「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
上 下
110 / 266

第110話 アンフィス・バエナ・イポトリルはかく語りき。

しおりを挟む
 オリジナル・ブライは完全に消滅した。

 だがタカミは、力をすべて使い果たしていた。

「おにーちゃん!」

 ミカナとメイは彼に駆け寄ったが、彼はすでに息をしていなかった。
 心臓も止まっていた。

 アンフィスが、ミカナ、とその背中に声をかけた。

「未来のあんたに伝言を頼まれてる。
 でも未来のあんたは、その内容を教えてくれなかった。
 未来のあんたも自分は聖者なんかじゃないって散々駄々をこねたらしい。
 で、俺は、今ここで、あんたに何かいい感じのことを言ったらしい。
 でも、それを伝えたら、本来俺の言葉のはずのものが、自分から聞いた言葉になるから、この場で思ったことを思った通り思ったまま言ってくれって言われた。
 まぁ、未来のあんたのときの『今』には『ブライが襲来してくることはなかった』し、ここで俺たちがブライを倒すこともなかったわけだが。
 未来とか過去とか現在とかややこしいから考えるのも嫌なくらいだが、頼まれたからな。頼まれたら嫌って言えない奴なんだ俺は。
 だから、言うぞ。

 あんたの兄貴は、どうしてもふたつの世界を同じ時間軸から切り離す必要があった。
 たぶん時の精霊か次元の精霊に頼まれたからだと思う。精霊にもできないことだからだと思う。
 同じことができる力をあんたも持ってるが、たぶんあんたじゃ失敗するか、成功しても死んでた。
 俺やピノアやステラでも、アルビノの魔人でもできないようなことを、ただの人間がやるんだからな。
 だから、成功したことも生きてるのも奇跡なんじゃないかとすら思うくらいだ。
あんたの兄貴はそれをやり遂げた。

 やり遂げただけじゃない。
 なんとかして、そのあともあんたじゃなくて、自分が俺たちといっしょに戦えるようにしたかったはずだ。
 妹に限らず、大事な家族を戦地に送り出さなきゃいけないってのは、相当にきついことだろうからな。

 だから、未来のあんたのときの今のそいつは、なぜもっとうまくできなかったのか、戦えるだけの力を残せなかったのか、すげー後悔したと思う。

 でも、今のあんたの兄貴は、未来のあんたの兄貴ができなかったことをやった。
それだけじゃない。
 本来ならここに来るはずがなかっただろうブライ・アジ・ダハーカを招き寄せた。
 そして、本来ならここで終わるはずじゃなかった戦いを終わらせた。

 こいつには世界よりも守りたいものがあったからだ。
 危険な目にあわせたくない大事なやつがいたからだ。
 そいつのためなら、命をかけられるくらいに大事なやつがいたからだ。
 すげーよ。まじですげーと思う。

 あそこにバカ面の双子がいるだろ?
 あいつらは、俺たちアルビノの魔人を、ただの人である自分たちが超えるっていうのを目標にして、公言して歩いてる。バカ面さげてな。
 あいつらに教えてやりたいくらいだ。
 ここまでやらなきゃ、超えたことにはなんねーってな」


「おい、聞こえてるぞ」

「あと、あんたらには無理でも俺たちなら助けられる」

「最上級治癒魔法オラシオンのさらに先の魔法があるからな」


「これのことかしら?」

 ステラは、魔人専用の治癒魔法をタカミにかけた。

「え!? なんでステラがその魔法を使えるんだ??」

「え? アルビノの魔人だから? かしら?
 オラシオンの先にある魔法だったのね、これ。人にも効くとは知らなかったわ」

「違うよ。わたしのステラがすごいからだよ。
 ま、わたしも一回見ればできちゃうけど」

「二回がけ!? 回復するだけじゃないぞ!! ビンビンになるぞ」

「あー、ちなみに、俺もできる。これで三回がけだな。
 効果が三倍じゃなくて三乗になるようにしといた」

「超えられるもんなら超えてみろ、クソガキども」

 ピノアは、エブリスタ兄弟にあかんべーをした。


「……ミカナ? ……あれ? ぼくは生きてるのか?」

 タカミは息を吹き返した。

「おにーちゃん……」

「全部終わった?」

「うん……おにーちゃんががんばってくれたおかげだよ」

「そっか……よかった……
 ミカナが戦わないですむようにしたかったんだ」

「無理させてごめんね」

「いっしょに帰ろうな。
 でも、その前に服を着てくれ。思春期の男子がたくさん見てる」

 そう言われて、ミカナはずっと自分が全裸のままだったということに気づいた。
 エブリスタ兄弟が自分をじっと見ていた。

「あとリサちゃんも服を着て。
 マヨリちゃんは、今君がまたぐでーんてしてる、その人をダメにするソファの中にいるし」

「え? マヨリ、生きてるの?」

「一応それ、中は核シェルターになってるから。
 ふたりの女王の身に危険が迫るようなことがあったら、相手にはしっかりと殺したと思わせて、自動的に反対側の塔のそのソファの中に身を隠すように最初から作ってた」

 ニーズヘッグは、槍の切っ先でソファのカバーだけをうまく切った。

 中には本当にマヨリがおり、リサは彼女に抱きついた。

 そして彼は、よし、鳴り物入りで出てきたわりに完全に空気になってたことをとりもどせたぞ、と思った。

 アルマはそんな彼を見て、取り戻せてないわよ、と思った。
 自分のほうがはるかに鳴り物入りではるかに完全に空気だということに、彼女は持ち前の天然さゆえ気づかなかった。

 ショウゴはカバンから、よかったらこれ、と服を一枚取り出して、リサに渡した。
 すてら、と汚い字で書かれているのを見て、リサはにやっと笑いさりげなく着てみた。

 が、ステラには即座に気づかれてしまった。
 そして、ショウゴは10往復ビンタをくらわされた。

 いいな、うらやましいな、とレンジは思った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...