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第35話「破魔矢梨沙≒とりにくチキン」④
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竜騎士ニーズヘッグは、生きづらさを常に感じていた。
ファフニール家という竜騎士の名家に生まれたが、読書や演劇を楽しむことが好きであり、戦を嫌っていた。
ドラゴンとの契約を結びはしたものの、竜騎士団に入ることを頑なに拒否していた。
だが、与えられた才能と本人がしたいことは必ずしも一致しない。
槍術の訓練は子どもの頃に少ししたことがあるだけなのだが、20年以上訓練を欠かさなかった竜騎士団の部隊長を務める4人の兄たちが束になってもかなわないほど槍術の才能に長けていたために、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれてしまった。
登場人物の誰もが、何かが欠けていた。それを埋めるために必死にもがき続けていた。
だからだろうか。
敵味方など関係なく、どのキャラクターも魅力的だった。
彼らの生き様から俺は目が放せなかったのだ。
この小説は破魔矢梨沙の作品ではなく、とりにくチキンという別の作家という体(てい)の作品であったが、根幹にあるのはやはり同じものだった。
俺が知る異世界転移や転生を扱った作品の数はあまり多くはないが、それらにはなかった要素が多分に含まれていた。
繰り返しになってしまうがすべてのキャラクターが魅力的であり、特に俺の理想のヒロインであるピノアの一挙手一投足がとにかくかわいらしく、文句のつけどころなどどこにもなかった。
亜美にすぐに感想を言えないのがつらいくらいだった。
こんなすごいものをもらってしまったら、一体どうやってお返しをしたらいいのか、全く見当がつかないくらいだ。
国ひとつか?
それとも世界まるごとか?
それくらいのものをもらってしまった。
だがきっと、彼女は何もいらないと言うに違いなかった。
いつの間にか珠莉がバイトから帰ってきていたことにすら俺は気づいていなかった。
第2部が待ち遠しくてしかたがない一方で、最初からもう一度読み返したい思いもあり、さらには読み終えた後の心地よい余韻を感じながらノートパソコンを閉じた瞬間、目の前に飛び込んできた彼女の姿に俺は驚かされた。
「え? いつからいた?」
「1時間くらい前かな、日永くんの向かいにこうして座ってるのは。帰ってきたのはもうちょっと前。
亜美もかなりの小説バカだけど、日永くんもなかなかのもんだね」
珠莉は風呂上がりのようで、パジャマ姿でまだ髪が濡れていた。
玄関の鍵が開く音どころか、シャワーの音にも俺は全く気づかなかったようだ。
「お前も読んだらわかるよ」
「もう読んだし。電話で日永くんが言ってた通り、あの子本業より力入れてたね。
って、じゃなくて!」
と、いきなり彼女はテーブルをバン!と叩いた。
「何でせっかくふたりきりにしてあげたのに、あの子だけ先に寝ちゃってるの!?
何であんな無防備を絵に描いたような女の子がすぐそばで寝てるのに、君はこんなところでガッツリ小説読んじゃってるわけ!?
わたしが帰ってきたときにイチャイチャチュッチュしてるのを、家政婦さんは見た的な感じで見るのが楽しみでバイト頑張ってきたのにぃぃぃ!!」
そんなことをいきなりまくし立てられても困る。
俺は俺なりに、亜美は亜美なりに今日は結構頑張ったと思うんだが。
それなりに進展あったし。
だが、そんな反論よりも、俺は珠莉にちゃんと言わなければいけないことがあった。
「いろいろありがとな」
と。
「何が?」
「俺があいつのスマホを拾う前から、いや、もっと前か、あいつが大学選んだ頃からだよな、たぶん。
俺とあいつを出会わせてくれたのは、間違いなくお前だろ?」
だからありがとな、と俺はもう一度礼を言った。
「感謝してるんなら、あの子に添い寝くらいしてきなよ」
「それは無理」
「そんなこともできないの?」
俺は首を横に振った。
「できないんじゃない。しないんだ」
ファフニール家という竜騎士の名家に生まれたが、読書や演劇を楽しむことが好きであり、戦を嫌っていた。
ドラゴンとの契約を結びはしたものの、竜騎士団に入ることを頑なに拒否していた。
だが、与えられた才能と本人がしたいことは必ずしも一致しない。
槍術の訓練は子どもの頃に少ししたことがあるだけなのだが、20年以上訓練を欠かさなかった竜騎士団の部隊長を務める4人の兄たちが束になってもかなわないほど槍術の才能に長けていたために、世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれてしまった。
登場人物の誰もが、何かが欠けていた。それを埋めるために必死にもがき続けていた。
だからだろうか。
敵味方など関係なく、どのキャラクターも魅力的だった。
彼らの生き様から俺は目が放せなかったのだ。
この小説は破魔矢梨沙の作品ではなく、とりにくチキンという別の作家という体(てい)の作品であったが、根幹にあるのはやはり同じものだった。
俺が知る異世界転移や転生を扱った作品の数はあまり多くはないが、それらにはなかった要素が多分に含まれていた。
繰り返しになってしまうがすべてのキャラクターが魅力的であり、特に俺の理想のヒロインであるピノアの一挙手一投足がとにかくかわいらしく、文句のつけどころなどどこにもなかった。
亜美にすぐに感想を言えないのがつらいくらいだった。
こんなすごいものをもらってしまったら、一体どうやってお返しをしたらいいのか、全く見当がつかないくらいだ。
国ひとつか?
それとも世界まるごとか?
それくらいのものをもらってしまった。
だがきっと、彼女は何もいらないと言うに違いなかった。
いつの間にか珠莉がバイトから帰ってきていたことにすら俺は気づいていなかった。
第2部が待ち遠しくてしかたがない一方で、最初からもう一度読み返したい思いもあり、さらには読み終えた後の心地よい余韻を感じながらノートパソコンを閉じた瞬間、目の前に飛び込んできた彼女の姿に俺は驚かされた。
「え? いつからいた?」
「1時間くらい前かな、日永くんの向かいにこうして座ってるのは。帰ってきたのはもうちょっと前。
亜美もかなりの小説バカだけど、日永くんもなかなかのもんだね」
珠莉は風呂上がりのようで、パジャマ姿でまだ髪が濡れていた。
玄関の鍵が開く音どころか、シャワーの音にも俺は全く気づかなかったようだ。
「お前も読んだらわかるよ」
「もう読んだし。電話で日永くんが言ってた通り、あの子本業より力入れてたね。
って、じゃなくて!」
と、いきなり彼女はテーブルをバン!と叩いた。
「何でせっかくふたりきりにしてあげたのに、あの子だけ先に寝ちゃってるの!?
何であんな無防備を絵に描いたような女の子がすぐそばで寝てるのに、君はこんなところでガッツリ小説読んじゃってるわけ!?
わたしが帰ってきたときにイチャイチャチュッチュしてるのを、家政婦さんは見た的な感じで見るのが楽しみでバイト頑張ってきたのにぃぃぃ!!」
そんなことをいきなりまくし立てられても困る。
俺は俺なりに、亜美は亜美なりに今日は結構頑張ったと思うんだが。
それなりに進展あったし。
だが、そんな反論よりも、俺は珠莉にちゃんと言わなければいけないことがあった。
「いろいろありがとな」
と。
「何が?」
「俺があいつのスマホを拾う前から、いや、もっと前か、あいつが大学選んだ頃からだよな、たぶん。
俺とあいつを出会わせてくれたのは、間違いなくお前だろ?」
だからありがとな、と俺はもう一度礼を言った。
「感謝してるんなら、あの子に添い寝くらいしてきなよ」
「それは無理」
「そんなこともできないの?」
俺は首を横に振った。
「できないんじゃない。しないんだ」
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