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第17話「とりにくチキン、始動」⑦

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「それって、つまり、美少女女子高生が書いた小説だから売れたとか、そういうんじゃなくて、あくまで作品の内容で勝負したかったってことか?」

「そう。馬鹿なの、この子。顔出ししたら、売り上げが倍以上になるかもしれないのにね。ちょっとエロいシーンとかもあるからさ、それを書いてる自分を想像されたりするのが嫌なんだって。自意識過剰すぎ」

「じゃあ、余計にバレたら困るんじゃないのか?」

「大丈夫よ。バレたらメディアに顔を出すのは珠莉にやってもらうから」

「え? まじで!? じゃあ、亜美の代わりにテレビに出たりしていいの? 映画の舞台あいさつとか。共演したイケメン俳優の連絡先聞いたりしてもいいの?」

「別にいいわよ。遊ばれて捨てられるのは珠莉だし」

「なんで捨てられる前提!?」

 喜ぶ珠莉を見ながら俺は思っていた。
 たぶんこいつ、たとえテレビの仕事が舞い込んできたとしても、バラエティ番組を一周したらすぐに消えるんだろうなとか、すぐウェンズデーとか文秋砲の餌食になるんだろうなぁとか。

「ヨーチューブで公式チャンネル開設したりとか?
 hamayaっていう、洋服とかアクセサリーのブランドを立ち上げたりするのもいいよねー」

 え、なにそれ、加藤煎茶の嫁みたいなこと?
 そのブランドもたぶんすぐに潰れるんだろうな……。

 亜美の代わりに珠莉がメディアに顔を出すのは、破魔矢梨沙の活動の妨げにしかならないような気しかしなかった。
 だが、それも正体がバレたらの話だ。
 それに半年から一年は先のことになるだろうから今は夢を見させてやろうと思った。


 亜美が小説を書き終え、担当編集者に二作品をメールで送り終わる頃、俺と珠莉は、ネット小説家としての破魔矢梨沙=とりにくチキンの処女作の参考資料となる大量のふたりのコスプレ写真の余白を切り終わり、ポストカードファイルにも綴じ終わっていた。

「これさ、たとえばコミケでコスROM売ったりとか、ネットのファンティマとかで有料会員限定でもっときわどいのとか公開したら……」

 どうやら珠莉の頭には金儲けのことしか頭にないようだった。あと、姉妹そろって自分たちがどんだけかわいいって思ってんだ。

「やめてやれ。またビンタされるぞ」

 確かにかわいいし、有料会員登録するけど、と思いながらも俺は一応そう言った。

 ビンタの代わりに珠莉は部室から追い出され、俺と亜美はネット小説のキャラクター設定や世界観の設定、プロットを固めていくことになった。
 とは言っても、俺は彼女がすでに用意してきていたものをただただ相槌をうちながら聞いていただけだった。


・物語の舞台となる異世界は、魔法が存在すること以外は地球に限りなくよく似た世界である。
 魔法についての設定は先に記した通りである。

・その世界で使われている暦は、この世界でもかつて存在した東ローマ帝国という国で公式に使用されていた世界創造紀元(せかいそうぞうきげん)というものである。
 その元年は、西暦に直すと紀元前5509年~5508年にあたり、旧約聖書の『創世記』にある天地創造についての年を逆算して設定されたものである。
 主人公の高校生は、西暦2021年のこの世界から、世界創造紀元7529年の異世界へと転移することになる。

・その世界には神話はひとつしかなく、旧約聖書をアレンジしたものになっている。
 神の名はハオジ・マワリー。
 神が作ったはじまりの男はアダムだが、その妻はイブではなくリリスである。アダムより先にリリスが作られ、イブは登場しない。
 蛇にたぶらかされ、ふたりが智恵の実を食べ楽園を追放されることはなく、ふたりは自らの意思で楽園を後にする。
 ふたりの子であるカインとアベルは、優れた才能を持った弟に嫉妬した兄が弟を殺すのではなく、弟が選民意識から無能な兄を殺している。
 大洪水やノアの方舟のエピソードはなく、バベルの塔は建造されるが神の怒りを買うことはなく、言語が分かたれることもなかったため、世界中で同じ言語が使用されている。

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