上 下
42 / 61

第42話「小説投稿サイト攻略指南(仮)」⑧

しおりを挟む
 ネット小説のタイトルを『アリステラピノア』から『気づいたら異世界にいた。けれど目の前にはATMがあった。異世界の物価が安すぎるから、最初から最強装備で無双してみた』に改題し、コミュ力の高い珠莉にとりにくチキンのアカウントで他の作者の作品を読んでは感想を書いてもらい、こちらの作品に誘導を促すだけでなく、ツブヤイターでもとりにくチキンのアカウントで他の作者をフォローし積極的に交流してもらう、3人体制の形になり、さらに一週間が過ぎた。

 アクセス数は右肩上がりで、4つの投稿サイトでの読者数にも差異が目立ち始め、「キヅイセ」という略称で呼ばれるようにもなり始めた。
 ようやく軌道に乗り始めたと言ってもいいだろう。

 なにしろ、うちの妹が最近やけにスマホを真剣な顔で見ているなと思ったら、

「お兄ちゃんはネット小説とかも読んでるんだっけ?
 友達に薦められたのが結構おもしろいから、読んでみたら?」

 と、薦められたのが「キヅイセ」だったりしたときには、俺は歓喜のあまり小躍りしたくなってしまった。

「きっと好きだと思うよ。
 これ書いてる人、たぶんお兄ちゃんと同じで破魔矢梨沙のファンか、おんなじような生きづらさとか、あとなんかいろいろ? そういうのを感じてる人だと思うから。
 異世界転移っていうのかな? こういうの。
 ファンタジーだし、文章とかも全然違うんだけど、なんかどっか似てるんだよね。たぶん書いてる人の根っこみたいなとこ」

 我が妹ながら、その分析力の高さに驚かされたりもしたのだが、

「でもまぁ、破魔矢梨沙に憧れるのはわかるけど、全然足元にも及ばないけどね」

「それ、作者が聞いたらガチでマジギレするヤツだから、二度と口にしたり感想書いたりしたらダメだぞ」

 と俺は言いながらも、正直内心は安堵していた。
 とりにくチキンが破魔矢梨沙であることは、どうやらバレなさそうだったからだ。

「あれ? お兄ちゃん、キヅイセの作者と知り合いなの? そういえば文芸部に入ったんだっけ? そこの部員さんとか?」

「いや、ホントに破魔矢梨沙に憧れてるヤツが書いてるなら、一番ムカつくだろうなって思っただけだよ」

 俺は適当にごまかしておくことにした。

 この一週間で、その怒らせると超怖い作者様は、さらに第2部にあたる30万文字強の大長編を書き上げてくれていた。
 主人公である秋月レンジとメインヒロインであるステラの物語は一旦終わり、第3部は準ヒロインであるピノアが逆に地球の日本、レンジが住んでいた街に転移してくる話になるそうだ。
 4部以降は新たな主人公とピノアの話になるのだという。ピノアが大活躍で、産みの親としては嬉しい限りだった。

 亜美が小説を書き、珠莉が他の作家と交流し、俺はとにかくアクセス数が伸びることだけを考える。
 そんな3人体制でようやくとりにくチキンの小説を軌道に乗らせることができたわけだが、まだランキングの上位は程遠かった。

 どのサイトでも全作品の中ではランキングは三桁が最高であり、なかなか二桁の壁は越えられなかった。
 ジャンル別でも異世界転移というジャンルは作品数があまりに多いため、サイトによって二桁に食い込めているところもあれば、食い込めずにいるところがあるといった状況だった。

 ランキング上位の作家たちは、俺たちが役割を分担し3人がかりでもできないでいることを、ひとりでこなしているのだろうか。だとしたら、それはとんでもない才能だった。
 よくよく考えれば、できるはずがないことなのだ。
 プロの小説家には必ず担当編集者がいて、宣伝や営業など出版社によるプロデュースがあって、小説が世に出て売れている。
 ランキング上位の作家たちが、もしそれをひとりでこなしているなら、その作者には小説家としての才能だけでなく、編集者としての才能があり、プロデューサーとしての才能もなければ成立しないのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

穢れなき禽獣は魔都に憩う

クイン舎
キャラ文芸
1920年代の初め、慈惇(じじゅん)天皇のお膝元、帝都東京では謎の失踪事件・狂鴉(きょうあ)病事件が不穏な影を落としていた。 郷里の尋常小学校で代用教員をしていた小鳥遊柊萍(たかなししゅうへい)は、ひょんなことから大日本帝国大学の著名な鳥類学者、御子柴(みこしば)教授の誘いを受け上京することに。 そこで柊萍は『冬月帝国』とも称される冬月財閥の令息、冬月蘇芳(ふゆつきすおう)と出会う。 傲岸不遜な蘇芳に振り回されながら、やがて柊萍は蘇芳と共に謎の事件に巻き込まれていく──。

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。

かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。 就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。 その一軒家の神棚には、神様がいた。 神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。 神様をお見送りした、大学四年生の冬。 もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。 就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う! 男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。 なかなか、売れない。 やっと、一つ、売れた日。 ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現! 「神様?」 常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

梅子ばあちゃんのゆったりカフェヘようこそ!(東京都下の高尾の片隅で)

なかじまあゆこ
キャラ文芸
『梅子ばあちゃんのカフェへようこそ!』は梅子おばあちゃんの作る美味しい料理で賑わっています。そんなカフェに就職活動に失敗した孫のるり子が住み込みで働くことになって……。 おばあちゃんの家には変わり者の親戚が住んでいてるり子は戸惑いますが、そのうち馴れてきて溶け込んでいきます。 カフェとるり子と個性的な南橋一家の日常と時々ご当地物語です。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/ エブリスタでも書いています。

ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~

歩く、歩く。
キャラ文芸
 皆さん初めまして、私はゴールデンレトリバーのべぇと申します。今年で五歳を迎えました。  本日はようこそ、当商店街へとお越しいただきました。主人ともども心から歓迎いたします。  私の住まいは、東京都某市に造られた大型商業地区、「アニマル商店街」。  ここには私を始め、多くの動物達が放し飼いにされていて、各々が自由にのびのびと過ごしています。なんでも、「人と動物が共生できる環境」を目指して造られた都市計画だそうですね。私は犬なのでよくわからないのですが。  私の趣味は、お散歩です。いつもアメリカンショートヘアーのちゃこさんさんと一緒に、商店街を回っては、沢山の動物さん達とお話するのが私の日常です。色んな動物さん達と過ごす日々は、私にとって大事な大事な時間なのです。  さて、今日はどんな動物さんと出会えるのでしょうか。

愛しくない、あなた

野村にれ
恋愛
結婚式を八日後に控えたアイルーンは、婚約者に番が見付かり、 結婚式はおろか、婚約も白紙になった。 行き場のなくした思いを抱えたまま、 今度はアイルーンが竜帝国のディオエル皇帝の番だと言われ、 妃になって欲しいと願われることに。 周りは落ち込むアイルーンを愛してくれる人が見付かった、 これが運命だったのだと喜んでいたが、 竜帝国にアイルーンの居場所などなかった。

処理中です...