「キヅイセ」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
上 下
169 / 266
【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第169話 シン・ブライ・アジ・ダハーカ 急

しおりを挟む
 ブライ・アジ・ダハーカは、サトシもどきと対峙していた。

「サトシとの100年に渡る騙し合いの決着をつけたかったのに残念だよ。
 サトシじゃない君には何の魅力も感じない」

「君は何かを勘違いしている。
 勝ち負けの問題などではなかっただろう?
 君はぼくの手駒に過ぎなかった。あまり優秀とは言えなかったがね」

「そうかい。じゃあ、その手駒に君はこれから殺されるわけだ。
 かなり屈辱的だろうね」

 テラにはすでに、世界中にゴールデン・バタフライ・エフェクトが放たれていた。
 そして、サトシもどきの身体はカオス細胞で構成されており、徐々にその身体は消滅しかかっていた。

 ブライは黄金の蝶に向かって、両手の指先から十筋の光線を放った。
 光線は蝶の群れの中で乱反射を繰り返し、サトシもどきの身体を貫き始めた。

「ゴールデン・バタフライ・エフェクト&ブライズビームスってところかな。
 悪いが、君に構ってる暇はない。
 さっさと消えてくれ」

 ブライは、一時的にだが前の世界の愚かな自分の記憶を持っていたから、その技からは逃れるすべがないことは知っていた。

「まったく、自分がなぜダークマターに手を出してしまったのか、理解に苦しむよ。
 そんな身体になったところで、何も得られるものはなかっただろうに。
 まぁ、この時代でステラやピノアの役には立てたし、元の時代に戻っても私がダークマターに手を染めることはないから良しとしておこう」

 ブライは仲間たちに目を向けた。

 ピノアはムルムルもどきと交戦中であり、ニーズヘッグとアルマはオリアスもどきとアガレスもどきと交戦中だった。
 レンジはショウゴもどきと交戦中であった。

 だが、イルルの姿はどこにもなかった。

 これは戦争だ。
 だから犠牲が出るのは仕方がないことではあったが胸が傷んだ。

 時さえ戻されることがなければ、この戦いには勝てる。
 敵はいつでも時を巻き戻すことができる。
 それも、時の精霊の許可を得る必要もなければ、ダークマターを触媒とするわけでもなく、だ。

 それを止められる存在は、世界の理さえも変えることができる者だけだった。

 ブライは、ジパングのふたりの女王に、伝書鳩の魔法ではなく、直接頭に語りかけることにした。
 時の精霊の魔法を封じるようにと。


「君は本当に、間抜けだな」

 だが、サトシもどきは無数の光線に貫かれながらもブライの足をつかみ、

「時の精霊の魔法が、時を巻き戻すためだけにあるんじゃないことを忘れているんじゃないのか?
 君の身体の時を死の間際にまで進ませたら、どうなるかを考えたことはなかったのか?」

 しまった。
 そう思った瞬間には、ブライの身体は、サトシもどきと同じカオス細胞で構成される身体にされてしまっていた。

「なぜ君がダークマターに手を染めたのか。
 それは、ここまでがぼくの手の内だったからだ。
 アンフィス・バエナ・イポトリルにピノア・カーバンクルとの約束を守る未来がなかったように、君がダークマターに魅了されない未来もまたない。
 一緒に死んでもらうよ、ブライ」


 ブライは、サトシもどきと共にその身体のすべてのカオス細胞が死滅するまで、自らが放ったブライズビームスに貫かれ続けた。


 この時代にいるステラやピノアともっと話がしたかった。

 元の時代に帰ったら、百数十年後に生まれてくるふたりの自慢の父になりたかった。

 だが彼は、ジパングふたりの女王に、伝えるべきことを伝えることができた。

 だから死を受け入れること

「など、できるわけがないだろう」

 自らの身体のカオス細胞を触媒として、その身体の時を元に巻き戻した。

「サトシならまだしも、偽物の君にだけは負けたくないんだよ。
 悪いが、君だけ死んでくれ」

 ブライは業火連弾を両手から放ち、サトシもどきを跡形もなく完全に焼き尽くした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」  冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。  あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。  見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。    雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、 「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」  と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。  一方で、女騎士も似たようなもんだ。 「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」  こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!    使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。  もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。    ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!

処理中です...