「キヅイセ」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
上 下
55 / 266

第55話 外典 最後の晩餐は繰り返される。~救厄の聖者たち~ ②

しおりを挟む
 大厄災を、彼はもう8度も経験してきた。

 だが、それが人の手によるものなのか、天変地異のようなものなのか、あるいは神の手によるものなのか、なぜ彼だけが生き残ってしまうのか、彼にはいまだにわからないでいた。

 それどころか、本来なら12人のはずの彼の弟子はなぜか13人おり、おそらくその中にひとり裏切り者がいるのだ。
 その者は大厄災を望む者と内通しているのだろう。

 何度繰り返しても、彼は、

「自らを救厄の聖者と名乗り、多くの国の民の心をかどわかした偽りの聖者」

 という、無実の罪を着せられ、されこうべの丘で処刑されてしまう。


 彼は自らを聖者であると名乗ったことは一度もなかった。

 物心ついたときには、父や母が幼い彼を連れてそう言って触れ回っていた。
 彼の外見や、高い知性、優れた魔法の才能を見て、皆がそれを信じた。

 彼を神の子だと言い始める者もいた。
 それは噂となって近隣諸国に瞬く間に広がった。

 そしてついに、

「夫の不在中に、天使様がわたしのところへ舞い降りてこられました。
 天使様はわたしに、神様の子を授かるようおっしゃられたのです」

 母はそんなことを口にするようになった。


 母は貧しい家庭に生まれ、文字の読み書きすらできなかった。
 まともな教育を受けておらず、教養もない。
 当然聖書も読めるわけもなく、父に朗読してもらって聞いていた。
 その顔は、内容を理解しているようには思えなかった。

 そんな彼女が、富や地位や名声を手に入れるために、父を巻き込んで、自分を利用しようとしているのが許せなかった。
 それは、もしかしたら母ではなく、父が言い出したことかもしれなかった。
 父も読み書きこそできたが、貧しい家庭に生まれ育った。

 アンフィスもまた、両親が富を手に入れるまでは貧しい暮らしを送っていた。

 だから、彼は親を捨て家を出た。


 目に映るものすべてを破壊してしまいたい衝動にかられながらも、彼は必死でそれを押さえ込み、目に映るすべての人を魔法で助ける旅を始めた。

 弟子たちはいつの間にか勝手についてきていた。

 彼は救厄の聖者かもしれなかったが、神の子などではなかった。
 だから、神の言葉を聞いたことはなかった。
 母の作り話のように、天使が目の前に降りてきたこともなかった。

 彼は、両親と同じくらいに神を憎んでいた。
 救厄聖書などというものさえなければ、自分は両親が財を成すための道具として利用されることはなかっただろう。
 そう考えると、あんな中途半端な預言を書き残した者にも腹が立った。

 もし神や天使が目の前に降りてくることがあったなら、殺せるならば殺してしまうかもしれなかった。

 弟子たちに教えてやれたのは、魔法くらいだった。

 彼らを家族のように思っていた。愛していた。
 疑いたくはなかった。

 だから、これから彼が言おうとしていた言葉は、彼が両親だけでなく、血の繋がりこそないものの、ようやく手に入れた家族を失うことになるとわかっていた。

 それでも言わなければならなかった。


「この中に、ひとり裏切り者がいる」


 晩餐の席は静まりかえった。

 13人の弟子たちは、それぞれが隣にいる者と顔を見合わせた。

 そして、彼に向かって、彼が教えた、魔法を放ち、攻撃をしかけてきた。


「全員が裏切り者だったってわけかよ。上等だ。ぶち殺してやる」

 彼はそう言って、





 そして、十度目の最後の晩餐の席にいた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~

うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」  冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。  あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。  見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。    雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、 「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」  と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。  一方で、女騎士も似たようなもんだ。 「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」  こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!    使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。  もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。    ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...