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21 戻れぬ愛(2)

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ダンスレッスンにヒビキが顔出すのは久しぶりの事だった。
ダイチは、ヒビキの姿を見つけると駆け寄る。

「どうしたんです、ヒビキさん。珍しいですね」
「実は、極秘裏に進めていたプロジェクトがあってな。その話をしたい」

「へぇ、極秘ですか……何だかワクワクしますね」
「詳しく話す。レッスンが終わったら会議室まで来てくれ」

「はい!」

少しして、会議室にダイチがやってきた。
ヒビキは、さっそく例のソラとのコラボ企画の話を切り出した。

「ああ、俺とソラさんとで歌の勝負のやつっすか? 確か、ニュースになってましたね」
「そうだ。しかし、それは表向きの話。実は秘密だが、ソラが勝てば、ソラはうちのプロダクションに戻る事になっている」

「へぇ、すごい! そうなったら、俺はソラさんとユニット組みたいです! うん、いいアイデア!」
「……ちょっとそれは難しいな」

「ええっ……どうしてですか?」
「それは、ソラと入れ違いで、お前はカイトの元へ戻ることになるからだ」

「え!? いま、何て?」
「ダイチ、お前はカイトの元に戻るんだ」

ヒビキの言葉に、一瞬真顔になったダイチだったが、すぐに笑い出した。

「……あははは。ヒビキさん、冗談きついな……カイトは、ヒカルって男と付き合っているんです。俺はカイトに本当に捨てられたんですよ。もう、冗談はやめてください……」
「この記事を読んでみろ、ダイチ」

ヒビキは、用意していたタブレット端末をダイチに手渡した。

そこには、ヒカルのインタビュー記事があった。

メインの記事は、現プロデューサーとの熱愛を歌にした新曲『プロデューサーはぼくのご主人様』のプロモーション記事。

その他に、ヒカルのヒット曲、『オレを天国につれてって』誕生の秘話が語られていた。

ヒカルは、対談者にこう語る。

『あの曲を作ってくれた男の事は一生忘れない。今の自分があるのは、あいつが才能を見い出してくれたから。感謝しかない。ただ、あいつはずっと想い続けている相手がいて、離れ離れで苦しんでいた。自分では助けになれなかった……そんなあいつには絶対に幸せになってほしい』

ダイチは、そこまで読んで顔を上げた。

「あいつ……って、まさか……」
「間違いなくカイトの事だろう。そして、カイトが想い続けてる相手というのは、ダイチ。お前の事だ」

「な!? う、嘘だろ……」

ダイチは頭を抱えて言った。

「カイト……お前、ヒカルと付き合っていたんじゃないのか……俺が勝手に勘違いをしてただけだというのか……」

嘘だろ、嘘だろ、を繰り返すダイチ。
ヒビキは、混乱するダイチの手をギュッと握ってやった。
勘違いする事で上手くいった事もある。もちろん、上手くいかなかった事も……。

ヒビキは、それを言おうとしてやめた。
今更言っても何の意味も持たないと思ったからだ。

だから、ヒビキは本題に入る事にした。

「で、歌の勝負だが、ソラはカイトがプロデュースする事になっている」
「カイトが!?」

「ああ。これは俺のこだわりなのだが、俺達は、ソラとカイトに勝利する事で次のステージへ進めると確信している。カイトは、俺が認めた最大のライバルであり、ソラは、お前が超えるべきライバルだ」
「ライバル……」

ダイチは、つぶやいた。
その言葉は、何の感情も入ってないように見えた。

カイトの事で頭がいっぱいなのだろう。
ヒビキは、ダイチの腕を引き寄せ抱きかかえた。

「ダイチ、言っておくが、俺達が作った新曲は、今までで最高の出来だ。だから、負けは万に一つもない。残念だが、ソラが戻ってくることも、お前が、カイトの元に戻ることもない。変な希望を持たせて悪かったが、黙っていたのではフェアじゃないと思ってな……」

「……それでいいです。ヒビキさん。俺、今更、あいつの元になんて戻れない。こんな汚れた体になっちまった俺じゃあ……」

「ダイチ。俺とお前は似てる。もう突っ走るしかないんだ。後戻りなんてできない。お互い、愛するものを捨てた身なのだから……」
「はい。分かっています。ヒビキさん」

二人はそのまま固く抱き合い、慰め合うようにキスをした。

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