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(04) 宿泊

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湯船に浸かりながら、アラタは文句を垂れる。

「まったく! 最近のガキは、なんて生意気なんだ」

アラタは、すっかりユウキのペースに乗せられてしまった自分に腹を立てていた。

湯船を出たところで、風呂場の扉が開いた。

「おじさん! 背中流しに来たよ!」

裸で飛び出してくるユウキ。
アラタは、目を丸くする。

「お前、さっきシャワー浴びただろ?」
「いいのいいの。ただで泊まれる何て思ってないから! ちゃんと体で返すから!」

ユウキはそう言うと一丁前に胸元と股間を手で隠した。
アラタは、せせら笑う。

「何、生意気言っているんだ? ガキのくせに」
「ねぇ、おじさん。どうされると気持ちいいの? 僕に教えてよ」

ユウキの手は、アラタの股間に向かう。
アラタは、サッとその手を掴んだ。

「いいか、ユウキ。あらかじめ言っておくぞ。俺は確かにホモだ。しかし、お前みたいなお子様には興味はない。だから、お前が何か企んでいても意味はないぞ!」

アラタはキッパリと言った。
ユウキの表情が緩む。
張り詰めていた緊張が解れていくように見えた。

「へぇ。おじさんってそういう大人なんだ。へぇ、そうなんだ」
「何だ? 嬉しそうだな」

「ううん。別に。じゃあ、真面目に背中を流すよ!」
「お、おう……」

ユウキはアラタの背中に回り込むと、ピトッと体をくっつけた。
しばらくそうしていたかと思うと、急にゴシゴシと擦り出す。

「バ、バカ! 痛えよ! もっと優しくだ!」
「おじさん、だらしないよ! あははは!」

アラタは、ユウキが垣間見せる子供っぽさに、こいつ、寂しがり屋なだけかもな。と、思うのであった。





アラタは、胸の圧迫感で目を覚ました。
朝か? と思うも、目の前にユウキの姿を捉えた。
ユウキは、アラタの体に覆い被さり抱きついている。

「おい、ユウキ! 何しているんだ?」
「おじさん……」

ユウキは甘えた声で言った。
アラタは諭すように言う。

「言っただろ? 子供には興味がないって」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」

アラタは、ユウキの様子がおかしい事に気づいた。

「泣いているのか?」

ユウキは、黙ったまま顔を埋める。
しばらくして小さな声が聞こえた。

「僕、一人じゃ寝れないから……」
「何だ、ユウキ。ずいぶん、しおらしいじゃないか?」

「だって……」

アラタは、ため息を漏らした。
そして、体をずらし一人分の場所を作ると、上掛け布団を捲った。

「ほら、入れよ、ユウキ」
「いいの?」

「いいさ」
「やった!」

ユウキは滑り込むようにアラタの懐にもぐる。
そして、アラタの胸の中にすっぽりと収まると、顔をにょきっと出した。

「おじさん、あったかいね!」
「そうか? まぁ、いいや。ふあーあ。俺は寝るぞ。おやすみ」

「おやすみなさい」

二人は親子のようにくっ付いて丸まった。




アラタは、誰かに体を揺すられて目を覚ました。

「ほら、起きて!! 朝だよ!」

目の前ではユウキが、何やら皿を並べていた。

「ん? 何だ? ユウキ、何してる?」
「何って、朝ごはんだよ!」

テーブルの上には、トーストに卵焼き、そしてサラダが乗っていた。
アラタは、驚いてユウキに尋ねた。

「これは一体?」
「ふふふ。ちょっと、外で買ってきたよ。お金はそれを……」

ユウキの目線の先にはアラタの財布があった。

「まったく。まぁ、いいか……ありがとな、ユウキ」
「えへへ、どういたしまして!」

アラタは、ユウキの頭をシャカシャカと撫でた。



二人は手を繋いで歩いた。
ユウキはアラタを見上げては同じ質問を繰り返す。

「ねぇ、おじさん。どうしても警察行かないとダメ?」

アラタは、何度も丁寧に答える。

「ダメだな。お前をこのまま家に置いておくと、俺が警察に捕まる。誘拐とか監禁とか。いや、そもそも、お前は家に帰った方がいい」

その度に、ユウキはガックリと肩を落とした。


警察署の入り口に差し掛かると、ユウキは立ち止まった。
そして、アラタの手をギュッと握りしめた。

「おじさん。僕を助けてくれないの?」
「なぁ、ユウキ。俺は、お前を助けただろ?」

「うん……」

ユウキは、頭の中では分かってはいるのだ。
でも、一縷の望みを捨てきれないでいる。

アラタは、根気よくユウキを待った。
ユウキは、しばらくして言った。

「そっか、そうだよね。おじさんに迷惑かかっちゃうもんね」
「そうだ。よし、行こう」

二人は警察署に入っていった。



「こちらに、お名前をご記入下さい」
「はい」

アラタは事務手続きをしていた。
チラッと、ユウキの方を見ると、婦警さんに頭を撫でられている。

「良かったわね、ユウキ君。保護者の方が直ぐに来てくれるって!」

婦警さんの嬉しそうな表情とは対照的に、ユウキは泣き出しそうな顔をしていた。
婦警さんは、良かった、良かった、とユウキの頭を抱えている。

「こちらには、連絡先をいいですか?」
「あ、はい」

アラタは、はっとして書類に目を向け直した。
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