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第34話「破魔矢梨沙≒とりにくチキン」③

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 大厄災とは、その術者以外の異世界に生きるすべての人間と、過去に生きたすべての人間の存在自体を歴史から消去し、人類が存在した痕跡すらも跡形もなく消去する人災だ。
 大厄災の後、ひとりだけ残った術者が新たな神となり、自らに似せて人を作り、新たな人類の歴史を一から始めるのだ。

 異世界ではすでに大厄災は9度も起きており、その世界は10番目の世界であった。

 主人公のレンジやヒロインのステラとピノアは、大厄災を止める救厄の聖者と呼ばれる存在であった。
 救厄の聖者には、旅の途中で仲間になった竜騎士ニーズヘッグやそのドラゴンであるケツァルコアトル、戦乙女アルマ、2000年前の時代から飛ばされてきた神の子アンフィスをはじめ、ステラとピノアをライバル視するもう一組の天才魔法使い兄弟であるライトとリード、レンジと同様にマレビトである大和ショウゴ、雨野タカミ・ミカナ兄妹らがいた。

 救厄の聖者たちは、サトシの体を蝕んでいた放射性物質から解放し、元いた世界に帰すこと、そして細胞レベルで完全な究極のカオスへと進化したブライを倒すことにより大厄災を未然に防ぐことに成功する。

 役目を終えたマレビトたちは元の世界へと帰還しなければならなくなり、恋人関係になっていたレンジとステラには永遠の別れが訪れる。
 しかし、ピノアはステラをレンジの世界へと送り出す。彼女もまたレンジのことが好きであったが、ステラのお腹の中にはレンジの子どもがいたからだった。

 だがレンジは元の世界には帰れなかった。
 まるでゲームのクリアデータを使い、2周目を「強くてニューゲーム」したかのように、城下町の商店街のはずれに彼はいた。

 その世界は、起きるはずのない大厄災が起きてしまった後の11番目の世界であることが判明し、他のマレビトたちやステラがどうなってしまったのかもわからないまま、第一部は幕を閉じる。


 それは30万文字を超える大長編だったが、俺はあっという間に読み終えてしまっていた。
 破魔矢梨沙の小説と同じだ。
 他の作家の小説なら、今日はここまでにしようと栞を挟んで読むのをやめてしまうタイミングがどこかに必ずあるのだが、俺にとって破魔矢梨沙の小説にはそれがなかった。特別だった。
 ペンネームや文体が変わっていてもそれは変わらなかった。一気に読み終えた直後にはもう、もう一度最初から読み返したくなっていることもまた。
 魔法があり戦闘シーンがあるような異世界を題材にしていても、いや異世界を題材にしているからこそ、自己顕示欲や承認欲求、選民意識といった人間が持つ複雑な感情が、破魔矢梨沙の現代社会を舞台にした小説よりも際立っているようにさえ感じられた。

 ステラやピノアの父親であり、第一部のラスボスでもある大賢者ブライ・アジ・ダハーカは、生まれの不幸と与えられた才能により、自己顕示欲や承認欲求、選民意識の塊となっていった経緯が描かれていた。
 彼は魔法大国エウロペの先代の国王が、王宮に仕える三姉妹の賢者の三女を強姦したことによって生まれた隠し子であった。
 ブライの母親は強姦の直後から自殺を考えるようになり、数ヶ月後に妊娠が発覚した際には、未遂に終わったが本当に自殺を決行してしまう。
 ふたりの姉は彼女に生きてほしいが故に、王への復讐を決意し、自らの体も王に差し出すことを決める。
 それぞれが妊娠をし、自分たちのお腹にいる子らを、魔人と呼ばれるエーテルをその身に取り込んだ存在へと人工的に進化させた。
 自らの出生の秘密を知ったブライは、母親を含めた三賢者と国王を殺害し、腹違いの弟のひとりを傀儡の王に仕立て上げ、大賢者という役職を用意させた。用済みになると殺し、もうひとりの弟までその手にかけた。
 唯一愛した女性との間に産まれた子ステラは、強大すぎる力を持って生まれたために彼が愛した女性の命を奪った。
 彼は自らの親だけでなく、子さえも、世界のすべてを憎んでいた。



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