34 / 61
第34話「破魔矢梨沙≒とりにくチキン」③
しおりを挟む
大厄災とは、その術者以外の異世界に生きるすべての人間と、過去に生きたすべての人間の存在自体を歴史から消去し、人類が存在した痕跡すらも跡形もなく消去する人災だ。
大厄災の後、ひとりだけ残った術者が新たな神となり、自らに似せて人を作り、新たな人類の歴史を一から始めるのだ。
異世界ではすでに大厄災は9度も起きており、その世界は10番目の世界であった。
主人公のレンジやヒロインのステラとピノアは、大厄災を止める救厄の聖者と呼ばれる存在であった。
救厄の聖者には、旅の途中で仲間になった竜騎士ニーズヘッグやそのドラゴンであるケツァルコアトル、戦乙女アルマ、2000年前の時代から飛ばされてきた神の子アンフィスをはじめ、ステラとピノアをライバル視するもう一組の天才魔法使い兄弟であるライトとリード、レンジと同様にマレビトである大和ショウゴ、雨野タカミ・ミカナ兄妹らがいた。
救厄の聖者たちは、サトシの体を蝕んでいた放射性物質から解放し、元いた世界に帰すこと、そして細胞レベルで完全な究極のカオスへと進化したブライを倒すことにより大厄災を未然に防ぐことに成功する。
役目を終えたマレビトたちは元の世界へと帰還しなければならなくなり、恋人関係になっていたレンジとステラには永遠の別れが訪れる。
しかし、ピノアはステラをレンジの世界へと送り出す。彼女もまたレンジのことが好きであったが、ステラのお腹の中にはレンジの子どもがいたからだった。
だがレンジは元の世界には帰れなかった。
まるでゲームのクリアデータを使い、2周目を「強くてニューゲーム」したかのように、城下町の商店街のはずれに彼はいた。
その世界は、起きるはずのない大厄災が起きてしまった後の11番目の世界であることが判明し、他のマレビトたちやステラがどうなってしまったのかもわからないまま、第一部は幕を閉じる。
それは30万文字を超える大長編だったが、俺はあっという間に読み終えてしまっていた。
破魔矢梨沙の小説と同じだ。
他の作家の小説なら、今日はここまでにしようと栞を挟んで読むのをやめてしまうタイミングがどこかに必ずあるのだが、俺にとって破魔矢梨沙の小説にはそれがなかった。特別だった。
ペンネームや文体が変わっていてもそれは変わらなかった。一気に読み終えた直後にはもう、もう一度最初から読み返したくなっていることもまた。
魔法があり戦闘シーンがあるような異世界を題材にしていても、いや異世界を題材にしているからこそ、自己顕示欲や承認欲求、選民意識といった人間が持つ複雑な感情が、破魔矢梨沙の現代社会を舞台にした小説よりも際立っているようにさえ感じられた。
ステラやピノアの父親であり、第一部のラスボスでもある大賢者ブライ・アジ・ダハーカは、生まれの不幸と与えられた才能により、自己顕示欲や承認欲求、選民意識の塊となっていった経緯が描かれていた。
彼は魔法大国エウロペの先代の国王が、王宮に仕える三姉妹の賢者の三女を強姦したことによって生まれた隠し子であった。
ブライの母親は強姦の直後から自殺を考えるようになり、数ヶ月後に妊娠が発覚した際には、未遂に終わったが本当に自殺を決行してしまう。
ふたりの姉は彼女に生きてほしいが故に、王への復讐を決意し、自らの体も王に差し出すことを決める。
それぞれが妊娠をし、自分たちのお腹にいる子らを、魔人と呼ばれるエーテルをその身に取り込んだ存在へと人工的に進化させた。
自らの出生の秘密を知ったブライは、母親を含めた三賢者と国王を殺害し、腹違いの弟のひとりを傀儡の王に仕立て上げ、大賢者という役職を用意させた。用済みになると殺し、もうひとりの弟までその手にかけた。
唯一愛した女性との間に産まれた子ステラは、強大すぎる力を持って生まれたために彼が愛した女性の命を奪った。
彼は自らの親だけでなく、子さえも、世界のすべてを憎んでいた。
大厄災の後、ひとりだけ残った術者が新たな神となり、自らに似せて人を作り、新たな人類の歴史を一から始めるのだ。
異世界ではすでに大厄災は9度も起きており、その世界は10番目の世界であった。
主人公のレンジやヒロインのステラとピノアは、大厄災を止める救厄の聖者と呼ばれる存在であった。
救厄の聖者には、旅の途中で仲間になった竜騎士ニーズヘッグやそのドラゴンであるケツァルコアトル、戦乙女アルマ、2000年前の時代から飛ばされてきた神の子アンフィスをはじめ、ステラとピノアをライバル視するもう一組の天才魔法使い兄弟であるライトとリード、レンジと同様にマレビトである大和ショウゴ、雨野タカミ・ミカナ兄妹らがいた。
救厄の聖者たちは、サトシの体を蝕んでいた放射性物質から解放し、元いた世界に帰すこと、そして細胞レベルで完全な究極のカオスへと進化したブライを倒すことにより大厄災を未然に防ぐことに成功する。
役目を終えたマレビトたちは元の世界へと帰還しなければならなくなり、恋人関係になっていたレンジとステラには永遠の別れが訪れる。
しかし、ピノアはステラをレンジの世界へと送り出す。彼女もまたレンジのことが好きであったが、ステラのお腹の中にはレンジの子どもがいたからだった。
だがレンジは元の世界には帰れなかった。
まるでゲームのクリアデータを使い、2周目を「強くてニューゲーム」したかのように、城下町の商店街のはずれに彼はいた。
その世界は、起きるはずのない大厄災が起きてしまった後の11番目の世界であることが判明し、他のマレビトたちやステラがどうなってしまったのかもわからないまま、第一部は幕を閉じる。
それは30万文字を超える大長編だったが、俺はあっという間に読み終えてしまっていた。
破魔矢梨沙の小説と同じだ。
他の作家の小説なら、今日はここまでにしようと栞を挟んで読むのをやめてしまうタイミングがどこかに必ずあるのだが、俺にとって破魔矢梨沙の小説にはそれがなかった。特別だった。
ペンネームや文体が変わっていてもそれは変わらなかった。一気に読み終えた直後にはもう、もう一度最初から読み返したくなっていることもまた。
魔法があり戦闘シーンがあるような異世界を題材にしていても、いや異世界を題材にしているからこそ、自己顕示欲や承認欲求、選民意識といった人間が持つ複雑な感情が、破魔矢梨沙の現代社会を舞台にした小説よりも際立っているようにさえ感じられた。
ステラやピノアの父親であり、第一部のラスボスでもある大賢者ブライ・アジ・ダハーカは、生まれの不幸と与えられた才能により、自己顕示欲や承認欲求、選民意識の塊となっていった経緯が描かれていた。
彼は魔法大国エウロペの先代の国王が、王宮に仕える三姉妹の賢者の三女を強姦したことによって生まれた隠し子であった。
ブライの母親は強姦の直後から自殺を考えるようになり、数ヶ月後に妊娠が発覚した際には、未遂に終わったが本当に自殺を決行してしまう。
ふたりの姉は彼女に生きてほしいが故に、王への復讐を決意し、自らの体も王に差し出すことを決める。
それぞれが妊娠をし、自分たちのお腹にいる子らを、魔人と呼ばれるエーテルをその身に取り込んだ存在へと人工的に進化させた。
自らの出生の秘密を知ったブライは、母親を含めた三賢者と国王を殺害し、腹違いの弟のひとりを傀儡の王に仕立て上げ、大賢者という役職を用意させた。用済みになると殺し、もうひとりの弟までその手にかけた。
唯一愛した女性との間に産まれた子ステラは、強大すぎる力を持って生まれたために彼が愛した女性の命を奪った。
彼は自らの親だけでなく、子さえも、世界のすべてを憎んでいた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

穢れなき禽獣は魔都に憩う
クイン舎
キャラ文芸
1920年代の初め、慈惇(じじゅん)天皇のお膝元、帝都東京では謎の失踪事件・狂鴉(きょうあ)病事件が不穏な影を落としていた。
郷里の尋常小学校で代用教員をしていた小鳥遊柊萍(たかなししゅうへい)は、ひょんなことから大日本帝国大学の著名な鳥類学者、御子柴(みこしば)教授の誘いを受け上京することに。
そこで柊萍は『冬月帝国』とも称される冬月財閥の令息、冬月蘇芳(ふゆつきすおう)と出会う。
傲岸不遜な蘇芳に振り回されながら、やがて柊萍は蘇芳と共に謎の事件に巻き込まれていく──。
梅子ばあちゃんのゆったりカフェヘようこそ!(東京都下の高尾の片隅で)
なかじまあゆこ
キャラ文芸
『梅子ばあちゃんのカフェへようこそ!』は梅子おばあちゃんの作る美味しい料理で賑わっています。そんなカフェに就職活動に失敗した孫のるり子が住み込みで働くことになって……。
おばあちゃんの家には変わり者の親戚が住んでいてるり子は戸惑いますが、そのうち馴れてきて溶け込んでいきます。
カフェとるり子と個性的な南橋一家の日常と時々ご当地物語です。
どうぞよろしくお願いします(^-^)/
エブリスタでも書いています。

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。
かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。
就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。
その一軒家の神棚には、神様がいた。
神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。
神様をお見送りした、大学四年生の冬。
もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。
就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う!
男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。
なかなか、売れない。
やっと、一つ、売れた日。
ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現!
「神様?」
常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

ようこそ!アニマル商店街へ~愛犬べぇの今日思ったこと~
歩く、歩く。
キャラ文芸
皆さん初めまして、私はゴールデンレトリバーのべぇと申します。今年で五歳を迎えました。
本日はようこそ、当商店街へとお越しいただきました。主人ともども心から歓迎いたします。
私の住まいは、東京都某市に造られた大型商業地区、「アニマル商店街」。
ここには私を始め、多くの動物達が放し飼いにされていて、各々が自由にのびのびと過ごしています。なんでも、「人と動物が共生できる環境」を目指して造られた都市計画だそうですね。私は犬なのでよくわからないのですが。
私の趣味は、お散歩です。いつもアメリカンショートヘアーのちゃこさんさんと一緒に、商店街を回っては、沢山の動物さん達とお話するのが私の日常です。色んな動物さん達と過ごす日々は、私にとって大事な大事な時間なのです。
さて、今日はどんな動物さんと出会えるのでしょうか。

おバカな超能力者だけれども…
久保 倫
キャラ文芸
白野寿々男(しらの すずお)は超能力者。ただし、そんなに大した能力はない。時間のかかる遠視能力とスイッチのON/OFFができる程度の念動力だけ。
それでも、自分の超能力を世の役に立てたいという志はあります。
そんな彼が、大学進学と同時に上京して黒江文(くろえ あや)と出会うところから物語は始まります。
長編ですけど、そんなに長くしないつもりです。
追記
新星会(2)に「先々代を確保しました。」の後に”うつ伏せになって気絶している江戸川の背中を踏みつけながら答える。”を追記。
改稿
破門(2)で甲斐のセリフ「先々代もご覚悟願います」→「先々代、ご覚悟願います。」に変更。
久島と甲斐のやりとり
「敵に回しても構わねえと。そこまでなめられたらほっとくわけにはいかねえぞ。」
「抗争ですね。兄さんご覚悟ください。」を削除しました。
かなり重要な改稿ですので、ご承知おきください。
変更情報
上京初日(4)で時間停止中の描写を追加しました。もしご興味のある方はお読みください。
小料理屋「美菜」を若干改稿。黒江が二人の出会いを説明する描写にちょっと追記。
蔵良が、白野を誘導するくだりに追記。
大した改稿ではありませんが、興味のある方はご一読下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる