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第86話 パラドクス ②
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「別の可能性として、ブライ・アジ・ダハーカは、ひとりではないのかもしれないと、ぼくは考えてもいるんだ」
レンジの言葉に、皆はさらに、は? という顔をした。
「それはつまり、先ほどまであなたがしていた話は、過去に遡り歴史を変えることによって、歴史が分岐する場合の話。
そして、これからあなたが話そうとしているのは、過去を変えても歴史は分岐することがなく、現在や未来に直接影響を与える場合、ということかしら?」
さすがはステラだな、とレンジは思った。
「確かに、人工的に産み出された魔人であるブライ・アジ・ダハーカならば、三賢者かブライ自身の力によって複数存在するかもしれない……いると仮定したら……
それぞれが他のブライを知らないか、あるいはすべてのブライが同じ記憶や感情、能力を共有し、尚且つ自分こそがオリジナルだと思い込んでいるとしたなら……」
「ぼくたちの戦いはまだこれからだということだね」
ニーズヘッグが打ち切り漫画の主人公みたいなことを言った。
「未来のステラたちが、ブライを追いかけて俺の時代に来ることにもなるか……」
「さっきのレンジの話よりすっごくわかりやすい!
さすがステラ!! レンジはうんこ」
問題があるとすれば、レンジの父の大剣は、もはや何も映さないということだった。
ブライが複数存在する場合、一体何人のブライが存在し、それぞれがどこにいるのかもわからない。
「ソラシド」
「何でしょうか? アンフィス様」
「俺たちの話、聞いてたか?
ドラゴン様ふたりは仲良くおねんねしてくれちゃってるが」
「はい、なかなか興味深い内容でした」
「お前、ステラたちが俺とピノアを助けにきてくれたとき、すぐに俺たちの現在地を割り出したんだろ?
ブライ・アジ・ダハーカが複数存在するとしたら、その居場所もわかったりすんの?」
「すでにすべてのブライ・アジ・ダハーカの現在地を確認済みです。
世界地図を表示します。
赤く点滅している箇所のすべてが、ブライ・アジ・ダハーカの現在地です」
ソラシドが見せた世界地図には、数えきれないほどの点滅する赤い点が存在した。
「おいおい、何かの間違いだろ?
一体世界中に何人いやがるんだ?」
「現時点で9998人確認しています」
死んだブライを含めたら9999人だということだった。
おそらくは、ソラシドにすら特定できない、一万人目のオリジナル・ブライが存在するのだろう、とレンジは思った。
「どうやら長い旅になりそうね」
ステラは言った。
「いつリバーステラが攻めてくるかわからないのに、彼がまだ9998人もいるだなんて厄介だわ」
本当に。
ステラの言う通りだった。
「そうでもないと思うぜ。だろ? ソラシド」
「はい。すでに私は、すべてのブライ・アジ・ダハーカを殲滅対象として捕捉しています。
攻撃に特化したオメガポリス形態に移行すれば、殲滅対象以外の人や動植物、建物に一切被害を与えることなく、ブライ・アジ・ダハーカだけを攻撃し、殲滅することが可能です」
「アンフィス? ソラシド?
あなたたち、一体何を考えているの?」
ステラの問いに、アンフィスは、あんたが考えている通りのことだよ、と言った。
「あのね、ステラ」
ピノアもまた、
「わたしたちのおとうさんは、わたしが殺したあの人だけ。
他のブライ・アジ・ダハーカは、わたしたちのおとうさんじゃない。
だから、ソラシドとアンフィスがしようとしてくれてることは、世界のためにもなるし、わたしたちのためになると思う。
それに、わたしは、たとえわたしたちのおとうさんじゃなくても、二度とブライを殺したくない。
ステラにも殺させたくない」
そう言った。
ステラには何も言い返せなかった。
「ソラシド。
お姉さまの許可も出た。女王様も納得してくれたみたいだ。
すぐにやってくれ」
アンフィスは、驚くほど冷たい声で言った。
「オメガポリス形態に移行しつつ、余剰次元エーテルを集積、凝縮します……
拡散放射準備完了……
アンフィス様、ご命令を」
「必ず、ひとりだけお前にも居場所を悟らせないブライがいる。
そいつがオリジナルだ。あぶりだせ。
余剰次元エーテル超弦理放射砲『カラビ・ヤウ』、超拡散発射」
世界中に存在するブライ・アジ・ダハーカに向けて、飛空艇オルフェウスから9998筋の光の矢が放たれた。
その日は、テラの歴史に、
「ラグナロクの日」
として記されることになる。
『カラビ・ヤウ』の超拡散発射の後、ピノアはステラとレンジに話があると言って呼び出した。
「ブライから、おとうさんから、伝言を頼まれたから。
まずはステラからね。
父親らしいことを何もしてやれなくて、本当にすまなかったって。
それからレンジに。
君の父親は、最期まで本当に立派な男だった。
私は、君の父親が、サトシが、本当に好きだった。
それなのに、私はサトシに、君に、本当に申し訳ないことをしたって。
私は本当に愚かだったって」
もし、前国王が三賢者のひとりに婦女暴行などしなかったら。
ブライが人工的に産み出された魔人ではなければ。
リバーステラの何者かが、この世界の存在に気づかなかったら。
この世界をゴミ処理場にしなければ。
放射性物質がエーテルに取り憑き、ダークマターになることがなかったら。
レンジの父が、テラに訪れることがなければ。
すべては、たらればの話でしかなかったが、誰も悲しい思いをせずにすんだかもしれない。
「でも、ぼくは、この世界に来れて良かったよ。
ステラとピノアに出会えて。
ニーズヘッグたちにも出会えて」
心からそう思えたから、
「だから、必ずみんなでこの世界を守ろう」
レンジはそう言った。
レンジの言葉に、皆はさらに、は? という顔をした。
「それはつまり、先ほどまであなたがしていた話は、過去に遡り歴史を変えることによって、歴史が分岐する場合の話。
そして、これからあなたが話そうとしているのは、過去を変えても歴史は分岐することがなく、現在や未来に直接影響を与える場合、ということかしら?」
さすがはステラだな、とレンジは思った。
「確かに、人工的に産み出された魔人であるブライ・アジ・ダハーカならば、三賢者かブライ自身の力によって複数存在するかもしれない……いると仮定したら……
それぞれが他のブライを知らないか、あるいはすべてのブライが同じ記憶や感情、能力を共有し、尚且つ自分こそがオリジナルだと思い込んでいるとしたなら……」
「ぼくたちの戦いはまだこれからだということだね」
ニーズヘッグが打ち切り漫画の主人公みたいなことを言った。
「未来のステラたちが、ブライを追いかけて俺の時代に来ることにもなるか……」
「さっきのレンジの話よりすっごくわかりやすい!
さすがステラ!! レンジはうんこ」
問題があるとすれば、レンジの父の大剣は、もはや何も映さないということだった。
ブライが複数存在する場合、一体何人のブライが存在し、それぞれがどこにいるのかもわからない。
「ソラシド」
「何でしょうか? アンフィス様」
「俺たちの話、聞いてたか?
ドラゴン様ふたりは仲良くおねんねしてくれちゃってるが」
「はい、なかなか興味深い内容でした」
「お前、ステラたちが俺とピノアを助けにきてくれたとき、すぐに俺たちの現在地を割り出したんだろ?
ブライ・アジ・ダハーカが複数存在するとしたら、その居場所もわかったりすんの?」
「すでにすべてのブライ・アジ・ダハーカの現在地を確認済みです。
世界地図を表示します。
赤く点滅している箇所のすべてが、ブライ・アジ・ダハーカの現在地です」
ソラシドが見せた世界地図には、数えきれないほどの点滅する赤い点が存在した。
「おいおい、何かの間違いだろ?
一体世界中に何人いやがるんだ?」
「現時点で9998人確認しています」
死んだブライを含めたら9999人だということだった。
おそらくは、ソラシドにすら特定できない、一万人目のオリジナル・ブライが存在するのだろう、とレンジは思った。
「どうやら長い旅になりそうね」
ステラは言った。
「いつリバーステラが攻めてくるかわからないのに、彼がまだ9998人もいるだなんて厄介だわ」
本当に。
ステラの言う通りだった。
「そうでもないと思うぜ。だろ? ソラシド」
「はい。すでに私は、すべてのブライ・アジ・ダハーカを殲滅対象として捕捉しています。
攻撃に特化したオメガポリス形態に移行すれば、殲滅対象以外の人や動植物、建物に一切被害を与えることなく、ブライ・アジ・ダハーカだけを攻撃し、殲滅することが可能です」
「アンフィス? ソラシド?
あなたたち、一体何を考えているの?」
ステラの問いに、アンフィスは、あんたが考えている通りのことだよ、と言った。
「あのね、ステラ」
ピノアもまた、
「わたしたちのおとうさんは、わたしが殺したあの人だけ。
他のブライ・アジ・ダハーカは、わたしたちのおとうさんじゃない。
だから、ソラシドとアンフィスがしようとしてくれてることは、世界のためにもなるし、わたしたちのためになると思う。
それに、わたしは、たとえわたしたちのおとうさんじゃなくても、二度とブライを殺したくない。
ステラにも殺させたくない」
そう言った。
ステラには何も言い返せなかった。
「ソラシド。
お姉さまの許可も出た。女王様も納得してくれたみたいだ。
すぐにやってくれ」
アンフィスは、驚くほど冷たい声で言った。
「オメガポリス形態に移行しつつ、余剰次元エーテルを集積、凝縮します……
拡散放射準備完了……
アンフィス様、ご命令を」
「必ず、ひとりだけお前にも居場所を悟らせないブライがいる。
そいつがオリジナルだ。あぶりだせ。
余剰次元エーテル超弦理放射砲『カラビ・ヤウ』、超拡散発射」
世界中に存在するブライ・アジ・ダハーカに向けて、飛空艇オルフェウスから9998筋の光の矢が放たれた。
その日は、テラの歴史に、
「ラグナロクの日」
として記されることになる。
『カラビ・ヤウ』の超拡散発射の後、ピノアはステラとレンジに話があると言って呼び出した。
「ブライから、おとうさんから、伝言を頼まれたから。
まずはステラからね。
父親らしいことを何もしてやれなくて、本当にすまなかったって。
それからレンジに。
君の父親は、最期まで本当に立派な男だった。
私は、君の父親が、サトシが、本当に好きだった。
それなのに、私はサトシに、君に、本当に申し訳ないことをしたって。
私は本当に愚かだったって」
もし、前国王が三賢者のひとりに婦女暴行などしなかったら。
ブライが人工的に産み出された魔人ではなければ。
リバーステラの何者かが、この世界の存在に気づかなかったら。
この世界をゴミ処理場にしなければ。
放射性物質がエーテルに取り憑き、ダークマターになることがなかったら。
レンジの父が、テラに訪れることがなければ。
すべては、たらればの話でしかなかったが、誰も悲しい思いをせずにすんだかもしれない。
「でも、ぼくは、この世界に来れて良かったよ。
ステラとピノアに出会えて。
ニーズヘッグたちにも出会えて」
心からそう思えたから、
「だから、必ずみんなでこの世界を守ろう」
レンジはそう言った。
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