で、どうしてお前は女装しているんだ?

いちみりヒビキ

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1-1 初詣 ~ケンイチ~

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俺の名は、ケンイチ。
ここ美映留みえる市内の大学に通う二十歳過ぎの大学生。
彼女いない歴イコール年齢という完全な童貞。

俺のことはさておき、半年前に久しぶりに会った幼なじみのカオルから、

「一緒に、初詣はどうだ?」

という誘いがあった。
ちなみに、幼なじみでカオルという名前。可愛い女の子では? という連想をしがちだが、残念ながら正真正銘の男。

ただ、チビで童顔という希少な特質を持っている。
おかげで、俺と同じく二十歳を超えているのに、どう見ても高校生。いや、下手をすると中学生に見える。
ちなみに、これは半年前の情報だ。

で、そのカオルからの誘いだが、元旦の今日、言い出しっぺのくせに一向に待ち合わせ場所に来ないのだ。
待ち合わせ場所は、国道沿いにあるショッピングモール。
ここは、市内の神社、美映留みえる神社へ初詣に行く人たちの定番の待ち合わせスポットになっている。

イライラして待っているところに、ふと、ゴスロリファッションの可愛い女の子の姿が目に入った。

やべぇ。
可愛い……。

俺は、ドキドキしながら横目でゴスロリちゃんを目で追った。

いやぁ、いいものを拝めさせてもらった。
カオルが遅れたんで得しちゃったぜ。
サンキュー、カオル。

俺は、そんな風に思った訳だが、それには理由がある。

俺はゴスロリっ子に目がないのだ。

そうなったのも、ゴスロリファッションのアイドルグループ『ゴスロリ☆にゃんにゃん』のファンになってからもろに影響を受けた。

恥ずかしながら、俺は大学生になってアイドルオタデビューを飾った。
いや、アイドルオタと堂々と名乗るには、まだまだの新米。

大学の友達には、まだ言い出せていない、そんな羞恥心を捨て切れてない初級レベル。

で、今日一緒に初詣に行くカオルに頼み込んで、ようやく初コンサートを体験できたのが半年前。

俺が意を決してカオルに連絡を取ると、

「何だよ、ケンイチ。中学卒業以来、連絡よこしたと思ったらアイドルのコンサートに一緒にって? お前、友達いないのかよ?」

と、手厳しい返事が返って来た。

だが、それはそれ。
幼なじみのよしみで、なんとか了承してもらった。
やはり、持つべきものは、恥も外聞もさらけ出せる幼なじみって事だ。




それにしても、あのゴスロリちゃんかわいいなぁ。
あんな可愛い娘が彼女だったらな。

と思っていると、どんどん近づいてくる。

俺は、ソワソワしながら様子を伺っていると、なんと、そのゴスロリちゃんは俺の目の前に立ち止まったではないか。

はぁ、はぁ。
やばいって。目の前に天使が……。

「よう、待たせたな。ケンイチ」
「へ?」

ん? 俺の名前を呼んだか? 誰?

「さぁ、行くぞ。初詣」
「あの、人違いでは?」

「ははは、何言っているんだ、ケンイチ。オレだ、オレ。カオルだ」
「えっ、えーっ!」



俺達は、とりあえず場所を変え国道沿いのファミレスに入った。

目の前のゴスロリちゃんは、自分の事をカオルと名乗った。
しかし、どう見ても女の子。

顔は、丸みを帯びた小顔で目がくりっとしていて愛嬌があって可愛いらしい。
ゴスロリの髪飾り、レースがあしらわれた黒のワンピースと、タイツ、靴に至るまで完璧なゴスロリコスチューム。
男の要素など微塵もない。

唯一、あるとすれば、話し方は確かにカオルだ。
ぶっきらぼうの容赦のない口調。
それは、昔から変わることのないカオルのトレードマーク。

「なぁ、お前、本当にカオルか?」
「疑り深いな、だから、何度も言っただろう? これは姉貴の趣味だって。オレは、今日一日。このコスプレ衣装の試着テストなんだよ」
「でもよぉ」

確かに、半年前に見たカオルを思い出すと、目の前でふてくされるこの子は印象は似ている。
あの、チビで童顔のカオルが女装すれば、確かにこんな感じにならないとも言い切れない。


うーん。
でも、このかわいさ。
俺は混乱しているのか、心臓のドキドキが止まらない。
なんだって、幼なじみのカオルにって思うのだが、いかんせん目を見ると体が熱くなってくる。

いや、待てよ。

これは、周到に組まれた罠では?
確かにカオルには歳が近い姉がいる。

俺の遠い記憶では、かなり似ていた。
で、目の前の女は、実はお姉さん。

そして、どこかの影で本物のカオルは俺の様子を伺っている。
俺がドギマギする様子を見て笑っている。

ある。これはあるぞ。
あいつは、そういう思いもよらない遊びを思いつく天才なのだ。


よし。
そうゆう事なら、こっちだって考えがある。
目の前のカオル、いやお姉さんの化けの皮を剥がしてやるぜ。

お姉さんに恨みは無いが、俺をからかう片棒を担いだのがいけないんだ。
恨みっ子なしだ。

俺は、早速、作戦に移った。

「オホン。じゃあ、お前が本当にカオルって言うんだったら、俺達二人しか知らない秘密を知っているはずだよな」
「秘密だと? あっ、ああ、そうだな」

ふふふ。焦っているな。お姉さん。ひひひ。

「じゃあ、まずは幼稚園の頃な」
「いいぜ」

おっと。お姉さん、やる気だな。

「俺とカオルは、幼稚園の池にある事をしました。さて、何をしたでしょう?」

チラッと、お姉さんの顔を見る。
何やら、考えているふりをしているな。
どうだ? 分かるか?

「ああ、あれかな……」
「そう、あれだ。あれ」

うひひ。苦しくなって適当な事を言うぞ。
ほらほら。

「お前とオレでたっしょん勝負したな。幼稚園の池に向かってどっちが飛ぶかで」
「へっ!」

「違ったか?」
「いっ、いや。当たりだ」

うっ、嘘だろ? 

「じゃあ、どっちが遠くに飛ばせたかは?」
「それな。お前だ」

「うっ、当たりだ……」
「だって、オレが言い出した遊びなんだから覚えていて当然だろ? 変なやつだな」

お姉さんは、何でもなかったかのように澄ましている。

あっ、そうか。分かったぞ。
あいつ、お姉さんに話したな。
なるほど。
そっか、そっか。
仲のよい姉弟きょうだいならありえるな。

と言う事は、お姉さんに言えないような事ならどうだ。
今度こそ、お姉さんの焦った顔を拝ましてもらうよ。

「オホン。じゃあ、小学校の頃は飛ばして、中学の頃な」
「ああ、いいぜ」

その澄ました顔も今のうちだ。

「俺とカオルでエロビデオの鑑賞会をした時にした勝負は何か?」

うひひ。
これは流石にお姉さんには言っていまい。

しかも、『エロビデオ』という下ネタも入れてある。

どうだ、お姉さん? 恥ずかしかったら降参していいんだぜ。
この勝負、俺の勝ちだ!

「エロビデオ? ああ、あれか」
「えっ?」

ちょっ、ちょっと、お姉さん。
その可愛いお口から『エロビデオ』ってキーワードがサラッと出てきているんですけど。

やばい。
カオルのお姉さんって、下ネタオッケー女だったか……見誤った。
とは言え、流石にカオルはあの事は言っていまい。

「エロビデオ見て、どっちのペニスがより固くなるかだろう?」
「ぶっ!」

「あれ? 違ったか?」
「はぁ、はぁ、いやそうだ。あってる……」

やべぇ。
まさか、カオル。お姉さんに言ったのか?

「じゃあ、一応聞くけど、どっちが勝ったか分かるか?」
「ふふふ。オレがダントツだったな。お前のペニスはデカかったけど、意外と柔かったよな。ははは」

「うっ。おっ、お前……」
「確か、お前は、『AV女優のおっぱいがちっちゃくて好みじゃない』とか言って言い訳してたっけ」

「おい、それ以上は……」
「だいたい、あの勝負だってオレが言い出したんじゃなかったか?」

「おい! お前! 本当にカオルじゃないか!」
「だから、最初から言ってるだろ。オレはカオルだって! まったく、ケンイチは疑りぶけぇなぁ」

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