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第42話「小説投稿サイト攻略指南(仮)」⑧
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ネット小説のタイトルを『アリステラピノア』から『気づいたら異世界にいた。けれど目の前にはATMがあった。異世界の物価が安すぎるから、最初から最強装備で無双してみた』に改題し、コミュ力の高い珠莉にとりにくチキンのアカウントで他の作者の作品を読んでは感想を書いてもらい、こちらの作品に誘導を促すだけでなく、ツブヤイターでもとりにくチキンのアカウントで他の作者をフォローし積極的に交流してもらう、3人体制の形になり、さらに一週間が過ぎた。
アクセス数は右肩上がりで、4つの投稿サイトでの読者数にも差異が目立ち始め、「キヅイセ」という略称で呼ばれるようにもなり始めた。
ようやく軌道に乗り始めたと言ってもいいだろう。
なにしろ、うちの妹が最近やけにスマホを真剣な顔で見ているなと思ったら、
「お兄ちゃんはネット小説とかも読んでるんだっけ?
友達に薦められたのが結構おもしろいから、読んでみたら?」
と、薦められたのが「キヅイセ」だったりしたときには、俺は歓喜のあまり小躍りしたくなってしまった。
「きっと好きだと思うよ。
これ書いてる人、たぶんお兄ちゃんと同じで破魔矢梨沙のファンか、おんなじような生きづらさとか、あとなんかいろいろ? そういうのを感じてる人だと思うから。
異世界転移っていうのかな? こういうの。
ファンタジーだし、文章とかも全然違うんだけど、なんかどっか似てるんだよね。たぶん書いてる人の根っこみたいなとこ」
我が妹ながら、その分析力の高さに驚かされたりもしたのだが、
「でもまぁ、破魔矢梨沙に憧れるのはわかるけど、全然足元にも及ばないけどね」
「それ、作者が聞いたらガチでマジギレするヤツだから、二度と口にしたり感想書いたりしたらダメだぞ」
と俺は言いながらも、正直内心は安堵していた。
とりにくチキンが破魔矢梨沙であることは、どうやらバレなさそうだったからだ。
「あれ? お兄ちゃん、キヅイセの作者と知り合いなの? そういえば文芸部に入ったんだっけ? そこの部員さんとか?」
「いや、ホントに破魔矢梨沙に憧れてるヤツが書いてるなら、一番ムカつくだろうなって思っただけだよ」
俺は適当にごまかしておくことにした。
この一週間で、その怒らせると超怖い作者様は、さらに第2部にあたる30万文字強の大長編を書き上げてくれていた。
主人公である秋月レンジとメインヒロインであるステラの物語は一旦終わり、第3部は準ヒロインであるピノアが逆に地球の日本、レンジが住んでいた街に転移してくる話になるそうだ。
4部以降は新たな主人公とピノアの話になるのだという。ピノアが大活躍で、産みの親としては嬉しい限りだった。
亜美が小説を書き、珠莉が他の作家と交流し、俺はとにかくアクセス数が伸びることだけを考える。
そんな3人体制でようやくとりにくチキンの小説を軌道に乗らせることができたわけだが、まだランキングの上位は程遠かった。
どのサイトでも全作品の中ではランキングは三桁が最高であり、なかなか二桁の壁は越えられなかった。
ジャンル別でも異世界転移というジャンルは作品数があまりに多いため、サイトによって二桁に食い込めているところもあれば、食い込めずにいるところがあるといった状況だった。
ランキング上位の作家たちは、俺たちが役割を分担し3人がかりでもできないでいることを、ひとりでこなしているのだろうか。だとしたら、それはとんでもない才能だった。
よくよく考えれば、できるはずがないことなのだ。
プロの小説家には必ず担当編集者がいて、宣伝や営業など出版社によるプロデュースがあって、小説が世に出て売れている。
ランキング上位の作家たちが、もしそれをひとりでこなしているなら、その作者には小説家としての才能だけでなく、編集者としての才能があり、プロデューサーとしての才能もなければ成立しないのだ。
アクセス数は右肩上がりで、4つの投稿サイトでの読者数にも差異が目立ち始め、「キヅイセ」という略称で呼ばれるようにもなり始めた。
ようやく軌道に乗り始めたと言ってもいいだろう。
なにしろ、うちの妹が最近やけにスマホを真剣な顔で見ているなと思ったら、
「お兄ちゃんはネット小説とかも読んでるんだっけ?
友達に薦められたのが結構おもしろいから、読んでみたら?」
と、薦められたのが「キヅイセ」だったりしたときには、俺は歓喜のあまり小躍りしたくなってしまった。
「きっと好きだと思うよ。
これ書いてる人、たぶんお兄ちゃんと同じで破魔矢梨沙のファンか、おんなじような生きづらさとか、あとなんかいろいろ? そういうのを感じてる人だと思うから。
異世界転移っていうのかな? こういうの。
ファンタジーだし、文章とかも全然違うんだけど、なんかどっか似てるんだよね。たぶん書いてる人の根っこみたいなとこ」
我が妹ながら、その分析力の高さに驚かされたりもしたのだが、
「でもまぁ、破魔矢梨沙に憧れるのはわかるけど、全然足元にも及ばないけどね」
「それ、作者が聞いたらガチでマジギレするヤツだから、二度と口にしたり感想書いたりしたらダメだぞ」
と俺は言いながらも、正直内心は安堵していた。
とりにくチキンが破魔矢梨沙であることは、どうやらバレなさそうだったからだ。
「あれ? お兄ちゃん、キヅイセの作者と知り合いなの? そういえば文芸部に入ったんだっけ? そこの部員さんとか?」
「いや、ホントに破魔矢梨沙に憧れてるヤツが書いてるなら、一番ムカつくだろうなって思っただけだよ」
俺は適当にごまかしておくことにした。
この一週間で、その怒らせると超怖い作者様は、さらに第2部にあたる30万文字強の大長編を書き上げてくれていた。
主人公である秋月レンジとメインヒロインであるステラの物語は一旦終わり、第3部は準ヒロインであるピノアが逆に地球の日本、レンジが住んでいた街に転移してくる話になるそうだ。
4部以降は新たな主人公とピノアの話になるのだという。ピノアが大活躍で、産みの親としては嬉しい限りだった。
亜美が小説を書き、珠莉が他の作家と交流し、俺はとにかくアクセス数が伸びることだけを考える。
そんな3人体制でようやくとりにくチキンの小説を軌道に乗らせることができたわけだが、まだランキングの上位は程遠かった。
どのサイトでも全作品の中ではランキングは三桁が最高であり、なかなか二桁の壁は越えられなかった。
ジャンル別でも異世界転移というジャンルは作品数があまりに多いため、サイトによって二桁に食い込めているところもあれば、食い込めずにいるところがあるといった状況だった。
ランキング上位の作家たちは、俺たちが役割を分担し3人がかりでもできないでいることを、ひとりでこなしているのだろうか。だとしたら、それはとんでもない才能だった。
よくよく考えれば、できるはずがないことなのだ。
プロの小説家には必ず担当編集者がいて、宣伝や営業など出版社によるプロデュースがあって、小説が世に出て売れている。
ランキング上位の作家たちが、もしそれをひとりでこなしているなら、その作者には小説家としての才能だけでなく、編集者としての才能があり、プロデューサーとしての才能もなければ成立しないのだ。
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