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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」
第117話 神の名は
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「レンジ、起きたのか? 少しは冷静になったか?」
ああ、少しはね、とレンジは言い、ショウゴの背から降りた。さっきは迷惑かけたね、と申し訳なさそうに言った。
「先々代の大賢者、ブライ・アジ・ダハーカは、妻のアリスが出産の際に母子共に死亡し、後を追って自殺したらしい」
「それは何年前の話だ?」
「17年前だ」
「ステラはこの世界では産まれてくることができなかったのか……」
「じゃあ、ピノアもいないってことか?」
日本神話のカグツチ神のように、出産の際に母親を殺すくらい強大な力を持って産まれたステラは、母親を殺すだけではなく、自らの力を抑えることもできず、その体を維持することもできなかった。
だからブライは、ステラの力をふたつに切り離した。
その力が、自我を持ち、肉体を持ったのがピノアだった。
「レンジ、もうひとつ悪い知らせだ。
レオナルドが3日前に死んだらしい」
そうか、としかレンジはもう言えなかった。
レンジですら、ステラやピノア、レオナルドがいない世界で自分に何ができるんだろうと思ってしまうほどだった。
「いない奴のことより、2日後に起きる話の続きをしろ」
「ヒト型のカオスっていうのはなんだ?」
「言葉通りだよ。カオスは混沌化し続けていくうちに、最後にはヒト型になる。魔物のときには持っていたがカオスになるときに失った知性を取り戻してる」
「強いのか?」
「一体あたり、大体カオス50体分ってところかな。
城下町に放たれる4体は、城に仕える魔人4人に、ダークマターを取り込ませ、人工的に産み出したものだったみたいだけど」
「城に魔人は4人しかいない。
今朝会ったばっかりだ。特に変わった様子はなかったぞ」
「じゃあ、起きないかもしれないな」
「念のため、城中をくまなく探す」
「城の中は、ぼくの記憶だとワープポイントを正しい手順で踏まないと謁見の間にたどり着けなくなっていたはずだけど、この世界でもそう?」
「よく知ってるな。言いたいことはわかってる。
俺たちも知らないような、ダークマターとカオスのための研究所があるかもしれないってことだろ」
「光の精霊の魔法でカオスの場所や数を探知できる。
くまなく探すっていうのは、もちろんそういう意味だぞ。
城に戻ったらすぐやる」
エブリスタ兄弟は、一応決まりだからな、と言って、話を続けた。
2000年ほど前までは、ふたつの世界はおそらくひとつの世界だったと考えられていることや、ふたつの世界は全く同じではないが似た神話を共有していることを話した。
ショウゴはレンジに、ふたりにはすでに自分たちが「1周目」で見聞きしたふたつの世界についての真相を話したと説明した。
だから、これは「一応決まりだから」という言葉の通り、通過儀礼のようなものでしかないと。
「お前らの世界でも、神が七日間かけて世界を作ったという神話があるんだろ?」
「ああ、神の名前は違うけどな。
なぁ、レンジ。俺はオリジナル・ブライやコピー・ブライのことを正直よく知らないんだが」
『一周目』の世界の俺はレンジやステラたちがすごすぎて空気みたいなもんだったからな、と彼は自嘲した。
「だが、それでも、あいつが自己顕示欲と承認欲求の塊みたいな奴だったってことは俺にもわかる。うちの親父みたいにな。
そんな奴が神になるときに、ブライ・アジ・ダハーカという名前を変えたり、みだりにその名を口にしてはならないとして、後の世でどう発音する名前なのかさえわからなくすると思うか?
ブライ神として語り継がれたがるのがあいつじゃないのか?」
ショウゴにそう言われて、レンジははじめてそのことに疑問を抱いたようだった。
「確かにおかしい。ありえないことだ。
だけど、それじゃ、雨野タカミが必死で切り離した大厄災後の世界はリバーステラじゃないってことになる」
「俺はずっとそう考えていた。みんなが必死でやったことや、やろうとしていたことに、憶測で余計な口をはさみたくなかったからな」
エブリスタ兄弟は、お前らはすぐに俺たちの話の腰を折るな、と言った。
ライトの言った「折るな」は、事実だけを述べていたが、リードのそれは命令口調だった。
そしてふたりは、
「先々代が決めたルールをちゃんと踏んでるのが馬鹿らしくなってこないか?」
「あぁ、どうせ、こいつらにとっては二回目みたいだしな」
通過儀礼をやめてしまおうとした。
レンジにとっては確かにその通りだったが、ショウゴはそうではなかった。
だから、通過儀礼を続けてもらうことにした。
「ふたつの世界が、科学と魔法、まったく異なる文明の進化をたどるきっかけになった最も大きな違いは、大気中にエーテルという物質が存在しているかどうかだ」
「それだ!」
とショウゴは言った。
エブリスタ兄弟はとうとう匙を投げた。
「そうか。大厄災が起きても失われるのは、術者以外のすべての人と、この地上に人が存在したというあらゆる痕跡だけだ。エーテルは失われない。
ブライを神とする、大厄災後の世界はリバーステラとは別の世界だ」
ふたりはまるで、伏線回収や後付けの設定の説明のために「2周目」をやらされているような気さえしてきていた。
ああ、少しはね、とレンジは言い、ショウゴの背から降りた。さっきは迷惑かけたね、と申し訳なさそうに言った。
「先々代の大賢者、ブライ・アジ・ダハーカは、妻のアリスが出産の際に母子共に死亡し、後を追って自殺したらしい」
「それは何年前の話だ?」
「17年前だ」
「ステラはこの世界では産まれてくることができなかったのか……」
「じゃあ、ピノアもいないってことか?」
日本神話のカグツチ神のように、出産の際に母親を殺すくらい強大な力を持って産まれたステラは、母親を殺すだけではなく、自らの力を抑えることもできず、その体を維持することもできなかった。
だからブライは、ステラの力をふたつに切り離した。
その力が、自我を持ち、肉体を持ったのがピノアだった。
「レンジ、もうひとつ悪い知らせだ。
レオナルドが3日前に死んだらしい」
そうか、としかレンジはもう言えなかった。
レンジですら、ステラやピノア、レオナルドがいない世界で自分に何ができるんだろうと思ってしまうほどだった。
「いない奴のことより、2日後に起きる話の続きをしろ」
「ヒト型のカオスっていうのはなんだ?」
「言葉通りだよ。カオスは混沌化し続けていくうちに、最後にはヒト型になる。魔物のときには持っていたがカオスになるときに失った知性を取り戻してる」
「強いのか?」
「一体あたり、大体カオス50体分ってところかな。
城下町に放たれる4体は、城に仕える魔人4人に、ダークマターを取り込ませ、人工的に産み出したものだったみたいだけど」
「城に魔人は4人しかいない。
今朝会ったばっかりだ。特に変わった様子はなかったぞ」
「じゃあ、起きないかもしれないな」
「念のため、城中をくまなく探す」
「城の中は、ぼくの記憶だとワープポイントを正しい手順で踏まないと謁見の間にたどり着けなくなっていたはずだけど、この世界でもそう?」
「よく知ってるな。言いたいことはわかってる。
俺たちも知らないような、ダークマターとカオスのための研究所があるかもしれないってことだろ」
「光の精霊の魔法でカオスの場所や数を探知できる。
くまなく探すっていうのは、もちろんそういう意味だぞ。
城に戻ったらすぐやる」
エブリスタ兄弟は、一応決まりだからな、と言って、話を続けた。
2000年ほど前までは、ふたつの世界はおそらくひとつの世界だったと考えられていることや、ふたつの世界は全く同じではないが似た神話を共有していることを話した。
ショウゴはレンジに、ふたりにはすでに自分たちが「1周目」で見聞きしたふたつの世界についての真相を話したと説明した。
だから、これは「一応決まりだから」という言葉の通り、通過儀礼のようなものでしかないと。
「お前らの世界でも、神が七日間かけて世界を作ったという神話があるんだろ?」
「ああ、神の名前は違うけどな。
なぁ、レンジ。俺はオリジナル・ブライやコピー・ブライのことを正直よく知らないんだが」
『一周目』の世界の俺はレンジやステラたちがすごすぎて空気みたいなもんだったからな、と彼は自嘲した。
「だが、それでも、あいつが自己顕示欲と承認欲求の塊みたいな奴だったってことは俺にもわかる。うちの親父みたいにな。
そんな奴が神になるときに、ブライ・アジ・ダハーカという名前を変えたり、みだりにその名を口にしてはならないとして、後の世でどう発音する名前なのかさえわからなくすると思うか?
ブライ神として語り継がれたがるのがあいつじゃないのか?」
ショウゴにそう言われて、レンジははじめてそのことに疑問を抱いたようだった。
「確かにおかしい。ありえないことだ。
だけど、それじゃ、雨野タカミが必死で切り離した大厄災後の世界はリバーステラじゃないってことになる」
「俺はずっとそう考えていた。みんなが必死でやったことや、やろうとしていたことに、憶測で余計な口をはさみたくなかったからな」
エブリスタ兄弟は、お前らはすぐに俺たちの話の腰を折るな、と言った。
ライトの言った「折るな」は、事実だけを述べていたが、リードのそれは命令口調だった。
そしてふたりは、
「先々代が決めたルールをちゃんと踏んでるのが馬鹿らしくなってこないか?」
「あぁ、どうせ、こいつらにとっては二回目みたいだしな」
通過儀礼をやめてしまおうとした。
レンジにとっては確かにその通りだったが、ショウゴはそうではなかった。
だから、通過儀礼を続けてもらうことにした。
「ふたつの世界が、科学と魔法、まったく異なる文明の進化をたどるきっかけになった最も大きな違いは、大気中にエーテルという物質が存在しているかどうかだ」
「それだ!」
とショウゴは言った。
エブリスタ兄弟はとうとう匙を投げた。
「そうか。大厄災が起きても失われるのは、術者以外のすべての人と、この地上に人が存在したというあらゆる痕跡だけだ。エーテルは失われない。
ブライを神とする、大厄災後の世界はリバーステラとは別の世界だ」
ふたりはまるで、伏線回収や後付けの設定の説明のために「2周目」をやらされているような気さえしてきていた。
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