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第41話「小説投稿サイト攻略指南(仮)」⑦
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亜美はすでに文芸部で書いた小説の書籍化を進めてくれていた。
発売は半年後だが、部員だった者たちがそれを読めば破魔矢梨沙の正体が彼女だとすぐにわかるだろう。
マスコミにリークされる危険性を覚悟の上で、とりにくチキンとしての活動のために時間を確保してくれているのだ。
それに元部員たちは彼女を恨んだり憎んだりしているだろう。
正体に気付きながらも、あえて人気作家が一地方大学生の作品を盗作したのではないかと疑いをかけられるようなリークをする可能性もあった。
だから、とりにくチキンの正体まで彼女に明かさせたくなかった。
「わかった」
と亜美は言った。
「それと、もうひとつ、これは俺の問題だが、今のままじゃ俺は西日野のヒモになるだけだ。
だから、俺がちゃんとした大人にならないとだめだと思う」
それは、俺にとって、そして亜美にとっても、夢を叶えることよりも重要なことのように思えた。
「ちゃんとした大人って? 就職するとかってこと?」
「まぁ、そんなところだ」
俺は亜美に、税金対策をどうしているのか聞いてみることにした。
税理士さんにお願いしている、という予想通りの回答だった。
「会社を作ったりはしてないのか?」
と訊ねると、していない、とのことだった。これもやはり予想通りだった。
「書籍化も決まっていないのに、アニメ化した後の話をするのはどうかと思うが、アニメが成功したら、漫画にもなるだろうし、ゲームにもなるだろ。実写化もあるだろうし、うまくいけばハリウッドで映画化とかもあるかもしれない。
特にスマホのアプリは、もし『フェイント』くらいの大ヒット作になったら、ガチャだけで毎月5億とか稼ぐようになるかもしれない。そのうちのどれくらいが西日野の取り分になるかはわからないけどな」
アプリの制作費も相当なものだろうから、原作者に入るのはあくまで原作使用料程度かもしれないが。
「アニメは日本が世界を牽引してる。メディアミックスや海外展開は破魔矢梨沙のときとは比べ物にならなくなる」
もっとも最近は中国のアニメが日本の技術を追い越しており、以前とは逆で日本が下請けをしているような状況らしい。
だが中国は企画や脚本の段階で検閲があり、技術は優れていても日本のように自由にアニメを作れないそうだ。
だから、まだしばらくは日本が世界を牽引する時代が続くはずだ。
「それって、とりにくチキンが破魔矢梨沙より稼いじゃう可能性があるってこと?」
俺は頷いた。
「だから、アニメ化が決まる頃には、会社を起こした方がいいだろうな。個人と会社じゃ、収入は同じでも払わなきゃいけない税金は全然変わってくるらしいから。売れてる漫画家は大体会社作ってるぞ。作者名の下にバードマンスタジオとか、みつばスタジオとかよく書いてあるだろ」
そういえば見たことあるかも、と珠莉は言った。
「西日野姉は大学を出たら、何かやりたい仕事とかあるのか?」
「え? 特にないよ。適当に就活して、就職が無理っぽかったら、ボロボロに傷つく前に、擦り傷くらいの段階で就活は諦めて、卒業後はフリーターにでもなるんじゃないかな」
「だったら、西日野姉はその会社の社長になれ。
破魔矢梨沙ととりにくチキンのマネジメントをするんだ。妹の世話をするのが、お前には一番向いてる仕事なんじゃないか?」
珠莉はぽかんとしていた。あまりに突然すぎて、理解が追い付かないといったところだろうか。
だが、
「社長!? マネジメント!? 亜美の!? 何それ超やりたい!! ていうか、わたしにしかそんなのできないでしょ!!」
どうやら前向きにご検討頂けるようで何よりだった。
「あなたはどうするつもり?」
亜美に問われた俺は、
「税理士になる。弁護士か迷うところだが。一応今のところは税理士だな。
そして、その会社の社員にもなる。顧問税理士兼サブマネージャーってところだ。
ついでに、もしうちの妹が将来就職が決まらなかったときとか、決まるまでバイトとして使ってくれたりすると助かるな」
そう言ってから、自分が亜美と結婚する気満々なことに俺は気付き赤面した。
発売は半年後だが、部員だった者たちがそれを読めば破魔矢梨沙の正体が彼女だとすぐにわかるだろう。
マスコミにリークされる危険性を覚悟の上で、とりにくチキンとしての活動のために時間を確保してくれているのだ。
それに元部員たちは彼女を恨んだり憎んだりしているだろう。
正体に気付きながらも、あえて人気作家が一地方大学生の作品を盗作したのではないかと疑いをかけられるようなリークをする可能性もあった。
だから、とりにくチキンの正体まで彼女に明かさせたくなかった。
「わかった」
と亜美は言った。
「それと、もうひとつ、これは俺の問題だが、今のままじゃ俺は西日野のヒモになるだけだ。
だから、俺がちゃんとした大人にならないとだめだと思う」
それは、俺にとって、そして亜美にとっても、夢を叶えることよりも重要なことのように思えた。
「ちゃんとした大人って? 就職するとかってこと?」
「まぁ、そんなところだ」
俺は亜美に、税金対策をどうしているのか聞いてみることにした。
税理士さんにお願いしている、という予想通りの回答だった。
「会社を作ったりはしてないのか?」
と訊ねると、していない、とのことだった。これもやはり予想通りだった。
「書籍化も決まっていないのに、アニメ化した後の話をするのはどうかと思うが、アニメが成功したら、漫画にもなるだろうし、ゲームにもなるだろ。実写化もあるだろうし、うまくいけばハリウッドで映画化とかもあるかもしれない。
特にスマホのアプリは、もし『フェイント』くらいの大ヒット作になったら、ガチャだけで毎月5億とか稼ぐようになるかもしれない。そのうちのどれくらいが西日野の取り分になるかはわからないけどな」
アプリの制作費も相当なものだろうから、原作者に入るのはあくまで原作使用料程度かもしれないが。
「アニメは日本が世界を牽引してる。メディアミックスや海外展開は破魔矢梨沙のときとは比べ物にならなくなる」
もっとも最近は中国のアニメが日本の技術を追い越しており、以前とは逆で日本が下請けをしているような状況らしい。
だが中国は企画や脚本の段階で検閲があり、技術は優れていても日本のように自由にアニメを作れないそうだ。
だから、まだしばらくは日本が世界を牽引する時代が続くはずだ。
「それって、とりにくチキンが破魔矢梨沙より稼いじゃう可能性があるってこと?」
俺は頷いた。
「だから、アニメ化が決まる頃には、会社を起こした方がいいだろうな。個人と会社じゃ、収入は同じでも払わなきゃいけない税金は全然変わってくるらしいから。売れてる漫画家は大体会社作ってるぞ。作者名の下にバードマンスタジオとか、みつばスタジオとかよく書いてあるだろ」
そういえば見たことあるかも、と珠莉は言った。
「西日野姉は大学を出たら、何かやりたい仕事とかあるのか?」
「え? 特にないよ。適当に就活して、就職が無理っぽかったら、ボロボロに傷つく前に、擦り傷くらいの段階で就活は諦めて、卒業後はフリーターにでもなるんじゃないかな」
「だったら、西日野姉はその会社の社長になれ。
破魔矢梨沙ととりにくチキンのマネジメントをするんだ。妹の世話をするのが、お前には一番向いてる仕事なんじゃないか?」
珠莉はぽかんとしていた。あまりに突然すぎて、理解が追い付かないといったところだろうか。
だが、
「社長!? マネジメント!? 亜美の!? 何それ超やりたい!! ていうか、わたしにしかそんなのできないでしょ!!」
どうやら前向きにご検討頂けるようで何よりだった。
「あなたはどうするつもり?」
亜美に問われた俺は、
「税理士になる。弁護士か迷うところだが。一応今のところは税理士だな。
そして、その会社の社員にもなる。顧問税理士兼サブマネージャーってところだ。
ついでに、もしうちの妹が将来就職が決まらなかったときとか、決まるまでバイトとして使ってくれたりすると助かるな」
そう言ってから、自分が亜美と結婚する気満々なことに俺は気付き赤面した。
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