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第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

第33話 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

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 乃和木風華の天気予報が終わって三日後。

 俺が家でゆったりしていると、いつものように乱暴に部屋の扉が開かれ、うるさい女が入ってきた。

「聞いてください! また今度響さんと天気予報やらせて貰えることになったんです! それで何回か様子を見て、上手くできたら一人でやらせて貰えるって! やりましたよ! えへへ」

 はにかむ笑顔。ちょっとカワイイと思ってしまった。ちょっとだけな!

「それより! なんですかこの切り抜きは!」

「なにってカワイイだろ?」

 乃和木が差し出してきたスマホの画面には、“【パオーン】元気象お天気お姉さんあらわる”という動画タイトルが書かれている。

「パオーンってなんですか!」

「いいじゃん、ビッキーも言ってたし。これからは象キャラで売っていけ」

「嫌です嫌です! 私は象よりカバ派なんですよ!」

「そこはどうでもいいだろ!」

「確かにどうでもいいですね」

 もっと粘れよ。情緒不安定かよ。

「それよりもですよ! 見てください! 私のSNSのフォロワー力が一万に到達したんですよ!」

 画面を見ると9998だった。

「いってねぇじゃん」

「細かいですね! 誤差の範囲です! あ、9999になりました! 今です、空雄さんのヨワオアカウントでフォローしてください!」

 チッ、フォローしてないのバレてたか。

 踏み絵をするような気分でフォローボタンを押した。

「やったー! これで本当に一万です!」

 外してやろうかな。と思ったが面倒になりそうなのでやめた。

「それから会社の公式からフォローされました!」

「それが普通だけどな」

 ようやくスタートラインってところだ。フォロワーが一万なのも他の新人と同じくらいだし。抜いたのは一人だけいる男キャスターだけ。コイツに抜かれて彼がかわいそうだよ。

「でもよかったな風華。これでしばらくはクビにならないだろ」

 ちょっとだけだが俺も嬉しい。

「空雄さんのお陰でもありますよ。ちょっとだけ」

「そうだな。ちょっとだけな」

 俺がした事は、人生という長い道の中でほんの少し近道を教えてやったに過ぎない。俺がアドバイスしなくてもいずれここまでたどり着いていただろうよ。

「あ、それと空雄さん、付き合いましょう!」

 ……え? 唐突な聞きなれない言葉に俺の思考は停止した。

「……突き合う? フェンシングでもすんのか?」

「違いますよ! 男女交際です!」

 ……え? ダンジョコウサイ?

「新種の野菜?」

「もぅ! 分かるでしょう? 男と女がイチャイチャすることですよ!」

「俺のこと、す、好きになったってこと?」

「まさか! そんな要素一つもないでしょう!」

 その通りだけどムカつくな!

「私、気付いたんです。フォロワー数を伸ばすには空雄さんみたいな“よわよわ男子”の気持ちを知らなければならないって」

 よわよわ男子ってなんだよ。弱者男性をゆるキャラにしてんじゃねぇぞ。

 まぁでも正しいと言えば正しいな。四六時中お天気番組見る層なんて俺みたいな魂が半分抜けてるような奴らだろうし。気付くのおせぇけどな。

「それで俺と付き合って生態を把握しようってことか」

「その通りです! ちょうど陳列されていたので味見をしようかと!」

 俺はスーパーの試食品コーナーかよ。

「別に付き合わなくてもいいんじゃ?」

「ダメです! 空雄さんはすぐに壁を作って距離を置くので今のままでは正確な生態を把握できません!」

 コイツたまに鋭いよな。

「ということで! さっそくデートに行きましょう!」

「いやぁ、フォロワーも増えてきたし、男と遊んでんの見られない方がいいだろ」

「そんなこともあろうかと覆面持ってきました! これでバレません! しかもおそろいです! カップルみたいでしょう?」

「ただの強盗団じゃねぇか!」

 ため息。ホントコイツのノリにはついていけねぇな。でも、ほんの少しだけコイツの良さが分かってきた気がする。バカだけど挫けない精神力に行動力、たまに光る言語センス。

 初めは振り回されてうっとおしかったけど、いつの間にか放っておけなくなって、こっちまで楽しくなって、もっと見ていたいってなるんだよな。

 だからこれからも風華が俺を頼って家に入り浸る限りは助けてやろうと思う。

 何はともあれ、弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件。


【第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件】 —終—
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