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第14話「とりにくチキン、始動」④

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「あれ? 誰そのイケメン。まさか亜美の彼氏?」

 目の前に西日野はいるのに、ドアの前にも彼女がいた。
 俺は交互にふたりを見比べた。
 顔だけでなく声や背、体型までよく似ていた。
 違うのは髪型と服装くらいだった。

「ドッペルゲンガーじゃないわよ。わたしの双子の姉」

「はぁ? 双子のお姉さん!?」

「お隣の宇宙考古学研究会の会員で、うちの部には名前だけ貸してくれてる人たちのひとり」

 俺は逆に、西日野に瓜二つの女の子が、その怪しげなサークルの会員にいることがドッペルゲンガー説を濃厚にしているような気がした。

 宇宙考古学は、確か古代宇宙飛行士説とも呼ばれているものだ。
 古代に外宇宙から高度な科学文明を持った宇宙人が飛来し、ピラミッドやナスカの地上絵といった当時の地球人の技術では到底作ることが不可能なものを作ったという説だったように思う。
 しばしばアニメでも扱われ、マロクスのプロトカルチャー、エヴァンゲオリンの第一始祖民族などがこれにあたり、猿を人に進化させたり知恵を与えたりした存在として描かれたりもしている。

 しかし、宇宙と考古学、どちらも夢やロマンにあふれた言葉のはずだが、合体させることによりこんなにも胡散臭さが出るのは不思議な話だった。

「どうもー、お母さんのお腹の中にいるときに、妹にありとあらゆる才能を持っていかれた悲しき姉、珠莉(じゅり)でーす」

 おまけにひどい自己紹介があったものだ。
 だが、自虐というよりは妹のことを誇りに思っている、そんな印象を受けた。

「ちょっと、そういう自己紹介はやめてっていつも言ってるでしょ」

 どうやら彼女は西日野のドッペルゲンガーなどではなく、本当に双子の姉らしい。

「だってこの人、亜美が破魔矢梨沙だってこと、もう知ってるんでしょ?」

「よくわかったわね」

「そりゃわかるよ。亜美を見てれば。だってわたし、亜美のお姉ちゃんだもん」

 さすがは双子といったところだろうか。シンクロニシティのようなものなのかもしれなかった。

「いつも妹がお世話になってるみたいで」

「いつもじゃないわ。彼とは今朝知り合ったばかりだもの。それにむしろわたしがこれからお世話をする方」

「これからお世話をするって何の? もしかして、これ?」

 西日野姉は卑猥なジェスチャーをし、西日野妹はそんな姉に思いっきりビンタをかましていた。
 芸人のビンタは音はよくなるがあまり痛くはないと聞くが、西日野妹のそれは鈍い音がし、思いっきり痛そうだった。

「そんなことよりも、さっきひとつ聞き捨てならない台詞があったのだけれど。
『誰そのイケメン』って、もしかしてこちらの、美少女フィギュアのパンツを見ることだけが生き甲斐の犯罪者予備軍の彼のことかしら」

「ひどい紹介の仕方があったもんだな!」

「違うの?」

「違わないです……日永章と言います……」

「まじか。こんな須田将利(すだ まさとし)似のイケメンが……美少女フィギュアのパンツを見てニヘラニヘラしてるのか……」

 俺は自分がイケメンだとは思ってはいなかったが、特撮変身ヒーロー出身の人気俳優であり、紅白出場歌手であり、ファッションリーダー的存在でもある須田将利に似ていると何度か言われたことがあった。
 最初に言われたのは中学に入ったばかりの頃だろうか。

「前から思ってたんだけど、お兄ちゃんって須田将利くんに似てるよね。背は低いけど」

 朝、不意に妹から言われ、

「日永くんって須田将利くんに似てるよね。背は低いけど」

 学校に行くと特撮好きの女子からも同じことを言われた。
 そのことを妹に伝えると、次の週末には美容院やショッピングモールに無理矢理連れていかれ、髪型や服装を須田将利に寄せていかされた。
 それは今でも続いていた。

「学内大手の『サークル名からじゃ活動内容がさっぱりわからないような出会い系サークル』に入れば、お股がゆるゆるなクソビッチバカ女子大生ども相手に無双できそうなのに、なんともったいないことを……」

 ずいぶん口が悪い姉であった。

 俺はなかむつまじい双子の姉妹のやり取りを見て、

「ピノアには双子の姉がいることにしよう」

 西日野妹にそう言っていた。西日野姉はぽかんとしていたが、

「つまり、ダブルヒロインにするのね。ピノアの姉が正統派のメインヒロイン。あなたの理想のピノアちゃんは準ヒロインってことね」

 西日野妹はちゃんと理解してくれていた。


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