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【第三部 異世界転移奇譚 RENJI 3 - PINOA - 】「やったね!魔法少女ピノアちゃん大活躍!!編」

第187話 白き匣

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 大厄災を起こす者は、「我々」を名乗る組織の手駒にしか過ぎなかった。

 そして「我々」という組織もまた、「匣」の手駒にしか過ぎなかった。

 雨野ミカナは、「我々」が有していた「72個の匣」とは別の匣、「白き匣」の手駒にしか過ぎなかった。


 雨野ミカナが兄のタカミを超える力を持っていたことは、ジパングのふたりの女王が、転移してきたふたりを出迎えたときからわかっていた。

 白き匣もまた、女王に仕える陰陽師である比良坂ヨモツ・コヨミとしてその場にいたからだ。


 ジパングのふたりの女王に、リバーステラに存在する雨野タカミとミカナという兄妹をこの世界に転移させるよう指示したのは、精霊たちの姿を借りた白き匣だった。

 白き匣は、ふたりの女王に、初代女王や二代目の女王と同じ、「太陽の巫女」としての本来の力である「世界の理を変える力」を与えたつもりだった。
 だが、彼女たちはただのシャーマンに過ぎず、その力を持っていはいなかった。

 その力は、何故かリバーステラに存在する雨野兄妹が持っていた。

 ふたりの女王は異世界から雨野兄妹を転移させる力さえ持ってはいなかったから、儀式だけを行わせ、実際には白き匣が転移させた。

 山汐メイという者までついてきてしまったのは計算外であったが、彼女は何の力も持ってはいなかったから、いざというときにミカナを守るための盾にするつもりでいた。
 だが、計算外の存在も時には役に立つ物だ。

 テラを作ったのは「我々」であり、彼らはその際にリバーステラを元にした。
 そのため、ふたつの世界には同じ名前、同じ顔をした者が多数存在した。
「我々」は異世界からこの世界に召喚できる者に明確なルールを定めていた。

 それは、どちらの世界にも存在する者は互いの世界を行き来できない、というものだった。

 ミカナは、恋愛感情を抱いていた実の兄を、リバーステラに存在する返璧真依に取られてしまったばかりであった。
 そして、この世界に存在する返璧マヨリもまた、タカミに恋をした。

 同じ名前、同じ顔をした女に二度も兄を取られるかもしれないと考えたミカナは、タカミとマヨリと距離を置くようになった。
 もうひとりの女王であるリサや、共に転移してきたメイが彼女の心の拠り所になってくれた。

 計算外の存在だけでなく、使い物にならないふたりの女王までが、ミカナとタカミの距離を広げ、溝を深める役割をしてくれたのだ。


 白き匣は、タカミの前に精霊たちの姿で現れ、「我々」が存在しない4番目のリバーステラを作らせる役割を与えた。
「我々」のことはすでに見限っていたからだった。


「テラはこのままではいずれ滅びる運命にある」

「本来ならばふたりの女王が持つ力を、なぜか異世界に存在する君たち兄妹が持っていた」

「君たちには女王の代わりにこの世界を滅びの運命から救ってほしい」

「だがひとつだけ問題がある。この世界が滅亡した後の世界が、君たちの世界なんだ」

「だから、タカミ、君にはふたつの世界を切り離してほしい」

「ミカナにもその力はあるが、おそらく彼女には力のコントロールはできない」

「精霊であるぼくたちにもできないことを、ただの人がするんだ。成功したとしても失敗したとしても命に関わる」

「君にそんな仕事をまかせてしまわなければならない、無力なぼくたちをゆるしてほしい」

「だが、君にしかできないんだ」


 10年も自室に引きこもり、妹にしか心を開かなかったタカミは、実際にはただの共依存でしかなかったものの、実の兄妹でありながら互いに恋愛感情を抱いていた。
 しかし彼は、妹ではなく、別の女を好きになり恋人関係になってしまった。

 タカミ自身が抱いていた罪悪感と、妹を家族として純粋に愛する気持ちの両方を言葉巧みに利用することにした。

 同じ時間軸に存在する過去の世界と未来の世界を切り離させるのではなく、リバーステラ自体を新たに作り直すのでもなく、「我々」という存在だけを排除した、それ以外は全く同じ世界を作らせていることを、タカミに気づかれないようにするためには多少苦労したが、彼に大きな役割を与えることによって、ミカナと接する時間が減り、ふたりの距離や溝はさらに深まってくれた。


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