「キヅイセ」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第140話 10番目の精霊 ①

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 地平線の彼方まで荒れ果てた土地は続いていた。

 少女は、ツインテールの銀色の髪を、風になびかせながら、目的もなく、たったひとり、さ迷い続けていた。

 長いまつげに縁取られた大きな赤い瞳はうつろで、その焦点はさだまってはいなかった。

 少女が荒野をさ迷いはじめて8ヶ月が過ぎていた。

 消えたのは、人や、人が存在した痕跡だけであったから、荒野といっても自然はところどころに存在した。
 植物だけでなく、動物も存在し、動植物が進化した存在である魔物もまた存在した。

 だが、人はあまりにも自然に手を加えすぎた。
 人が手を加えた自然は、自然とは呼べず、人が存在した痕跡でしかなかったから、消えてしまった。

 だから、純粋な自然はところどころにしか存在せず、荒野が続いていた。


 何もかもが消えてなくなってしまったのは冬の出来事で、夏が来ていた。

 少女の透き通るように白い肌を、強い日差しが焦がそうとしていた。
 しかし、どれだけ陽の光を浴びても、少女は日焼けをすることはない。

 少女の身体は色素が欠落しているからだった。


 少女が住んでいた城や城下町は、一瞬にしてなくなり、そこに住んでいた人々や働いていた人々さえも消えてしまった。

 何が起きたのか、少女にはわかっていた。
 だが、何故それが起きてしまったのか、少女にはわからなかった。


「アンフィス……どこ……?」

 少女の唇から溢れた名前は、少女を愛してくれた男の名だった。

 その男は、かつて8回もこの荒野を歩いたという。
 たった一度でも、気が狂いそうになるこの光景を、8度も経験した彼のことを、本当にすごい人だったんだな、と少女は今更ながらに思った。

「みんなで止めたはずだよね……?
 どうして、大厄災が起きたの……?
 誰が起こしたの……?
 教えて……アンフィス……隠れてないで、出てきてよ……」

 しかし、その彼もまた、少女の目の前で消えてしまった。

 彼が消えたのは、彼の誕生日のことだった。

 だから、その日、少女は彼の愛に答えようかとも考えたが、少女にはどうしてもできなかった。

 好きな少年がいたからだった。

 彼が消えてしまったのは、その少年と永遠に会うことがかなわなくなってしまってから、まだ1ヶ月ほどしか経っていなかった日のことだった。
 だから、少年のことを忘れられるまで待ってもらう約束をした。

 すぐ忘れさせてやるよ、と彼は言った。

 だが、その矢先に、彼は城や町や世界中の人々と共に消えてしまった。


 少女が恋した少年が、自分を大切に思ってくれていることは知っていた。
 けれど、それは恋愛感情ではなかった。
 妹に抱くような感情だった。

 少女が好きだった少年は、少女以外の女の子を選んだ。

 少女はその女の子のことも大好きだった。
 幼い頃からずっと一緒だった。
 姉のようでもあり、妹のようでもあり、そして自分そのものだった。

 その女の子もその少年を好きになった。

 それは少女が望んでいたことだったから、後悔はなかった。

 ふたりを、少年が元いた世界に送り出すことができた。
 だから、ふたりはこの世界とは別の場所で今も消えることなく生きている。

 それだけが少女にとって救いだった。


 空には太陽と、月が3つ浮かんでいた。

 少女は空を見上げると、

「月は、3つもいらない……」

 両手を空に向かって伸ばし、遥か遠くにある月を、まるで握りつぶすようにして、その手を閉じた。

 3つあった月のうちのふたつは、それだけでくだけ散った。


「すごい力だね。オロバスが君のことを気に入るわけだ」

 少女に声をかけた者がいた。

 最初は幻聴かと思った。

 だが、声の主は、少女の前に立っていた。

 見知らぬ少年だった。
 少女と同じ銀色の髪で、赤い瞳と白い肌を持っていた。

「あなた、誰? オロバスちゃんの知り合いなの?」

 ふたりが口にしたオロバスとは、この世界の時を司る精霊だった。

 少女は、時の精霊に溺愛されており、少女は精霊をちゃん付けで、精霊は少女を愛称で呼ぶ仲だった。


「ぼくはフォラス。次元の精霊だよ」

 少年は、そう名乗った。

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