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(3)男を抱く事

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オレと先輩を乗せたタクシーはオレの安アパートの前で止まった。
人を自分の家に呼ぶのは初めて。
オレは、玄関の扉を開けると、

「ここっす。狭いですけど」

と、部屋の中に誘った。
先輩は上着を脱ぐと、テーブルを前にあぐらをかいた。
オレは急いでキッチンに向かう。
貰い物のワインが確かあったはず。

オレは先輩に声をかける。

「先輩。ワインと水割りどっちにします?」

返事がない。
どうしたのだろう、とキッチンから顔を覗かせた。

「先輩?」

先輩は横になっていた。
今夜は結構飲んだし、先輩はこんなにお酒を飲んだのってきっと久しぶりなんだ。

寝ちゃったのかな。

先輩の寝顔。
頬にほんのりと赤みがさして可愛い。

スースーと穏やかな寝息。
オレはそっと顔を近づけると唇を合わせた。

「先輩。オレ、先輩を幸せにしたいです」

そう言ってから、再びキスをした。




オレは、自分の部屋に先輩が居るという不思議な感覚を新鮮に感じていた。
先輩の寝顔を眺めると幸せでいっぱいの気持ちになった。

先輩は、うーん、と寝返りを打つ。
オレは、先輩のネクタイを外してあげた。
そして、先輩の身体を軽く揺すって起こす。

「先輩、オレのベッド使ってください」
「ん? 悪いな、宮川。つい、寝てしまったよ」

先輩は目を擦りながら言った。




先輩はオレのベッドに腰かけた。
まだ目が覚めていないのか、ぼーっとしている。

「先輩、シャツ脱ぎます?」
「じゃあ、宮川。脱がせてくれ」

「わかりました。じっとしていてください」

オレが先輩のシャツのボタンに手をかけようとした瞬間、先輩はガバッとオレに抱きついた。

「えっ!?」

オレは、あまりに急なことで頭の中が真っ白になった。
先輩は言った。

「宮川。ありがとな」
「いっ、いえ。そんな事……」

「お前がいてくれて良かったよ」
「そんな……」

先輩は、オレに抱きついたまま、オレの耳元で囁くように言った。

「俺を抱いてくれないか?」

自分の耳を疑った。
先輩を抱く?

それはオレがずっと思い続けてきた願望。
でも、先輩から? 本当に? 
オレは、先輩の両肩を掴んで聞き返す。

「先輩、いいんすか? オレとなんて」

先輩は、オレの熱い視線を真っ直ぐに受け止めてくれる。
そして、力強く答えてくれた。

「もちろん。お前がいいんだよ。宮川」

ああ、先輩。
オレの憧れの先輩。
オレを受け入れてくれる。オレの愛を。

「先輩! オレ、ずっと先輩の事、好きでした。嬉しいです。先輩! 先輩!」

オレは、先輩の唇に自分の唇を合わせた。




オレと先輩は、裸になり肌を合わせる。
オレは、無我夢中で先輩の唇を貪る。
舌を先輩の口の中に突っ込み、ねっとりと絡ませる。

「んっ、んっ、んっ……」

オレは、濃厚なキスをしながら、どうして先輩が誘ってくれたのか考えていた。
先輩は、ああは言ったけど、もしかしたら、オレじゃなくても慰めてくれる人なら誰でもよかったのではないか?
そんな疑問が浮かんでいた。

きっと先輩は寂しいんだ。
長い間の悲しみ果てに、身も心もボロボロ。
誰かの救いの手が欲しかった。

ムーランルージュへ通っていたのも、寂しさを紛らわすため。
もしかしたら、そこでチャンスがあれば、見ず知らずの人とでも……。

だから何だと言うんだ。

だとしても、オレは嬉しい。
今、この時、先輩が選んだのは、誰でもないオレなんだ。

オレは役目を果たす。
先輩を寂しさから解放する。その役目を。

「先輩! オレ、絶対に先輩を気持ちよくさせてみせます!」
「フッ、そうか? 期待しているぞ。宮川」

「はい!」


とは言ったものの……。
オレのつたない愛撫に、先輩は言った。

「なぁ、宮川。お前、男を抱くのは初めてか?」
「は、はい。すみません……」

オレは申し訳なくて素直に頭を下げた。
恥ずかしくて体中が熱い。
先輩は、オレの頭に手をやる。

「なに謝っているんだよ! バカ!」
「だって……オレ、威勢のいいこと言って……」

オレの頭はそのまま先輩の胸に押し付けられた。
堅くて厚い胸板。

トクン、トクン……。
先輩の心臓の音。
なんだか、ホッとする。

先輩は、オレの頭を大事そうに優しく抱いた。

「なぁ、宮川。俺は嬉しいんだよ」
「えっ?」

「お前の気持ち。しっかりとこの胸に届いたからさ……」

先輩はそう言うと、オレの両方の頬を両手で押さえた。
そして、ゆっくりと顔を近づけ、唇を合わせた。

「なぁ、宮川。誰だって最初がある。俺に任せておけ」
「はい!」

オレは素直に返事をした。
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