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1-2 初詣 ~ケンイチ~
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俺は、カオルに言った。
「で、どうしてお前は女装しているんだ?」
「だから、言っただろ? 姉貴が作ったコスプレ衣装の試着だって」
「コスプレ衣装の販売って言ってたか? それにしたって、普通、女装してまで着るか?」
「まぁ、姉貴も頑張っているからな。しょうがねぇよ」
「へぇ、そんなもんかねぇ。あれ? でもカオルって一人暮らしだろ? お姉さんもこっちに戻って来ているのか?」
補足だが、カオルは、高校の頃は親の転勤とかでこの街を離れていたのだ。
で、高校卒業に合わせて、こっちに戻って一人暮らしをしている。
一人暮らしとか、羨ましい限りだ。
「ああ、一人暮らしっていうか、姉貴と一緒に暮している」
「なるほどな。なら、姉弟で協力し合って、てのもあるのかもな」
「そういう事。家賃とか生活費とかもこのコスプレの売り上げで足しにはなっているからな」
「なるほど。いい姉弟だな」
まぁ、俺には兄弟はいないからよくわからないが、姉と弟なら一般的には仲良し、なんだろう。
というか、何だろう。
この落ち着きがない感じ。
ふと、カオルを見る。
分かった。
こいつに見られているからだ。
たまに、俺の気持ちを覗き見るような上目遣いをしてくる。
ちょっと女装しました、だなんて思えないほど、本当の女のように思えてドキっとする。
それに、このゴスロリを着るために生まれてきたような、ちょっとツンとした表情。
色白だし、ほっぺとか、肌がきめ細か過ぎだろ。
お前、本当に男か?
それに、笑ったときの表情、その瞳。
カオルと分かっているのに、ぐっと来ちまう。
「それは、そうと、カオル」
「なんだ」
カオルは、ジュースは飲んでいたが、俺の呼びかけにストローから唇を離した。
唇がプルンする。
やべぇ、思わず見とれてしまう。
「お前、めちゃめちゃ可愛いんだけど。その格好さ、すごく似合っているよ」
「はぁ? やっ、やめろよ」
「照れない、照れない。お前、女だったら俺、絶対に惚れているよ。うん。間違い無い」
「ばっ、ばか言うなよ……恥ずいって。男同士でよ」
柄にもなく頬を赤くするカオル。
トクン……。
あれ? 俺、こんな気持ち初めてかも。
「いやいや、俺なんてお前が男だって分かっているのにさっきからドキドキしっぱなし。ははは」
「そっ、まっ、マジかよ……嘘だろ?」
「マジで。お前、そのゴスロリは反則だろ。どストライクすぎ」
「そっか、お前は気に入ってくれたか……」
カオルは、照れながらも嬉しそうに笑みを漏らした。
「ん? どういう事?」
「あっ、いや、何でもねぇ。こっちの話。さぁ、こんなところでだべって無いで神社行こうぜ」
「よし、いこう!」
俺達は、ファミレスを出て、美映留神社に向かった。
国道を渡ると、神社の参道が見えてきた。
俺達は並んで歩く。
いやぁ、それにしても……。
カオルにこんな女装の才能があったとは。
歩き姿もまんざらじゃないな。
厚底のヒールも自然に履きこなしてやがる。
確かにこれなら、コスプレのモデルとか普通にできそうだな。
「何見てんだよ、ケンイチ」
「へっ? いや、特には……」
「それより、ほら、手を出せよ」
「手?」
カオルは、手をすっと、俺の前に出した。
「バカ、手を繋ぐんだよ」
「何で?」
「お前な、初詣にカップルだったら、手を繋ぐの何て当たり前だろ?」
「カップル?」
カオルは、顔を真っ赤にしながら怒り出す。
なんで、イライラしているんだ?
「お前、アホか! 周りを見てみろよ。オレ達、カップルとして見られているだろ?」
そういえば……。
確かに、周りから、チラチラ見られているような気がする。
ていうか、正月早々にコスプレしているこいつの事を、だけどな……。
まぁ、カップルに見えるってのは、そうなのかもしれない。
「なるほど。じゃあ、手を繋ぐか、カオル。でも、何だか、カオルと手を繋ぐってちょっと恥ずいな」
「なっ、そっ、そりゃオレだって同じだろ」
「ははは。そうだよな。じゃあ、お互い様って事で」
「おう」
俺は、カオルの手を握った。
冷たい手が徐々にあったかくなる。
カオルを見ると、満足気に笑みを漏らしている。
なんだかよくわからないが、単純なやつ。
「てか、カオルの手って意外とちっちゃいのな。ちゃんとメシ食っているのか?」
「お前、アホか? メシ食って手がデカくなるかよ。生まれつきだ。生まれつき」
「そっか。なんか、カオルは、チビのままだし声も高いままだし、成長期来なかったのか?」
「ケンイチ! そんな、残念そうな目でオレを見るな!」
カオルは俺を精一杯に睨む。
悪気はなかったけど、確かに言い過ぎたか?
チビだと、バカにされたりすることも多いだろう。
きっと、こいつなりに苦労してきたに違いない。
「わりぃ、わりぃ。そうだよな。これからまだ成長期くるさ」
俺は無意識にカオルの頭をポンポンと撫でた。
「ちょ、ちょっと、お前……あっ、頭とか撫でるなよ……マジウザっ。お前の同情……」
「ははは。そっか、そっか」
参道の途中で美映留神社名物の急階段に差し掛かる。
俺は、カオルの手を取りゆっくりと上り始めた。
ふと、気になることが頭をよぎった。
今日のカオルは、半年前に再会した時とは明らかに雰囲気が違う。
もしや、あれから彼女ができた、とか……。
「なぁ、カオル」
「ん?」
「お前、最近、彼女できた? ほらコンサートの時はいないって言っていたよな?」
「別に、いねぇけど」
気のせいか?
俺がこいつのゴスロリ姿を見て、勝手にテンション上げて、そう感じているだけなのかもな……。
それにしても、なぜか、こいつに彼女がいなくてホッとしている自分がいる。
こんなチビに先を越されるわけにはいかない、ってわけかな。
「ケンイチ、お前こそどうなんだ?」
「ははは、俺は無理無理。俺の彼女はさしずめ、『ゴスロリ☆にゃんにゃん』だな」
「ぷっ、このアイドルオタが。ははは」
「でも、やっぱり、彼女ほしいよな」
「ああ……まぁな」
「でもよ。彼女出来たら、こんな感じなのかもな。こんな風に手を繋いでさ」
「そっ、そうだな」
俺は、繋いだカオルの手を引き寄せる。
「おい、もっとこっち寄れよ」
「えっ?」
カオルは、目を見開いて俺の顔を直視する。
「……みたいな。ははは。あれ、カオル、何で顔赤くしてんの?」
「うっ、うっせ。オレはお前の彼女役をやってやっているんだから有り難く思えよ」
あはは。
何だか、今日のカオルは、ころころ表情を変えて面白い。
「おお、そうだったな。ごめんよ。カオル、愛してる」
「あっ、愛って……」
「ははは。お前の彼女役、うぶ過ぎるって。気持ち悪りぃ。ははは」
「てめぇ! いちいち笑うなよ!」
やべぇ。
カオルをからかうのがこんなに楽しいとは。
「ははは。楽しいな。俺達っていまだにいいコンビだな。相棒!」
「ああ、そうだな。確かに、それはいえてるぜ!」
あー。楽しい。
彼女が出来たら、彼女ともこんな風に冗談を言い合いたいな。
そうこうしている間に、手水舎を通り、本殿の階段を上り、俺達の順番になった。
カランカランと鈴を鳴らし、お賽銭。
ニ礼二拍手一礼っと。
「さて、今年こそ、彼女が出来ますようにっと」
「ぶっ、おい、ケンイチ。声出てるって。恥ずいからよせって」
隣でお祈りしていたカオルがツッコミを入れてくる。
「バカ、良いんだよ。言葉にしないと通じないこともあるだろ?」
「言葉にしないと……かぁ。いい事言うな。確かに、お前鈍いからな」
「ん? どういう意味? 俺が何だって?」
「ああ、何でもない。さぁ、ちゃんとお祈りしようぜ」
「おっ、おう」
カオルは、昔っから、たまによく分からない事をいう。
まぁ、こいつはこいつで何か頑張っているようだから、応援してやりたいんだけどな。
お祈りを終えると、御神酒、おみくじ、御守り購入、と初詣標準コースをこなした。
で、今日はお開きという事で帰路につくことになった。
「ほら、手出せよ、カオル」
「ああ」
来た時と同じ様に、カオルと手を繋いで歩いて行く。
いつの間にか、カオルと手を繋ぐ事が当前のようになった。
何だか、不思議な気持ちだ。
こんなに長時間、誰かと手を繋ぐって、親以外では初めてかも知れない。
それで、誰かと手を繋ぐって事が、実は特別な事かも知れない、と真剣に考え込んでしまった。
同じ方向に、同じ早さで、同じ目的で進んでいく。
人生のパートナーと共に歩いていく。
ああ、結婚っていうのは、こういう事か、と漠然と思った。
突然、カオルが質問して来て我に返った。
「おいケンイチ。何を考え事してるんだよ。オレの話、聞いていたのかよ」
「ああ、すまん。聞いていなかった……」
聞き返してみると、俺のお祈りの事らしい。
「なぁ、ケンイチ。彼女が欲しいって、お前ってどんな女が好みなんだ?」
「俺か? そうだな」
無意識に空を見上げた。
実際、好みなんてあるようでない。
「そうだな……容姿にはあまりこだわりないな。やっぱり、一緒にいて楽しいのが一番かな。あっ、そうだ。ひとつ言うなら」
「ああ」
「ミニスカートが似合う女だな」
「ぶっ! お前、結局エロかよ」
カオルは、吹き出した。
「ははは。そりゃ、男には譲れないものってあるだろ? これぞ男のロマンってやつさ」
「まったく、ケンイチ。お前ってやつは……あはは」
カオルは、楽しそうに笑う。
ふふふ、何だよ。
お前だって、エロビデオを見てあそこをあんなにカチカチにしてただろうが。
まぁ、誰だってフェチっていうのはあるさ。
「で、カオル。お前の好みは?」
「オレか?」
カオルは、俺の顔をじっとみて一瞬固まった。
そして、すぐに答えた。
「オレは、あまり好みというものはないな。強いて言うなら……」
「強いて言うなら?」
「デブはパス。痩せ過ぎもアウト。体が引き締まっているやつかな」
「スポーツやってる女って感じか?」
「まぁ、そうだな」
「なるほどね。張りのある肌ってやつね。俺も嫌いじゃない。カオル、お前、いい趣味してるよ」
「ぶっ! なんで上から目線よ」
「ははは」
参道を抜け、国道まで出た。
カオルが手を離した。
「ケンイチ。オレは、ここで。バスだから」
「おお、そうか。今日は、誘ってくれてありがとな。カオル」
「いや、こっちこそ。ああ、そうだ」
「なんだ?」
「中学の同級会の話、聞いてるか?」
「いや」
「来週だったかな。行かないか? 機会があったらお前を誘うように言われていてさ……」
中学の同級会かぁ。
正直、俺の中ではあまり盛り上がって無かった、のだが……。
「そうだなぁ。中学卒業して一度も行ってないもんな」
「ははは。だから、誘われなくなったんだろう?」
「まあな。よし! カオルが行くなら行くよ」
「おお、そうか。じゃあ、そう伝えておく」
でも、今日みたいにまたカオルと話ができれば、それだけでも、行く価値ありだな。
「じゃあ、次は同級会で!」
「ああ、同級会で」
「じゃあな、愛しているよ。チュ!」
「いつまでやっているんだ。バカ」
カオルは、笑いながら手を振ると去って行った。
それにしても、カオルのやつ、可愛いかったな。
カオルの手の感触がまだ手に残っている。
あいつの手、すげぇ柔らかかった。
あれ? やばい。
俺は、なんでこんなにもドキドキしているんだ。
しかも、次の同級会が楽しみで仕方ない。
ふぅ。
落ち着け俺。
今日は、あのゴスロリのコスプレのせい。
カオルは、男だから。
って、思い出しただけで、また、胸が熱くなる。
俺はどれだけゴスロリにハマっているんだよ……。
「で、どうしてお前は女装しているんだ?」
「だから、言っただろ? 姉貴が作ったコスプレ衣装の試着だって」
「コスプレ衣装の販売って言ってたか? それにしたって、普通、女装してまで着るか?」
「まぁ、姉貴も頑張っているからな。しょうがねぇよ」
「へぇ、そんなもんかねぇ。あれ? でもカオルって一人暮らしだろ? お姉さんもこっちに戻って来ているのか?」
補足だが、カオルは、高校の頃は親の転勤とかでこの街を離れていたのだ。
で、高校卒業に合わせて、こっちに戻って一人暮らしをしている。
一人暮らしとか、羨ましい限りだ。
「ああ、一人暮らしっていうか、姉貴と一緒に暮している」
「なるほどな。なら、姉弟で協力し合って、てのもあるのかもな」
「そういう事。家賃とか生活費とかもこのコスプレの売り上げで足しにはなっているからな」
「なるほど。いい姉弟だな」
まぁ、俺には兄弟はいないからよくわからないが、姉と弟なら一般的には仲良し、なんだろう。
というか、何だろう。
この落ち着きがない感じ。
ふと、カオルを見る。
分かった。
こいつに見られているからだ。
たまに、俺の気持ちを覗き見るような上目遣いをしてくる。
ちょっと女装しました、だなんて思えないほど、本当の女のように思えてドキっとする。
それに、このゴスロリを着るために生まれてきたような、ちょっとツンとした表情。
色白だし、ほっぺとか、肌がきめ細か過ぎだろ。
お前、本当に男か?
それに、笑ったときの表情、その瞳。
カオルと分かっているのに、ぐっと来ちまう。
「それは、そうと、カオル」
「なんだ」
カオルは、ジュースは飲んでいたが、俺の呼びかけにストローから唇を離した。
唇がプルンする。
やべぇ、思わず見とれてしまう。
「お前、めちゃめちゃ可愛いんだけど。その格好さ、すごく似合っているよ」
「はぁ? やっ、やめろよ」
「照れない、照れない。お前、女だったら俺、絶対に惚れているよ。うん。間違い無い」
「ばっ、ばか言うなよ……恥ずいって。男同士でよ」
柄にもなく頬を赤くするカオル。
トクン……。
あれ? 俺、こんな気持ち初めてかも。
「いやいや、俺なんてお前が男だって分かっているのにさっきからドキドキしっぱなし。ははは」
「そっ、まっ、マジかよ……嘘だろ?」
「マジで。お前、そのゴスロリは反則だろ。どストライクすぎ」
「そっか、お前は気に入ってくれたか……」
カオルは、照れながらも嬉しそうに笑みを漏らした。
「ん? どういう事?」
「あっ、いや、何でもねぇ。こっちの話。さぁ、こんなところでだべって無いで神社行こうぜ」
「よし、いこう!」
俺達は、ファミレスを出て、美映留神社に向かった。
国道を渡ると、神社の参道が見えてきた。
俺達は並んで歩く。
いやぁ、それにしても……。
カオルにこんな女装の才能があったとは。
歩き姿もまんざらじゃないな。
厚底のヒールも自然に履きこなしてやがる。
確かにこれなら、コスプレのモデルとか普通にできそうだな。
「何見てんだよ、ケンイチ」
「へっ? いや、特には……」
「それより、ほら、手を出せよ」
「手?」
カオルは、手をすっと、俺の前に出した。
「バカ、手を繋ぐんだよ」
「何で?」
「お前な、初詣にカップルだったら、手を繋ぐの何て当たり前だろ?」
「カップル?」
カオルは、顔を真っ赤にしながら怒り出す。
なんで、イライラしているんだ?
「お前、アホか! 周りを見てみろよ。オレ達、カップルとして見られているだろ?」
そういえば……。
確かに、周りから、チラチラ見られているような気がする。
ていうか、正月早々にコスプレしているこいつの事を、だけどな……。
まぁ、カップルに見えるってのは、そうなのかもしれない。
「なるほど。じゃあ、手を繋ぐか、カオル。でも、何だか、カオルと手を繋ぐってちょっと恥ずいな」
「なっ、そっ、そりゃオレだって同じだろ」
「ははは。そうだよな。じゃあ、お互い様って事で」
「おう」
俺は、カオルの手を握った。
冷たい手が徐々にあったかくなる。
カオルを見ると、満足気に笑みを漏らしている。
なんだかよくわからないが、単純なやつ。
「てか、カオルの手って意外とちっちゃいのな。ちゃんとメシ食っているのか?」
「お前、アホか? メシ食って手がデカくなるかよ。生まれつきだ。生まれつき」
「そっか。なんか、カオルは、チビのままだし声も高いままだし、成長期来なかったのか?」
「ケンイチ! そんな、残念そうな目でオレを見るな!」
カオルは俺を精一杯に睨む。
悪気はなかったけど、確かに言い過ぎたか?
チビだと、バカにされたりすることも多いだろう。
きっと、こいつなりに苦労してきたに違いない。
「わりぃ、わりぃ。そうだよな。これからまだ成長期くるさ」
俺は無意識にカオルの頭をポンポンと撫でた。
「ちょ、ちょっと、お前……あっ、頭とか撫でるなよ……マジウザっ。お前の同情……」
「ははは。そっか、そっか」
参道の途中で美映留神社名物の急階段に差し掛かる。
俺は、カオルの手を取りゆっくりと上り始めた。
ふと、気になることが頭をよぎった。
今日のカオルは、半年前に再会した時とは明らかに雰囲気が違う。
もしや、あれから彼女ができた、とか……。
「なぁ、カオル」
「ん?」
「お前、最近、彼女できた? ほらコンサートの時はいないって言っていたよな?」
「別に、いねぇけど」
気のせいか?
俺がこいつのゴスロリ姿を見て、勝手にテンション上げて、そう感じているだけなのかもな……。
それにしても、なぜか、こいつに彼女がいなくてホッとしている自分がいる。
こんなチビに先を越されるわけにはいかない、ってわけかな。
「ケンイチ、お前こそどうなんだ?」
「ははは、俺は無理無理。俺の彼女はさしずめ、『ゴスロリ☆にゃんにゃん』だな」
「ぷっ、このアイドルオタが。ははは」
「でも、やっぱり、彼女ほしいよな」
「ああ……まぁな」
「でもよ。彼女出来たら、こんな感じなのかもな。こんな風に手を繋いでさ」
「そっ、そうだな」
俺は、繋いだカオルの手を引き寄せる。
「おい、もっとこっち寄れよ」
「えっ?」
カオルは、目を見開いて俺の顔を直視する。
「……みたいな。ははは。あれ、カオル、何で顔赤くしてんの?」
「うっ、うっせ。オレはお前の彼女役をやってやっているんだから有り難く思えよ」
あはは。
何だか、今日のカオルは、ころころ表情を変えて面白い。
「おお、そうだったな。ごめんよ。カオル、愛してる」
「あっ、愛って……」
「ははは。お前の彼女役、うぶ過ぎるって。気持ち悪りぃ。ははは」
「てめぇ! いちいち笑うなよ!」
やべぇ。
カオルをからかうのがこんなに楽しいとは。
「ははは。楽しいな。俺達っていまだにいいコンビだな。相棒!」
「ああ、そうだな。確かに、それはいえてるぜ!」
あー。楽しい。
彼女が出来たら、彼女ともこんな風に冗談を言い合いたいな。
そうこうしている間に、手水舎を通り、本殿の階段を上り、俺達の順番になった。
カランカランと鈴を鳴らし、お賽銭。
ニ礼二拍手一礼っと。
「さて、今年こそ、彼女が出来ますようにっと」
「ぶっ、おい、ケンイチ。声出てるって。恥ずいからよせって」
隣でお祈りしていたカオルがツッコミを入れてくる。
「バカ、良いんだよ。言葉にしないと通じないこともあるだろ?」
「言葉にしないと……かぁ。いい事言うな。確かに、お前鈍いからな」
「ん? どういう意味? 俺が何だって?」
「ああ、何でもない。さぁ、ちゃんとお祈りしようぜ」
「おっ、おう」
カオルは、昔っから、たまによく分からない事をいう。
まぁ、こいつはこいつで何か頑張っているようだから、応援してやりたいんだけどな。
お祈りを終えると、御神酒、おみくじ、御守り購入、と初詣標準コースをこなした。
で、今日はお開きという事で帰路につくことになった。
「ほら、手出せよ、カオル」
「ああ」
来た時と同じ様に、カオルと手を繋いで歩いて行く。
いつの間にか、カオルと手を繋ぐ事が当前のようになった。
何だか、不思議な気持ちだ。
こんなに長時間、誰かと手を繋ぐって、親以外では初めてかも知れない。
それで、誰かと手を繋ぐって事が、実は特別な事かも知れない、と真剣に考え込んでしまった。
同じ方向に、同じ早さで、同じ目的で進んでいく。
人生のパートナーと共に歩いていく。
ああ、結婚っていうのは、こういう事か、と漠然と思った。
突然、カオルが質問して来て我に返った。
「おいケンイチ。何を考え事してるんだよ。オレの話、聞いていたのかよ」
「ああ、すまん。聞いていなかった……」
聞き返してみると、俺のお祈りの事らしい。
「なぁ、ケンイチ。彼女が欲しいって、お前ってどんな女が好みなんだ?」
「俺か? そうだな」
無意識に空を見上げた。
実際、好みなんてあるようでない。
「そうだな……容姿にはあまりこだわりないな。やっぱり、一緒にいて楽しいのが一番かな。あっ、そうだ。ひとつ言うなら」
「ああ」
「ミニスカートが似合う女だな」
「ぶっ! お前、結局エロかよ」
カオルは、吹き出した。
「ははは。そりゃ、男には譲れないものってあるだろ? これぞ男のロマンってやつさ」
「まったく、ケンイチ。お前ってやつは……あはは」
カオルは、楽しそうに笑う。
ふふふ、何だよ。
お前だって、エロビデオを見てあそこをあんなにカチカチにしてただろうが。
まぁ、誰だってフェチっていうのはあるさ。
「で、カオル。お前の好みは?」
「オレか?」
カオルは、俺の顔をじっとみて一瞬固まった。
そして、すぐに答えた。
「オレは、あまり好みというものはないな。強いて言うなら……」
「強いて言うなら?」
「デブはパス。痩せ過ぎもアウト。体が引き締まっているやつかな」
「スポーツやってる女って感じか?」
「まぁ、そうだな」
「なるほどね。張りのある肌ってやつね。俺も嫌いじゃない。カオル、お前、いい趣味してるよ」
「ぶっ! なんで上から目線よ」
「ははは」
参道を抜け、国道まで出た。
カオルが手を離した。
「ケンイチ。オレは、ここで。バスだから」
「おお、そうか。今日は、誘ってくれてありがとな。カオル」
「いや、こっちこそ。ああ、そうだ」
「なんだ?」
「中学の同級会の話、聞いてるか?」
「いや」
「来週だったかな。行かないか? 機会があったらお前を誘うように言われていてさ……」
中学の同級会かぁ。
正直、俺の中ではあまり盛り上がって無かった、のだが……。
「そうだなぁ。中学卒業して一度も行ってないもんな」
「ははは。だから、誘われなくなったんだろう?」
「まあな。よし! カオルが行くなら行くよ」
「おお、そうか。じゃあ、そう伝えておく」
でも、今日みたいにまたカオルと話ができれば、それだけでも、行く価値ありだな。
「じゃあ、次は同級会で!」
「ああ、同級会で」
「じゃあな、愛しているよ。チュ!」
「いつまでやっているんだ。バカ」
カオルは、笑いながら手を振ると去って行った。
それにしても、カオルのやつ、可愛いかったな。
カオルの手の感触がまだ手に残っている。
あいつの手、すげぇ柔らかかった。
あれ? やばい。
俺は、なんでこんなにもドキドキしているんだ。
しかも、次の同級会が楽しみで仕方ない。
ふぅ。
落ち着け俺。
今日は、あのゴスロリのコスプレのせい。
カオルは、男だから。
って、思い出しただけで、また、胸が熱くなる。
俺はどれだけゴスロリにハマっているんだよ……。
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