【完結】弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

一終一(にのまえしゅういち)

文字の大きさ
上 下
7 / 68
第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

第7話 弱男の飯

しおりを挟む
 乃和木風華が一問一答企画でやらかしてから一週間後。

 俺は仕事が休みなので寝ていた。すると突然、玄関からガチャガチャと音が聞こえてきて俺の部屋のドアが乱暴に開かれた。

「空雄さん、おはようございます!」

「えっ、鍵閉めてたっすよね?」

空子そらこさんが合鍵くれました!」

 おい、母親ババア。たいして知らねぇ奴に鍵渡すんじゃねぇよ。防犯意識低過ぎだろ。

 コイツなんていつ無職になって犯罪者に落ちるか分かんないんだからな。空き巣は知ってる奴の家に入るとも聞くし勘弁してくれ。

「あはは……それで会社はクビになったんすか?」

「それがですね、私も諦めかけてたんですけど、なんと! もう一度チャンスをくれることになったんですよ!」

 はぁ? あの醜態さらしてまだチャンス与えるってヤバいだろ。枕か? プロデューサーの愛人なのか?

「へぇ……よかったっすね」

「もっと喜んでくださいよ! ともかく! 次は“食レポ”を任せられることになったんです!」

 天気予報やれよ。つってもコイツに真面目なコンテンツを任せられねぇか。地震や台風でふざけるとたちまち炎上するしな。

「そうなんすか。まぁ頑張ってくださいっす」

「そこで! また練習に付き合ってください!」

 いや、低学歴偏屈クソ弱男の俺に頼るなよ。コイツ友達いねぇのか? いねぇか。コイツは口を開けばチクチク言葉のオンパレードだし、お上品な上級国民のコミュニティだと、気付かれない程度に隅に追いやられて排除されてそうだもんな。哀れな奴。俺みたい。

「はぁ。で、何食べるんすか?」

 どうせ断っても無駄なので話を聞いてみることにした。

「あ、これ構成表です。社外秘なのでバラさないでくださいよ」

 はい、コンプラ違反。偉い人ー、早くコイツクビにしないと手遅れになりますよー!

 俺も巻き込まれる前に夜逃げの準備しとかないとな。あ、そんな資金なかったわ。

「えーっと、まずスポンサーのラーメン屋でラーメンを食べるんすね」

 は? 経費でラーメン食うってことか? ズルいぞ、俺にも食わせろ。

「次に近くの公園で鳴神響なるかみひびきさんとお弁当交換すか」

 は? は? ズルいぞ! 俺にも人妻の弁当食わせろ!

「最後に会社の製品であるお天気クッキーを食べて終わりっすか」

 これ全部経費で落ちんのかよ! ずりぃぞ上級国民ども!

「このラーメンとか弁当って中身もう決まってんすか?」

「えっと、ラーメンは海鮮ラーメンとだけ。お弁当は響さん次第なので教えてもらってません」

 ほぼぶっつけ本番かよ。コイツには無理だろ。

「ところで空雄さんって普段何を食べてるんですか? キャベツの芯ですか?」

 馬鹿にしてんのか。何で芯限定なんだよ。葉っぱも食わせろ。

「普通のものっすよ」

「サーロインステーキですか?」

 上級国民めぇぇ!

「いや、レトルトとか半額弁当とか」

「へぇ」

 聞いた癖に興味持てよ。お前は俺かよ。

「今日は何を食べるんですか?」

「給料日前だし、家でソースカツ丼——」

「あ、庶民っぽくていいですねぇ!」

「——カツ抜き」

「……え?」

「もしくはカレー——」

「あ、いいですねぇ! 牛肉ですか豚肉ですか? チキンでもいいですねぇ!」

「——具なし」

「……え? 野菜もないんですか?」

「そんな贅沢品、ウチにはないっす」

 ババアが考えなしに大量に買ってきては腐らせて大喧嘩になるのでほぼ買わなくなった。

「…………」

 絶句かよ。なんか言えよ。

「……あ、そうだ。食レポの練習に今日はウチでご飯食べていったらいいっすよ」

「い、いやぁやめときます。きょ、今日は外食の気分なので……」

「まぁまぁ、そう言わずにさ。……構成表、外部の人間に見せたのバラされたくないっすよね?」

「な、……脅迫ですか! ミステリードラマなら崖に呼び出されてますよ……!」

「安心してくれ。俺は逆に突き落とすタイプだから」

「開き直って第二第三の殺人を犯すタイプの人じゃないですか!」

「とにかく、食べてくっすよね?」

「クッ……仕方ありません。崖から落とされたくないですからね」

 落とすくらいなら密告するわ。

 で。

 きったねぇ台所に立った。

「あ、米一人分しかねぇな」

 ババアの野郎、計画的に食えっつってんのによぉ。

「あ、じゃあやっぱり外食にしましょう」

「いいからいいから。アンタだけでも食べていってくださいっす。おもてなしってやつっす」

 にっこりと笑い掛ける。それはもう天使のように。

「いや、おもてなしする人の顔じゃないんですけど。ハロウィンのカボチャみたいな底知れぬ顔してますけど」

 無視して調理を開始する。

「んじゃ、鍋に水とカレーのブロックをひとかけら入れるっす。後は煮込むだけで完成っす」

「ワ、ワァーカンタンデスネー……」

 数十分煮込んだ後、皿に盛り付けた。米とカレールーのみ。決して煮込みまくって具材が溶けたわけではない。

「い、いただきます……」

 乃和木風華が恐る恐る口にする。

「う、薄いです」

 水多めに入れたしな。質より量よ。

「こらこら、食レポの練習なんだからネガティブな言葉は使ったらダメっすよ」

「そう言われても、どうしたらいいんですか?」

「薄かったら上品とか優しい、懐かしい味とでも言っとけばいいっすよ。逆に辛かったり、しょっぱかったら刺激的な味やパンチのある味とでも言っとけばいいっす」

 食レポなんて無難なこと言っとけばいいんだよ。大体、食う前の箸で持ち上げる映像で視聴者は勝手に味想像して満足してんだから。

「なるほど」

「後は困ったら擬音を使えばいいっす」

「シャバシャバやドロドロとかですか?」

 何でコイツは若干ネガティブ要素含む言葉を選ぶんだよ。

「サラサラやトロトロの方がいいっす」

「カンカン、ランランはダメですか?」

 パンダかよ。

「食べ物に使いそうな擬音にした方がいいっすね。それから食べ方にも気をつけた方がいいっす。クチャクチャ音を立てたり、迎え舌で食べたり、咀嚼しながら喋ったりしない方がいいっす」

「前世はマナー講師さんですか?」

 せめて今世にしろよ!

 乃和木が黙々と食べ続ける。汗が流れたのをハンカチで拭った。

「ふぅ、汗も滴るいい女になりましたね」

「汚いっすね。そういうのは食レポ中は言わない方がいいかと」

「嫌な人ですねぇ」

 お前もな!

 食べ終わる。

「ふー、お腹は膨れましたけど、これ栄養的には大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。——三日くらいなら」

「……え?」

「大体三日コレを食べ続けると、まず口内が荒れ始める」

「え、怖い怖い」

「まぁそれはビタミン剤を飲めば大体治るからいいっす」

「いやいや、よくないですよ! ちゃんとしたもの食べてください!」

「そして七日を過ぎた頃、腹は膨れているのに腹が減るという謎の現象が起こり始める。恐らく栄養が足りていないのだと思うっす」

「それはそうですよ! というか百物語の一つを話す時みたいな語り口調やめてください! 怖いですよ!」

 耳を塞ぐ乃和木風華。

 おいおい、三途の川がうっすらと見え始めてからが本番だというのに。仕方ない、辞めてやるか。

 その後。

「あ、食レポで食べる予定のお天気クッキー持ってきているのでそれ食べましょう!」

 お、いいじゃん。

 ポップな柄の箱を開くと天気に関する絵が描かれた丸いクッキーが姿を現した。

 乃和木が丸々一枚口に放り込む。もっと上品に食べろよ。

「パサパサしてますねぇ」

 またコイツはクソワードチョイスしやがって。

「サクサクのがいいっすね」

 そんな忠告を無視して、太陽の焼印がされたクッキーを両目に重ねだした。

「パッチリおめめ!」

「……食べ物で遊ばない方がいいっすよ」

 コイツはホント炎上の火種たくさん持ってんな。

「一枚貰っていいっすか?」

「百万円になりまーす」

 テンプレ駄菓子屋ババアうぜぇ。

「出世払いで」

「出世しないのでダメです」

 普通に傷付くこと言うんじゃねぇよ!

「時間の無駄なんで貰うっすね」

 口を3にしてブーブー文句を言っているが、無視してクッキーを一口かじる。……ま、普通のバタークッキーだな。味はともかく腹の足しにはなるからありがたい。

「うん、サクサクっすね」

「つまんない食レポですねぇ」

 コイツ……! 自分に甘く、他人に厳しい俺みたいなやつだな! 上級国民界の俺! ギャハハ、不名誉だろー! ってそれだと俺もダメージ負うじゃねぇか!

 それからあーだこーだと皮肉り合いながらクッキーを食べ終わった。

 そして乃和木が最後に一言。

「飽きましたね。所詮はお天気マークを付けただけの量産型クッキーです」

 偉い人ー! コイツクビにしてくださーい!

 その後、クッキーの箱を片付けて一息つく。

「そういえば空雄さんご飯食べてませんよね。よかったら外で食べませんか?」

「そんなお金ないっすよ」

「ご馳走しますよ」

「行こう!」

「はやっ」

 タダ飯食えるなら地獄の底でも魔王城でも行くぞ。ただし、給料日前に限る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...