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第2章 無限イチャイチャ計画
第49話 花火1・同時視聴
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花火大会中継特番の日。
俺は冷房を二十八度に設定してパソコンの前で待機していた。若干の暑さを感じるので、流しそうめんでも食べながら見たいところだが、水道代がもったいないので我慢する。
時折、うちわを扇いで暑さを緩和していると番組が始まった。
画面全体に夜景が映し出されている。その映像と重なるように、手前のスタジオの左端にはビッキー、右端には風華がいた。
二人とも浴衣を着用している。うひょー、やっぱり人妻の浴衣は最高だぜ。
「皆様、こんばんは。気象キャスターの鳴神響ですわ。そして——」
「どうもぉー、お笑い芸人の乃和木風華です!」
ようやく芸人の自覚が芽生えたか。早く漫才コンテストに出て一回戦敗退しろ。
「えー、本日は二人で各宇野花火大会の模様を中継していきたいと思いますわ」
うさん臭い名前の花火大会だな。
「響さんの魚肉柄の浴衣かわいいですね」
「金魚ですわね」
相変わらずのクソ言語センスだな。
「私の浴衣はどうですか? エビフライ柄です」
「バタフライ、つまり蝶ですわね」
エビフライ柄って。ちょっと見たいのやめろ。
「とても似合っていますわ」
「当然ですね」
なんだこの自信家は。謙遜しろ。
ビッキーは苦笑いを浮かべている。一回、背負い投げでもしてどちらが上か分からせてやったらいいと思う。
「花火が始まるまで少し時間があるので何かやりましょうか。風華ちゃん、花火大会といえば何を思い浮かべますか?」
「人混みですね。あの人間の群れを弾幕ゲームみたいに避けて行くのが楽しいんですよ」
どこに楽しみを見いだしてんだよ。もっとポジティブな回答にしろよ。
風華は浴衣を乱しながら弾を避けるような動作をしている。誰かヘッドショットしてやれ。
「あはは、風華ちゃんは相変わらず独特の感性ですわね。それより花火大会といえばお祭り、お祭りときたら出店ですわ。ということで出店で売っていそうな飲食物をお持ちしましたわー!」
黒子に変装したスタッフが食べ物を持ってきた。
「風華ちゃんはどれが気になりますの?」
「そうですねぇ、ラムネですかね」
瓶のラムネジュースを手に取った。
「ひっ。風華ちゃんは液体を持たないでくださいまし」
ビッキーがビクビクしている。完全にカレーぶち撒け事件のトラウマが蘇ったに違いない。申し訳ないがカワイイと思ってしまった。
「どうしたんですかぁ? ただのラムネですよぉ?」
風華はニヤニヤして完全に理解している様子だ。
「そ、そうですわよね。お、美味しそうですわぁ」
「あ、そっちに持って行ってあげますよ!」
風華が画面右端から左端へ向かう。
「ひぎゃああああ!」
ビッキーはホラー映画でしか聞かないような悲鳴を上げて画面外へと消えていった。
アハハ! おもしれー。ホント悪いけどビッキーのビビる姿めちゃくちゃかわいい。
それから、ちょっと経って申し訳なさそうな顔をしながら戻ってきた。
「えー、お見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありませんわ。……さて、もう少し時間があるので、花火が始まる前にちょっとした雑学でも話しておきますわ」
切り替え早いな。さすがビッキー。一方で風華は元の位置で呑気にたこ焼きを頬張っている。コイツをタコ壺にでも封印しようぜ。
「実は花火が打ち上がる時のヒューという音は自然に鳴っているものではなく、火薬入りの特殊な笛が付けられているのですわ。理由は花火が最も綺麗に咲く瞬間を見てもらうためなんですのよ。ドンって音が鳴った時に花火を見上げても既に散った後ですわよね。そうならないように、今上がっていますよ、という予告的な役割があるのですわ」
へぇ。よく考えられてるんだな。
「花火職人さんの口笛かと思いましたよね」
それはお前だけ。
「それから花火を見る時は風向きに注意してみてくださいな。風下だと花火の煙で見えにくくなってしまいますわ。それと花火大会は、雨が降っていなくても風が強いと中止になることがあるので、お出かけの際は風速にも注意してくださいな」
お天気お姉さんらしい情報ありがたいねぇ。それに比べて風華のヤツは他人事のように我関せずで暴飲暴食している。たこ焼き一舟食ってんじゃねぇぞ。
「あ、花火始まりましたよ!」
ようやく花火が上がり始めた。
「砕いたお皿みたいですねぇ」
クソ喩えやめろ。
次の花火が咲く。
「おぉ、CDを砕いたみたいですね。いや、DVDかな?」
違いがわかんねぇよ!
次。今度はカラフルな花火が見えた。
「うわー、こちらはゲーミングPCを砕いたみたいですね」
砕くな砕くな!
その後も砕き喩えが延々と続いた。風華を打ち上げて砕けないかな? 花火職人さん、お願いします。
続いて、先ほどよりも大きな花火が上がり始めた。
枝垂れ花火が咲く。
「うわぁ綺麗! 紐解いたモンブランケーキみたいですねぇ!」
ピンとこねぇよ! とりあえず紐解くな!
風華がコメント欄を見る。
「コメント欄も賑わってますねぇ。でも、花火より私の方が綺麗だね、ってコメントを打たなくて大丈夫ですか?」
めんどくせぇヤツ。でもコメント欄の扱い方も上手くなってきたな。
それから一度、花火が止まり、花火大会会場付近の映像が流れ始めた。
「あ、響さん見てください! カップルですよ!」
遠目に手を繋いでいる男女の後ろ姿が映っていた。
「あらあら、いいですわね。でもあまりジロジロ見てはダメですわよ……あ」
ビッキーが口をあんぐりと開けた。
何事かと画面を見ると、カップルがキスをしていた。すぐに画面が切り替わる。
「あはは、夏らしい素敵な光景でしたわね」
「なんというか……心を砕かれました」
ギャハハ! ざまぁ! 俺も砕かれたけどな!
俺は冷房を二十八度に設定してパソコンの前で待機していた。若干の暑さを感じるので、流しそうめんでも食べながら見たいところだが、水道代がもったいないので我慢する。
時折、うちわを扇いで暑さを緩和していると番組が始まった。
画面全体に夜景が映し出されている。その映像と重なるように、手前のスタジオの左端にはビッキー、右端には風華がいた。
二人とも浴衣を着用している。うひょー、やっぱり人妻の浴衣は最高だぜ。
「皆様、こんばんは。気象キャスターの鳴神響ですわ。そして——」
「どうもぉー、お笑い芸人の乃和木風華です!」
ようやく芸人の自覚が芽生えたか。早く漫才コンテストに出て一回戦敗退しろ。
「えー、本日は二人で各宇野花火大会の模様を中継していきたいと思いますわ」
うさん臭い名前の花火大会だな。
「響さんの魚肉柄の浴衣かわいいですね」
「金魚ですわね」
相変わらずのクソ言語センスだな。
「私の浴衣はどうですか? エビフライ柄です」
「バタフライ、つまり蝶ですわね」
エビフライ柄って。ちょっと見たいのやめろ。
「とても似合っていますわ」
「当然ですね」
なんだこの自信家は。謙遜しろ。
ビッキーは苦笑いを浮かべている。一回、背負い投げでもしてどちらが上か分からせてやったらいいと思う。
「花火が始まるまで少し時間があるので何かやりましょうか。風華ちゃん、花火大会といえば何を思い浮かべますか?」
「人混みですね。あの人間の群れを弾幕ゲームみたいに避けて行くのが楽しいんですよ」
どこに楽しみを見いだしてんだよ。もっとポジティブな回答にしろよ。
風華は浴衣を乱しながら弾を避けるような動作をしている。誰かヘッドショットしてやれ。
「あはは、風華ちゃんは相変わらず独特の感性ですわね。それより花火大会といえばお祭り、お祭りときたら出店ですわ。ということで出店で売っていそうな飲食物をお持ちしましたわー!」
黒子に変装したスタッフが食べ物を持ってきた。
「風華ちゃんはどれが気になりますの?」
「そうですねぇ、ラムネですかね」
瓶のラムネジュースを手に取った。
「ひっ。風華ちゃんは液体を持たないでくださいまし」
ビッキーがビクビクしている。完全にカレーぶち撒け事件のトラウマが蘇ったに違いない。申し訳ないがカワイイと思ってしまった。
「どうしたんですかぁ? ただのラムネですよぉ?」
風華はニヤニヤして完全に理解している様子だ。
「そ、そうですわよね。お、美味しそうですわぁ」
「あ、そっちに持って行ってあげますよ!」
風華が画面右端から左端へ向かう。
「ひぎゃああああ!」
ビッキーはホラー映画でしか聞かないような悲鳴を上げて画面外へと消えていった。
アハハ! おもしれー。ホント悪いけどビッキーのビビる姿めちゃくちゃかわいい。
それから、ちょっと経って申し訳なさそうな顔をしながら戻ってきた。
「えー、お見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありませんわ。……さて、もう少し時間があるので、花火が始まる前にちょっとした雑学でも話しておきますわ」
切り替え早いな。さすがビッキー。一方で風華は元の位置で呑気にたこ焼きを頬張っている。コイツをタコ壺にでも封印しようぜ。
「実は花火が打ち上がる時のヒューという音は自然に鳴っているものではなく、火薬入りの特殊な笛が付けられているのですわ。理由は花火が最も綺麗に咲く瞬間を見てもらうためなんですのよ。ドンって音が鳴った時に花火を見上げても既に散った後ですわよね。そうならないように、今上がっていますよ、という予告的な役割があるのですわ」
へぇ。よく考えられてるんだな。
「花火職人さんの口笛かと思いましたよね」
それはお前だけ。
「それから花火を見る時は風向きに注意してみてくださいな。風下だと花火の煙で見えにくくなってしまいますわ。それと花火大会は、雨が降っていなくても風が強いと中止になることがあるので、お出かけの際は風速にも注意してくださいな」
お天気お姉さんらしい情報ありがたいねぇ。それに比べて風華のヤツは他人事のように我関せずで暴飲暴食している。たこ焼き一舟食ってんじゃねぇぞ。
「あ、花火始まりましたよ!」
ようやく花火が上がり始めた。
「砕いたお皿みたいですねぇ」
クソ喩えやめろ。
次の花火が咲く。
「おぉ、CDを砕いたみたいですね。いや、DVDかな?」
違いがわかんねぇよ!
次。今度はカラフルな花火が見えた。
「うわー、こちらはゲーミングPCを砕いたみたいですね」
砕くな砕くな!
その後も砕き喩えが延々と続いた。風華を打ち上げて砕けないかな? 花火職人さん、お願いします。
続いて、先ほどよりも大きな花火が上がり始めた。
枝垂れ花火が咲く。
「うわぁ綺麗! 紐解いたモンブランケーキみたいですねぇ!」
ピンとこねぇよ! とりあえず紐解くな!
風華がコメント欄を見る。
「コメント欄も賑わってますねぇ。でも、花火より私の方が綺麗だね、ってコメントを打たなくて大丈夫ですか?」
めんどくせぇヤツ。でもコメント欄の扱い方も上手くなってきたな。
それから一度、花火が止まり、花火大会会場付近の映像が流れ始めた。
「あ、響さん見てください! カップルですよ!」
遠目に手を繋いでいる男女の後ろ姿が映っていた。
「あらあら、いいですわね。でもあまりジロジロ見てはダメですわよ……あ」
ビッキーが口をあんぐりと開けた。
何事かと画面を見ると、カップルがキスをしていた。すぐに画面が切り替わる。
「あはは、夏らしい素敵な光景でしたわね」
「なんというか……心を砕かれました」
ギャハハ! ざまぁ! 俺も砕かれたけどな!
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