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第25話「姉妹」①
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俺が西日野亜美のスマホを大学の学食で拾い、彼女の正体が人気作家の破魔矢梨沙だと知ったのはまだ5日前のことだ。
彼女と深夜のコンビニで出会い、明け方まで語り合う、というよりは俺が一方的にピノアのことを話し続けたのが3日前。
それまでの俺は、日記に書くことが何もないような毎日を何年も惰性で過ごしていただけだった。
夢だけはよく見ていた。悪夢ばかりだった。そのせいで寝起きは毎朝のように憂鬱な気持ちで迎えていた。
だから日記を書いていたなら、ちゃんと講義に出て試験も受けているのに大学を永遠に卒業できないとか、そういう夢のことばかりを綴っていたことだろう。
だけど今は違う。
俺はたぶん、今、人生で一番濃厚な時間を過ごしている。
この時間が出来るだけ長く続いて欲しかった。
もし、本当に珠莉や千古の言うとおりだったなら、と俺は考えた。
俺は亜美の気持ちに何となく気付いていたし、彼女に対する自分の気持ちにも気付いていた。
亜美は俺が望む現状維持を理解してくれるだろうか。
そんなことを考えて、まだ知り合って数日じゃないか、と俺は苦笑した。のだが、
「うちに遊びに来ない? 亜美とふたりきりにしてあげる」
部屋に戻ると、スマホに珠莉から連絡が来ていた。
俺はすぐに電話をかけることにした。
西日野姉妹とは金曜に連絡先を交換していたのだ。
確か亜美は、金曜の部活である程度キャラクターや世界観が固まったし、プロットもできていたから、この週末の間にネット小説を書き始めてみると言っていた。
「西日野は小説書いてるんだろ? 邪魔になるから行けないよ」
「二晩徹夜で書いて、もう第一部は書き終わったみたいだよ」
「おい、それ、本業以上に力入れてないか?」
「言ったでしょ。あの子には小説の神様が降りてくることがあるって。
何かに取り憑かれたみたいに自動書記装置みたいになったり、突然編集の人に電話をかけて口述筆記してもらったりすることがあるの」
今回は前者だったという。
「すごく疲れるみたいで、今は寝てる。書き始めたときから、書き終わって寝ちゃうまでの記憶が一切ないから、何を書いたかも覚えてなかったりするの」
「それって大丈夫なのか? 体とか」
「水分補給はさせてるし、カロリーメイドとか食べさせたりはしてるから、一応は大丈夫。小さい子が嫌いなものを無理矢理食べさせられるみたいに、思いっきりイヤイヤされたけど」
何その西日野。超かわいいじゃん。
「今、超かわいいじゃんって思ったでしょ?」
「お前はエスパーか」
「そのうち日永くんも見ることがあると思うから、そんなにヤキモチ焼かないでね。
起きたらたぶん普段のあの子に戻ってると思うんだけど、わたし、あと3時間くらいしたらあの子の代わりにバイト行かなきゃいけないの。
丸2日近く記憶が飛んでるから、日永くんがそばにいてあげて、起きたら事情を説明してあげてよ」
「俺でいいのか?」
「日永くん以外に誰か適任者がいると思う?」
いないだろうな、と思った。
「あの子が寝てる間に小説を読んだりしても、日永くんが相手なら怒ることはないだろうし。あの子にえっちなことさえしなかったら、わたしが帰るまでいっしょに部屋にいてくれるだけで大丈夫だから」
「どうせ、お前のことだから監視カメラか盗聴機をしかけてるだろ。するかよ」
「でも、パンツくらいなら見たいとか思ったりしそうじゃん」
やっぱりしかけてあるんだな。本当にいいお姉ちゃんだ。
「明日月曜だし、わたしが帰るの夜中になるから、今夜はうちに泊まっていってくれていいよ。明日の講義で必要なものを持ってきてね」
「まじで言ってんの?」
「全然マジ。リアルガチだよ」
俺は観念し、わかった、と言って電話を切った。
慌てて出かける支度をし、妹に帰りは明日の夜になると言って出かけた。
彼女と深夜のコンビニで出会い、明け方まで語り合う、というよりは俺が一方的にピノアのことを話し続けたのが3日前。
それまでの俺は、日記に書くことが何もないような毎日を何年も惰性で過ごしていただけだった。
夢だけはよく見ていた。悪夢ばかりだった。そのせいで寝起きは毎朝のように憂鬱な気持ちで迎えていた。
だから日記を書いていたなら、ちゃんと講義に出て試験も受けているのに大学を永遠に卒業できないとか、そういう夢のことばかりを綴っていたことだろう。
だけど今は違う。
俺はたぶん、今、人生で一番濃厚な時間を過ごしている。
この時間が出来るだけ長く続いて欲しかった。
もし、本当に珠莉や千古の言うとおりだったなら、と俺は考えた。
俺は亜美の気持ちに何となく気付いていたし、彼女に対する自分の気持ちにも気付いていた。
亜美は俺が望む現状維持を理解してくれるだろうか。
そんなことを考えて、まだ知り合って数日じゃないか、と俺は苦笑した。のだが、
「うちに遊びに来ない? 亜美とふたりきりにしてあげる」
部屋に戻ると、スマホに珠莉から連絡が来ていた。
俺はすぐに電話をかけることにした。
西日野姉妹とは金曜に連絡先を交換していたのだ。
確か亜美は、金曜の部活である程度キャラクターや世界観が固まったし、プロットもできていたから、この週末の間にネット小説を書き始めてみると言っていた。
「西日野は小説書いてるんだろ? 邪魔になるから行けないよ」
「二晩徹夜で書いて、もう第一部は書き終わったみたいだよ」
「おい、それ、本業以上に力入れてないか?」
「言ったでしょ。あの子には小説の神様が降りてくることがあるって。
何かに取り憑かれたみたいに自動書記装置みたいになったり、突然編集の人に電話をかけて口述筆記してもらったりすることがあるの」
今回は前者だったという。
「すごく疲れるみたいで、今は寝てる。書き始めたときから、書き終わって寝ちゃうまでの記憶が一切ないから、何を書いたかも覚えてなかったりするの」
「それって大丈夫なのか? 体とか」
「水分補給はさせてるし、カロリーメイドとか食べさせたりはしてるから、一応は大丈夫。小さい子が嫌いなものを無理矢理食べさせられるみたいに、思いっきりイヤイヤされたけど」
何その西日野。超かわいいじゃん。
「今、超かわいいじゃんって思ったでしょ?」
「お前はエスパーか」
「そのうち日永くんも見ることがあると思うから、そんなにヤキモチ焼かないでね。
起きたらたぶん普段のあの子に戻ってると思うんだけど、わたし、あと3時間くらいしたらあの子の代わりにバイト行かなきゃいけないの。
丸2日近く記憶が飛んでるから、日永くんがそばにいてあげて、起きたら事情を説明してあげてよ」
「俺でいいのか?」
「日永くん以外に誰か適任者がいると思う?」
いないだろうな、と思った。
「あの子が寝てる間に小説を読んだりしても、日永くんが相手なら怒ることはないだろうし。あの子にえっちなことさえしなかったら、わたしが帰るまでいっしょに部屋にいてくれるだけで大丈夫だから」
「どうせ、お前のことだから監視カメラか盗聴機をしかけてるだろ。するかよ」
「でも、パンツくらいなら見たいとか思ったりしそうじゃん」
やっぱりしかけてあるんだな。本当にいいお姉ちゃんだ。
「明日月曜だし、わたしが帰るの夜中になるから、今夜はうちに泊まっていってくれていいよ。明日の講義で必要なものを持ってきてね」
「まじで言ってんの?」
「全然マジ。リアルガチだよ」
俺は観念し、わかった、と言って電話を切った。
慌てて出かける支度をし、妹に帰りは明日の夜になると言って出かけた。
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