【完結】弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

一終一(にのまえしゅういち)

文字の大きさ
上 下
24 / 68
第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

第24話 買い物2・空っぽ人間

しおりを挟む
 乃和木風華の私服を買い終わり、服屋の外で少し雑談した後。

「ではそろそろ駅の方に向かいましょうか」

 もうお別れかよ。もっとビッキーと一緒にいたかったなぁ。

「その前に喉が渇きました! どこかで飲みもの買いましょう!」

 いいぞ! コイツたまには役立つこと言うな!

「空雄さんはお時間大丈夫かしら?」

「あ、はい。大丈夫っす」

 ビッキーがいるなら鬼ヶ島でも天竺てんじくでもお供します!

 近くの量産型コーヒーショップに着いた。

「空雄さんは女学生にボコられるので私が頼んで来てあげますね」

 おい、語弊があるだろ。絡まれるけどボコられてはいないぞ。殴り合いになったら負けるだろうけど!

「まぁ、どういうことですの?」

「いやその、他人に暴言吐かれやすいタイプなんすよ。多分、貧弱に見えるから」

「まぁ、かわいそうに。そんなこともないと思うのですけれど、酷い方もいるのですわね」

 かー、いい人ですなぁ! 世界中の人間がビッキーだったら良かったのに。

 注文が終わり、席に着く。

「あ、ちょっとお花狩りに行ってきます」

 お花摘みだろ。

 乃和木がトイレに向かった。

 いや待て、ビッキーと二人きりにすんなよ。友達の友達ですら気まずいのに、他人の先輩かつ推しとかどうしたらいいんだよ。ビッキーにスマホポチポチされ出したらショックで死ぬんだが!

「二人は付き合ってどれくらいになるのかしら?」

 困っているとビッキーが話題を提供してくれた。

「いや、本当にそういうんじゃないっすよ。ただの友人、というか知り合いみたいなもんっす」

 なのでいつでも不倫できます!

「訳ありのようですわね。最近、風華ちゃんに入れ知恵しているのもあなた?」

 う、鋭いな。

「まさか。ただの一視聴者として楽しんでるだけっすよ」

 外部の人間に情報を漏らしているのを公然と言うわけにはいかねぇよな。まぁコスプレ衣装お披露目している時点でバレバレ間違いなしだけどな。

「ちょっと聞いていいっすか?」

「なにかしら?」

「乃和木風華、アイツはなんでクビにならないんすか?」

 この際だから聞いておこう。沈黙避けにもなるしな。

「社長とプロデューサーは面白いものが好きですから、彼女みたいなトラブルメーカーは大好物なのですわ。風華ちゃんの出演時にはいつも笑って楽しんでいますの。ですので解雇されることは余程のことがない限り、ないと思いますわ。新人というのもありますし」

 やっぱりそういうことか。乃和木が社員寮を紹介していた時にも聞いていたことだ。

「なるほど、分かるような気がするっす。アイツは劇薬ですからハマる人にはハマるタイプっすよね」

「私も楽しいことは好きですから社長達の気持ちも少し分かります」

 目を細め、優しく微笑む。母性が溢れてますなぁ。

「後は私、ダメな子ほどほっとけなくなるのですわ」

 ダメ男にハマっちゃうタイプか? 俺もダメ男なんですけどー? ヒモにしてくれぇ。

「あはは、なんかイメージ通りっす」

「やっぱり良くないかしら」

 服装のことといい、結構、人の目気にするタイプなんだなー。かわいい。

「いや、そのままでいて欲しいっす」

 俺史上最大の台詞回し!

「ウフフ、精進しますわ」

 凄い! 俺だけに笑いかけてくれた! もう死んでもいい!

「それと、これからも乃和木風華のことよろしくお願いします。アイツは言葉選びが悪くてどうしようもない奴っすけど、光るものはあると思うんす。パニックになっている時のアイツはダメだけど、そうじゃない時のアイツは独特な言語センスで場を盛り上げられるんすよ。だからその、もう少し長い目で見てやって欲しいっす」

 正直、アイツがクビになろうがどうだっていいけど、パソコン買ってもらったしな。出来る限りのことはしてやろう。まぁこうやってお願いするだけだけど。

「優しいのですわね」

 そんなんじゃない。俺は与えられて来なかったから、何かを与えられた時の反動が怖いだけなんだよ。俺はいつだって自分本位で保守的なやつなのさ。

 そんな気取ったセリフを心中で言っていると、乃和木が戻ってきた。

「あ、二人楽しそうにして。不倫ですかぁ?」

「おだまり」

 生おだまりキター!

 その後、コーヒーショップを出てビッキーと別れる。

 乃和木と二人になってしまう。ああ寂しい。

「いやー、楽しかったですねぇ!」

「そっすね」

 正直俺は複雑な心境だった。推しのビッキーと会えたことは素直に嬉しかった。だがその一方で劣等感を刺激された。

 同じ三十代なのにビッキーはずっと落ち着いていて、しっかりしていて、それに加えて親しみの湧く人間味があって、俺の思い描く完璧な人間だった。

 五歳差があるとはいえ、五年後、俺があんな理想の人間になれるとは思えない。きっと五年後も、いや十年後も、それより先も変わらずに誰かをひがみ続けながら生きていくんだろうな。

 俺にとって推しは太陽みたいにまぶしすぎた。近付き過ぎると目を開けてらんねぇよ。

 ハァ、鬱だ。これだから上級国民と会いたくないんだよな。自分が下だということを嫌でも分からせられる。

 しかーし! そんな時はお天気お姉さんを見よう! それでどんな嫌なことも吹っ飛んじゃうのさ!

 複雑な顔をしていたら、乃和木が顔を覗き込んできた。

「どうしたんですか、コーラかと思ったらしょうゆを飲んじゃったような顔して」

 あ、コイツも上級国民だったな! でもコイツだけは見下せるから助かるわ! この上級国民界の底辺め!

「響さんと会えて嬉しかったですか?」

 嬉しかったが初めに言っとけよな。そしたら準備しといたのに。まぁ大してやること変わんなそうだけど。

「まぁそれなりに」

「それはよかったです。響さん推しですもんね」

「う、なぜそれを」

「切り抜きで私以外に響さんのばかり切り抜いているのでファンなのかなと」

 チッ、目ざといな。

「響さん素敵ですもんね。美人で頭が良くて優しくて。それに比べて私は空っぽです」

 憂鬱そうな顔をしている。なんだ、コイツでもヘラる時があんのかよ。まぁどんな明るい人間も電池が切れる時はあるよな。

「そんなことないと思うっすよ」

「フォロー下手ですね」

 上手かったら友達も彼女も居て、もっといい人間関係構築できてるっつーの。

「そんなことより! お腹が減りました! ご飯食べに行きましょう!」

 立ち直り早いな。お前は急速充電器かよ。

「どうせならビッキーが居る時に言って欲しかったっすね」

 そしたら一緒に食べられたのによぉ。

「あ! ビッキーって呼んでる!」

 あっ! しまったぁぁ! 心の中でいつも呼んでるからつい口に出てしまった!

「言ってやろー言ってやろー響さんに言ってやろー!」

 うぜぇ。小学生かよ。言われたところで別に何もねぇだろ。ちょっと俺の耳が赤くなるくらいだわ。

「はいはい、分かったっすから。それよりメシっすよね? 俺は手持ちの金がないんでやめとくっす」

 さっきクソ激甘ミルクコーヒーに一日分の食費を持っていかれたからな! 美味かったけど!

「今日はお買い物に付き合って貰ったので奢ってあげますよ」

「じゃあ行くっす!」

「はやっ」

 コイツからは奢ってもらっていいと俺の中で決めている。いつもクソワードを浴びせられて精神的苦痛を与えられているから慰謝料がわりだ。

「単純な人ですねぇ。ただ、そういうところは嫌いじゃないですよ」

 ふん、お前に好かれてもな。ビッキーに好かれたいわ。クソッ!

 その後、きっちりご飯を奢らせて、買い物は終了した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...