「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第172話 匣(はこ)

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「我々」は壊滅した。

 これですべてが終わった。

 だが、その犠牲はあまりにも大きかった。

 アメノトリフネに帰還したのは、レンジとピノアとイルルの三人だけだったからだ。
 ニーズヘッグもアルマも、ケツァルコアトルもヨルムンガンドも、その存在が消えてしまった。


 ジパングのふたりの女王は彼らの帰還を喜びたかったが、消滅した者たちのことを思うと素直には喜べなかった。

 だが、まだ希望があった。

「ステラとアリスは?」

 レンジの問いに、

「ふたりは今、アカシックレコードにいます」

 だから、希望が残されていることを、レンジたちに伝えることにした。

「アカシックレコード? どうしてそんなところに?」

「あそこには原初のテラから今のテラまでの森羅万象がデータベースとして保存されてるから。
 十回分の大厄災の記録がね。
 それに、この世界を生み出したリバーステラのことも何もかもね」

「ピノアは大厄災の魔法を超える新たな魔法を生み出しました。
 それがなければ、『我々』に勝つことはできなかった。
 ですが、大厄災やそれを超える魔法は、精霊の持つ陰の力です」

「ステラは、精霊が持ってる陽の力を掛け合わせた『救厄の魔法』を生み出そうとしてるんだ。
 存在を歴史から消された者たちを、元に戻すための魔法だよ」

 アリスは、その「救厄の魔法」を生み出す手伝いをしているということだった。

「ステラには、わたしたちやタカミやミカナが持っている力のひとつ、アカシックレコードを閲覧する権限を譲与しました」

「アリスは、最初から持ってたみたい。
 それだけじゃなく、わたしたちには行くことができないアカシックレコードにも行けた」

 救厄の魔法を生み出すためには、数百年かあるいは数千年の時間がかかる可能性があるという。
 だからふたりは、時間という概念から切り離された場所に移る必要があるということだった。

「ですが、心配はありません。
 ふたりならば必ず成し遂げてくれるでしょう。
 そして、必ずこの時代に帰ってきます」


「じゃあ、わたしは死んじゃった人たちをなんとかしようかな」

 ピノアはそう言うと、「我々」と共に要塞が消滅したことによって、大東洋に落下していたレンジの父・富嶽サトシと、大和ショウゴのイミテーションの肉片や死体をアメノトリフネへと移動させた。

「お父さんはどこまで先を読んでたのかな。
 レンジのお父さんの肉片をひとつだけ残しておいてくれるなんて」

 ピノアは、一度忘れてしまったはずのブライのことを思い出していた。覚えていた。
 今はもう火や雷をその身にまとわせてはいなかったが、彼女がすべての精霊と一体化したからだろうか。

 ふたりを甦らせると、その肉体の時を巻き戻すことによって、イミテーションからオリジナルにまで戻した。
 それだけではなく、富嶽サトシの身体は全身がカオス細胞になる前の、ダークマターに一度も蝕まれていない状態へと戻っていた。


「レンジ……すまなかったな、本当に……」

「俺も……まさか俺がレンジを殺すことになるなんて……」

 ふたりは、イミテーションの記憶を持っていた。

「ショウゴ、あれは君がやったことじゃない。
 それにぼくは生き返ることができた。
 だからもう、気にしなくていい。
 父さんももう気にしないで。
 ふたりとも今度こそリバーステラに帰ってくれよ」

「まだだよ、レンジ」

 ピノアが言った。

「そうでしょ? レンジパパ」

 彼女と父は、レンジが知らない何かをまだ知っていた。


「あぁ、『我々』が持っていたけれど、『我々』に属さない存在があるんだ。
 それは一度ぼくのイミテーションがすべて破壊した。
 だが、おそらくは自己修復機能がある。
 それが、リバーステラにあったから、『我々』はここまでの力を手にしたんだ」

 それは72個も存在し、リバーステラで起きたあらゆる戦争は、すべてはそれの奪い合いだったという。


「匣(はこ)のことですね」

 マヨリが言った。

 匣?
 前の世界でも今の世界でも飛空艇の中にあり、今はこのアメノトリフネにあるあの匣のことだろうか?


「ここにある匣は、魔装具や魔人を犠牲にし、飛空艇の能力を一時的に高めるものだけというだけではなかったということですね」

 サタナハマアカが言った。

「この匣は、その72個の匣を消滅させるために存在した……
 おそらくは、新しいテラが産まれるたびに、その世界にアリス様はお産まれになり、アリス様はその度にこの匣を作られた……
『我々』さえも把握していなかった、存在しないはずの73個目の匣……」

 マヨリとリサはうなづいた。


「源頼朝が、弟である義経を殺したのは、義経がそれを持っていたからだ。
 それを持つ者だけが、征夷大将軍として幕府を開く権利を与えられる決まりだった」

 父は、レンジが知らないリバーステラの日本の歴史の真実を語り始めた。

「ぼくたちが産まれた国には、それが3つ存在していた」

「3つって、まさかそれが三種の神器?」

 レンジの問いに父はうなづき、

「その中でも草薙の剣だけは特別な存在だった。
 ロンギヌスの槍だったからだ」


 草薙の剣が、キリストを処刑した槍?

 レンジには意味がわからなかったが、

「日本人の始祖はユダヤ人だったという説ですね」

 ショウゴには、父の言葉の意味がわかるようだった。


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