「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
上 下
116 / 266
【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第116話 大和ショウタロウという男

しおりを挟む
 城下町を抜けると、大きな湖があった。
 湖の中心にエウロペの城はあった。
 ショウゴは「1周目」では、その湖を見ていなかった。

 日が暮れ始めた湖には、蛍のような光が無数に浮かんでいた。
 小さいが優しく暖かな翡翠色の光だった。

「うちの親父は、リバーステラにずっといる。俺が物心ついた頃から、今もな。
 一人目の来訪者は富嶽サトシのはずだ。
 苗字は違うがこいつの父親のはずだ」

 ショウゴはその美しいが不気味な風景を眺めながら言った。

 その色は、結晶化したエーテルで作られたショウゴやレンジの魔装具と同じ色でもあったが、彼らが知らない歴史をたどってきたエウロペ城と同じ色だったからだ。

 一人目の転移者がレンジの父・富嶽サトシではない。
 それすらも変わっていたら、もはや自分たちにこの世界でできることは何もないようにさえ思えた。
 ステラもピノアもいないのだ。アンフィスが来るかどうかもわからないのだ。
 何かの間違いだと信じたかった。

 だが、1周目の世界には確かにあったゲートの前のATMや異世界転移アプリは、富嶽サトシがレンジのために用意したものだった。
 2周目のこの世界にはそれがない。

 この世界には富嶽サトシは来ていない。

 ATMや異世界転移アプリが存在しないことこそがその証拠のように思えた。


 ショウゴの父は、彼から見てレンジの父のような立派な父親ではなかった。
 自分に学歴がないことを家庭の貧しさのせいにし、自分の遺伝子の優秀さを子どもを使って証明しようとしていた。
 母はそんな父の言いなりだった。
 くそったれだと思っていた。

 学歴がないだけじゃない。学もなかった。
 毎朝、新聞を読むふりをしてはいるが、何にも理解しているようにはみえなかった。
 通学途中にスマホでネットニュースを読んでいるだけの彼の方が時事問題に詳しかった。

 自分と妹は、父親にとって社会に報復するための道具でしかなかった。
 父親は、ふたりの学費のために借金で首が回らなくなっていた。
 それをどうにかするために、さらに借金をして、多額の生命保険を母とショウゴにかけていた。
 妹はそれを知らない。だがショウゴは知っていた。
 父は、近いうちに借金を返済するため、事故か何かを偽装して母と自分を殺すつもりだろうということはすぐにわかった。
 妹はおそらく大丈夫だ。父にとって彼は失敗作だったが、妹は父の遺伝子の優秀さを証明する唯一の存在だったからだ。
 生命保険がかけられていないことがその証拠だった。

 だが、父はすでに気が触れていた。
 最悪の場合、一家心中事件を起こし、自分だけが運良く助かった、なんていうありがちな保険金殺人を起こしかねなかった。
 無論父に完全犯罪など不可能だ。
 しかし父は自分を「本当はできる人間」だと勘違いし続けている。
 だから、ショウゴは妹のそばに居続けた。興味のないアニメを一緒に観たり、BL同人誌を一緒に読んだ。
 いざというときに父から妹を守れるように、かたときも離れたくはなかったからだった。


「富嶽サトシっていう来訪者のことは聞いたことがないぞ」

「100年も前の話だ。同じ名前なだけで、お前の親父じゃないんじゃないのか?」

 だといいがな、とショウゴは思った。
 100年に作られたゲートが不安定でなく、ショウゴが転移したあとに父が転移してきたのでなければ、と。

 これ以上のストレスは、今度は自分がまた目の前の兄弟に対して過ちを犯しそうだった。
 だから自分に、そして妹に都合のいいように考えることにした。思い込むことにした。
 逆に考えれば、一人目の転移者が本当に自分の父であり、自分が転移してきた後でこの世界に転移してきているのなら、リバーステラにいる妹の心配はもういらないということだったからだ。


「お前らが何と言おうが、リバーステラと、この世界テラは、元々はひとつだったと考えられている」

「リバーステラは科学文明が発達した世界で、テラは魔法文明が発達した世界だとな」

「リバーステラにも、古代には手をかざすだけで難病を治したり、杖で海を割ったりする人がいたって話が今でも残ってるんだろ?」

 イエス・キリストやモーゼのことだろう。

「お前の頭に今、最初に思いついたのが、テラではアンフィス・バエナ・イポトリルって奴だ」

「アンフィスとは顔見知りだよ。お前らもアンフィスも俺たちの仲間だった。
 今日から二日後に、この城下町には四体のヒト型のカオスと100体ほどのカオスが放たれる。
 ブライ・アジ・ダハーカには9999人コピーがいる。この国の大賢者だったブライが死んでいても……」

「ブライが死んでる? どういうことだ?」

 ショウゴの背中でレンジが目を覚ました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...