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第32話「破魔矢梨沙≒とりにくチキン」①
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破魔矢梨沙のネット小説家としての名前とりにくチキンの処女作は、
『秋月レンジは気づいたら異世界にいた。』
そんな書き出しで始まっていた。
主人公の苗字が実在した戦艦の名前からとられており、下の名前がカタカナになっているのは、今年の春に完結編が公開され25年の歴史に幕を閉じた有名なアニメ映画にインスパイアされたものだろう。
そして、
『転移したのか転生したのかはわからなかった。直前の記憶が曖昧だったからだ。』
異世界転移ものなのか、あるいは転生ものなのか、ジャンルがすぐにはわからないようになっていた。
『ただ本当にこういうことがあるのだな、と思った。面倒なことに巻き込まれたな、と思った。』
たったそれだけで、主人公の性格がなんとなくだがわかるようにもなっていた。
異世界転移や転生というジャンルのラノベやアニメを知っており、若干の戸惑いはあるものの、そのような物語の中でしかあり得ないことを受け入れてしまっている上に、危機感はそこにはなく、他人事のように面倒だと感じているのだ。
破魔矢梨沙が書く純文学や大衆小説の文体にはあまり似ていなかった。ラノベ用に文体を読みやすく変えているのだろう。作者が破魔矢梨沙だとバレにくくする目的もあるのだろう。
ネット小説用に横書きで書かれており、以前俺が懸念していた、通勤や通学中の電車の中で文庫よりも小さなスマホの画面でも読みやすいよう改行を多用する必要がある点も、すでにちゃんと行われていた。
主人公がいるのは城下町の商店街のはずれだった。
商店街や遠くに見える城、空に浮かぶ飛空艇やドラゴンなどについて、まるでこの目で見ているかのように感じさせる巧みな描写の後に、
『だが、不思議なことに目の前には見慣れたATMがあった。』
と書かれていた。
そのATMは実際に使うことができ、主人公がお年玉を使わずに貯金していた10万円を下ろしてみると、異世界の通過であるユロに換金され、主人公は冒頭に1000万ユロという大金を手にしていた。
RPGに例えるなら、レベルは1だが所持金はマックスといったところだろう。
いわゆるチートものだ。
だが、おそらくはそれだけではなかった。
主人公に大金を持たせるには理由があるのだ。
やはり、この城下町には武器や防具を扱う店が2種類あった。
始まりの町にふさわしい弱い武器や防具を扱う店と、ラストダンジョンの手前にあるような最強クラスのものを扱う店だ。
ゲームを題材にしたものではなく、あくまで異世界であるため、レベルの概念はないだろうが、あえて例えるなら主人公はレベルは1だが、最強装備で旅立つことになる。
チートだけではなく、無双というジャンルもおさえているのだろう。
ATMがそこにあったことにもきちんと理由づけがされていた。
異なる世界からの転移者か転生者が現れる場合、その前兆としてその者が元いた世界に存在するものが現れる、漂流物と呼ばれるもののひとつということになっていた。
主人公は最初は町中にあふれる異世界の言語が理解できないが、商店街を抜ける手前で一度立ちくらみを覚えた後からは言語が理解できるようになっていた。
そこには、俺が、大気中に存在し魔法の源となる物質として提案した「エーテル」が使われていた。
エーテルは呼吸によって異世界転移者(あるいは転生者)の脳に蓄積されていき、自動翻訳機能を脳に与えるのだという。
エーテルが電力の代わりとなってATMを動かしてもいた。
そして主人公は商店街を抜けた先の広場でふたりの少女に出会う。
長い黒髪で黒い瞳をしたステラ・リヴァイアサンと、銀髪のツインテールで赤い瞳のピノア・カーバンクル。
ふたりのコスチュームは、俺が事前に指定し、亜美がその必然性を考えてくれた、セーラースク水&ニーハイ、ランドセル、うわばきに加え、メイドさんのへッドドレスが追加されていた。
悪くなかった。
むしろ、何それ最高じゃん、いーじゃん、すげーじゃんと俺は思った。
『秋月レンジは気づいたら異世界にいた。』
そんな書き出しで始まっていた。
主人公の苗字が実在した戦艦の名前からとられており、下の名前がカタカナになっているのは、今年の春に完結編が公開され25年の歴史に幕を閉じた有名なアニメ映画にインスパイアされたものだろう。
そして、
『転移したのか転生したのかはわからなかった。直前の記憶が曖昧だったからだ。』
異世界転移ものなのか、あるいは転生ものなのか、ジャンルがすぐにはわからないようになっていた。
『ただ本当にこういうことがあるのだな、と思った。面倒なことに巻き込まれたな、と思った。』
たったそれだけで、主人公の性格がなんとなくだがわかるようにもなっていた。
異世界転移や転生というジャンルのラノベやアニメを知っており、若干の戸惑いはあるものの、そのような物語の中でしかあり得ないことを受け入れてしまっている上に、危機感はそこにはなく、他人事のように面倒だと感じているのだ。
破魔矢梨沙が書く純文学や大衆小説の文体にはあまり似ていなかった。ラノベ用に文体を読みやすく変えているのだろう。作者が破魔矢梨沙だとバレにくくする目的もあるのだろう。
ネット小説用に横書きで書かれており、以前俺が懸念していた、通勤や通学中の電車の中で文庫よりも小さなスマホの画面でも読みやすいよう改行を多用する必要がある点も、すでにちゃんと行われていた。
主人公がいるのは城下町の商店街のはずれだった。
商店街や遠くに見える城、空に浮かぶ飛空艇やドラゴンなどについて、まるでこの目で見ているかのように感じさせる巧みな描写の後に、
『だが、不思議なことに目の前には見慣れたATMがあった。』
と書かれていた。
そのATMは実際に使うことができ、主人公がお年玉を使わずに貯金していた10万円を下ろしてみると、異世界の通過であるユロに換金され、主人公は冒頭に1000万ユロという大金を手にしていた。
RPGに例えるなら、レベルは1だが所持金はマックスといったところだろう。
いわゆるチートものだ。
だが、おそらくはそれだけではなかった。
主人公に大金を持たせるには理由があるのだ。
やはり、この城下町には武器や防具を扱う店が2種類あった。
始まりの町にふさわしい弱い武器や防具を扱う店と、ラストダンジョンの手前にあるような最強クラスのものを扱う店だ。
ゲームを題材にしたものではなく、あくまで異世界であるため、レベルの概念はないだろうが、あえて例えるなら主人公はレベルは1だが、最強装備で旅立つことになる。
チートだけではなく、無双というジャンルもおさえているのだろう。
ATMがそこにあったことにもきちんと理由づけがされていた。
異なる世界からの転移者か転生者が現れる場合、その前兆としてその者が元いた世界に存在するものが現れる、漂流物と呼ばれるもののひとつということになっていた。
主人公は最初は町中にあふれる異世界の言語が理解できないが、商店街を抜ける手前で一度立ちくらみを覚えた後からは言語が理解できるようになっていた。
そこには、俺が、大気中に存在し魔法の源となる物質として提案した「エーテル」が使われていた。
エーテルは呼吸によって異世界転移者(あるいは転生者)の脳に蓄積されていき、自動翻訳機能を脳に与えるのだという。
エーテルが電力の代わりとなってATMを動かしてもいた。
そして主人公は商店街を抜けた先の広場でふたりの少女に出会う。
長い黒髪で黒い瞳をしたステラ・リヴァイアサンと、銀髪のツインテールで赤い瞳のピノア・カーバンクル。
ふたりのコスチュームは、俺が事前に指定し、亜美がその必然性を考えてくれた、セーラースク水&ニーハイ、ランドセル、うわばきに加え、メイドさんのへッドドレスが追加されていた。
悪くなかった。
むしろ、何それ最高じゃん、いーじゃん、すげーじゃんと俺は思った。
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