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08 夢を追う者(2)
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二日と開けず、ヒカルはカイトのバイト先に現れた。
どうやら、ライブハウスのスタッフに頼み込んでカイトの居場所を聞いたらしい。
「なぁ、カイト。話がある。今、いいか?」
「……見ての通り仕事中だ」
「そっか、悪い。外で待ってるよ」
ご機嫌で口笛を吹きながらスタジオの外へ出て行くヒカル。
カイトは、それを眺めながら呟いた。
「やれやれ……俺は懐かれちまったか?」
****
スタジオ前の橋でヒカルは待っていた。
「で、何だ? 話って」
「お前、曲書いているんだって? オレに一曲書いてくれないか」
「うーん」
「お前、断れると思うなよ! お前が自分の歌いたい曲を歌えって言ったんだからな!」
「うっ……お前、嫌な所ついてくるな」
ヒカルは、にやりと笑う。
まるで、悪巧みが成功した子供のよう。
「……じゃあ! いいな? カイト!」
「仕方ない……で、どんな楽曲がいいんだ?」
「オレは、そうだな……ポップスで、テンポは早め、弾むようなキラキラした曲かな……」
「はぁ? なんだそれ?」
「ようはな……その、あ、アイドルの曲、みたいな……やつ……」
ヒカルは、顔を真っ赤にして視線を逸らした。
「へぇ、お前、実はアイドル志望だったのか……」
「わ、悪いかよ! どうせ、その顔でよく言えたもんだ、とか思ってんだろ!」
カイトは、ヒカルの顔をジッと見つめる。
「な、なんだよ……」
「いや、お前さ……よくわらんが、結構、カワイイんじゃね?」
「え!?」
ヒカルの顔はポンッと赤くなった。
「ばっ、馬鹿野郎! オレをからうんじゃねぇよ! カワイイとか……お、オレ、男だし、ざけんなよ!!」
「……別にからかったわけじゃねぇが……」
「……そうか……でも……お、オレの事、か、カワイイって思うなら、本当は嫌だけど、別に好きになってもいいからな……」
ヒカルは、カイトの顔をチラチラ見て言った。
突然、カイトは声を張り上げた。
「ちょっと待て!」
ヒカルは、ビクッとした。
「アイドルの曲? 俺は、そんな曲書いた事ねぇや……俺は、基本バンドの曲じゃないと無理だ……」
カイトは、頭をポリポリとかく。
「え! 嘘だろ!」
「いや、マジだ……悪いぃな。やっぱ、別を当たってくれるか?」
「……そんなぁ……オレ、お前に曲を書いて欲しかったのに……」
ヒカルは、がっかりして足元を見つめた。
「無理なら仕方ねぇけど……オレ、ここに来るまで、すげぇ楽しみでワクワクしてたんだ……」
ショックで泣いているのか、時折り目尻に触れる。
まぁ、そう言われても書いた事が無いんだから、仕方ない。
カイトはそう思ったが、少し考え直した。
ちょっと待てよ……これはいい機会かも知れない。
初めてのジャンル。一からの曲作り。
俺に何が足りないのか、きっと分かる。
カイトは、落ち込むヒカルの肩を叩いた。
「気が変わったぜ。いいぜ、その話受けてやるよ」
「え? 本当か?」
ヒカルの顔は、みるみるうちに明るくなっていく。
そして、最後には満面の笑みでカイトに抱きついた。
「頼むぜ、相棒! あははは!」
「おいおい、ヒカル。離れろって……参ったな……」
****
「ああは言ったが……」
カイトは、最新チャート上位を片っ端から聴いた。
アイドル曲っていっても、その種類は幅広い。
アップテンポ、ラップ、バラード、ロック、その他色々。
それに、同じコード進行でも、速さ、リズム、メロディー、楽器種で、曲調はガラッと変わる。
「しかし、わかんねぇ……キラキラって何だよ。フワッとしすぎだろ……いったい、どんな曲を歌いたいんだ?」
カイトは、ソファにバタッと倒れ込んだ。
「ただいま、カイト! 曲作りの調子はどうだ? コンビニで飯買って来てやったぜ。お前、おにぎり好きだろ?」
部屋に入ってきたのは、家主のヒカル。
カイトは、レコーディング機材が揃ったヒカルのマンションに数日前から泊り込んでいた。
カイトは、だるそうに起き上がる。
「ん? ヒカルか……ああ、まぁまぁだな」
「そっか……オレに出来る事があったら何なりと言えよな!」
「お前に、頼みか……」
カイトは、ヒカルをじっと見つめる。
ヒカルは、すぐに恥ずかしくなって目を逸らした。
「な、何だよ……」
「じゃあ、ちょっと、息抜きに出かけないか?」
「え!? マジか!?……ゴホン。お前が、どっか行きたいっていうなら付き合ってもいいぜ!」
思いもよらないカイトの誘いにヒカルのテンションは急上昇。
「ああ、お前が今一番行きたい所はどこだ? そこへ連れて行ってくれ」
「嘘! 本当か!? 行こう、行こう、遊園地な!……ゴホン。遊園地とかなら近くていいかもな」
急にソワソワし出したヒカルを見て、カイトは首を傾げた。
「ヒカル、お前は何をはしゃいでるんだ?」
「だって、これってデート……はぁ? お前、何いってんの? どうしてオレがはしゃぐんだよ! アホか!」
不機嫌な顔をして、カイトを睨む。
もちろん、影では嬉しさを隠しきれず、ニタニタとつい口元を緩ませる。
「それより、カイト……何で突然出かけるだなんて言ってんだ?」
「ああ、オレはただな、お前の気持ちが知りたくてな……」
「ええっ! オレの気持ち知りたいだって!? オレ、今、告られてる!?……ゴホン。へぇ、気持ちわりぃな。お前!」
「……やっぱり、いいや。出かけるのやめよう」
「え!?」
急に梯子を外され、ヒカルは真っ青になった。
「お前! 何言ってんだよ! ふざけるなよ! 男が一度言ったセリフを簡単に取り消すなよ!」
「……ヒカル。お前って、結構面倒くさいぜ……」
「そっか? さぁ、行こうぜ! 気が変わんねぇうちによ!」
****
二人は遊園地へやって来た。
「あははは! すげぇ、楽しい!」
ヒカルは、子供のようにちょこまかと動き回り、カイトは、その後を必死に追いかける。
もはや、その姿は親子連れ。
見どころの一つであるパレードが終わり、二人はベンチに座った。
ヒカルは、ソフトクリームを頬に付けながら言った。
「……お前、遊園地とか子供っぽいって思っただろ……
「いや別に……」
「まぁ、いいや。……今更だが、カイトには正直に話しとくぜ……オレ、こう見えてSFとかファンタジーに憧れていてさ……」
ヒカルは、遠くのお城を眺めながら語り出す。
「特に好きなのはな……ピーターパンだな……夢の国に連れて行ってくれるとか……最高だぜ」
「音楽ってさ、夢の国へ行くためのパスポートだと思うんだ。バンドのみんなの気持ちが一つになった時、そこに行ける。みたいな?」
「あははは。やばっ、恥ずかしいぜ! 何だか、お前には何でも話ちまう。忘れてくれ!」
カオルは、照れ隠しにカイトの背中をバンバンと叩いた。
「い、痛いって! 叩くなよ!」
「あははは! わりぃ、わりぃ!」
大笑いするヒカル。
「カイト! 次はジェットコースター行くぜ!」
ヒカルは、カイトの手を強引に引っ張る。
「……ちょっと待てって……もう少し休んでから……」
「早く、早く!」
カイトはため息をついた。
……ったく、仕方ない奴……しかし、今何か分かりかけたような。何だろう? この感じ。
カイトは、釈然としないままヒカルの背中を追った。
****
二人は、遊園地を満喫して帰路についた。
その道中で、ヒカルは、今日一日がどんなに楽しかったかを興奮気味に語った。
一方で、カイトは、先程の違和感が頭から離れず、ヒカルの話は半分も聞いていなかった。
「……何だよ、カイト! さっきから黙りこくって。考え事か?」
「ん? ああ、悪りぃ」
「まぁ、いいけどさ……」
ヒカルのマンションにほど近い狭い路地に差し掛かった。
ここは人通りは少ない。
ヒカルは、さりげなく横目でカイトの顔をそっと窺う。
「なぁ、カイト……」
「ん?」
「お前さ……オレがゲイって事……知ってたんだろ?」
「ん? ああ、まぁな」
「……じゃあさ、お前がしたかったらしてもいいぜ……せ、セックス。今日楽しかったお礼だ!」
沈黙。
……やっぱり、そうだよな。
ヒカルは慌てて取り繕う。
「……何てな……冗談だ。冗談……そう、困った顔をするなよ! さぁ、オレの家はすぐそこだ!」
勇気を出して誘ったが見事玉砕。
ヒカルは、唇を噛みしめ、涙が出るのを必死に堪えた。
「……あっ、オレ……コンビニ寄ってから帰るから、カイトは先に部屋に行っててくれ! じゃ」
ヒカルは、カイトの前から逃げ出そうした。
しかし、その行く手を、カイトは壁に手をつき阻む。
そして、そのまま自分の懐の中に引き込み言った。
「いいや、まてよ、ヒカル。抱かせろよ」
「えっ!?」
驚きの顔。
今何ていったんだ?
ヒカルは自分の耳を疑った。
カイトは、改めて言った。
「お前の事をもっと知りたいんだ」
「ええっ!?」
それって本気なのか……本当にオレの事を抱きたいのか?
カイトは真っ直ぐにヒカルを見つめる。
疑う余地は無い。
「へぇ、そうなんだ……オレの事を……ふふっ……そっか、そっか。はっ、ゴホン、ゴホン! お前がそこまで言うのなら、相手してやっても良いぜ!」
ヒカルは、にんまりと笑い、そっか、そっか、と何度も繰り返した。
一方、カイトも心の中では薄笑いを浮かべていた。
俺はなぜもっと早くに気が付かなかった?
やっちまえばいいんじゃないか!
音楽の事は体に聞くのが早い。
ヒカル、お前の自分でもよく分からない感情は俺が裸にひん剥いて暴いてやる!
カイトは、そうと決まれば、とヒカルの手を握りしめて歩き出す。
ヒカルは嬉しい悲鳴をあげた。
「いてて、引っ張るなって……ちょっと強引だぞ、お前……ふふふ、あははは!」
どうやら、ライブハウスのスタッフに頼み込んでカイトの居場所を聞いたらしい。
「なぁ、カイト。話がある。今、いいか?」
「……見ての通り仕事中だ」
「そっか、悪い。外で待ってるよ」
ご機嫌で口笛を吹きながらスタジオの外へ出て行くヒカル。
カイトは、それを眺めながら呟いた。
「やれやれ……俺は懐かれちまったか?」
****
スタジオ前の橋でヒカルは待っていた。
「で、何だ? 話って」
「お前、曲書いているんだって? オレに一曲書いてくれないか」
「うーん」
「お前、断れると思うなよ! お前が自分の歌いたい曲を歌えって言ったんだからな!」
「うっ……お前、嫌な所ついてくるな」
ヒカルは、にやりと笑う。
まるで、悪巧みが成功した子供のよう。
「……じゃあ! いいな? カイト!」
「仕方ない……で、どんな楽曲がいいんだ?」
「オレは、そうだな……ポップスで、テンポは早め、弾むようなキラキラした曲かな……」
「はぁ? なんだそれ?」
「ようはな……その、あ、アイドルの曲、みたいな……やつ……」
ヒカルは、顔を真っ赤にして視線を逸らした。
「へぇ、お前、実はアイドル志望だったのか……」
「わ、悪いかよ! どうせ、その顔でよく言えたもんだ、とか思ってんだろ!」
カイトは、ヒカルの顔をジッと見つめる。
「な、なんだよ……」
「いや、お前さ……よくわらんが、結構、カワイイんじゃね?」
「え!?」
ヒカルの顔はポンッと赤くなった。
「ばっ、馬鹿野郎! オレをからうんじゃねぇよ! カワイイとか……お、オレ、男だし、ざけんなよ!!」
「……別にからかったわけじゃねぇが……」
「……そうか……でも……お、オレの事、か、カワイイって思うなら、本当は嫌だけど、別に好きになってもいいからな……」
ヒカルは、カイトの顔をチラチラ見て言った。
突然、カイトは声を張り上げた。
「ちょっと待て!」
ヒカルは、ビクッとした。
「アイドルの曲? 俺は、そんな曲書いた事ねぇや……俺は、基本バンドの曲じゃないと無理だ……」
カイトは、頭をポリポリとかく。
「え! 嘘だろ!」
「いや、マジだ……悪いぃな。やっぱ、別を当たってくれるか?」
「……そんなぁ……オレ、お前に曲を書いて欲しかったのに……」
ヒカルは、がっかりして足元を見つめた。
「無理なら仕方ねぇけど……オレ、ここに来るまで、すげぇ楽しみでワクワクしてたんだ……」
ショックで泣いているのか、時折り目尻に触れる。
まぁ、そう言われても書いた事が無いんだから、仕方ない。
カイトはそう思ったが、少し考え直した。
ちょっと待てよ……これはいい機会かも知れない。
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俺に何が足りないのか、きっと分かる。
カイトは、落ち込むヒカルの肩を叩いた。
「気が変わったぜ。いいぜ、その話受けてやるよ」
「え? 本当か?」
ヒカルの顔は、みるみるうちに明るくなっていく。
そして、最後には満面の笑みでカイトに抱きついた。
「頼むぜ、相棒! あははは!」
「おいおい、ヒカル。離れろって……参ったな……」
****
「ああは言ったが……」
カイトは、最新チャート上位を片っ端から聴いた。
アイドル曲っていっても、その種類は幅広い。
アップテンポ、ラップ、バラード、ロック、その他色々。
それに、同じコード進行でも、速さ、リズム、メロディー、楽器種で、曲調はガラッと変わる。
「しかし、わかんねぇ……キラキラって何だよ。フワッとしすぎだろ……いったい、どんな曲を歌いたいんだ?」
カイトは、ソファにバタッと倒れ込んだ。
「ただいま、カイト! 曲作りの調子はどうだ? コンビニで飯買って来てやったぜ。お前、おにぎり好きだろ?」
部屋に入ってきたのは、家主のヒカル。
カイトは、レコーディング機材が揃ったヒカルのマンションに数日前から泊り込んでいた。
カイトは、だるそうに起き上がる。
「ん? ヒカルか……ああ、まぁまぁだな」
「そっか……オレに出来る事があったら何なりと言えよな!」
「お前に、頼みか……」
カイトは、ヒカルをじっと見つめる。
ヒカルは、すぐに恥ずかしくなって目を逸らした。
「な、何だよ……」
「じゃあ、ちょっと、息抜きに出かけないか?」
「え!? マジか!?……ゴホン。お前が、どっか行きたいっていうなら付き合ってもいいぜ!」
思いもよらないカイトの誘いにヒカルのテンションは急上昇。
「ああ、お前が今一番行きたい所はどこだ? そこへ連れて行ってくれ」
「嘘! 本当か!? 行こう、行こう、遊園地な!……ゴホン。遊園地とかなら近くていいかもな」
急にソワソワし出したヒカルを見て、カイトは首を傾げた。
「ヒカル、お前は何をはしゃいでるんだ?」
「だって、これってデート……はぁ? お前、何いってんの? どうしてオレがはしゃぐんだよ! アホか!」
不機嫌な顔をして、カイトを睨む。
もちろん、影では嬉しさを隠しきれず、ニタニタとつい口元を緩ませる。
「それより、カイト……何で突然出かけるだなんて言ってんだ?」
「ああ、オレはただな、お前の気持ちが知りたくてな……」
「ええっ! オレの気持ち知りたいだって!? オレ、今、告られてる!?……ゴホン。へぇ、気持ちわりぃな。お前!」
「……やっぱり、いいや。出かけるのやめよう」
「え!?」
急に梯子を外され、ヒカルは真っ青になった。
「お前! 何言ってんだよ! ふざけるなよ! 男が一度言ったセリフを簡単に取り消すなよ!」
「……ヒカル。お前って、結構面倒くさいぜ……」
「そっか? さぁ、行こうぜ! 気が変わんねぇうちによ!」
****
二人は遊園地へやって来た。
「あははは! すげぇ、楽しい!」
ヒカルは、子供のようにちょこまかと動き回り、カイトは、その後を必死に追いかける。
もはや、その姿は親子連れ。
見どころの一つであるパレードが終わり、二人はベンチに座った。
ヒカルは、ソフトクリームを頬に付けながら言った。
「……お前、遊園地とか子供っぽいって思っただろ……
「いや別に……」
「まぁ、いいや。……今更だが、カイトには正直に話しとくぜ……オレ、こう見えてSFとかファンタジーに憧れていてさ……」
ヒカルは、遠くのお城を眺めながら語り出す。
「特に好きなのはな……ピーターパンだな……夢の国に連れて行ってくれるとか……最高だぜ」
「音楽ってさ、夢の国へ行くためのパスポートだと思うんだ。バンドのみんなの気持ちが一つになった時、そこに行ける。みたいな?」
「あははは。やばっ、恥ずかしいぜ! 何だか、お前には何でも話ちまう。忘れてくれ!」
カオルは、照れ隠しにカイトの背中をバンバンと叩いた。
「い、痛いって! 叩くなよ!」
「あははは! わりぃ、わりぃ!」
大笑いするヒカル。
「カイト! 次はジェットコースター行くぜ!」
ヒカルは、カイトの手を強引に引っ張る。
「……ちょっと待てって……もう少し休んでから……」
「早く、早く!」
カイトはため息をついた。
……ったく、仕方ない奴……しかし、今何か分かりかけたような。何だろう? この感じ。
カイトは、釈然としないままヒカルの背中を追った。
****
二人は、遊園地を満喫して帰路についた。
その道中で、ヒカルは、今日一日がどんなに楽しかったかを興奮気味に語った。
一方で、カイトは、先程の違和感が頭から離れず、ヒカルの話は半分も聞いていなかった。
「……何だよ、カイト! さっきから黙りこくって。考え事か?」
「ん? ああ、悪りぃ」
「まぁ、いいけどさ……」
ヒカルのマンションにほど近い狭い路地に差し掛かった。
ここは人通りは少ない。
ヒカルは、さりげなく横目でカイトの顔をそっと窺う。
「なぁ、カイト……」
「ん?」
「お前さ……オレがゲイって事……知ってたんだろ?」
「ん? ああ、まぁな」
「……じゃあさ、お前がしたかったらしてもいいぜ……せ、セックス。今日楽しかったお礼だ!」
沈黙。
……やっぱり、そうだよな。
ヒカルは慌てて取り繕う。
「……何てな……冗談だ。冗談……そう、困った顔をするなよ! さぁ、オレの家はすぐそこだ!」
勇気を出して誘ったが見事玉砕。
ヒカルは、唇を噛みしめ、涙が出るのを必死に堪えた。
「……あっ、オレ……コンビニ寄ってから帰るから、カイトは先に部屋に行っててくれ! じゃ」
ヒカルは、カイトの前から逃げ出そうした。
しかし、その行く手を、カイトは壁に手をつき阻む。
そして、そのまま自分の懐の中に引き込み言った。
「いいや、まてよ、ヒカル。抱かせろよ」
「えっ!?」
驚きの顔。
今何ていったんだ?
ヒカルは自分の耳を疑った。
カイトは、改めて言った。
「お前の事をもっと知りたいんだ」
「ええっ!?」
それって本気なのか……本当にオレの事を抱きたいのか?
カイトは真っ直ぐにヒカルを見つめる。
疑う余地は無い。
「へぇ、そうなんだ……オレの事を……ふふっ……そっか、そっか。はっ、ゴホン、ゴホン! お前がそこまで言うのなら、相手してやっても良いぜ!」
ヒカルは、にんまりと笑い、そっか、そっか、と何度も繰り返した。
一方、カイトも心の中では薄笑いを浮かべていた。
俺はなぜもっと早くに気が付かなかった?
やっちまえばいいんじゃないか!
音楽の事は体に聞くのが早い。
ヒカル、お前の自分でもよく分からない感情は俺が裸にひん剥いて暴いてやる!
カイトは、そうと決まれば、とヒカルの手を握りしめて歩き出す。
ヒカルは嬉しい悲鳴をあげた。
「いてて、引っ張るなって……ちょっと強引だぞ、お前……ふふふ、あははは!」
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