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第5話「動機が不純で何が悪い。文明が発展したのは戦争とエロのおかげだ」⑤
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「さらば文学賞の同時期に『空白の四世紀』で別の新人賞を取って、それがそのまま直列賞にノミネートされてたな。もちろん、ノミネートされる前に読ませてもらった。
同い年にとんでもない奴がいるなって思ってたら、その二作品で塵芥と直列を最年少ダブル授賞だ。
まじすげーと思ったよ。俺にはそんな才能もないし、たとえあったとしてもそれに見合っただけの努力をする気力もないだろうからな」
本音だった。
売れる前から知っていたとか、知ったかぶりをしているわけじゃなかった。
その二作品以外にもすでに10作以上ある彼女の作品は全部読んでいた。何度も読み返していた。
映画化やドラマ化された作品も、レンタルだがちゃんと観ていた。
俺は彼女だけじゃなく、同い年でプロの世界で活躍している俳優や女優、芸人、タレント、スポーツ選手、それに将棋や囲碁の棋士たちの活躍を常に注目していた。いつも自分と比べていた。
尊敬と嫉妬が入り交じる複雑な感情の中で、破魔矢梨沙という作家だけは、何故か嫉妬の対象にはならなかった。
素直にただただすごいと思えた。
彼女はそんな特別な存在として2年前から俺の中にいた。
「あんたならきっとすげーラノベが書ける。すぐにアニメ化されるし、漫画にもなる。ゲームにもなるし、実写映画にもなる。ハリウッドで映画化もいけるかもしれない。その作品に俺が理想とするヒロインを出してほしいんだけなんだ」
西日野は黙って俺の話を聞いていた。
俺には、いろいろなアニメやゲームに推しのキャラクターは何人もいた。
だが俺はそんな彼女たちに、いつも何か物足りなさを感じていた。
彼女たちを産み出したのは俺ではないから、俺の理想と完全には一致しないからだ。
だから新しい作品に触れるたび、新しい推しに出会い、それまでの推しが過去のものになっていくのだ。
もはやそれは恋愛のようなものだった。
育った環境が違うから、趣味嗜好や価値観、金銭的感覚が違い、恋愛は一度は最高潮を迎えてもあとは右肩下がりになるばかりで破綻に向かうのだ。
彼女いたことないからよくわからないけど。
新しい彼女がいるのに、元カノをいつまでも忘れられないだとか、いつまでも自分の女だと思っているのはおかしいだろ?
だから、冷めたら終わる推しっていうのは、それがたとえ二次元の存在で、どこまでも一方通行のものであったとしても現実の恋愛とさして変わらないものなのだ。ほとんど同じものなのだ。
現実の恋人は、結婚をすれば、子どもがいてもいなくても家族にはなる。
だが、教会で神の前で永遠の愛を誓い合ったあったふたりの間や、その子どもに対して家族としての愛はあっても、夫婦の間に最初はあった恋はいずれ恋ではなくなる。
だから男も女も不倫をする。人間はいくつになっても恋がしたい生き物だからだ。
これは俺の両親の話だ。だから他の家にはもしかしたら、ずっと恋が続いている夫婦もいるのかもしれないが、おそらくは少ないように思う。
俺の両親は、俺や妹が社会に出れば離婚をし、それぞれ別の相手と再婚する予定だ。
結婚による家族関係は紙切れ一枚を役所に提出するだけで簡単に解除できてしまう。
財産分与やら親権やらややこしい手続きがあるにはあるが、家族でなくなることができる。赤の他人に戻れるのだ。
俺はいずれ破綻するとわかっているような恋はしない。結婚もしない。
一生を共にする相手は、どこかにいる誰かでも、誰かが作った推しでもない。自分だ。俺は一生俺でいなければいけないからだ。
だから、俺から産み出されるヒロインこそが、アダムの肋骨から生まれたイブのように、俺の人生の伴侶になるのだ。
ああ、そうか、と俺は思った。
俺は、破魔矢梨沙という神にも等しい存在の力を借り、新しい神話のはじまりの男になりたいのかもしれない。
「金なんかいらない。俺が欲しいのは、あんたが書いてくれた、俺の理想のヒロインが出てくる小説と、アニメ化されたときに絶対作られるヒロインのフィギュアだ。俺はただ、そのフィギュアのパンツが見たいんだ」
夢を語り終えた俺は、我ながらなんて素晴らしい夢だと改めて思った。
俺には声優を目指している好きな女の子がいるわけでもないし、漫画家になりたいわけでもないし、小説家になりたいわけでもない。
俺が理想とするヒロインが登場する小説を書くのは俺じゃなくていい。
だからアニメ化がゴールじゃない。
ヒロインのフィギュア化がゴールなのだ。
3~400円のガチャガチャやゲームセンターの原価800円の景品から始まり、数万円はするような精巧なフィギュアが作られ、最終的には等身大フィギュア。いや、ラブドールだ。
俺はそのすべてのパンツが見たいのだ。
なんの取り柄もない俺は、社会の歯車のひとつとして生きていく人生を受け入れるしかない。その夢さえかなえば、俺の人生はそれでよかった。
同い年にとんでもない奴がいるなって思ってたら、その二作品で塵芥と直列を最年少ダブル授賞だ。
まじすげーと思ったよ。俺にはそんな才能もないし、たとえあったとしてもそれに見合っただけの努力をする気力もないだろうからな」
本音だった。
売れる前から知っていたとか、知ったかぶりをしているわけじゃなかった。
その二作品以外にもすでに10作以上ある彼女の作品は全部読んでいた。何度も読み返していた。
映画化やドラマ化された作品も、レンタルだがちゃんと観ていた。
俺は彼女だけじゃなく、同い年でプロの世界で活躍している俳優や女優、芸人、タレント、スポーツ選手、それに将棋や囲碁の棋士たちの活躍を常に注目していた。いつも自分と比べていた。
尊敬と嫉妬が入り交じる複雑な感情の中で、破魔矢梨沙という作家だけは、何故か嫉妬の対象にはならなかった。
素直にただただすごいと思えた。
彼女はそんな特別な存在として2年前から俺の中にいた。
「あんたならきっとすげーラノベが書ける。すぐにアニメ化されるし、漫画にもなる。ゲームにもなるし、実写映画にもなる。ハリウッドで映画化もいけるかもしれない。その作品に俺が理想とするヒロインを出してほしいんだけなんだ」
西日野は黙って俺の話を聞いていた。
俺には、いろいろなアニメやゲームに推しのキャラクターは何人もいた。
だが俺はそんな彼女たちに、いつも何か物足りなさを感じていた。
彼女たちを産み出したのは俺ではないから、俺の理想と完全には一致しないからだ。
だから新しい作品に触れるたび、新しい推しに出会い、それまでの推しが過去のものになっていくのだ。
もはやそれは恋愛のようなものだった。
育った環境が違うから、趣味嗜好や価値観、金銭的感覚が違い、恋愛は一度は最高潮を迎えてもあとは右肩下がりになるばかりで破綻に向かうのだ。
彼女いたことないからよくわからないけど。
新しい彼女がいるのに、元カノをいつまでも忘れられないだとか、いつまでも自分の女だと思っているのはおかしいだろ?
だから、冷めたら終わる推しっていうのは、それがたとえ二次元の存在で、どこまでも一方通行のものであったとしても現実の恋愛とさして変わらないものなのだ。ほとんど同じものなのだ。
現実の恋人は、結婚をすれば、子どもがいてもいなくても家族にはなる。
だが、教会で神の前で永遠の愛を誓い合ったあったふたりの間や、その子どもに対して家族としての愛はあっても、夫婦の間に最初はあった恋はいずれ恋ではなくなる。
だから男も女も不倫をする。人間はいくつになっても恋がしたい生き物だからだ。
これは俺の両親の話だ。だから他の家にはもしかしたら、ずっと恋が続いている夫婦もいるのかもしれないが、おそらくは少ないように思う。
俺の両親は、俺や妹が社会に出れば離婚をし、それぞれ別の相手と再婚する予定だ。
結婚による家族関係は紙切れ一枚を役所に提出するだけで簡単に解除できてしまう。
財産分与やら親権やらややこしい手続きがあるにはあるが、家族でなくなることができる。赤の他人に戻れるのだ。
俺はいずれ破綻するとわかっているような恋はしない。結婚もしない。
一生を共にする相手は、どこかにいる誰かでも、誰かが作った推しでもない。自分だ。俺は一生俺でいなければいけないからだ。
だから、俺から産み出されるヒロインこそが、アダムの肋骨から生まれたイブのように、俺の人生の伴侶になるのだ。
ああ、そうか、と俺は思った。
俺は、破魔矢梨沙という神にも等しい存在の力を借り、新しい神話のはじまりの男になりたいのかもしれない。
「金なんかいらない。俺が欲しいのは、あんたが書いてくれた、俺の理想のヒロインが出てくる小説と、アニメ化されたときに絶対作られるヒロインのフィギュアだ。俺はただ、そのフィギュアのパンツが見たいんだ」
夢を語り終えた俺は、我ながらなんて素晴らしい夢だと改めて思った。
俺には声優を目指している好きな女の子がいるわけでもないし、漫画家になりたいわけでもないし、小説家になりたいわけでもない。
俺が理想とするヒロインが登場する小説を書くのは俺じゃなくていい。
だからアニメ化がゴールじゃない。
ヒロインのフィギュア化がゴールなのだ。
3~400円のガチャガチャやゲームセンターの原価800円の景品から始まり、数万円はするような精巧なフィギュアが作られ、最終的には等身大フィギュア。いや、ラブドールだ。
俺はそのすべてのパンツが見たいのだ。
なんの取り柄もない俺は、社会の歯車のひとつとして生きていく人生を受け入れるしかない。その夢さえかなえば、俺の人生はそれでよかった。
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