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12 スターへの階段(2)
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プロダクション事務所。
ヒビキは椅子を倒して、ダイチのライブ映像を念入りにチェックしていた。
「今のままでも悪くはない……悪くはないのだが……」
チャートのランキングは頭打ちとなっていた。
ヒビキは、ダイチに何かが足りない事は感じとっていたが、それが何なのかまではわからずにいた。
このままでは、ソラがアイドル時代に辿った道には遠く及ばない……。
そんなヒビキの思案を邪魔するかのように、トキオが声を掛けてきた。
「ヒビキさん……すみません、ちょっといいですか?」
「何だ? トキオ」
「この曲聴いてみて下さいよ。最近、SNSで流行っていて……」
トキオは、仕事面では凡庸な男だが、流行りには人一倍敏感でそれはヒビキも一目をおいている。
ヒビキは早速トキオお勧めの曲を視聴した。
「ほう……確かに……悪くない」
「でしょ? ウオッチしておいた方がいいと思いまして。うちじゃ、こんなキャッチーな曲は出せませんけどねぇ。ちょっと安っぽいっていうか……」
「バカ言え。下に見るなよ。音楽に上も下もねぇんだ。いいか、悪いかだけだ」
「ヘイ……すんません……」
ヒビキは、更にじっくりと曲を分析をする。
自分では、決して思いつかないようなアイデアが各所に盛り込まれ、体が刺激を受け自然と乗ってくる。
ダイチにも聞かせたら、きっといい刺激になるはずだ。そして、現状を打破する為の突破口が得られるかもしれない。
そう思ったヒビキは、早速トキオに声を掛けた。
「……なぁ、トキオ。ダイチは今どうしている?」
「ダイチは、確か、外のスタジオに行くって言ってましたね。送迎の運転手が言ってました」
「ほう、そうか……」
たまには外のスタジオで思いっきり歌い込んでもいいかもしれない。
そう思ったヒビキは、ダイチの事は一旦おき、曲の素性を調べようとネット検索を掛けた。
「……今までにないこの感じ……セックスシンフォニックだったりしてな……」
曲の詳細欄に見慣れた名前を見つけ、ヒビキは愕然とした。
「な! 作曲カイトだと!? あの男か? いつの間にこんな曲を書けるようになったんだ。だたのど素人だったはずだ」
かつてダイチとペアを組んでいた男。その記憶が甦る。
ダイチとペア?
ふと嫌な予感がした。
「……待てよ……ダイチだ! おい、トキオ! ダイチはどこのスタジオに行ったんだ! まさか!!!」
ヒビキは、社と飛び出した。
タクシーに飛び込み、一路、ダイチが向かったというスタジオへと走らせる。
ヒビキは、落ち着きなく、ひじ掛けを指でトントンと叩き、苛立ちを必死に隠そうとした。
まったく迂闊だった。
ダイチがまさか自らカイトの元に行くなんて……。
あれだけの喧嘩別れをしたんだ、プライドが許すはずがない。そう、たかをくくっていた。
それだけ苦しみ追い詰められていたって事か……。
それを気付けずにいた、というのがヒビキの苛立ちの原因である。
ふと、窓の外を見たヒビキは、ダイチの姿を捕らえた。
ヒビキは叫んだ。
「ちょっと待て! クルマを停めてくれ!」
****
ヒビキは、ダイチを胸に抱え込んだ。
「大丈夫か、ダイチ!」
ダイチは虚ろな目でヒビキを見つめる。
ヒビキの言葉が耳に入っているのかいないのか。
ひたすら、ブツブツと呟く。
「しっかりしろ……ダイチ」
手をギュッと握りしめ、ようやく視点が定まった。
ダイチは、ヒビキに言った。
「……ヒビキさん……俺、帰る場所なくなってました……」
「なっ……」
「俺、もうずっと死ぬまでアイドル。くくく、俺は世界一のアイドルになるしかないみたい。あははは」
乾いた笑い。
そして、その後は泣き声に変わった。
「うっ、うううっ……俺の居場所はもう何処にもないんだ……」
ヒビキは思わず、ダイチの体をギュッと抱き締めた。
自分の胸に収まったダイチに囁く。
「ダイチ、ここだ。お前の居場所は」
「ヒビキさん……」
「ダイチ、何があったか分からないが……俺がお前の居場所になってやる。だから、心配するな」
「うぅうう……俺……俺」
「いいからしゃべるな……お前は俺の胸で泣いておけ」
「ううう……ヒビキさん」
それからダイチはヒビキの胸の中で、ずっとすすり泣いていた。
****
その日のセックストレーニングは特別なものだった。
ダイチは、いつも以上にヒビキを激しく求め、ヒビキはそれをしっかりと受け止めた。
「すごい、ヒビキさん……俺、いつもより気持ちいい……いくっ、いくっ!」
何度も何度も絶頂に達したダイチは、ヒビキの胸の中で安らぎを得たかのように深い眠りについた。
ヒビキは、すやすや眠るダイチの頭を優しくなでながら呟く。
「ふぅ、参ったな……つい仏心を出してしまったが、これではソラの二の舞じゃないか……」
それは、ヒビキがダイチをプロデュースするにあたり、ずっと守ってきた規律。
情を必要以上に掛けてはいけない。
成長を促す愛は、恋人のそれではなく、教師のそれでなくてはいけない。
それはソラを育て上げた上で学んだ教訓。
ダイチは、口をもごもごさせて、ヒビキの名を呟く。
「このままでは、また一人、不幸な男を作ってしまう……俺という男は、なんて罪深い……これがセックスシンフォニックを持つものの運命なのか……」
それでもヒビキは、ダイチの額に優しくキスをしてあげた。
****
ダイチ初のソロコンサートは、最高の盛り上がりを見せた。
満席の観客に手を振って応え、舞台の袖に帰ってきた。
スタッフからも黄色い歓声があがる。
「きゃー! ダイチさん!」
「ダイチさん! 感動しました! すごく繊細で切なくて、胸に響きました!」
「そうですか? 嬉しいな!」
ダイチは、営業スマイルでそれに応える。
ヒビキの声が聞こえ、ダイチはヒビキの後を追った。
「ダイチ、行くぞ!」
「はい! じゃあね! みんな!」
「きゃー!」
控室に戻った二人は、すっと抱き合いキスをした。
ダイチは、ヒビキに尋ねる。
「ヒビキさん、今日のステージはどうでした?」
「そうだな、上出来だ」
「本当ですか!? やった!」
ダイチは、満面の笑みを浮かべた。
そして、あっ、そうだ、と何か閃いて話しだす。
「ヒビキさん、今日は、ホテル取ってますよね? 着替えたらヒビキさんの部屋行っていいですか?」
「いいが……お前まさか昼間っからする気か?」
「いいじゃないですか! 俺、昔っから気持ちのいいライブの後は体が火照ってやばいんすよ……ヒビキさんだって、もうおっきくしてますよね?」
「それはどうかな……」
ダイチは、再びヒビキに抱き付き、自分の股間をヒビキの股間に摺り寄せた。
固くなった男のモノ同士が当たる。
「ほら! やっぱり! ヒビキさん、俺の歌ですぐに欲情しちゃうんすから!」
「……ったく、お前には敵わないな」
「あははは! じゃあ、たっぷりとしましょう! 俺、めちゃめちゃサービスしますから!」
着替えを終え、先に歩くダイチは、あのカイトとの一件など無かったかのような、しっかりとした足取り。
ヒビキは、つい感慨にふける。
ダイチは、いい方向に吹っ切れ、歌声は明らかに深みを増した。
俺の股間がビンビンに反応する程に……。
恋を失い、そして、再び新たな恋を知った。
残されたピースは、失恋だったとはな……皮肉なものだ。
期せずしてカイトが一役買ってくれたって事だ。
何はともあれ感謝だな。
ダイチは、ヒビキの腕をぎゅうぎゅうと引っ張った。
「早く! ヒビキさん!」
「ああ、分かった。引っ張るな!」
ヒビキは、このまま何事もなく行ってくれればな、と思った。
ヒビキは椅子を倒して、ダイチのライブ映像を念入りにチェックしていた。
「今のままでも悪くはない……悪くはないのだが……」
チャートのランキングは頭打ちとなっていた。
ヒビキは、ダイチに何かが足りない事は感じとっていたが、それが何なのかまではわからずにいた。
このままでは、ソラがアイドル時代に辿った道には遠く及ばない……。
そんなヒビキの思案を邪魔するかのように、トキオが声を掛けてきた。
「ヒビキさん……すみません、ちょっといいですか?」
「何だ? トキオ」
「この曲聴いてみて下さいよ。最近、SNSで流行っていて……」
トキオは、仕事面では凡庸な男だが、流行りには人一倍敏感でそれはヒビキも一目をおいている。
ヒビキは早速トキオお勧めの曲を視聴した。
「ほう……確かに……悪くない」
「でしょ? ウオッチしておいた方がいいと思いまして。うちじゃ、こんなキャッチーな曲は出せませんけどねぇ。ちょっと安っぽいっていうか……」
「バカ言え。下に見るなよ。音楽に上も下もねぇんだ。いいか、悪いかだけだ」
「ヘイ……すんません……」
ヒビキは、更にじっくりと曲を分析をする。
自分では、決して思いつかないようなアイデアが各所に盛り込まれ、体が刺激を受け自然と乗ってくる。
ダイチにも聞かせたら、きっといい刺激になるはずだ。そして、現状を打破する為の突破口が得られるかもしれない。
そう思ったヒビキは、早速トキオに声を掛けた。
「……なぁ、トキオ。ダイチは今どうしている?」
「ダイチは、確か、外のスタジオに行くって言ってましたね。送迎の運転手が言ってました」
「ほう、そうか……」
たまには外のスタジオで思いっきり歌い込んでもいいかもしれない。
そう思ったヒビキは、ダイチの事は一旦おき、曲の素性を調べようとネット検索を掛けた。
「……今までにないこの感じ……セックスシンフォニックだったりしてな……」
曲の詳細欄に見慣れた名前を見つけ、ヒビキは愕然とした。
「な! 作曲カイトだと!? あの男か? いつの間にこんな曲を書けるようになったんだ。だたのど素人だったはずだ」
かつてダイチとペアを組んでいた男。その記憶が甦る。
ダイチとペア?
ふと嫌な予感がした。
「……待てよ……ダイチだ! おい、トキオ! ダイチはどこのスタジオに行ったんだ! まさか!!!」
ヒビキは、社と飛び出した。
タクシーに飛び込み、一路、ダイチが向かったというスタジオへと走らせる。
ヒビキは、落ち着きなく、ひじ掛けを指でトントンと叩き、苛立ちを必死に隠そうとした。
まったく迂闊だった。
ダイチがまさか自らカイトの元に行くなんて……。
あれだけの喧嘩別れをしたんだ、プライドが許すはずがない。そう、たかをくくっていた。
それだけ苦しみ追い詰められていたって事か……。
それを気付けずにいた、というのがヒビキの苛立ちの原因である。
ふと、窓の外を見たヒビキは、ダイチの姿を捕らえた。
ヒビキは叫んだ。
「ちょっと待て! クルマを停めてくれ!」
****
ヒビキは、ダイチを胸に抱え込んだ。
「大丈夫か、ダイチ!」
ダイチは虚ろな目でヒビキを見つめる。
ヒビキの言葉が耳に入っているのかいないのか。
ひたすら、ブツブツと呟く。
「しっかりしろ……ダイチ」
手をギュッと握りしめ、ようやく視点が定まった。
ダイチは、ヒビキに言った。
「……ヒビキさん……俺、帰る場所なくなってました……」
「なっ……」
「俺、もうずっと死ぬまでアイドル。くくく、俺は世界一のアイドルになるしかないみたい。あははは」
乾いた笑い。
そして、その後は泣き声に変わった。
「うっ、うううっ……俺の居場所はもう何処にもないんだ……」
ヒビキは思わず、ダイチの体をギュッと抱き締めた。
自分の胸に収まったダイチに囁く。
「ダイチ、ここだ。お前の居場所は」
「ヒビキさん……」
「ダイチ、何があったか分からないが……俺がお前の居場所になってやる。だから、心配するな」
「うぅうう……俺……俺」
「いいからしゃべるな……お前は俺の胸で泣いておけ」
「ううう……ヒビキさん」
それからダイチはヒビキの胸の中で、ずっとすすり泣いていた。
****
その日のセックストレーニングは特別なものだった。
ダイチは、いつも以上にヒビキを激しく求め、ヒビキはそれをしっかりと受け止めた。
「すごい、ヒビキさん……俺、いつもより気持ちいい……いくっ、いくっ!」
何度も何度も絶頂に達したダイチは、ヒビキの胸の中で安らぎを得たかのように深い眠りについた。
ヒビキは、すやすや眠るダイチの頭を優しくなでながら呟く。
「ふぅ、参ったな……つい仏心を出してしまったが、これではソラの二の舞じゃないか……」
それは、ヒビキがダイチをプロデュースするにあたり、ずっと守ってきた規律。
情を必要以上に掛けてはいけない。
成長を促す愛は、恋人のそれではなく、教師のそれでなくてはいけない。
それはソラを育て上げた上で学んだ教訓。
ダイチは、口をもごもごさせて、ヒビキの名を呟く。
「このままでは、また一人、不幸な男を作ってしまう……俺という男は、なんて罪深い……これがセックスシンフォニックを持つものの運命なのか……」
それでもヒビキは、ダイチの額に優しくキスをしてあげた。
****
ダイチ初のソロコンサートは、最高の盛り上がりを見せた。
満席の観客に手を振って応え、舞台の袖に帰ってきた。
スタッフからも黄色い歓声があがる。
「きゃー! ダイチさん!」
「ダイチさん! 感動しました! すごく繊細で切なくて、胸に響きました!」
「そうですか? 嬉しいな!」
ダイチは、営業スマイルでそれに応える。
ヒビキの声が聞こえ、ダイチはヒビキの後を追った。
「ダイチ、行くぞ!」
「はい! じゃあね! みんな!」
「きゃー!」
控室に戻った二人は、すっと抱き合いキスをした。
ダイチは、ヒビキに尋ねる。
「ヒビキさん、今日のステージはどうでした?」
「そうだな、上出来だ」
「本当ですか!? やった!」
ダイチは、満面の笑みを浮かべた。
そして、あっ、そうだ、と何か閃いて話しだす。
「ヒビキさん、今日は、ホテル取ってますよね? 着替えたらヒビキさんの部屋行っていいですか?」
「いいが……お前まさか昼間っからする気か?」
「いいじゃないですか! 俺、昔っから気持ちのいいライブの後は体が火照ってやばいんすよ……ヒビキさんだって、もうおっきくしてますよね?」
「それはどうかな……」
ダイチは、再びヒビキに抱き付き、自分の股間をヒビキの股間に摺り寄せた。
固くなった男のモノ同士が当たる。
「ほら! やっぱり! ヒビキさん、俺の歌ですぐに欲情しちゃうんすから!」
「……ったく、お前には敵わないな」
「あははは! じゃあ、たっぷりとしましょう! 俺、めちゃめちゃサービスしますから!」
着替えを終え、先に歩くダイチは、あのカイトとの一件など無かったかのような、しっかりとした足取り。
ヒビキは、つい感慨にふける。
ダイチは、いい方向に吹っ切れ、歌声は明らかに深みを増した。
俺の股間がビンビンに反応する程に……。
恋を失い、そして、再び新たな恋を知った。
残されたピースは、失恋だったとはな……皮肉なものだ。
期せずしてカイトが一役買ってくれたって事だ。
何はともあれ感謝だな。
ダイチは、ヒビキの腕をぎゅうぎゅうと引っ張った。
「早く! ヒビキさん!」
「ああ、分かった。引っ張るな!」
ヒビキは、このまま何事もなく行ってくれればな、と思った。
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