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4 秘めた思い

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俺の敗北宣言を聞いたサトシは怒鳴った。

「待て!! サヨナラってどうしてだ! どうして、そんな事を言うんだ?」

「お前、いつもイクとき、泣いているだろ? 悔しいんだろ? 無理矢理いかされるのが」
「ち、違う! オレは嬉しいと、つい涙が出てきちまうんだ……」

「何だと? いつも流す涙、それは嬉し涙だとでもいうのか?」
「あ、ああ……それが恥ずかしくて。子供っぽいからな……」

「……つまり、お前は俺とするとき、嬉しいっていうのか?」
「あ、ああ……」

上目遣いで、チラチラと俺の顔色を覗き込む。
時折恥ずかしそうに、下を向いた。

「まぁいい。では、なぜ、お前は俺に心を開かないのだ」

俺の核心を突く問いに、サトシは、目を大きく見開いた。
手を握り締めて、叫んだ。

「開いていたよ!! 最初から!!」
「な、それはどういう事だ? お前は俺に抱かれるのを嫌がっていたとしか思えない」

「そ、そう見えていたかもしれない。でも仕方なかった……だって、オレは、ヒロミ、お前の事を大好きだから!!!」

サトシは、そう言ってから、頬を真っ赤に染めて恥ずかしそうにうつむいた。

サトシは語った。

「……どんな自分でいればいいのか分からなかった。ヒロミはどんなオレが好きなのか分からなかったし……男を喜んで受け入れてしまうエッチなオレは嫌いなのかとも思った……不安だった、心配だった、どうしたらいいか分からなかった……」

サトシはそこまで語ると、ううう、嗚咽を吐き、そして最後には、涙をポロポロ流した。
我慢していたものが、堰を切って溢れ出したのだ。
 
「だって、ヒック……ヒロミに嫌われたくなかった。だから……ヒック……」 

しゃっくりを堪えながら必死に訴えるサトシ。
俺は、全身の力が抜けるのを感じた。

「……何だよ、これ……」

つまり、俺が戦っていたものはただの幻想で、はなっから敵などいなかったということになる。

「くくく、笑えるな……あはははは」
「……ひ、ヒロミ?」

俺は、自分をあざけるように笑った。
笑うだけ笑うと、スッキリした。

不思議そうに俺を見るサトシに、俺は言った。

「いいか、サトシ。お前は全てを曝け出していい。例え、お前が男でしか感じないエッチな体でも俺は一向に構わない」
「本当に、嫌いにならないか?」

「ならない。何度も言わせるな」
「本当だな!」

サトシは、一転、パッと顔を明るくした。
弾む声で言った。
 
「実は、オレは最初からヒロミの事が好きで付き合いたいって思っていた。もちろんエッチな事もしたいと思っていたから、ヒロミに誘われたときどんなに嬉しかった事か。前の日の夜は、ドキドキして寝れなかったし、入念にお風呂で体を洗ったし、下着とかだって気を使ったし、エッチな男専門のサイトを見て予習とかもしたぜ!」
「ちょ、ちょっと待て! ゆっくり話せ!」

「ったく! ずっと我慢してたんだぞオレは。だから、オレの話、しっかり聞けよ!!」

サトシは、目をキラキラさせて興奮気味。

「……それでな。オレ、ヒロミとのエッチ、すごく気持ちよくて最高なんだ……実はオレ、いつも家に帰ってからその日の事を思い出して一人エッチしてる! こうやってヒロミに触られたとか、こんな風に囁いてくれたとか。ふふふ、オレってエッチだろ? オレ、今もヒロミとする事思い浮かべるだけで、ゾクゾクして変な気分になっちまうんだ……しかしな、ヒロミがオレに優しくて、お前すげぇカッコいいから、ヒロミのせいでもあるんだからな!!」
「おい、サトシ! もういい、分かったから!」

「それでな、オレがヒロミの何処が特に好きかと言うとな……」

サトシの話は終わる気配がない。

(なんてお喋りなんだ。こんな一面もあったんだなサトシは。でも、これはクラスで見るサトシに近い。まぁ、そんな事はこの際どうでもいいのだが……)
 
「なぁ! ヒロミ! ちゃんとオレの話、聞いてるか!!」
「ああ 聞いている。だが、その前に……」

「キスだろ? しようぜ!! オレ、実は、ヒロミとのキス、大好きなんだ!! 知らなかっただろ!!」

さすがにそれは知っていた。
そう答える前に、サトシは、俺に抱き付いてきた。

「チューー!! んっはぷっ!!!」

甘いキス。
吸い付き吸われ、唾液がぐちょぐちょに混ざり合う。
快楽に浸り、トロトロになったサトシの体。
俺は、サトシの体をゆっくりと引き離した。

「はぁ、はぁ……ヒロミ? どうしたんだ?」
「なぁ、サトシ。一つ確認させてくれ」

「ああ、何でも聞いてくれ」
「俺に誘われる前から、俺の事を好きだと言ったな。どうして、告白して来なかった」

「そ、それは……お前が」

口ごもるサトシ。

やっぱりな。
口ではどうとでも言える。
クラスで一番の人気者と、俺のような落ちこぼれとじゃ全く釣りあっていない。
男同士って事以上に、不自然。
周りからは変な目で見られるだろう。

それに耐えられなかった。
俺への気持ちはその程度って事だ。

俺は軽く失望した。
だがそれは、続くサトシの言葉でひっくり返った。

「……実は、オレ、お前に何度も告白してたんだ……」
「なんだと? 本当か?」

「ははは。やっぱりな……」

照れながら悲しい顔をした。
目には少し涙を浮かべてる。

「いつだよ? 言ってみろよ」
「バレンタインデーとか、誕生日とか、クリスマスとかに……プレゼントを……」

俺は、はっとした。
思い当たる節がある。

それは、こっそりと鞄に入っていた小さな紙袋。
可愛い字で、「好きです」の文字が並び、手作りのお菓子が添えられていた。
間違いなく女だろう。

しかし全く思い当たる節がない俺は、これはストーカーの仕業に違いないと、ちゃんと中身を確認せずにゴミ箱に捨てていた。

「ま、まさか……お前だったのか……」
「ああ……オレ、お菓子作り教室にこっそりと通ったりしたんだ……でも、その様子だと食べてもらえてなかったようだな……そうか」

今まで見たことない悲しい顔をした。
俺は返す言葉が見つからなかった。

「……いいんだよ。オレ、片想いも嫌いじゃ無かったから……」

サトシはぐすりの鼻を啜った。

こいつ俺の事をそこまで……。
だからこいつの目を見て俺はすぐに惹かれた。
俺を真剣に見てくれていたからだ。

「サトシ、悪かったな」
「へへへ、いいって事よ!」

「いいわけないだろ!!」
「え!?」

俺は、サトシをギュッと抱きしめた。

「……気が付いてやれなくて、ごめん。悪かった。本当にすまん……」

サトシは、呆気に取られていたが、しばらくして笑みを浮かべた。

「……ありがとう、ヒロミ。オレ、嬉しいよ……」
「……幸せにしてやるぜ、サトシ。これからずっと……」

「……ああ。よろしく頼むぜ……ヒロミ」

俺は、ゆっくりとシートを再び倒し始めた。
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