107 / 266
第107話 13人目の救厄の聖者 ⑤
しおりを挟む
「13人目の救厄の聖者である、雨野ミカナに聞いてるんだ」
そこにいる誰もが、その言葉に耳を疑った。
この世界の聖書の最後に記されている大厄災の預言のことは、この世界に生まれ育った比良坂コヨミや連璧マサトは当然のことながら知っていた。
この世界に神は一柱しか存在せず、それは七日間かけて世界を作った神だけだ。
ハオジ・マワリーという名の、みだりに口にしてはならないとされる神だけだった。
そして、聖書と呼ばれるものも、たったひとつ、救厄聖書と呼ばれるものしかなかった。
ジパングには、タカミやミカナが生まれ育ったリバーステラの日本という国のように、独自の神話はなかった。
リバーステラでは、ジパングだけでなく世界中の国々が独自の神話を持っているらしいが、テラには神話も聖書もひとつしかなかった。
かつて、タカミは、
「だから大和朝廷ではなく、1800年も邪馬台国がこの島国を治め続けているのか、と言った」
ジパングという国名は、ジパングの民にとっては他国からそう呼ばれているだけの俗称でしかなかった。
タカミがそのとき口にした邪馬台国とは、初代女王による建国から数百年ほどの間の国名であり、現在では九頭龍国(くずりゅうごく)という名がジパングの正式名称だった。
ジパングに1000年前に存在したアルビノの魔人・アベノ・セーメーは、国内で起きたクーデターを鎮圧した。
しかし、それは近隣諸国の工作員によりクーデターに見せかけられた侵略戦争であったという。
クーデターが失敗に終わり、近隣諸国が本土決戦を仕掛けてくることを察知したセーメーは、陰陽道と当時の女王のシャーマニズムにより龍の形をしたこの島国を浮上させたとされていた。
その際、島国は九つの首を持つ龍に姿を変えたという。
九頭龍は、悪しき姿・九頭龍獄と善なる姿・九頭龍極を持ち、さらに九頭龍 天禍天詠(てんかてんえい)へと姿を変え、100年あまりの間、天空の城とも言うべき存在となって、空を浮かび続けていたとされていた。
リバーステラでは、邪馬台国は1700年ほど前に滅び、その後は大和朝廷という存在が国を治めていたという。
日本の神話は、大和朝廷の王が自らやその子ども、その子孫たちが、王であり続ける理由を作るため、後付けで作られたものにすぎずないという。
王は2600年以上前に神の国から降り立ったとされ、初代王から十数代は架空の人物に過ぎないらしかった。
現在は日本という名になっているが、代々の王は現人神として奉られ、70年以上前に起きた戦争での敗戦がきっかけとなり、王はようやく自らが人間であることを宣言したという。
もしかしたら、かつてはジパングだけでなくテラの世界各国に独自の神話が存在したかもしれない。
海を挟んだ大国ヘブリカの召喚師は、神話や伝説上の存在を召喚するというが、彼らが召喚する存在を示す伝説はあっても、伝説以上の存在がおり、それを示す神話はどこにもないと聞いたことがあった。
エウロペの大賢者と呼ばれていた者をはじめ、時の精霊の魔法で過去を変えることができる魔法使いが異国には存在する。
彼らが存在するいる以上、世界中の無数の神話がなかったことにされている可能性があった。
だが、それはあくまで可能性の話でしかなく、ジパングの女王も民も、救厄聖書と、そこに記された神話以外誰も知らないのだ。
太陽の巫女と呼ばれるふたりの女王はもちろん、歴代の女王ですら、なぜ自分たちが太陽の巫女なのか、シャーマンの力を持っているのかを知らなかったという。
ジパングの城「アメノミハシラ」や、城が持つ戦艦形態「アメノトリフネ」、そしてその陰陽人工頭脳である「ツクヨミ」、さらには主砲「アメノウボコ」は、タカミが知る神話から名付けたものであった。
救厄聖書しか知らない陰陽師や防人は1800年前より女王を守護すると同時に、いずれ起きるであろう大厄災を止めるためにその存在があった。
それは、リバーステラからの転移者である山汐メイも、無論雨野ミカナも知っていた。
神様の名前が違う、とミカナは以前言っていた。
預言に記されていた救厄の聖者は、アルビノの魔人であることを示していた。
しかし、預言はあくまで預言であり、はずれることもある。
だからそこにいる誰もが、雨野タカミこそが救厄の聖者に違いないと思っていた。
だからこそ、ジパングのふたりの女王・返璧マヨリと白璧リサは、11年前に雨野タカミを太陽の巫女の力でこの世界に召喚したのだ。
ふたりの女王は、タカミひとりを召喚するつもりだった。
だが、彼のそばにいた妹のミカナとその友人のメイまでが一緒に召喚されてしまった。
ふたりはただそれだけの存在ではなかったか?
大厄災を防ぐとされている「救厄の聖者」と「12人の弟子たち」。
タカミが言った「13人目の救厄の聖者」とは、おそらく救厄の聖者を含めた12人の弟子の最後のひとりのことだろう。
だがタカミの言葉は、彼は救厄の聖者ではなく、聖者は他に存在し、彼の妹の雨野ミカナが13人目の聖者だと言っていた。
そこにいる誰もが大厄災が何であるかについてもまた知らなかった。
聖書の預言には、大厄災の内容は記されておらず、救厄の聖者がアルビノの魔人であることしか書かれてはいなかったからだ。
1000年前にジパングに産まれたアルビノの魔人の陰陽師は、前述の通りあくまでこの国についての問題を解決したに過ぎなかった。
百数十年前の戦争の後、ダークマターが世界中に蔓延し、魔物たちはカオスと呼ばれる存在となった。
その時代には、それが大厄災だと言われていた。
しかし、救厄の聖者が現れることはなく、100年以上にわたり、ダークマターとカオスはこの世界に存在し続けた。
そして今朝、空に無数の大艦隊が出現した。
リバーステラがテラに戦争をしかけてきたのだ。
世界中の誰もが、今度こそ大厄災が始まったのだと思ったことだろう。
しかし、世界中に黄金の蝶が舞い、世界中のダークマターは浄化された。
大艦隊の半数が沈み、残った大艦隊はまるで押し戻されるようにリバーステラへと帰った。
救厄の聖者と12人の弟子が、大厄災を防いでくれたと思ったことだろう。
だが、タカミはジパングでただその光景を眺めていただけだった。
そして、彼はエウロペの飛空艇がこちらに向かってきていると告げた。
だから、大厄災はまだ終わっていないのだとわかった。
彼が救厄の聖者たちに合流し、今度こそ大厄災を止めるのだろうと思った。
しかし、彼はそれが自分ではなく、ミカナだと言っているのだ。
ミカナはぽかんとした顔をしていた。
「おにーちゃん、何を言ってるの?
わたし、何にも出来ないよ?
おにーちゃんみたいなすごい力、何にも持ってないよ?」
ミカナの言う通りだった。
彼女はジパングに服飾革命をもたらしてはくれたが、太陽の巫女であるふたりの女王のようにシャーマンでもなければ、陰陽師でもない。
戦う力など何も持ってはいない。
しかも今は全裸だ。
全裸のもうひとり(女王)は、ぐでんとソファに身を預けたまま、
「タカミっち、まだミカナに話してなかったの?」
と言った。
「タカミっちかマヨリがいつか話すだろうって思ってたから、わたしは何にも言わなかったんだけど。
どうせわたしが言ってもミカナは信じないだろうし」
全裸だから、説得力ないしな、とマサトは思った。
ていうか、え!? 知ってたの!? という驚きは後から来た。
「ミカナも気づいているはずだよ。
この世界に招かれたときに、ぼくと同じ力を手に入れたことに。
ふたりの女王には、ひとりずつこの力を持つ者が必要だったからね。
だから、ぼくだけじゃなくミカナも陰陽師という肩書きを与えられたんだ」
「そんなの持ってない!!」
ミカナが叫んだ瞬間に、ドン! という音がした。
白璧の塔の最上階、女王執務室の壁に巨大な穴が空いていた。
ジパングは、結晶化したエーテルが他国とは比べ物にならないほど採掘される国だった。
他国ではジパングは「黄金の国ジパング」と呼ばれているらしいが、実際には「翡翠色の国」であった
結晶化したエーテルを、ジパングでは「ヒヒイロカネ」と呼んでいた。
城はすべてヒヒイロカネによって作られており、簡単に破壊できるものではなかった。
コヨミとマサトには、何が起きたのかわからなかった。
「今の、ミカナがやったの?」
メイは巨大な穴を見て言った。
「違う……わたしじゃない……」
「ぼくでもない。じゃあ、誰がこの穴を空けたんだろうね」
タカミはミカナに言った。
そして彼は、この部屋に入ってきたときとは別のゆらぎを作りだした。
「アンフィス・バエナ・イポトリル」
と、彼はゆらぎに向かって言った。
それは呪文のようでもあり、人の名前のようでもあった。
「誰だ?」
ゆらぎの向こうから声がした。
「ぼくはジパングの陰陽師、雨野タカミ。
11年前にリバーステラからジパングに転移してきた3人のうちのひとりだ」
「アメノ? じゃあ、ミカナの兄貴か。
今ちょうどそっちに向かってるところだが、何か急ぎの用か?」
「今、君の目の前にあるゆらぎは、ジパングの女王のひとり・白璧リサの女王執務室に繋がっている。
そちらにいる12人の救厄の聖者の中で、最後のひとり、13人目が誰なのかを知っているのは君だけだ。
こちらに来てくれないか?」
「あー、なんとなく状況は理解した。わかったよ」
ゆらぎから、めんどくさそうにアルビノの魔人が現れた。
彼は壁に空いた穴を見て、
「想像していた以上に修羅場だな」
と大きくため息をついた。
「彼は?」
と尋ねたマサトに、
「2000年前のアルビノの魔人だよ。
今は救厄の聖者たちのひとりとして、彼らと行動を共にしてる」
タカミは言った。
「大厄災はすでに2000年前に一度食い止められている。
それは過去の出来事であると同時に未来の出来事でもある」
と続けた。
「さすがだな。あんたとは面識がないが、ミカナから兄貴も同じ力を持ってると聞いてる」
「わたし……そんな人、知らない……会ったことない……」
「まぁ、そうだろうな。
俺が知ってるのは、未来のあんただからな。
俺は未来のあんたや、未来の俺、そして飛空艇で今こっちに向かってきてる奴らの、未来の奴らに助けられ、この時代に来た」
過去であり、未来である、というのはそういう意味かとマサトは思った。
そして、やはり13人目の聖者は、雨野タカミではなく、雨野ミカナであったのだと気づかされた。
そこにいる誰もが、その言葉に耳を疑った。
この世界の聖書の最後に記されている大厄災の預言のことは、この世界に生まれ育った比良坂コヨミや連璧マサトは当然のことながら知っていた。
この世界に神は一柱しか存在せず、それは七日間かけて世界を作った神だけだ。
ハオジ・マワリーという名の、みだりに口にしてはならないとされる神だけだった。
そして、聖書と呼ばれるものも、たったひとつ、救厄聖書と呼ばれるものしかなかった。
ジパングには、タカミやミカナが生まれ育ったリバーステラの日本という国のように、独自の神話はなかった。
リバーステラでは、ジパングだけでなく世界中の国々が独自の神話を持っているらしいが、テラには神話も聖書もひとつしかなかった。
かつて、タカミは、
「だから大和朝廷ではなく、1800年も邪馬台国がこの島国を治め続けているのか、と言った」
ジパングという国名は、ジパングの民にとっては他国からそう呼ばれているだけの俗称でしかなかった。
タカミがそのとき口にした邪馬台国とは、初代女王による建国から数百年ほどの間の国名であり、現在では九頭龍国(くずりゅうごく)という名がジパングの正式名称だった。
ジパングに1000年前に存在したアルビノの魔人・アベノ・セーメーは、国内で起きたクーデターを鎮圧した。
しかし、それは近隣諸国の工作員によりクーデターに見せかけられた侵略戦争であったという。
クーデターが失敗に終わり、近隣諸国が本土決戦を仕掛けてくることを察知したセーメーは、陰陽道と当時の女王のシャーマニズムにより龍の形をしたこの島国を浮上させたとされていた。
その際、島国は九つの首を持つ龍に姿を変えたという。
九頭龍は、悪しき姿・九頭龍獄と善なる姿・九頭龍極を持ち、さらに九頭龍 天禍天詠(てんかてんえい)へと姿を変え、100年あまりの間、天空の城とも言うべき存在となって、空を浮かび続けていたとされていた。
リバーステラでは、邪馬台国は1700年ほど前に滅び、その後は大和朝廷という存在が国を治めていたという。
日本の神話は、大和朝廷の王が自らやその子ども、その子孫たちが、王であり続ける理由を作るため、後付けで作られたものにすぎずないという。
王は2600年以上前に神の国から降り立ったとされ、初代王から十数代は架空の人物に過ぎないらしかった。
現在は日本という名になっているが、代々の王は現人神として奉られ、70年以上前に起きた戦争での敗戦がきっかけとなり、王はようやく自らが人間であることを宣言したという。
もしかしたら、かつてはジパングだけでなくテラの世界各国に独自の神話が存在したかもしれない。
海を挟んだ大国ヘブリカの召喚師は、神話や伝説上の存在を召喚するというが、彼らが召喚する存在を示す伝説はあっても、伝説以上の存在がおり、それを示す神話はどこにもないと聞いたことがあった。
エウロペの大賢者と呼ばれていた者をはじめ、時の精霊の魔法で過去を変えることができる魔法使いが異国には存在する。
彼らが存在するいる以上、世界中の無数の神話がなかったことにされている可能性があった。
だが、それはあくまで可能性の話でしかなく、ジパングの女王も民も、救厄聖書と、そこに記された神話以外誰も知らないのだ。
太陽の巫女と呼ばれるふたりの女王はもちろん、歴代の女王ですら、なぜ自分たちが太陽の巫女なのか、シャーマンの力を持っているのかを知らなかったという。
ジパングの城「アメノミハシラ」や、城が持つ戦艦形態「アメノトリフネ」、そしてその陰陽人工頭脳である「ツクヨミ」、さらには主砲「アメノウボコ」は、タカミが知る神話から名付けたものであった。
救厄聖書しか知らない陰陽師や防人は1800年前より女王を守護すると同時に、いずれ起きるであろう大厄災を止めるためにその存在があった。
それは、リバーステラからの転移者である山汐メイも、無論雨野ミカナも知っていた。
神様の名前が違う、とミカナは以前言っていた。
預言に記されていた救厄の聖者は、アルビノの魔人であることを示していた。
しかし、預言はあくまで預言であり、はずれることもある。
だからそこにいる誰もが、雨野タカミこそが救厄の聖者に違いないと思っていた。
だからこそ、ジパングのふたりの女王・返璧マヨリと白璧リサは、11年前に雨野タカミを太陽の巫女の力でこの世界に召喚したのだ。
ふたりの女王は、タカミひとりを召喚するつもりだった。
だが、彼のそばにいた妹のミカナとその友人のメイまでが一緒に召喚されてしまった。
ふたりはただそれだけの存在ではなかったか?
大厄災を防ぐとされている「救厄の聖者」と「12人の弟子たち」。
タカミが言った「13人目の救厄の聖者」とは、おそらく救厄の聖者を含めた12人の弟子の最後のひとりのことだろう。
だがタカミの言葉は、彼は救厄の聖者ではなく、聖者は他に存在し、彼の妹の雨野ミカナが13人目の聖者だと言っていた。
そこにいる誰もが大厄災が何であるかについてもまた知らなかった。
聖書の預言には、大厄災の内容は記されておらず、救厄の聖者がアルビノの魔人であることしか書かれてはいなかったからだ。
1000年前にジパングに産まれたアルビノの魔人の陰陽師は、前述の通りあくまでこの国についての問題を解決したに過ぎなかった。
百数十年前の戦争の後、ダークマターが世界中に蔓延し、魔物たちはカオスと呼ばれる存在となった。
その時代には、それが大厄災だと言われていた。
しかし、救厄の聖者が現れることはなく、100年以上にわたり、ダークマターとカオスはこの世界に存在し続けた。
そして今朝、空に無数の大艦隊が出現した。
リバーステラがテラに戦争をしかけてきたのだ。
世界中の誰もが、今度こそ大厄災が始まったのだと思ったことだろう。
しかし、世界中に黄金の蝶が舞い、世界中のダークマターは浄化された。
大艦隊の半数が沈み、残った大艦隊はまるで押し戻されるようにリバーステラへと帰った。
救厄の聖者と12人の弟子が、大厄災を防いでくれたと思ったことだろう。
だが、タカミはジパングでただその光景を眺めていただけだった。
そして、彼はエウロペの飛空艇がこちらに向かってきていると告げた。
だから、大厄災はまだ終わっていないのだとわかった。
彼が救厄の聖者たちに合流し、今度こそ大厄災を止めるのだろうと思った。
しかし、彼はそれが自分ではなく、ミカナだと言っているのだ。
ミカナはぽかんとした顔をしていた。
「おにーちゃん、何を言ってるの?
わたし、何にも出来ないよ?
おにーちゃんみたいなすごい力、何にも持ってないよ?」
ミカナの言う通りだった。
彼女はジパングに服飾革命をもたらしてはくれたが、太陽の巫女であるふたりの女王のようにシャーマンでもなければ、陰陽師でもない。
戦う力など何も持ってはいない。
しかも今は全裸だ。
全裸のもうひとり(女王)は、ぐでんとソファに身を預けたまま、
「タカミっち、まだミカナに話してなかったの?」
と言った。
「タカミっちかマヨリがいつか話すだろうって思ってたから、わたしは何にも言わなかったんだけど。
どうせわたしが言ってもミカナは信じないだろうし」
全裸だから、説得力ないしな、とマサトは思った。
ていうか、え!? 知ってたの!? という驚きは後から来た。
「ミカナも気づいているはずだよ。
この世界に招かれたときに、ぼくと同じ力を手に入れたことに。
ふたりの女王には、ひとりずつこの力を持つ者が必要だったからね。
だから、ぼくだけじゃなくミカナも陰陽師という肩書きを与えられたんだ」
「そんなの持ってない!!」
ミカナが叫んだ瞬間に、ドン! という音がした。
白璧の塔の最上階、女王執務室の壁に巨大な穴が空いていた。
ジパングは、結晶化したエーテルが他国とは比べ物にならないほど採掘される国だった。
他国ではジパングは「黄金の国ジパング」と呼ばれているらしいが、実際には「翡翠色の国」であった
結晶化したエーテルを、ジパングでは「ヒヒイロカネ」と呼んでいた。
城はすべてヒヒイロカネによって作られており、簡単に破壊できるものではなかった。
コヨミとマサトには、何が起きたのかわからなかった。
「今の、ミカナがやったの?」
メイは巨大な穴を見て言った。
「違う……わたしじゃない……」
「ぼくでもない。じゃあ、誰がこの穴を空けたんだろうね」
タカミはミカナに言った。
そして彼は、この部屋に入ってきたときとは別のゆらぎを作りだした。
「アンフィス・バエナ・イポトリル」
と、彼はゆらぎに向かって言った。
それは呪文のようでもあり、人の名前のようでもあった。
「誰だ?」
ゆらぎの向こうから声がした。
「ぼくはジパングの陰陽師、雨野タカミ。
11年前にリバーステラからジパングに転移してきた3人のうちのひとりだ」
「アメノ? じゃあ、ミカナの兄貴か。
今ちょうどそっちに向かってるところだが、何か急ぎの用か?」
「今、君の目の前にあるゆらぎは、ジパングの女王のひとり・白璧リサの女王執務室に繋がっている。
そちらにいる12人の救厄の聖者の中で、最後のひとり、13人目が誰なのかを知っているのは君だけだ。
こちらに来てくれないか?」
「あー、なんとなく状況は理解した。わかったよ」
ゆらぎから、めんどくさそうにアルビノの魔人が現れた。
彼は壁に空いた穴を見て、
「想像していた以上に修羅場だな」
と大きくため息をついた。
「彼は?」
と尋ねたマサトに、
「2000年前のアルビノの魔人だよ。
今は救厄の聖者たちのひとりとして、彼らと行動を共にしてる」
タカミは言った。
「大厄災はすでに2000年前に一度食い止められている。
それは過去の出来事であると同時に未来の出来事でもある」
と続けた。
「さすがだな。あんたとは面識がないが、ミカナから兄貴も同じ力を持ってると聞いてる」
「わたし……そんな人、知らない……会ったことない……」
「まぁ、そうだろうな。
俺が知ってるのは、未来のあんただからな。
俺は未来のあんたや、未来の俺、そして飛空艇で今こっちに向かってきてる奴らの、未来の奴らに助けられ、この時代に来た」
過去であり、未来である、というのはそういう意味かとマサトは思った。
そして、やはり13人目の聖者は、雨野タカミではなく、雨野ミカナであったのだと気づかされた。
0
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~
うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」
冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。
あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。
見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。
雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、
「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」
と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。
一方で、女騎士も似たようなもんだ。
「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」
こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!
使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。
もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。
ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる