーやインスタグラップラーなど、SNSでのフォロワーが比較的多い人たちのことを指す。

 その存在は知っていたが、妹の雪(ゆき)がまさかそうだったとは、俺は夢にも思わなかった。
 俺はSNSの類いはまったくしていなかったからだ。とりにくチキンのアカウントを作るときにも正直戸惑ったくらいだった。
 半年ほど前に何気なく呟いたことが、いわゆるバズるという状況になったらしい。一度バズるとフォロワーが増えバズりやすくなり、気付いたらいつの間にか10万人を超えていたということだった。

 雪がツブヤイターでコメント付きでリツブヤキートしてくれた「とりにくチキンの小説宣伝」は、10万人のフォロワーの目に止まり、そのうちの何万人がリツブヤキートしてくれたのかはわからないが、さらにそのフォロワーの目に止まり、そのさらにフォロワーにと、まるでねずみ算式にリツブヤキートの数が増えていった。
 一晩で10万を優に超えるリツブヤキートと、1万を超えるフォロワーがとりにくチキンについていた。とりにくチキンのアカウントも、いわゆる万垢というやつになっていた。

「キヅイセ」の日別のアクセス数は、前日の1000倍以上に跳ね上がった。
 ランキングも日別だと一気に一桁台に上り詰めた。


 翌朝、珠莉から電話があった。

「ねぇ、起きたらなんかツブヤイターが大変なことになってるんだけど、何が起こってるの?」

 昨夜からだけどな、と俺は思いつつ、

「どっかのインフルエンサーさんの目にでも止まったんじゃないか?」

 と俺は言った。妹のことは言わなかった。

「小説のアクセス数やランキングもすごいし、珠莉への報酬が何十万円にもなるわよ、これ。
 毎月こんなに珠莉に渡すの?」

 スピーカー機能で話しているらしく、亜美が割って入ってきた。

「西日野姉にはコミュ障の俺たちが苦手としてることを頑張ってもらってるわけだしな。
 他の作者との交流もしばらくは続けてもらわないと天狗になったとか思われかねないし、これからはランキング上位の作品も読んでもらって、常に流行の最先端をチェックしてもらわないといけないし。
 だから何でも好きなものを買ってくれていいぞ」

「え、まじで? じゃあ? プレタミ5とか、スイッチングとか転売屋価格で買ったりしてもいい?
 あと、無駄にやたら光るゲーミングパソコンとか、めっちゃいいゲーミングチェアとか。DF14とかFQ10とか、わたしずっとやりたかったんだよねー。
 あ、わたしと亜美の服とかも。亜美のは日永くんの好みを参考にしてあげるね。
 ていうか、プレタミ5って4と互換性あったっけ?」

「互換性はなかったと思うぞ。知らんけど」

「じゃあ、4も5も買おっと。スイッチングは普通のか、ライトか、どっちがいいかな?」

「ライトだと出来るゲームが結構限られるみたいだぞ。持ってないからよく知らんけど。
 あと、西日野は何を着てもかわいいから、西日野が着てる服が俺の好みだ」

 転売屋からは買うなよ、と思ったが、これだけ問題になっているのに政府とか通販サイトが何にも動かないんだから仕方がないだろう。
 いつ安定提供されるかわからないものを待つのは疲れるし、欲しいものはそのときに手に入れないと、簡単に手に入れられるようになる頃には冷めてしまってどうでもよくなっていたりするものだ。
 いっそのこと転売を禁止する法律を作ってまえばいいと思う。人を殺したときと同じくらいの刑罰にすればさすがに減るんじゃないだろうか。明らかに転売目的で購入してる奴は、店の店員が現行犯逮捕できるようにしてもいいとすら思う。

 新・男神転生の新作が出るころにはスイッチングが手に入るようになっているといいのだが。3もHDリマスターでもう一回やりたかったし、出来れば九頭葉ラードシリーズやアバターチューニングもHDリマスターしてほしかった。
 ついでに言えば新1・2やムナコ時代の旧約1・2は、ソウルアノニマスのように3DeuS時代にリメイクを出しておいてほしかった。PTPで出た手抜き移植感満載のデモンサマナーやペノレソナも。
 2画面ある携帯ゲーム機は本当に神ゲーム機だった。そして、その2画面はダンジョンRPGでその本領が発揮される。ディープストロングジャンキーはマジ神リメイクだった。

 そんな俺のオガテン愛はともかくとして、

「俺には別に許可なんてとらなくていいから、好きに使ってくれ。
 文芸部や宇宙考古学研究会の部室に欲しいものとかあったら全然買ってくれて構わないから。
 でも広告収入は月末締めで翌月10日あたりにしか通販サイトのポイントに交換できないから、もうしばらくは待てくれよ。今買うと普通に請求くるからな。
 あと、せっかくポイントに変換したのに、そのポイントを使わなかったときとか、普通にカード破産するから気を付けてくれ」

 さすがの珠莉もそこまで馬鹿ではないし、むしろ頭のいい子なのだが、舞い上がっているようだったから一応忠告しておいた。
 クレジットカードを使いすぎて破産なんてオチは俺は求めていなかったが、それはそれで面白いし見てみたいような気もした。なかなか身近にいる人のカード破産なんて見られるものじゃないし、破魔矢梨沙の新作の題材にもなりそうだったからだ。
 まぁ、さすがに身内に亜美がいる以上、珠莉が億単位の買い物をしない限り破産するようなことはないとはないわけだが。

 だが、舞い上がっていたのは珠莉だけではなく、俺もだった。
 なんだかとんでもないことを口ばしってしまっていたような気がした。


「亜美は何を着てもかわいいから、亜美が着てる服が俺の好みだぜ、だって!」


「ブホァッ!!」

 俺は飲んでいたコーヒーを盛大に噴き出した。

「よかったね! 亜美!! 日永くん変態だけど、亜美に変なコスプレさせてエッチとか、要求したりしなさそうだよ!!」

「ブホァァァッ!!」

 池田屋事件で吐血した沖田総司くらいの勢いで、俺はもう一度コーヒーを噴き出した。

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