「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
76 / 271

第76話 奇人変人の類

しおりを挟む
 ステラによれば、魔王と大賢者はどうやらゲルマーニの領土内に入ったばかりのようだった。
 エウロペとゲルマーニの国境を越えた先にある森だろうと。

 ゲルマーニは国境の手前には必ず森が存在し、その森を抜けた先に、大きく開けた草原があるという。
 その先には森と呼べるものはないらしい。
 また、生えている植物が違うからわかるのだとも言った。

 ふたりは徒歩で歩いており、大賢者は苦虫を噛み潰したような顔を、なぜか魔王に向けていた。
 忌々しいといった顔で魔王を睨み付けていた。

 ピノアとアンフィスは、おそらくはピノアがレオナルドを抱え、背中に羽根を生やして空を飛び、ゲルマーニの城や学術都市へ向かったはずだ。
 レオナルド・カタルシスが発動しているということは、行きは魔王や大賢者に見つからなかったということだろう。
 だが、帰りは見つかるかもしれない。

 大賢者ひとりなら、ピノアたちならばレオナルド・カタルシスを使うことによって間違いなく倒せる。
 だが、魔王は?
 魔王の力は未知数だ。

 大賢者はおそらく、ダークマターの魔法を使うことにより、放射性物質と思われる魔素に体を蝕まれる激痛から逃れるため、そして、より効果的にダークマターを扱うために、自らの体をアンデッドと化した。
 だが、魔王はそのような真似はしてはいないだろう。
 ダークマターに蝕まれる痛みや苦しみにずっと耐えてきたはずだった。
 動画の中の父は、混沌化をし続ける身体の痛みを必死にこらえながら、レンジに最期のメッセージを遺そうとしていた。
 父はあのとき、まぎれもなくその身体は生きていた。

 身体だけでなく心までも完全に魔王と化した今の魔王は、もはや痛みなど感じることなどなく、大賢者よりはるかにダークマターの魔法の扱いに長けているだろう。
 もはやレオナルド・カタルシスが効くかどうかもわからない。

 レンジは大賢者が使った「業火連弾」が、ステラとピノアの放った「初めての共同作業・業火六連」よりもさらに強大な威力を持っていたことを思い出した。
 あれ以上の力を魔王が持っていたとしたら、それを封じる術(すべ)がないのだとしたら、もはや今のピアノたちには、無論レンジやステラたちにもどうしようもない。

「ケツァルコアトルをすぐ呼んでくる。ステラはそれを見てて」

 レンジは部屋を飛び出し、ニーズヘッグとアルマの部屋に向かった。

 そこにはケツァルコアトルが人の姿でいて、すでに起きていた。

「おお、レンジか。聞いてくれ。
 我ははじめて『首を寝違えた』ぞ」

 レンジの顔を見ると、嬉しそうにそう言った。

「いや、そんな、前髪を切り過ぎたみたいな感じで、首を寝違えた報告とか、いちいちいらないから」

 ドラゴンの姿のときの、長い首の方が寝違えやすいような気もしたが、枕が合わないと寝違えやすいと聞いたことがあった。
 だから、ドラゴンのときには枕を使ったり、寝違えるような寝方をしたことがなかったのだろう。

 だが、それはもはや首を寝違えるというレベルではなく、完全に首がねじ曲がり、顔が背中を向いていた。

「治るの? それ」

「簡単だ」

 ケツァルコアトルは顔を両手で押さえ、バキボキと音を鳴らしながら首を元に戻した。

「うん、荒療治にもほどがある」

 そして、

「ゆうべはお楽しみだったようだが、一体朝から何の用だ?」

 と言った。

「ラダトームの宿屋の主人か」

 思わずツッコんでいた。

 何故彼が、昨夜の自分とステラの秘め事を知っているのかの方が大事なような気もしたが、どうせ「我は、汝ら人よりも耳が良い」だとかそんな返事が来るのだろうなとわかってしまった。

 それに、人の姿を手に入れてからというもの、彼は段々、ドラゴンらしさよりも人らしい言動をするようになり人らしい心を持ちはじめていた。
 だが、どちらかといえば、人らしいというよりかは奇人変人の類いではあったため、その話題に触れるのは危険な気がした。

「ラダトーム? 知らぬ土地の名だ」

「知ってたら逆にびっくりするけどね。
 堀井雄二さんがドラクエ作る前にこの世界に来てて、しかも無事に帰ってたかもっていう可能が出て来るから」

 そんな世界ビックリ人間ショーや漫談をしてる場合ではなかったことをレンジは思い出した。

「外を見てないの?」

 レンジにそう問われ、

「おそらくはピノアとアンフィスの仕業だろうな」

 ケツァルコアトルは窓に近づくこともなく、その場から窓の外、はるか向こうを見て言った。その言い方はすでに知っているようだった。
 それよりも、彼は今、自分が生まれてはじめて首を寝違えたことの方が優先順位が高かったのだ。

 やはり、奇人変人の類だ、とレンジは思った。ドラゴンだけど。

「ぼくの部屋に来て欲しい。見て欲しいものがあるんだ」



 レンジの父が遺した大剣に映る景色を見たケツァルコアトルもまた、ステラと同意見だった。
 その景色をエウロペとゲルマーニの国境を越えた先にある森だと断言した。

「しかし、なぜ大賢者は魔王をこんな顔で睨み付けている?」

「まさかとは思うけど、魔王を睨み付けていると見せかけて、実はレンジを睨み付けているなんてことはないわよね?」

 ステラの言葉にレンジはゾッとした。

 仮に大賢者が睨み付けている相手が、魔王ではなく、魔王の向こうにいるであろうレンジだというのなら。

 それは、その身体だけでなく心までも魔王になってしまう前の父が、愛剣にこのような仕掛けを施し、それをエウロペの国王を殺す際に魔王が使うよう仕向け、レンジの手に渡るように事前に用意周到に準備していたことがばれているということだった。

「大賢者が貞子みたいにこの剣から出てきそうでこわいな……」

 レンジは思ったことを思わず口にしてしまった。

「貞子? リバーステラのあなたのお友達?」

 ステラはなんだかやきもちをやいているように見えた。
 やきもちをやいてくれているのは嬉しかったが、貞子が友達というのは勘弁だった。

「リバーステラの創作物に出て来る幽霊だよ。
 ステラは父さんがぼくに遺してくれた動画をいっしょに観たろ?
 ぼくや父さん、それにステラやピノアも持っているスマートフォンってやつを何倍も大きくしたテレビやパソコンといったものがリバーステラにあるんだけど、その幽霊は、父さんが遺してくれたような動画から、画面の外に実体を伴って出て来る超こわい人」

 レンジは説明をしながら、異世界に住む人に貞子の怖さを説明するのは難しいなと思った。

「ピノアならやって見せちゃいそうだけれど、大賢者にはそこまでは無理ね。
 とりあえず、大賢者にはまだ、この大剣のことは知られていないと仮定して話を進めましょう」

 ステラは、昨晩とは異なり冷静さを取り戻していた。
 きっと口ではそう言いながらも、彼女はその可能性がある場合の対処法も考え始めていた。

「問題は、このあとピノアやアンフィス、それにレオナルドが、魔王や大賢者と鉢合わせるかもしれないということ」

「それだけではないぞ。
 ニーズヘッグとアルマもまた、ゲルマーニに張られた結界を見ているだろう。
 ふたりはおそらく飛空艇で我らを拾いにこの町に戻ってくるとは思うが、万が一ということもある」

 ケツァルコアトルは窓に足をかけた。

「ドラゴンの姿で下で先に待っている。
 急いで準備をして出て来てくれ。
 まずは、ニーズヘッグとアルマと合流する。
 ニーズヘッグの居場所ならわかるからな」

 ケツァルコアトルは窓から飛び降りると、その姿をドラゴンへと変えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...