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第27話「破魔矢梨沙≒西日野亜美」①
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珠莉は俺を亜美が寝ている部屋へと案内してくれた。
お洒落なリビングとドアを1枚挟んだだけのその部屋は、足の踏み場もないほど散らかっており、ゴミ屋敷の一歩手前のようだった。
ベッドにも小説や漫画、携帯ゲーム機などが山のようにあり、今にも亜美の顔面に倒れてきそうだった。
亜美はそんなベッドで、くまのぬいぐるみを抱きしめながら、キャミソールにパンツだけのあられもない格好で寝ていた。
布団を蹴飛ばして、お腹を出し、よだれも垂らしており、俺は普段の彼女とのギャップにただただ驚かされた。
「ほんとにピノアみたいでしょ」
と、珠莉は言った。
俺の理想のヒロインは、もう俺の中だけの存在じゃなく、亜美の中にもいて、そして珠莉の中にもいるんだなと思った。
嬉しかった。
亜美のノートパソコンの中では、きっとピノアは生き生きと動き回っているのだろう。そして、近いうちにたくさんの人たちの中でピノアが生きることになるのだ。
「そうだな。超絶かわいいし、超絶エロいな」
俺は言った。
「パンツはこの子が自分で出しちゃってるから、見るなとは言わないけど、えっちなことは」
「しないよ」
「そっか。でも、ほっぺにちゅーくらいなら」
「できるかよ」
童貞だからとか、女の子と付き合ったことがないからとか、そんな理由じゃなかった。
くまのぬいぐるみを抱きしめ、布団を蹴飛ばして、お腹を出し、よだれも垂らしている亜美が、俺にはピノアに見えると同時に、まるで女神か聖母のように神々しく見えていたからだ。
「でも、写真は撮らせてくれ」
「それならもう撮ってあるから、後で送る」
同じ顔をしているはずの姉は、なぜかサキュバスのように見えた。
珠莉は、亜美が抱きしめているぬいぐるみを指差すと、
「この子、小さい頃から、あのくまのぬいぐるみを抱きしめてないと眠れないんだ」
と言った。
心理学の言葉に、スターピーに出てくるライナスという男の子が、いつも毛布を手放さないことから、ライナスの毛布というものがあると聞いたことがあった。それのぬいぐるみ版ということだろう。
「あのくまの名前が、『りさ』なの。
ベッドにもう一匹いるのは男の子で、名前は『はまや』。元々はわたしのぬいぐるみだったけど、この子が欲しがったからあげたの」
「だから、破魔矢梨沙だったのか」
俺と亜美は、お互いに好きな食べ物を言い合い、とりにくチキンというペンネームを作ったが、破魔矢梨沙も亜美が好きなくまのぬいぐるみの名前をかけあわせたものだったのだ。
「この子とわたし以外、うちの親や出版社の人も知らないことだよ」
「それは光栄だな。破魔矢梨沙ってペンネームの由来は、ファンの中では俺しか知らないってことだからな」
出版社の人はともかく、幼い頃から大事にしているぬいぐるみの名前を、ふたりの親が知らないのはおかしい気がした。
もしかしたらうちの親のように、ふたりの親も何か問題を抱えているのかもしれないなと思った。
「じゃあ、わたしはそろそろバイトに行くからあとはお願いね」
そう言って珠莉は出ていき、俺は寝ている亜美とふたりきりになった。
「あんたの姉ちゃんはどうしても俺たちをくっつけたいみたいだな」
俺は亜美が眠るベッドのそばに腰を下ろしながら言った。彼女の寝姿は直視できそうになかったし、してはいけない気がしたから、ベッドに背をもたれかけさせた。
「今日、うちの妹にも言われたよ。
最初は友達や彼女を作れって話で、たぶん妹にしてみたら、妹以外の話相手が俺には必要だってことだったんだろうけど。
途中から、お兄ちゃんのことをわたしよりも理解できるのは、破魔矢梨沙って人だけだと思うって言い出してさ。
あいつはあんたのことを知らないし、もちろん俺はあんたのことを話したりしてないのに、そんなことを言うんだよ」
何故そんなことをしているのか自分でもよくわからなかったが、俺は寝ている亜美に話しかけ続けていた。
「中学2年くらいからかな。
何となく生きづらさを感じ始めたのは。大体の奴がうまくやってることができなくてさ。やろうと思えばできたかもしれないけど、めんどくさくてやる気になれなくて、クラスで浮き始めたのが中2の頃だった」
俺が読書ばかりするようになったのはその頃だ。最初はラノベばかり読んでいた。
お洒落なリビングとドアを1枚挟んだだけのその部屋は、足の踏み場もないほど散らかっており、ゴミ屋敷の一歩手前のようだった。
ベッドにも小説や漫画、携帯ゲーム機などが山のようにあり、今にも亜美の顔面に倒れてきそうだった。
亜美はそんなベッドで、くまのぬいぐるみを抱きしめながら、キャミソールにパンツだけのあられもない格好で寝ていた。
布団を蹴飛ばして、お腹を出し、よだれも垂らしており、俺は普段の彼女とのギャップにただただ驚かされた。
「ほんとにピノアみたいでしょ」
と、珠莉は言った。
俺の理想のヒロインは、もう俺の中だけの存在じゃなく、亜美の中にもいて、そして珠莉の中にもいるんだなと思った。
嬉しかった。
亜美のノートパソコンの中では、きっとピノアは生き生きと動き回っているのだろう。そして、近いうちにたくさんの人たちの中でピノアが生きることになるのだ。
「そうだな。超絶かわいいし、超絶エロいな」
俺は言った。
「パンツはこの子が自分で出しちゃってるから、見るなとは言わないけど、えっちなことは」
「しないよ」
「そっか。でも、ほっぺにちゅーくらいなら」
「できるかよ」
童貞だからとか、女の子と付き合ったことがないからとか、そんな理由じゃなかった。
くまのぬいぐるみを抱きしめ、布団を蹴飛ばして、お腹を出し、よだれも垂らしている亜美が、俺にはピノアに見えると同時に、まるで女神か聖母のように神々しく見えていたからだ。
「でも、写真は撮らせてくれ」
「それならもう撮ってあるから、後で送る」
同じ顔をしているはずの姉は、なぜかサキュバスのように見えた。
珠莉は、亜美が抱きしめているぬいぐるみを指差すと、
「この子、小さい頃から、あのくまのぬいぐるみを抱きしめてないと眠れないんだ」
と言った。
心理学の言葉に、スターピーに出てくるライナスという男の子が、いつも毛布を手放さないことから、ライナスの毛布というものがあると聞いたことがあった。それのぬいぐるみ版ということだろう。
「あのくまの名前が、『りさ』なの。
ベッドにもう一匹いるのは男の子で、名前は『はまや』。元々はわたしのぬいぐるみだったけど、この子が欲しがったからあげたの」
「だから、破魔矢梨沙だったのか」
俺と亜美は、お互いに好きな食べ物を言い合い、とりにくチキンというペンネームを作ったが、破魔矢梨沙も亜美が好きなくまのぬいぐるみの名前をかけあわせたものだったのだ。
「この子とわたし以外、うちの親や出版社の人も知らないことだよ」
「それは光栄だな。破魔矢梨沙ってペンネームの由来は、ファンの中では俺しか知らないってことだからな」
出版社の人はともかく、幼い頃から大事にしているぬいぐるみの名前を、ふたりの親が知らないのはおかしい気がした。
もしかしたらうちの親のように、ふたりの親も何か問題を抱えているのかもしれないなと思った。
「じゃあ、わたしはそろそろバイトに行くからあとはお願いね」
そう言って珠莉は出ていき、俺は寝ている亜美とふたりきりになった。
「あんたの姉ちゃんはどうしても俺たちをくっつけたいみたいだな」
俺は亜美が眠るベッドのそばに腰を下ろしながら言った。彼女の寝姿は直視できそうになかったし、してはいけない気がしたから、ベッドに背をもたれかけさせた。
「今日、うちの妹にも言われたよ。
最初は友達や彼女を作れって話で、たぶん妹にしてみたら、妹以外の話相手が俺には必要だってことだったんだろうけど。
途中から、お兄ちゃんのことをわたしよりも理解できるのは、破魔矢梨沙って人だけだと思うって言い出してさ。
あいつはあんたのことを知らないし、もちろん俺はあんたのことを話したりしてないのに、そんなことを言うんだよ」
何故そんなことをしているのか自分でもよくわからなかったが、俺は寝ている亜美に話しかけ続けていた。
「中学2年くらいからかな。
何となく生きづらさを感じ始めたのは。大体の奴がうまくやってることができなくてさ。やろうと思えばできたかもしれないけど、めんどくさくてやる気になれなくて、クラスで浮き始めたのが中2の頃だった」
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