貴方好みの体にしてくれますか?

いちみりヒビキ

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(01) 運命の出会い

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「いらっしゃいませ!」

壮太さんは、優雅な仕草でお辞儀する。
上品なウエイターの制服を着こなし、その姿は貴族の執事を彷彿とさせる。
どのお客様も、壮太さんの姿を見てはハッとして、頬を赤らめ見惚れる。

「こちらへどうぞ」

低く甘いボイス。
お客様は、魔法にかかったような夢心地で席まで誘われていく。

俺は、映画のワンシーンでも見せられている気になり、つい給仕の手を止めしまうのだ。



ここは、カフェレストラン ”カフェ・ボーノ”
昼は近隣のセレブマダムが集い、夜は会社帰りのカップル達で溢れかえる超人気のお店。

店の大きさは、普通のファミレスを少し小さくしたぐらい。
入り口を入ると、高い天井にアンティーク調の内装が目に留まり、スロージャスが心地よく耳に入る。
なんともゆったり寛げる空間がそこにあるのだ。

俺は、初めてこの店にきた時にその魅力に取りつかれてしまい、一念発起してホールとして働き始めた。
それが一週間前の事。
目の回るような忙しさであっと言う間に今に至る。

ちなみに個人経営だそうだけど、オーナーにはお目にかかった事はない。
実質、オーナーの縁者らしい女性店長がこの店の主だ。
その店長から声がかかって俺はバックヤードに向かった。


「どうかな伊吹君、慣れた?」
「は、はい。どうでしょう……」

店長からの問いかけに俺はためらいがちに答えた。
そんな俺を見て店長は笑った。

「ふふふ。ちょっと硬いかな? もっと笑って! そうすれば人気が出ると思うから!」
「はぁ……」

「ほら、もっと自信を持って! せっかく、アイドル並みに可愛いんだから!」

店長は、グッと拳を握り、頑張れ!のポーズを取る。
俺は苦笑いをした。

店長は買い被りなんだよな……。

確かに俺はよくアイドルの誰それ君に似てるとか、顔が小さくてモデルみたいとか、目がぱっちりして綺麗とか、外見を褒められる事が多い。
まぁ、多少女顔の童顔なわけで、年上女性受けする可愛い系イケメンの類い、なのは自覚している。

とはいえ見た目はともかく、中身は残念な奴だって自分でもよく分かっている。
基本ネクラだし、騒ぐのは苦手。

できればひっそりとして、そっとしておいてほしいと常日頃思っている陰キャラそのもの。
だからこそ、無邪気にそう励まして来る店長の言葉は重くて辛い。

さて、そんな店長は、歳の頃は20歳台後半。
名前は、香田 美帆こうだ みほという。

凛とした面持ちで背はスラっと高くスタイル抜群。
それでいて笑うとドキっとする程可愛い。

そんな魅力的な大人の女性だ。
ちなみに、俺のバイトの面接をしてくれたのも美帆さんである。


店長からの激励で嫌な汗をかいていたところに、後ろから声がかかった。

「店長、ご予約のお客様です。店長にお話しがあるそうで……」
「あっ! そうだった! もうそんな時間? 今行きます!」

俺は振り返って、その声の主を見た。
思わず声に出してその名を呼ぶ。

「壮太さん……」

壮太さんは、俺の方をちらっと見ただけで、すぐに店長を追うようにホールへと向かっていった。
俺は、その一瞬目が合っただけなのに、胸が張り裂けそうなまでにドキドキした。



壮太さん。
フルネームは、夢坂 壮太ゆめさか そうた
市内の大学に通っている。確か、俺より3つは上。

背が高く、均整がとれた身体つき。
面長で切れ長の目を持ち、甘いマスクの超絶美形。
俺とは違い王道のイケメンである。

長髪の黒髪は一つ束にし、頬にかかる前髪を耳にかける仕草は、なんとも言えない大人の男の色気を漂わせる。
スタイル、ふるまい、言葉づかい。
どれをとっても完璧で、否が応でも女性達を魅了してしまう。
お陰で、壮太さんがホールに立つだけで、お客様のテンションはぐんぐん上がり、注文殺到で売り上げ倍増なのだ。

当然ながら、一度ファンになったお客様は、壮太さん目当てで通い詰める事になる。
ちなみに、ホールのバイトは俺が知る限り10人ほどになるが、その中でも圧倒的な人気を博す。


と、他人事のように言ったが、実の所、俺もそのファンの一人である。
理由は簡単。
お客様をおもてなす事に一切の妥協を許さない。
完璧なプロ意識。
そこに憧れと尊敬の念を抱かずにはいられないのだ。



最初の挨拶の時、俺は緊張して壮太さんに声をかけた。

「夢坂さん、俺、星宮 伊吹ほしみや いぶきって言います。よろしくお願いします!」

壮太さんは、興味無さげに俺を見る。

「ああ……よろしく。夢坂 壮太だ」

素っ気ない返し。

「あの、俺、夢坂さんのファンで……」

そう続けようしたが、すぐに言葉を妨げられる。

「せいぜい頑張れよ……新入り」

壮太さんは、そう一言残し、振り返ることもなく去っていった。

俺の目に焼き付いた壮太さんの氷のように冷たい表情。蔑みの目。

俺は、嫌われている。

そう、直感した。
それが、最初の出会いだった。



確かにいい印象は持たれなかったのかもしれない。
でも、同じ職場で働く同僚。先輩、後輩の仲。

仕事のアドバイスを貰いたいし、できれば、それ以外、プライベートな事だって知ってもいいはず。
だから、俺はチャンスがあれば積極的に話しかけるようにした。

「壮太さん! あっ、すみません、俺も夢坂さんの事、下の名前で呼んでいいすか?」

「すごいっすね、壮太さん! 今日のお客様、みんな壮太さんのファンでしたよ」

「壮太さんって、お得意様には必ず、一言、二言、何かしらのコミュニケーションを取るんっすね。俺も真似していいっすか?」

「壮太さん……!」

しかし、壮太さんは相変わらずの塩対応。
興味なさそうに、「ああ」とか、「そう」とか、短い言葉で俺をあしらう。

確かに、俺は、お客様でもないし、親しい友人でもない。
きっと、壮太さんから見れば、俺なんて道端に転がる石ころのようなもの。

壮太さんにとって何の価値もない。
俺はその度に、次こそは、とグッと拳を握る。


そんなある日のバックヤード。
品出し中の壮太さんを見つけると、俺は懲りずに近づいた。

「聞きましたか? 壮太さん。秋の新メニューなんですけど……」

俺が熱弁を奮っていると、壮太さんはムクっと立ち上がり俺の目の前に立ち塞がった。
そして、身体を屈める。

え!?

俺は驚いた。
目の前に壮太さんの顔。

そして、突然、俺の唇に壮太さんの唇が触れた。

何が起こっている!?
突然の事で頭の中はパニックを起こした。

何だこれ? もしかしてキス!?

壮太さんは、ゆっくりとした動きで体を起こす。

束ねた黒髪がふわっと揺れた。
綺麗だな……。
俺は、ぼぉっとした感覚の中で、何故かそんな事を思った。

「お前、ちょっとうるさいぞ。黙って仕事しろ」

壮太さんの声。低いトーンで心地いい……。

「聞いているのか? 次は犯すぞ」

夢心地の中、『犯すぞ』の言葉でハッとして覚めた。
俺は、直ぐに叫ぶ。

「は、はい。すみません! 気を付けます!」

壮太さんは、何事もなかったようにそのまま品出しの続きを始めた。
俺は、その様子を見ながら、自分がすっかり勃起してしまっていたことに気付いた。
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