「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第三部 異世界転移奇譚 RENJI 3 - PINOA - 】「やったね!魔法少女ピノアちゃん大活躍!!編」

第182話 リバーステラ、AD2021 ②

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 旧・海女郡 返璧隣村(あまぐん たまがえしのとなりむら)は、00年代に国や各都道府県が進めていた市町村合併を頑なに拒み続けていた。

 同県同郡には、同様に市町村合併を頑なに拒み続ける飛鳥村(とぶとりむら)があり、2021年になってもいまだ村であり続けているが、飛鳥村はスペースシャトルの部品などを製造する工場があり、日本一裕福な村であった。
 村立の中学校の修学旅行の行き先がハワイだと言えば、その裕福さがわかるだろう。

 しかし、返璧隣村が市町村合併を頑なに拒んでいたのは、飛鳥村とは違う理由からだった。

 返璧隣村は、2009年の夏まで、昔ながらの村社会の様相を残す村落であり、「双璧の家(そうへきのいえ)」と呼ばれる、御三家ならぬふたつの家の代々の当主が村を治めていたからだ。

 村人たちは、邪馬台国の女王やその民の血を引く者たちであり、その血を絶やさぬこと、そして大和朝廷の王やその民の血が混じることがないよう、1700年もの間、日本の中にありながらも鎖国のような状態であった。

 双璧は末子相続であり、真依と幼馴染みの璧隣寝入(かべどなり ねいる)は、共に末子であったため、次期当主として育てられていた。

 だが、2008年の冬、璧隣家は一家殺人事件の被害者となってしまった。
 真依が唯一心を許していた寝入も殺害された。

 そして村は、村ぐるみで警察をも巻き込み、一家殺害事件を一家心中事件として処理させた。

 2009年の初夏、村と県警が一家心中として隠蔽した事件の真相を暴くために、警視庁の公安部から捜査協力の依頼を受けたタカミが、ミカナやメイと共にやってきた。

 タカミは過去に何十件もテロをはじめとする難事件を解決してきたハッカーだった。

 タカミは真依と共に、その事件の真相を暴くだけでなく、それと同時に、村や真依の家が大きく関わっていた太平洋戦争時の南京大虐殺の真相をも暴いた。

 さらには、日本神話における神の国「高天原」の最高神である天照が、邪馬台国の女王であった卑弥呼と壱与のことであったということもまた。
 有名な天岩戸のエピソードは、皆既日食のことであり、そのエピソードの前と後の天照は別人であり、ふたりの天照こそが邪馬台国の初代女王である卑弥呼と二代目の女王である壱与であった。
 神話と地続きにある初代天皇から2600年の歴史を持つこの国の皇族の歴史は、実際には邪馬台国の滅亡後の古墳時代から始まっており、初代から十数代の天皇は架空の人物に過ぎないことは有名な話ではあったが、日本神話のベースには邪馬台国の歴史も含まれていたことが明らかになった。

 邪馬台国はもう存在せず、二度と復興することはない。
 村も村人たちも、日本人として生きていくべきだと、皆が悟った。
 真依は、村や返璧家の次期当主というしがらみから解放された。

 当主だった母は、市町村合併の話を進めていき、返璧隣村は隣接する八十三市(やとみし)に合併した。
 翌年には長男である兄が家を継いだ。

 異世界に行き、11年の歳月を過ごして帰ってきたタカミは、一家殺人事件で殺害された真依の幼馴染みである寝入を連れて帰ってきた。

 異世界では邪馬台国は滅びることなく現在も存在し、その世界に産まれた真依ならぬマヨリは、ふたりいる女王のうちのひとりであったらしい。
 そのそばには寝入ならぬネイルが存在したという。

 タカミは異世界にいたネイルの髪の毛から、複製体を産み出し、その身体に寝入の魂を定着させたということだった。

 にわかには信じられない話ではあったが、タカミが連れてきた寝入は間違いなく、真依の知る寝入であった。
 だから、彼女は寝入が帰ってきてくれたことを素直に喜び、それ以上深くは詮索をしなかった。

 寝入は今は八十三市役所に勤めており、市内に新居を建てたタカミと真依を仕事帰りにたまに訪ねてきてくれる。


 タカミが呼んだタクシーの中で、真依はそんなことを思い出していた。

 タクシーが交番に着くと、銀髪でツインテールの、赤い瞳の女の子が、交番の中からタカミとミカナに手を振っていた。

 そして、

「わっ、まじでこっちの世界にもマヨリがいるじゃん!?
 じゃあ、もしかしてリサもいるわけ!!?」

 真依の頭のてっぺんから、足の爪先までを舐め回すように見て、それからいきなり胸を揉んできた。

 真依は驚きこそしたものの、

「おっぱいは、こっちのマヨリの方がおっきい」

 そう言った彼女を見て、

 この子、ミカナや梨沙に似てるな、

 そう思った。
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