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第23話「兄妹」①
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週末、俺は破魔矢梨沙の新作小説を読んでいた。
西日野亜美に、もし可能なら読ませてほしいと頼みこみ、メールで送ってもらったのだ。
コンビニの1店舗の中だけを舞台にした密室劇の作品で、彼女はその小説を書くためだけに夏休みからずっとアルバイトまでしていた。バイトはこれからも続けていくつもりだという。
新作は、それまでの作品と同じで、やはり現代社会にうまく適応できない学生やフリーターの生きづらさを描いていた。
スクールカーストや無料通話アプリといった過去の作品で題材になったものとは違い、「人は働かなければいけない」という、多くの人達が当たり前に出来ていることができない人達について描かれていた。
夢を追いかけ続ける者や、資格を取り目標としていた仕事についたものの心の病を煩ってしまいその仕事に就くのが困難になってしまった者、給与をすべてギャンブルで使ってしまう者、夫の収入が少なくアルバイトと子育てに追われる者、見た目は外国人だが日本語しか話せない者、どんな仕事を始めても長続きしない者。
無論そんな人ばかりがコンビニで働いているわけではないが、一店舗のアルバイトたちの様々な生きづらさが、ドラマチックな展開があるわけでもなく淡々と描かれていく。だが、最後まで決して読者を飽きさせることのない作品だった。
読み終わった感想は、間違いなく現段階での破魔矢梨沙の最高傑作になるだろう、と思った。
この小説に共感できない者は、あまり好きな言葉ではないが、きっと勝ち組という部類にカテゴライズされる人間なんだろうなと思った。
そして、学生の時点で生きづらさを感じている俺は、社会に出たときにうまくやっていけるのか、と不安になった。
俺のように私立の文系大学に通う学生は就職活動がいまだに厳しいらしい。
何十社も受けて内定がもらえるのは一社だけだとか、ひとつも内定がもらえず就職浪人するだとか、新卒採用にこだわるためにわざと留年するだとか、そんな風にまるで自分の存在自体を否定され続けていく日々が2年後には始まるのかと思うと、絶望的な気分になった。
男は特に営業職が多いらしく、俺にはとても向いているとは思えなかった。
理系大学出身と文系出身では社会人一年目の年収が100万は違うと聞いたこともあった。
公務員なら将来は安定だと親は言うが、本当にそうだろうか。確かによほど悪いことをしなければ、うまく職場に溶け込むことができれば、順調に出世していければ、将来は安定だろう。だが現実は必ずしもそうではない。公務員なら安定というのは、その仕事を長く続けられることが前提としてあるのだ。
俺はノートパソコンを閉じると、部屋を出て、階段を降りていった。
リビングでは妹の千古(ちふる)がテレビを観ていた。
「どうしたの? なんか元気ないじゃん」
千古は俺の顔を見るとそう言った。
2つ年下で今は高校2年だ。
卒業後は大学には行かず、専門学校に行くつもりらしい。
女の子は勘が鋭いらしいから、もしかしたら何となく気付いているかもしれないが、うちの両親が俺と千古が社会に出たら離婚をするということを、一応両親も俺も妹にはまだ話さないでいる。
「急に将来が不安になってね」
妹は、ふーん、と全く興味なさそうで、
「相変わらず、つまんないことで悩んでるんだね」
本ばっかり読んでるからだよ、と言って笑った。たまには体を動かしたりしないと、と古いゲーム機のテレビのリモコンのような形をしたコントローラを投げてきた。
「久しぶりにテニスでもしようよ。ゲームだけど、くたくたになるくらい全力でラケット振ったり部屋の中動き回ったりしたら、気晴らしくらいにはなるんじゃない?」
そうかもしれないな、と思った。だからふたりでテレビの前に立ち、コンピュータ相手にダブルスの試合をした。
西日野亜美に、もし可能なら読ませてほしいと頼みこみ、メールで送ってもらったのだ。
コンビニの1店舗の中だけを舞台にした密室劇の作品で、彼女はその小説を書くためだけに夏休みからずっとアルバイトまでしていた。バイトはこれからも続けていくつもりだという。
新作は、それまでの作品と同じで、やはり現代社会にうまく適応できない学生やフリーターの生きづらさを描いていた。
スクールカーストや無料通話アプリといった過去の作品で題材になったものとは違い、「人は働かなければいけない」という、多くの人達が当たり前に出来ていることができない人達について描かれていた。
夢を追いかけ続ける者や、資格を取り目標としていた仕事についたものの心の病を煩ってしまいその仕事に就くのが困難になってしまった者、給与をすべてギャンブルで使ってしまう者、夫の収入が少なくアルバイトと子育てに追われる者、見た目は外国人だが日本語しか話せない者、どんな仕事を始めても長続きしない者。
無論そんな人ばかりがコンビニで働いているわけではないが、一店舗のアルバイトたちの様々な生きづらさが、ドラマチックな展開があるわけでもなく淡々と描かれていく。だが、最後まで決して読者を飽きさせることのない作品だった。
読み終わった感想は、間違いなく現段階での破魔矢梨沙の最高傑作になるだろう、と思った。
この小説に共感できない者は、あまり好きな言葉ではないが、きっと勝ち組という部類にカテゴライズされる人間なんだろうなと思った。
そして、学生の時点で生きづらさを感じている俺は、社会に出たときにうまくやっていけるのか、と不安になった。
俺のように私立の文系大学に通う学生は就職活動がいまだに厳しいらしい。
何十社も受けて内定がもらえるのは一社だけだとか、ひとつも内定がもらえず就職浪人するだとか、新卒採用にこだわるためにわざと留年するだとか、そんな風にまるで自分の存在自体を否定され続けていく日々が2年後には始まるのかと思うと、絶望的な気分になった。
男は特に営業職が多いらしく、俺にはとても向いているとは思えなかった。
理系大学出身と文系出身では社会人一年目の年収が100万は違うと聞いたこともあった。
公務員なら将来は安定だと親は言うが、本当にそうだろうか。確かによほど悪いことをしなければ、うまく職場に溶け込むことができれば、順調に出世していければ、将来は安定だろう。だが現実は必ずしもそうではない。公務員なら安定というのは、その仕事を長く続けられることが前提としてあるのだ。
俺はノートパソコンを閉じると、部屋を出て、階段を降りていった。
リビングでは妹の千古(ちふる)がテレビを観ていた。
「どうしたの? なんか元気ないじゃん」
千古は俺の顔を見るとそう言った。
2つ年下で今は高校2年だ。
卒業後は大学には行かず、専門学校に行くつもりらしい。
女の子は勘が鋭いらしいから、もしかしたら何となく気付いているかもしれないが、うちの両親が俺と千古が社会に出たら離婚をするということを、一応両親も俺も妹にはまだ話さないでいる。
「急に将来が不安になってね」
妹は、ふーん、と全く興味なさそうで、
「相変わらず、つまんないことで悩んでるんだね」
本ばっかり読んでるからだよ、と言って笑った。たまには体を動かしたりしないと、と古いゲーム機のテレビのリモコンのような形をしたコントローラを投げてきた。
「久しぶりにテニスでもしようよ。ゲームだけど、くたくたになるくらい全力でラケット振ったり部屋の中動き回ったりしたら、気晴らしくらいにはなるんじゃない?」
そうかもしれないな、と思った。だからふたりでテレビの前に立ち、コンピュータ相手にダブルスの試合をした。
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