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第24話「兄妹」②

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「千古は学校とかで生きづらさを感じることってあるか?」

 俺はラケットに見立てたコントローラを思いっきり振りながら妹に訊ねた。
 俺と妹は、兄妹仲は悪くはない。むしろ仲が良い方だと思う。

「あるよ。めんどくさいことばっかりだもん。ほら、お兄ちゃんが好きな作家の小説みたいな。まんまあんな感じ」

 妹も破魔矢梨沙の作品を全部ではないが何冊かは読んでいた。

「あれってさ、学校で上手く立ち回れてる奴が社会に出たときにも上手くやるんかな」

「学校は社会の縮図的な?
 全員がそうじゃないとは思うけど、まぁ、あるかもね。高校までに上手く立ち回れるようになっておけば、大学生のうちからうまく人脈広げたりして、人生の風通しがよくなったりするんじゃない?」

 人生の風通しって何だよ、と思ったが、我が妹ながらなかなかにうまい表現だと思った。
 学生のときに上手く立ち回れる術を会得した者は、きっと窓がちゃんと開く広い部屋に住んでいて、明かりもちゃんとついているのだ。
 それに対して、俺のような人間が住んでいるのは窓も明かりもない、トイレか押し入れのような狭い部屋で、呼吸をする度に二酸化炭素ばかりが増えていき、次第に呼吸することさえうまくできなくなっていくのだ。

「だとしたらああゆうのから逃げてきた俺みたいな奴は、もう手遅れかもな。逃げずに上手くやってる千古はすごいよ」

 うちは両親に互いに不倫相手がおり、家にいないことが昔から多かった。この週末もふたりとも朝早くから出かけていた。
 だから必然的に俺と千古はふたりで過ごす時間が多かった。親に相談したくても、家にいないから相談できないでいた俺たちは互いに良き相談相手という関係が築けていた。俺が妹に相談してばかりだったような気もするが。

「お兄ちゃんの場合、いい加減、美少女フィギュアのパンツばっかり見てるんじゃなくて、お兄ちゃんに似たような人たちでいいから、友達とか彼女を作った方がいいと思う」

「最近大学で仲良くなった子が何人かいるよ。俺、部活入ったから」

「何部?」

「文芸部だけど」

「小説書いたりするやつ?」

「そうそう、俺は書かないけど」

 俺は一応こんな風に西日野亜美との約束で私小説を書いてはいるわけだが、読みたいとか言われると面倒だから書いていないことにした。

「あと、サークル棟で隣の部室の、宇宙考古学研究会の人とか」

「何そのやばそうなサークル。宗教?」

「宗教じゃないけど、キリストは宇宙人だったんじゃないかとか、そういうのを真面目に研究するサークルだな」

 古代宇宙飛行士説で、もっとも有名なのがその説だろう。あのサークルが本気でそれを信じている人たちの集まりだとは思えなかったが。

「今の地球より高度な科学技術を持ってる宇宙人がいるなら、確かに当時の人たちには魔法や奇跡に見えたかもしれないけど、でもそれってなんでもありになっちゃわない? 神話や伝説の、現実にはあり得ない話が全部ほんとのことになるし、何で今はその人たちいないの? ってなるし」

 妹の言う通りだった。

「それってみんな男の人?」

「みんな女の子」

「まじか。誰か付き合えそうな子、いないの?
 付き合ってみたら、人生観みたいなの変わるかもしんないよ。ほら、男子って童貞卒業すると変わるんでしょ」

 千古のその言葉に、俺の頭に真っ先に浮かんだのは西日野亜美だった。

「あれ、変わった気になるだけじゃないのか。脳内物質がドバドバ出て、一時的に気が大きくなるとか。酒みたいなもんだろ」

 てか、兄貴に童貞って言うなよ、処女。
 お兄ちゃん、もし千古ちゃんが処女じゃなかったり、彼氏がいたりしたら泣いちゃうけどな!

「わたしは、破魔矢梨沙がお兄ちゃんのこと一番理解してると思うんだよね。
 どこの誰だかわからないし、すっごいブスだとか、オジサン説とかあるけど、プロフィールでは確かお兄ちゃんと同い年だったよね。
 もし知り合えたりしたら、たぶんあの人はわたしよりお兄ちゃんのこと理解してくれると思う。あの人ならお兄ちゃんを安心して任せられそう」

 千古が西日野珠莉と同じようなことを言うから、俺は思わず笑ってしまった。

「あれ? わたし、なんかおかしなこと言った?」

「いや、ちょっとだけ元気が出てきた気がする。ありがとな」

 俺が仲良くなったのが破魔矢梨沙とその姉だと知ったら、きっと驚くだろうなと思った。


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