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第39話「小説投稿サイト攻略指南(仮)」⑤
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タイトルを変更しただけでアクセス数は飛躍的に伸びたが、俺はまだ何かが足りない気がしていた。
そして、その足りない何かは、おそらく俺がもっとも苦手とするものだった。
「馴れ合い?」
翌日の部室で、俺は亜美にそのことを話していた。
亜美はすでに第2部の執筆を始めており、俺が思っていたとおり全9部の構想が頭の中にあるのだという。さらにスピンオフも現段階で3作は考えているそうだった。まじでもうギャラクシーーウォーズだった。
本業の方は、コンビニを舞台にした新作が3ヶ月後に、文芸部に入部した直後に書いた双子の姉妹の無い物ねだりの小説がその半年後に出版されることが決まったらしく、しばらくはネット小説に専念できるということだった。
馴れ合いというものが何のことだかさっぱりわからないでいる亜美に、
「ネット小説は、作家同士の馴れ合いがある程度必須なんだ」
「なにそれ? 意味がわからないわ。ネット小説は作家同士で作品を読み合ったり誉め合ったりするとアクセス数が増えるの?」
俺はスマホで、とりにくチキンの小説を開き、いくつか書き込まれていた読者からの感想を亜美に見せた。
そこには、まるで定型文のような、特に作品の内容に触れていない、あたりさわりのない感想が書き込まれており、最後には「もしよかったら自分の小説も読みにきてください」と締めくくられているものがいくつかあった。
亜美は、なるほど、と納得したように、
「この人たち、たぶん1話目すら読まずに、ブックマークとかお気に入り登録だけして、ファンのふりをしてるけど感想はコピペしてるだけね。目的は自分の小説への誘導ってところかしら?」
そういうことだった。
だが、その自称読者の作品のページを見せると、亜美の目の色が変わった。
「どうして、こんな小説がわたしとあなたの小説よりランキングが上なの? ありえないわ」
「それなりに効果があるってことなんだろうな。
ここまで露骨だとさすがにバレるし、読みに行く気も失せるが、素直に読みに行く奴もいるってことだよ。
さすがに同じ感想をコピペしまくってたら、運営にバレて注意を受けたり、アカウント停止になったりするだろうけどな。知らんけど。
あと、感想が山ほど書き込まれてるようなランキング上位の奴に対してこれをやっても効果はないと思う」
「でしょうね。似たような感想をたくさん書かれているだろうし、感想に対して返信をする時間だけで1日が終わりそうだもの。読みに行くことなんてまず無理よ。わたしなら返信もしないわ」
「だから、ちゃんとした感想を、ランキング下位の奴の作品に書き込んで、うちに誘導するのがいいと思うんだが、ひとつ問題があるんだ」
「何かしら?」
「俺は素人が書く小説を読みたいとは全く思わない。
あとツブヤイターで素人が創作論とか語ってるのを見ると、はぁ? ってなる。身近に破魔矢梨沙がいるから特にだな」
「ぶっちゃけすぎじゃないかしら。まぁわたしも同感だけど。そんな時間があるなら、小説を書く時間に当てたいわ」
「俺も一応、とりにくチキンの正体が破魔矢梨沙だってバレた時用の小説を書いてるから、正直そんな暇はない。あってもやりたくない」
「あら、ちゃんと書いてくれてたのね」
「バレなきゃお蔵入りだけどな。結構楽しんで書かせてもらってる」
亜美は、それは楽しみ、と笑うと、感想、感想ね、と呟き、
「こういうときに使える都合のいい女をひとり知ってるから、あなたにも紹介するわ」
そんな柄にもないことを言うと、スマホを手に取り、無料通話アプリでチャットをその誰かに送った。
その誰かは、満面の笑みですぐに文芸部の部室にやってきた。
「わたしのかわいい亜美ちゃんが、珠莉お姉ちゃんにお願いしたいことって何!?」
やっぱりというか、案の定というか、珠莉だった。
冗談だとは思うが、俺たちを引き合わせるためにかなり尽力してくれた姉に対し「こういうときに使える都合のいい女」呼ばわりするのはいかがなものかと、さすがの俺ですら思った。
そして、その足りない何かは、おそらく俺がもっとも苦手とするものだった。
「馴れ合い?」
翌日の部室で、俺は亜美にそのことを話していた。
亜美はすでに第2部の執筆を始めており、俺が思っていたとおり全9部の構想が頭の中にあるのだという。さらにスピンオフも現段階で3作は考えているそうだった。まじでもうギャラクシーーウォーズだった。
本業の方は、コンビニを舞台にした新作が3ヶ月後に、文芸部に入部した直後に書いた双子の姉妹の無い物ねだりの小説がその半年後に出版されることが決まったらしく、しばらくはネット小説に専念できるということだった。
馴れ合いというものが何のことだかさっぱりわからないでいる亜美に、
「ネット小説は、作家同士の馴れ合いがある程度必須なんだ」
「なにそれ? 意味がわからないわ。ネット小説は作家同士で作品を読み合ったり誉め合ったりするとアクセス数が増えるの?」
俺はスマホで、とりにくチキンの小説を開き、いくつか書き込まれていた読者からの感想を亜美に見せた。
そこには、まるで定型文のような、特に作品の内容に触れていない、あたりさわりのない感想が書き込まれており、最後には「もしよかったら自分の小説も読みにきてください」と締めくくられているものがいくつかあった。
亜美は、なるほど、と納得したように、
「この人たち、たぶん1話目すら読まずに、ブックマークとかお気に入り登録だけして、ファンのふりをしてるけど感想はコピペしてるだけね。目的は自分の小説への誘導ってところかしら?」
そういうことだった。
だが、その自称読者の作品のページを見せると、亜美の目の色が変わった。
「どうして、こんな小説がわたしとあなたの小説よりランキングが上なの? ありえないわ」
「それなりに効果があるってことなんだろうな。
ここまで露骨だとさすがにバレるし、読みに行く気も失せるが、素直に読みに行く奴もいるってことだよ。
さすがに同じ感想をコピペしまくってたら、運営にバレて注意を受けたり、アカウント停止になったりするだろうけどな。知らんけど。
あと、感想が山ほど書き込まれてるようなランキング上位の奴に対してこれをやっても効果はないと思う」
「でしょうね。似たような感想をたくさん書かれているだろうし、感想に対して返信をする時間だけで1日が終わりそうだもの。読みに行くことなんてまず無理よ。わたしなら返信もしないわ」
「だから、ちゃんとした感想を、ランキング下位の奴の作品に書き込んで、うちに誘導するのがいいと思うんだが、ひとつ問題があるんだ」
「何かしら?」
「俺は素人が書く小説を読みたいとは全く思わない。
あとツブヤイターで素人が創作論とか語ってるのを見ると、はぁ? ってなる。身近に破魔矢梨沙がいるから特にだな」
「ぶっちゃけすぎじゃないかしら。まぁわたしも同感だけど。そんな時間があるなら、小説を書く時間に当てたいわ」
「俺も一応、とりにくチキンの正体が破魔矢梨沙だってバレた時用の小説を書いてるから、正直そんな暇はない。あってもやりたくない」
「あら、ちゃんと書いてくれてたのね」
「バレなきゃお蔵入りだけどな。結構楽しんで書かせてもらってる」
亜美は、それは楽しみ、と笑うと、感想、感想ね、と呟き、
「こういうときに使える都合のいい女をひとり知ってるから、あなたにも紹介するわ」
そんな柄にもないことを言うと、スマホを手に取り、無料通話アプリでチャットをその誰かに送った。
その誰かは、満面の笑みですぐに文芸部の部室にやってきた。
「わたしのかわいい亜美ちゃんが、珠莉お姉ちゃんにお願いしたいことって何!?」
やっぱりというか、案の定というか、珠莉だった。
冗談だとは思うが、俺たちを引き合わせるためにかなり尽力してくれた姉に対し「こういうときに使える都合のいい女」呼ばわりするのはいかがなものかと、さすがの俺ですら思った。
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