「キヅイセ」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第175話 魔法少女ピノア・カーバンクル

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 ピノアは、ずっと悩んでいたことがあった。

 この4000年、日に日に大きくなるその気持ちを、ついにレンジに打ち明けることにした。

 それは、

「賢者とか大賢者はカッコいいけど、魔法使いってなんかダサくない?」

 というものだった。

「だからといって魔女はなんだか悪者っぽい。
 でも魔法使いはダサい。ダサすぎ。
 ほら、わたしってさ、アルビノの魔人っていう、1000年に一度しか産まれない存在の中でも、産まれるときにお母さんを殺しちゃったり、産まれてすぐにお父さんが力を二つに分けてくれなかったら、力を抑えきれずに死んじゃってたような、最も強い力を持って産まれてきたステラから切り離された力が、自我を持って身体まで作っちゃったような……
 あれ? これだけ聞いたら、なんかわたし化け物っぽいな……
 でもでも、とにかくすごい存在なわけじゃん!?」

 レンジは、あ、うん、そうだね、としか返す言葉がなかった。

「だからね、魔法使い以外の肩書きっていうか、職業名? そういうのをレンジに考えてほしいの!!」

「ピノアって、巫女じゃなかった?」

「前の世界ではね。でも、ジパングの女王のマヨリとリサが太陽の巫女って呼ばれてるから、巫女だけだと格下に聞こえない?」


「じゃあ、魔法少女」


「それだー!!!」

 ピノアは、

「魔法少女ピノア……
 魔法少女ピノア・カーバンクル……」

 レンジがつけたというより、何かそんなアニメあったよなぁという感じで拝借しただけの肩書きと自分の名前を合わせて口にすると、ニヤニヤした。

「ありがとう! わたしやっぱりレンジのこと大好き!! 大大大だーいすき!!!」

 レンジに抱きついてきた。


 レンジとピノアがアメノトリフネに合流したときには、すでにショウゴとイルル、サトシ、そしてサタナハマアカが到着していた。

 ジパングのふたりの女王の前には、様々な形をした匣が置かれていた。
 レンジとピノアも回収した匣をそこに置いた。

「最後のひとつはまだ届いていないの?」

 ピノアの問いに、

「間もなくステラとアリスが戻ります。
 救厄の魔法『エーテリオン』が完成したそうです」

「ステラが匣の最後のひとつを持ってるんだ」

 匣のひとつが、アカシックレコードにまでたどり着いていたということだろうか。だが、なぜひとつだけなのだろう?

 救厄の魔法が完成し、この世界から排除すべき匣が揃うというのに、ふたりの女王は浮かない顔をしていた。
 その表情は、ステラが持つ匣のせいだろうか。
 それとも、ソラシドが危惧していたことが現実になろうとしているということだろうか。


「なるほど……
 匣のうちのひとつは、形を持たず胎児を宿主とし、母親の子宮に根を張り、母親そのものを匣女とする……
 サトシ様のイミテーションが一度匣をすべて破壊された際、かつて匣女であった者はすでに他の形状になっていたのでしょう。
 ですが、命ある匣であることに変わりはなく、その匣の命が失われてしまったことによって、ステラ女王様とレンジ様のお子さまが、新たな宿主に選ばれてしまった……」

 サタナハマアカが、淡々とふたりの女王の浮かない顔の理由を説明した。

「ぼくとステラの子が、匣に……?」

 レンジは一気に血の気が引いた。
 だが、彼の手をピノアが握った。

「だいじょうぶ。ステラと、ふたりの赤ちゃんはわたしが絶対に助けるから」

 そう言ってくれた。

「レンジは、それよりもソラシドから頼まれたことだけを考えて」

 ピノアの言葉は、ソラシドが危惧していたことが現実になっていることの証明でもあった。


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