172 / 266
【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」
第172話 匣(はこ)
しおりを挟む
「我々」は壊滅した。
これですべてが終わった。
だが、その犠牲はあまりにも大きかった。
アメノトリフネに帰還したのは、レンジとピノアとイルルの三人だけだったからだ。
ニーズヘッグもアルマも、ケツァルコアトルもヨルムンガンドも、その存在が消えてしまった。
ジパングのふたりの女王は彼らの帰還を喜びたかったが、消滅した者たちのことを思うと素直には喜べなかった。
だが、まだ希望があった。
「ステラとアリスは?」
レンジの問いに、
「ふたりは今、アカシックレコードにいます」
だから、希望が残されていることを、レンジたちに伝えることにした。
「アカシックレコード? どうしてそんなところに?」
「あそこには原初のテラから今のテラまでの森羅万象がデータベースとして保存されてるから。
十回分の大厄災の記録がね。
それに、この世界を生み出したリバーステラのことも何もかもね」
「ピノアは大厄災の魔法を超える新たな魔法を生み出しました。
それがなければ、『我々』に勝つことはできなかった。
ですが、大厄災やそれを超える魔法は、精霊の持つ陰の力です」
「ステラは、精霊が持ってる陽の力を掛け合わせた『救厄の魔法』を生み出そうとしてるんだ。
存在を歴史から消された者たちを、元に戻すための魔法だよ」
アリスは、その「救厄の魔法」を生み出す手伝いをしているということだった。
「ステラには、わたしたちやタカミやミカナが持っている力のひとつ、アカシックレコードを閲覧する権限を譲与しました」
「アリスは、最初から持ってたみたい。
それだけじゃなく、わたしたちには行くことができないアカシックレコードにも行けた」
救厄の魔法を生み出すためには、数百年かあるいは数千年の時間がかかる可能性があるという。
だからふたりは、時間という概念から切り離された場所に移る必要があるということだった。
「ですが、心配はありません。
ふたりならば必ず成し遂げてくれるでしょう。
そして、必ずこの時代に帰ってきます」
「じゃあ、わたしは死んじゃった人たちをなんとかしようかな」
ピノアはそう言うと、「我々」と共に要塞が消滅したことによって、大東洋に落下していたレンジの父・富嶽サトシと、大和ショウゴのイミテーションの肉片や死体をアメノトリフネへと移動させた。
「お父さんはどこまで先を読んでたのかな。
レンジのお父さんの肉片をひとつだけ残しておいてくれるなんて」
ピノアは、一度忘れてしまったはずのブライのことを思い出していた。覚えていた。
今はもう火や雷をその身にまとわせてはいなかったが、彼女がすべての精霊と一体化したからだろうか。
ふたりを甦らせると、その肉体の時を巻き戻すことによって、イミテーションからオリジナルにまで戻した。
それだけではなく、富嶽サトシの身体は全身がカオス細胞になる前の、ダークマターに一度も蝕まれていない状態へと戻っていた。
「レンジ……すまなかったな、本当に……」
「俺も……まさか俺がレンジを殺すことになるなんて……」
ふたりは、イミテーションの記憶を持っていた。
「ショウゴ、あれは君がやったことじゃない。
それにぼくは生き返ることができた。
だからもう、気にしなくていい。
父さんももう気にしないで。
ふたりとも今度こそリバーステラに帰ってくれよ」
「まだだよ、レンジ」
ピノアが言った。
「そうでしょ? レンジパパ」
彼女と父は、レンジが知らない何かをまだ知っていた。
「あぁ、『我々』が持っていたけれど、『我々』に属さない存在があるんだ。
それは一度ぼくのイミテーションがすべて破壊した。
だが、おそらくは自己修復機能がある。
それが、リバーステラにあったから、『我々』はここまでの力を手にしたんだ」
それは72個も存在し、リバーステラで起きたあらゆる戦争は、すべてはそれの奪い合いだったという。
「匣(はこ)のことですね」
マヨリが言った。
匣?
前の世界でも今の世界でも飛空艇の中にあり、今はこのアメノトリフネにあるあの匣のことだろうか?
「ここにある匣は、魔装具や魔人を犠牲にし、飛空艇の能力を一時的に高めるものだけというだけではなかったということですね」
サタナハマアカが言った。
「この匣は、その72個の匣を消滅させるために存在した……
おそらくは、新しいテラが産まれるたびに、その世界にアリス様はお産まれになり、アリス様はその度にこの匣を作られた……
『我々』さえも把握していなかった、存在しないはずの73個目の匣……」
マヨリとリサはうなづいた。
「源頼朝が、弟である義経を殺したのは、義経がそれを持っていたからだ。
それを持つ者だけが、征夷大将軍として幕府を開く権利を与えられる決まりだった」
父は、レンジが知らないリバーステラの日本の歴史の真実を語り始めた。
「ぼくたちが産まれた国には、それが3つ存在していた」
「3つって、まさかそれが三種の神器?」
レンジの問いに父はうなづき、
「その中でも草薙の剣だけは特別な存在だった。
ロンギヌスの槍だったからだ」
草薙の剣が、キリストを処刑した槍?
レンジには意味がわからなかったが、
「日本人の始祖はユダヤ人だったという説ですね」
ショウゴには、父の言葉の意味がわかるようだった。
これですべてが終わった。
だが、その犠牲はあまりにも大きかった。
アメノトリフネに帰還したのは、レンジとピノアとイルルの三人だけだったからだ。
ニーズヘッグもアルマも、ケツァルコアトルもヨルムンガンドも、その存在が消えてしまった。
ジパングのふたりの女王は彼らの帰還を喜びたかったが、消滅した者たちのことを思うと素直には喜べなかった。
だが、まだ希望があった。
「ステラとアリスは?」
レンジの問いに、
「ふたりは今、アカシックレコードにいます」
だから、希望が残されていることを、レンジたちに伝えることにした。
「アカシックレコード? どうしてそんなところに?」
「あそこには原初のテラから今のテラまでの森羅万象がデータベースとして保存されてるから。
十回分の大厄災の記録がね。
それに、この世界を生み出したリバーステラのことも何もかもね」
「ピノアは大厄災の魔法を超える新たな魔法を生み出しました。
それがなければ、『我々』に勝つことはできなかった。
ですが、大厄災やそれを超える魔法は、精霊の持つ陰の力です」
「ステラは、精霊が持ってる陽の力を掛け合わせた『救厄の魔法』を生み出そうとしてるんだ。
存在を歴史から消された者たちを、元に戻すための魔法だよ」
アリスは、その「救厄の魔法」を生み出す手伝いをしているということだった。
「ステラには、わたしたちやタカミやミカナが持っている力のひとつ、アカシックレコードを閲覧する権限を譲与しました」
「アリスは、最初から持ってたみたい。
それだけじゃなく、わたしたちには行くことができないアカシックレコードにも行けた」
救厄の魔法を生み出すためには、数百年かあるいは数千年の時間がかかる可能性があるという。
だからふたりは、時間という概念から切り離された場所に移る必要があるということだった。
「ですが、心配はありません。
ふたりならば必ず成し遂げてくれるでしょう。
そして、必ずこの時代に帰ってきます」
「じゃあ、わたしは死んじゃった人たちをなんとかしようかな」
ピノアはそう言うと、「我々」と共に要塞が消滅したことによって、大東洋に落下していたレンジの父・富嶽サトシと、大和ショウゴのイミテーションの肉片や死体をアメノトリフネへと移動させた。
「お父さんはどこまで先を読んでたのかな。
レンジのお父さんの肉片をひとつだけ残しておいてくれるなんて」
ピノアは、一度忘れてしまったはずのブライのことを思い出していた。覚えていた。
今はもう火や雷をその身にまとわせてはいなかったが、彼女がすべての精霊と一体化したからだろうか。
ふたりを甦らせると、その肉体の時を巻き戻すことによって、イミテーションからオリジナルにまで戻した。
それだけではなく、富嶽サトシの身体は全身がカオス細胞になる前の、ダークマターに一度も蝕まれていない状態へと戻っていた。
「レンジ……すまなかったな、本当に……」
「俺も……まさか俺がレンジを殺すことになるなんて……」
ふたりは、イミテーションの記憶を持っていた。
「ショウゴ、あれは君がやったことじゃない。
それにぼくは生き返ることができた。
だからもう、気にしなくていい。
父さんももう気にしないで。
ふたりとも今度こそリバーステラに帰ってくれよ」
「まだだよ、レンジ」
ピノアが言った。
「そうでしょ? レンジパパ」
彼女と父は、レンジが知らない何かをまだ知っていた。
「あぁ、『我々』が持っていたけれど、『我々』に属さない存在があるんだ。
それは一度ぼくのイミテーションがすべて破壊した。
だが、おそらくは自己修復機能がある。
それが、リバーステラにあったから、『我々』はここまでの力を手にしたんだ」
それは72個も存在し、リバーステラで起きたあらゆる戦争は、すべてはそれの奪い合いだったという。
「匣(はこ)のことですね」
マヨリが言った。
匣?
前の世界でも今の世界でも飛空艇の中にあり、今はこのアメノトリフネにあるあの匣のことだろうか?
「ここにある匣は、魔装具や魔人を犠牲にし、飛空艇の能力を一時的に高めるものだけというだけではなかったということですね」
サタナハマアカが言った。
「この匣は、その72個の匣を消滅させるために存在した……
おそらくは、新しいテラが産まれるたびに、その世界にアリス様はお産まれになり、アリス様はその度にこの匣を作られた……
『我々』さえも把握していなかった、存在しないはずの73個目の匣……」
マヨリとリサはうなづいた。
「源頼朝が、弟である義経を殺したのは、義経がそれを持っていたからだ。
それを持つ者だけが、征夷大将軍として幕府を開く権利を与えられる決まりだった」
父は、レンジが知らないリバーステラの日本の歴史の真実を語り始めた。
「ぼくたちが産まれた国には、それが3つ存在していた」
「3つって、まさかそれが三種の神器?」
レンジの問いに父はうなづき、
「その中でも草薙の剣だけは特別な存在だった。
ロンギヌスの槍だったからだ」
草薙の剣が、キリストを処刑した槍?
レンジには意味がわからなかったが、
「日本人の始祖はユダヤ人だったという説ですね」
ショウゴには、父の言葉の意味がわかるようだった。
0
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる