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第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

第9話 食レポ1・海鮮ラーメン

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 五月三日、食レポ生放送当日。俺は仕事が休みだったので見ることにした。俺の誕生日だから休みを取ってるわけじゃないぞ! 世間は祝日だからな! 誰に言い訳してんだ俺。

 乃和木風華に誕生日プレゼントとして買ってもらった新品のパソコンを立ち上げる。いやー、静か! 生娘くらい大人しいですなぁ! 生娘よくしらねぇけどさ!

 このパソコンで何をするかっていったらもちろん、エロ動画を見るよな! えっ? 動画編集? そんなのエロを見るための体裁ていさいだよな!

 そうこうしているとラーメン屋の前にたたずむ乃和木風華が映った。背景を見ると街路樹や店ののぼりが激しくはためいており、風が強いことがうかがえる。

 乃和木は強風対策なのか、黒髪ロングを後ろで一纏めにしてオシャレなポニーテールにしている。いつもより露わになった顔はとても小さく、顎もシュッとしていて、モデルと言われたら納得する綺麗さだ。

 黙っていたら完璧なのに、コイツの場合しゃべりでマイナス一億点だからな。哀れな内面ピエロだよ。

 服はキャスターが着がちなワンタンみたいなヒダの付いた白いシャツに、細身の黒いスラックスだ。

 靴はファミレスに行った時と同じかかとが比較的高めのヒール。おいおい、仕事でも履くのかよ。コケてもしらねぇぞ。ま、いくらコイツがドジでもそんなベタなことはしねぇよな!

 あれ、そういえば俺の最推し、人妻の鳴神響なるかみひびきことビッキーが居ないぞ。この後、弁当交換して食べ合うはずだから居ないとおかしいのに。

「ど、どもどもー乃和木風華ですぅ」

 ヘビに睨まれたカエルのごとくカチコチだ。こりゃなんかあったな。

「本日は梅雨入り前に私と響さんでピクニックをやっておこうという企画なんですけど、響さんがですね、前のお仕事の関係で遅れています。スケジュールの関係でこれ以上待てないので私一人で先に始めようと思いますぅ」

 うわ、そういうことか。ビッキー人気だもんなー、たまに地上波放送に出てたりするし。しかし、コイツの介護要員が居ないってヤベェだろ。はやく中止にしろ。

「ピクニックの前にですね、スポンサーさんに媚を売ろうということで今日はラーメン屋さんに来ていますー」

 媚び言うな。契約切られたらどうすんだ。

 きらびやかなラーメン屋に近づいていく。

「看板はカンカンランランしてますねぇ」

 せめてピカピカだろ! パンダにしてんじゃねぇぞ! 早くも擬音の使い方がズレて来てんぞ!

「店名は、パーフェクトラーヌンさんです」

 外国人が想像する日本のラーメン屋みたいな名前してんじゃねぇぞ!

「それじゃあお邪魔しまーす」

 暖簾のれんをくぐり、店内へ。中は朱色を主体としていて高級中華料理店みたいだ。

「店内も華やかでホァンホァンフェイフェイしてますねぇ」

 パンダ増やすな!

 一番手前の席に着席すると同時、注文をとりに店主が出てきた。店主の見た目は、店の前で腕組みしながら集合写真を撮るのが好きそうな筋肉質の中年男だ。

「へいらっしゃい。何にしましょ?」

「いつもの、で」

「いつもの……? あ、ああ、いつものね!」

 絶対いつも来てねぇだろ。段取り決まってるのにアドリブで言いやがったな。素人に嫌がらせしてんじゃねぇぞ。

 それから奥に引っ込んだ店主が幾分もせずに戻ってきた。

「へい、お待ち! 海鮮ラーメンだよ!」

 麺の上にエビやら貝が大量に盛られた器が目の前に来た。

 美味そうだな。上級国民しか食べらんねぇ値段してそう。

「うわー、美味しそー! では早速いただきます!」

 まずはレンゲでスープをすくった。あ、おい、そんな一気に飲むなよ。熱いぞ。

「アッチ、ジワジワジュアアアア!」

 あーあー、コイツはやって欲しくないこと何でもやりやがるな。せめてもっとかわいく熱がれよ。これじゃあ死に際に暴れるセミだよ。

「えっと、おいひいです」

 続いて麺に手をつける。麺も熱いだろうし、気をつけろよ。

「アッアッ、グワシャアアアア!」

 人間見つけてウキウキのゾンビかよ。

「お、美味しいです……コホン、それにしても具沢山ですねぇ。どれから食べようか迷っちゃいます。うーん、じゃあエビさんからいただきましょうか」

 エビを小皿に取り分けて素手で剥き始めた。おい、それも熱いんじゃねぇのか? 気をつけろよ。

「アッツァ、アッツァ、ホワチャア!」

 カンフー映画かよ! 熱がるくだり何回やんだよ!

「では上手に剥けたところでいただきます!」

 上手じゃねぇけどな!

「うん、このエビ、シュリンプシュリンプしてますねぇ!」

 プリプリでいいだろ!

 今度は殻付きの貝に手を出す。恐らくホタテだろう。

「うん、この貝……シュリンプシュリンプしてますねぇ!」

 シュリンプは貝じゃねぇし、擬音でもねぇぞ!

 乃和木がもう一個別の貝があることに気づいた。

「もう一種類貝があります! 新種ですか!?」

 んなわけねぇだろ! 多分アサリだよ!

「うん、この貝もシュリンプシュリンプしてます!」

 もはやシュリンプ言いたいだけだろ! 確かに言いたくなるけど手抜きしてんじゃねぇぞ!

 次に隠れていた里芋っぽいものに手を出す。

「え、芋って海の生き物だったんですか!?」

 海鮮ラーメンだからって畑のもの出したらいけないわけねぇだろ!

「うん、このお芋、ヒップホップしてます!」

 ホックホクの間違いだYO!

 次はチャーシューを箸で持ち上げた。

「やっぱりラーメンといえばチャーシューですよね。お肉って大事です」

 具なしカレーを食ったやつの言葉は重みが違うな。

「ではではいただきます!」

 一口頬張り、目を見開く。

「うん、このチャーシュー、チャシュチャシュしてますねぇ!」

 チャシュチャシュってなんだよ! よく噛まずに言えたな!

 店主は腹を抱えて笑っている。

「ねぇちゃんいい食いっぷりだねぇ! ほれ、おまけのチャーシューもう一丁!」

 あ、店主余計なことを。コイツはマニュアル人間だから想定外のことが起きたら対応できないんだぞ。

「あ……あ……アリガトゴザマス」

 ほら見ろ、目が壊れた観覧車みたいにグルグル回り出したぞ。こうなったら終わりの始まりだぞ。

「で、ではせっかくのご好意なのでイタダキマス」

 動きがガクガクだぞ。誰かコイツを再起動しろ。

「あ、あーすごいです、このチャーシュー、箸でも簡単にぶち切れます」

 ぶち要らねぇだろ。ぶち切れるとしたら店主だよ。

「あ、すごいです、体液が溢れ出てます!」

 肉汁だよ!

 そして一口。

「うん、このお肉、お魚みたいです!」

 だったら魚食うよ!

「いいねいいねぇ! じゃあオマケに魚もつけちゃうよ!」

 店主ー、もう辞めてくれー。オーバヒートするぞー。

 焼いたアジっぽい魚が出された。すぐに箸でほぐして口に運ぶ。

「うん、このお魚、お肉みたいです!」

 だったら肉食うよ! てかさっきの逆にしただけだろ! リバーシブル比喩やめろ!

「ブハハ! いやーねぇちゃん面白いよ!」

「あ、ありがとうございます! よく言われます!」

 店主は終始ニコニコしていた。どうやら怒っていないようだ。頑固一徹な店主なら終わってたな。この女、運だけはありやがる。
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