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25 夢を超えたその先へ(1)
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ついにその日を迎えた。
ロックフェス。メインステージ。
その舞台袖。
カイトは、武者震いしてダイチに話しかけた。
「ダイチ、ついに来たな。マジで来ちまった」
「ああ、そうだな……俺達の夢が叶う瞬間だ!」
「あの日誓った俺達の夢……二人でロックフェスのメインステージに立つ。やばい、俺、感動で震えがとまんねぇぜ」
「俺もだぜ、カイト! 感動で胸のドキドキが収まらねぇ」
そこへ、ヒビキの怒鳴り声が飛んだ。
「カイト、ダイチ! 何をしている。行くぞ!」
「はい!」
二人は、先にいくソラとヒビキを追いかけ、観客の声援が待つステージへと駆け上がった。
****
数か月前の事。
ヒビキは、カイトをプレイヤー兼プロデューサー見習いとして、プロダクション事務所に迎え入れた。
そして、これを機に新たなプロジェクトを立ち上げる事を決めた。
ヒビキは、ソラ、ダイチ、カイトの3人を事務所に呼び出して言った。
「新生・ボーイズ・ラヴァーズを結成する」
3人は顔を見合わせる。
バンド構成は、ソラ、ダイチのツインボーカルで、楽器担当は、ギターは、ダイチ。ベースは、カイト。キーボードは、ソラ。
バンド結成に当たり、ヒビキは、ずっと悩んでいたことがあった。
それを3人に告白した。
「俺も、プロデュースだけでなく、ボーイズ・ラヴァーズのメンバーに入れてもらえないだろうか?」
ソラとカイトは驚いて口をポカンと開けた。
ダイチだけが、すぐに反応した。
「やった! ヒビキさん、ドラムっすよね? 俺、ヒビキさんのドラム、生で聞きたかったんすよ!」
「だ、ダイチ、なぜドラムだとわかった? まだ、何も言っていないだろ」
「え? 違いました? だって、ヒビキさんとトレーニングの時、俺の頭の中に、ヒビキさんが大勢の観客の前でドラムを楽しそうに叩いているイメージが流れて来て、それ見てたから……」
「なっ……まさか、セックスシンフォニックで……俺の潜在的な願望を共有していたのか?」
「あれ?? もしかして秘密でした? すみません……ヒビキさん」
ダイチは小さくなった。
ヒビキは、笑った。そして、真相を打ち明ける。
「あははは。ダイチ、お前は悪くない……俺も、実は最近まで気がつかなかった。ずっと、ブロードウェイにソラを立たせたい。それが自分の夢だと信じ込んでいた。が、実は、俺自身、学生の頃に諦めたバンドの事を投影していただけだった。それが分かったんだ……」
「……そ、それじゃあ。ヒビキさんとオレの夢は?」
ソラは驚いてヒビキに尋ねた。
いつか、ブロードウェイの舞台に立つ。
ソラは、このボーイズ・ラヴァーズも、その通過点だとばかり思っていた。
「……ソラ、すまない。それは無しだ。その代わり、俺と一緒にバンドを組んでくれないか? 素人の俺と一緒じゃ嫌か?」
「ヒビキさん! そ、そんな事……嫌な事なんて有る訳ないじゃないですか! 嬉しいです、オレ。ヒビキさんの側でずっと音楽ができる……こんな事ってありますか! 嬉しいに決まっています!」
大興奮のソラ。
それを、カイトとダイチは、温かい目で見守る。
カイトは言った。
「ヒビキさんのドラムは大歓迎っすよ……でも、バンド名をわざわざ、ボーイズ・ラヴァーズにする必要あります? それ、ダイチが適当に付けた名前っすよ?」
「て、適当とはなんだよ! カイト!」
ムキになって突っかかるダイチ。
ヒビキは、手を上げて制した。
「俺達は、最愛のパートナーと共にここにいる。一緒に一つの曲を作り、演奏し、感じ合うことができる。愛し合う男達。これ以上の名前があるか?」
3人は互いに顔を見合わせた。
そして、うんうん、と頷いて同意した。
「よし! 皆、拳を固めて! 結成の誓をしよう!」
ダイチが、急に言い出した。
ヒビキをはじめ、ソラ、カイトは驚いてダイチを見る。
「ほら、はやく! いくぜ!」
ダイチの強引な勢いに乗せられ拳を固める3人。
ダイチは、大きく掛け声を上げた。
「俺達は4人、力を合わせて頂点を目指す! ボーイズ・ラヴァーズだ! オー!」
こうして、新たなバンド『ボーイズ・ラヴァーズ』は、音楽活動をスタートさせた。
****
「最高だぞ! ボーイズ・ラヴァーズ!」
「ひゅー、ひゅー! すげぇぜ、ソラとダイチのユニットとかヤバすぎ!」
「カッコいいよ! ソラ! ダイチ!」
緊張の最初の一曲が終わった。
予想以上の盛り上がりで、ステージ上の4人は興奮状態のまま互いの顔を見合わせた。
皆、いい笑顔。
ほとばしる汗が、スポットライトを浴びてキラキラと輝く。
いい男達が、さらにカッコよく映える。
マイクを持ったソラが観客席に向かって叫んだ。
「えー、オレ達、ボーイズ・ラヴァーズです!」
歓声が轟音となって会場を揺らす。
しゃべり上手なソラは、宣伝を兼ねて会場を盛り上げる事を忘れない。
「まだ結成されたばかりですが、このステージを皮切りに全国ツアーも計画しています! オレとダイチがセットなんで、超お買い得です!」
「わはははは、そうだ!」
「本当だ! オレ、絶対にいくいく!」
「二人とも推しだから、あたし絶対に応援にいくからね!」
ソラがMCをしている間の事。
カイトは、会場を見渡して、ダイチに話し掛けた。
「すごいな、ダイチ……」
観客席を見るといろんな顔が目に入る。
楽しい顔、笑っている顔、憧れを向ける顔。
少し前までは、自分達がそうであった。
それなのに今はこっち側。
ダイチは、目にうっすら涙をたたえて答える。
「ああ、本当に俺達、ロックフェスのメインステージに立ってる……夢じゃないよな?」
「ああ、そうさ。俺達はついに夢を叶えたんだ」
「俺、今日の事は絶対に忘れない……絶対に……」
カイトも、そうだな、と深く頷いた。
ソラのMCは次の曲の紹介に入った。
「えっと、次は『スターダム・remix』『ゆずれない想いForever・remix』の2曲続けてお送りします!」
「うぉー!! まじか!!」
「伝説の戦い再び、じゃねぇか!」
「それもツインボーカルで? あちぃ!!」
「すげーー!!」
会場からは驚きと、それ以上の歓喜の声で迎えられた。
ヒビキは、カイトとダイチに声を掛けた。
「二人とも準備はいいか? 最後まで気を抜くなよ!」
「は、はい!」
「よっしゃ、いくぜ!」
ヒビキによる、スティックによるリズム取りが始まる。
「ワン、ツー。ワン、ツー、スリー、フォー……」
大歓声の中、始まる楽曲。
4人は、生き生きとして演奏を始め、会場を揺らしながら走り始めた。
そして、全曲目を歌い切り、ボーイズ・ラヴァーズの初ライブは成功の内に幕を閉じた。
****
4人を乗せたタクシーは、ロックフェス会場からほど近い老舗温泉旅館に向かっていた。
ダイチが興奮気味に、助手席に座るヒビキに言った。
「ヒビキさんのドラムすごくよかったです。オレ、歌っててジンジンきました」
「そうか……腕が鈍っていないか心配したが……それに、ダイチのギターも悪くない。及第点だ」
「そう思いますよね? よっしゃ! わははは!」
ダイチはご機嫌でカイトの肩を、ドカドカ叩いた。
カイトは、たまらずに怒鳴った。
「こら、こら調子に乗るな、ダイチ! お前、ミス連発してただろ?」
「え!? バレてた?」
とぼけ顔のダイチ。
ヒビキからフォローが入る。
「まぁ、そういうなカイト。お前のベースがしっかりしていたから、観客には新しいアレンジぐらいにしか感じなかっただろ」
「……そうっすかね、ヒビキさん……」
腑に落ちずに睨むカイトに、ダイチは口を尖らせて応戦する。
「ほら! カイトは俺に厳しすぎだぜ!」
「お前は、甘やかすとすぐにこうだ……全く、ブツブツ……」
ソラは、そんな二人のいつものやり取りを微笑ましく見つめた。
ダイチは、そのソラに話を振った。
「ところでソラさん! 俺、ソラさんとのハモリのとこ、最高に気持ちよかったです!」
「それはオレもだ。お前とはいい感じでからめられる。不思議とな……」
ソラは、ライブの様子を思い出して、そのフレーズを口ずさんだ。
それに合わせ、ダイチも歌を乗せる。
伸びのある太い低音のソラと、透明感のある高音のダイチが見事なハーモニーを奏でる。
カイトとヒビキは目を閉じて聴き入る。
「……いいな。最高っすね」
「ああ、最高の組み合わせだ……」
さながらプラベートコンサートになった車内は、ライブ会場の熱がまだ残っているかのようだった。
ロックフェス。メインステージ。
その舞台袖。
カイトは、武者震いしてダイチに話しかけた。
「ダイチ、ついに来たな。マジで来ちまった」
「ああ、そうだな……俺達の夢が叶う瞬間だ!」
「あの日誓った俺達の夢……二人でロックフェスのメインステージに立つ。やばい、俺、感動で震えがとまんねぇぜ」
「俺もだぜ、カイト! 感動で胸のドキドキが収まらねぇ」
そこへ、ヒビキの怒鳴り声が飛んだ。
「カイト、ダイチ! 何をしている。行くぞ!」
「はい!」
二人は、先にいくソラとヒビキを追いかけ、観客の声援が待つステージへと駆け上がった。
****
数か月前の事。
ヒビキは、カイトをプレイヤー兼プロデューサー見習いとして、プロダクション事務所に迎え入れた。
そして、これを機に新たなプロジェクトを立ち上げる事を決めた。
ヒビキは、ソラ、ダイチ、カイトの3人を事務所に呼び出して言った。
「新生・ボーイズ・ラヴァーズを結成する」
3人は顔を見合わせる。
バンド構成は、ソラ、ダイチのツインボーカルで、楽器担当は、ギターは、ダイチ。ベースは、カイト。キーボードは、ソラ。
バンド結成に当たり、ヒビキは、ずっと悩んでいたことがあった。
それを3人に告白した。
「俺も、プロデュースだけでなく、ボーイズ・ラヴァーズのメンバーに入れてもらえないだろうか?」
ソラとカイトは驚いて口をポカンと開けた。
ダイチだけが、すぐに反応した。
「やった! ヒビキさん、ドラムっすよね? 俺、ヒビキさんのドラム、生で聞きたかったんすよ!」
「だ、ダイチ、なぜドラムだとわかった? まだ、何も言っていないだろ」
「え? 違いました? だって、ヒビキさんとトレーニングの時、俺の頭の中に、ヒビキさんが大勢の観客の前でドラムを楽しそうに叩いているイメージが流れて来て、それ見てたから……」
「なっ……まさか、セックスシンフォニックで……俺の潜在的な願望を共有していたのか?」
「あれ?? もしかして秘密でした? すみません……ヒビキさん」
ダイチは小さくなった。
ヒビキは、笑った。そして、真相を打ち明ける。
「あははは。ダイチ、お前は悪くない……俺も、実は最近まで気がつかなかった。ずっと、ブロードウェイにソラを立たせたい。それが自分の夢だと信じ込んでいた。が、実は、俺自身、学生の頃に諦めたバンドの事を投影していただけだった。それが分かったんだ……」
「……そ、それじゃあ。ヒビキさんとオレの夢は?」
ソラは驚いてヒビキに尋ねた。
いつか、ブロードウェイの舞台に立つ。
ソラは、このボーイズ・ラヴァーズも、その通過点だとばかり思っていた。
「……ソラ、すまない。それは無しだ。その代わり、俺と一緒にバンドを組んでくれないか? 素人の俺と一緒じゃ嫌か?」
「ヒビキさん! そ、そんな事……嫌な事なんて有る訳ないじゃないですか! 嬉しいです、オレ。ヒビキさんの側でずっと音楽ができる……こんな事ってありますか! 嬉しいに決まっています!」
大興奮のソラ。
それを、カイトとダイチは、温かい目で見守る。
カイトは言った。
「ヒビキさんのドラムは大歓迎っすよ……でも、バンド名をわざわざ、ボーイズ・ラヴァーズにする必要あります? それ、ダイチが適当に付けた名前っすよ?」
「て、適当とはなんだよ! カイト!」
ムキになって突っかかるダイチ。
ヒビキは、手を上げて制した。
「俺達は、最愛のパートナーと共にここにいる。一緒に一つの曲を作り、演奏し、感じ合うことができる。愛し合う男達。これ以上の名前があるか?」
3人は互いに顔を見合わせた。
そして、うんうん、と頷いて同意した。
「よし! 皆、拳を固めて! 結成の誓をしよう!」
ダイチが、急に言い出した。
ヒビキをはじめ、ソラ、カイトは驚いてダイチを見る。
「ほら、はやく! いくぜ!」
ダイチの強引な勢いに乗せられ拳を固める3人。
ダイチは、大きく掛け声を上げた。
「俺達は4人、力を合わせて頂点を目指す! ボーイズ・ラヴァーズだ! オー!」
こうして、新たなバンド『ボーイズ・ラヴァーズ』は、音楽活動をスタートさせた。
****
「最高だぞ! ボーイズ・ラヴァーズ!」
「ひゅー、ひゅー! すげぇぜ、ソラとダイチのユニットとかヤバすぎ!」
「カッコいいよ! ソラ! ダイチ!」
緊張の最初の一曲が終わった。
予想以上の盛り上がりで、ステージ上の4人は興奮状態のまま互いの顔を見合わせた。
皆、いい笑顔。
ほとばしる汗が、スポットライトを浴びてキラキラと輝く。
いい男達が、さらにカッコよく映える。
マイクを持ったソラが観客席に向かって叫んだ。
「えー、オレ達、ボーイズ・ラヴァーズです!」
歓声が轟音となって会場を揺らす。
しゃべり上手なソラは、宣伝を兼ねて会場を盛り上げる事を忘れない。
「まだ結成されたばかりですが、このステージを皮切りに全国ツアーも計画しています! オレとダイチがセットなんで、超お買い得です!」
「わはははは、そうだ!」
「本当だ! オレ、絶対にいくいく!」
「二人とも推しだから、あたし絶対に応援にいくからね!」
ソラがMCをしている間の事。
カイトは、会場を見渡して、ダイチに話し掛けた。
「すごいな、ダイチ……」
観客席を見るといろんな顔が目に入る。
楽しい顔、笑っている顔、憧れを向ける顔。
少し前までは、自分達がそうであった。
それなのに今はこっち側。
ダイチは、目にうっすら涙をたたえて答える。
「ああ、本当に俺達、ロックフェスのメインステージに立ってる……夢じゃないよな?」
「ああ、そうさ。俺達はついに夢を叶えたんだ」
「俺、今日の事は絶対に忘れない……絶対に……」
カイトも、そうだな、と深く頷いた。
ソラのMCは次の曲の紹介に入った。
「えっと、次は『スターダム・remix』『ゆずれない想いForever・remix』の2曲続けてお送りします!」
「うぉー!! まじか!!」
「伝説の戦い再び、じゃねぇか!」
「それもツインボーカルで? あちぃ!!」
「すげーー!!」
会場からは驚きと、それ以上の歓喜の声で迎えられた。
ヒビキは、カイトとダイチに声を掛けた。
「二人とも準備はいいか? 最後まで気を抜くなよ!」
「は、はい!」
「よっしゃ、いくぜ!」
ヒビキによる、スティックによるリズム取りが始まる。
「ワン、ツー。ワン、ツー、スリー、フォー……」
大歓声の中、始まる楽曲。
4人は、生き生きとして演奏を始め、会場を揺らしながら走り始めた。
そして、全曲目を歌い切り、ボーイズ・ラヴァーズの初ライブは成功の内に幕を閉じた。
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4人を乗せたタクシーは、ロックフェス会場からほど近い老舗温泉旅館に向かっていた。
ダイチが興奮気味に、助手席に座るヒビキに言った。
「ヒビキさんのドラムすごくよかったです。オレ、歌っててジンジンきました」
「そうか……腕が鈍っていないか心配したが……それに、ダイチのギターも悪くない。及第点だ」
「そう思いますよね? よっしゃ! わははは!」
ダイチはご機嫌でカイトの肩を、ドカドカ叩いた。
カイトは、たまらずに怒鳴った。
「こら、こら調子に乗るな、ダイチ! お前、ミス連発してただろ?」
「え!? バレてた?」
とぼけ顔のダイチ。
ヒビキからフォローが入る。
「まぁ、そういうなカイト。お前のベースがしっかりしていたから、観客には新しいアレンジぐらいにしか感じなかっただろ」
「……そうっすかね、ヒビキさん……」
腑に落ちずに睨むカイトに、ダイチは口を尖らせて応戦する。
「ほら! カイトは俺に厳しすぎだぜ!」
「お前は、甘やかすとすぐにこうだ……全く、ブツブツ……」
ソラは、そんな二人のいつものやり取りを微笑ましく見つめた。
ダイチは、そのソラに話を振った。
「ところでソラさん! 俺、ソラさんとのハモリのとこ、最高に気持ちよかったです!」
「それはオレもだ。お前とはいい感じでからめられる。不思議とな……」
ソラは、ライブの様子を思い出して、そのフレーズを口ずさんだ。
それに合わせ、ダイチも歌を乗せる。
伸びのある太い低音のソラと、透明感のある高音のダイチが見事なハーモニーを奏でる。
カイトとヒビキは目を閉じて聴き入る。
「……いいな。最高っすね」
「ああ、最高の組み合わせだ……」
さながらプラベートコンサートになった車内は、ライブ会場の熱がまだ残っているかのようだった。
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