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第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件
第2話 ノー天気お姉さんの野望
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やってしまった。見知らぬ女に傘を渡したことで家まで付いてこられてしまった。
今、女はシャワーを浴びている。水音と鼻歌が聞こえて来る。よくしらねぇ家でリラックスできるな。
俺はというと、ボロアパートの居間で同居人の母親と対面していた。
雷でシャンプーしたみたいな爆発ヘアーに、ミドリムシを敷き詰めたような柄のパジャマを着たババアが眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
「アンタ遂に女の子をデリバリーしたのね」
「んなわけねぇだろ」
家族のいる家に呼ぶかよ。そんなガサツなことが出来たら今頃ハーレム形成してるわ。
「じゃあ誘拐?」
「俺をなんだと思ってるんだ」
コイツには息子が友達を連れて来るという発想はないのか。友達じゃねぇけど。
「じゃあお友達?」
何で第三候補なんだよ。一番初めに出す疑問だろ。
「まぁ、そんなとこだ」
さすがに拾ったとは言わなかった。
「避妊具買ってこようか?」
いらねぇよ! 何歳だと思ってんだよ! 二十九歳だぞ! この過干渉ババア! 二度目の反抗期突入するぞコラァ!
「いいからいいから。余計なこと言うんじゃねぇぞ」
そうこうしていると、女が髪を乾かし終わって洗面所から出てきた。ツヤのある黒髪ロングに整った顔立ちをしている。
「あ、お風呂いただきました! ありがとうございました!」
呪いのかかったメロンソーダみたいな柄のパジャマを着ている。ババアのやつだな。
「あら、いいのよぉ。狭かったでしょう、ごめんねぇ」
「足は伸ばせなかったけどいいお湯でした!」
地味に傷つくこと言うな。嫌味な奴め。
その後、俺の部屋に行って二人になった。
「それで、助けて欲しいってのはなんすか?」
「あ、まずですね、これお名刺です」
いたって普通のカード型の名刺を見る。
名前は乃和木風華。アイドルみたいな名前しやがって。それより気になったのは株式会社“天天天気”の文字。これって、俺が最近ハマっているお天気LIVE動画の会社じゃん。
「この会社……あの天気を垂れ流すやつっすか?」
「そうですそうです! やっぱり知ってましたか! 有名ですもんねぇ! 私、そこでお天気キャスターをしてるんですよ!」
ドヤ顔。自分の職業に誇りを持つのはいいことだが、なんかムカつくな。
まぁいいか。それよりこんなキャスターいたか? 動画を見始めて日が浅いから知らないだけかな。いや嘘の可能性もあるな。家を知られたのはまずかったか。なんか壺とか絵画とか売り付けてきたら追い出すとしよう。
「それでですね、私、野望がありまして。この会社で一番人気のキャスターになりたいんです!」
「はぁ……。何をもって一番なんすか?」
「それはもちろん、SNSのフォロワー力でトップになることです!」
フォロワー“力”ってなんだよ。戦闘力的なやつか? バトル漫画かよ。
「ちょっと調べさせてもらうっす」
「どうぞどうぞ!」
スマホでフォロワー数を調べる。
えーっと、会社の公式が60万。人気だしそれくらいはいるよな。次にフォロー欄からキャスターを調べる。
一番人気が80万。ふーん、凄いじゃん。
んで次が50万。俺の最推しのキャスターだ。ちなみに人妻。脳を破壊され続けた俺は、人妻を応援したら良くね? ということに気がついたのだ。初めから男がいると分かっていたらダメージはないという逆転の発想だ。うひひ。
コホン、話を戻そう。後は三位が10万、それ以下はベテランが2万~5万、新人は1万くらい。
一人だけいる男は結構歴が長いにも関わらず5000。うーん、世知辛いね。まぁこの番組は疲れ果てた男が見る最後のサンクチュアリだからな。男キャスターの需要は低いのだろう。
肝心の乃和木風華は……無いな。公式にフォローされてないってマジかよ。一気に嘘くさくなってきたな。
仕方なく検索窓で名前を調べる。あ、あった。フォロワーは……えっ、ご、500!? 少なっ!
「これがアンタっすか?」
「そうですそうです! いやぁ、新人とはいえ中々増えないものですねぇ」
にしても異常だろ。
「一応確認しとくっすけど、お天気キャスターなんすよね? 公式にフォローされてないっすけど」
「あはは! やだなぁ、それは私が問題児だからですよぉ!」
笑って言うことかよ。
「問題児って……何したんすか」
「えっとですね、まず初出演の時にアクビをしてしまいまして、こっぴどく怒られました」
初手でそれは印象悪いな。
「違うんです、前日に緊張で眠れなかったんですよぉ!」
俺に言い訳されてもね。
「その後、地震速報だったり、機材トラブルが重なって一旦裏にハケたんですけど、眠気がピークに達しまして、それで背もたれの低い椅子に座ってて、そのまま後ろに倒れて意識がなくなりました」
なんだよそれ、すべらない話か?
「それ以来出演していません」
完全に干されてんじゃねぇか。
「でももう一度出られることになったんです! 五分だけ!」
卒業という名のクビ間近だろそれ。
「あ、それとプロデューサーさんから言葉選びが悪いと怒られました。そんなことないですよねぇ?」
いやいや、この短時間で結構ボロが出てるし、プロデューサーの方が正しいだろ。生放送番組でそれは致命的だと思う。ちょっとした下ネタ程度ならいいが、差別用語なんて出したらたちまち炎上して謝罪させられるだろう。俺が偉い人ならこんな問題児使いたくない。
「あはは……まぁあんまり良くなさそうな感じはするっすね。知らないっすけど」
「えぇ!? こんなに美人なお天気お姉さんなのに!?」
そういうところだろ。
「それで何で漫画アニメゲームなんすか?」
最初に会った時にバカみたいに叫んでいたことだ。人気キャスターになることと、いまいち結びつかない。
「それはですね、他の人気キャスターさんほとんど漫画アニメゲームのどれかを履修してて、プロデューサーさんにも勧められたので、やることにしたんです」
視聴者層おそらく男が多いし、いいかもな。ま、にわか仕込みじゃ人気に直結しなさそうではあるけど。
「それでとりあえずゲームやってみたんですけど、なんか訳も分からず歩かされて、いつの間にか辺鄙な場所にたどり着いて、焦ってゲーム機を川に落としてしまって、雨にも降られて、どうしようもなくなって泣いてしまいました」
コイツに健全なエピソードはないのかよ。純粋、つーか天然だろ。
「じゃあ他のキャスターに教えて貰えばどうっすか」
わざわざ俺みたいなどこの馬の骨か分からない怪しいやつに頼まなくてもな。誰が怪しいやつだよ。
「いやぁ、それはその、ライバルに教わってもナンバーワンにはなれないじゃないですかぁ?」
何だコイツ、天然と腹黒を罹患してやがる。医者もお手上げだわ。
つーかそれなら他の誰もやってない趣味探した方がいい気がする。漫画アニメゲームなんて罵詈雑言結構多いから言葉選びがますます悪くなりそうだし。でもまぁ、お天気お姉さんなんて大体上級国民だろうし、価値観を一般に近づけるという点では少しは役立つか。しらねぇけど。
「まぁ頑張ってくださいっす」
「何言ってるんですか! ここで会ったのも何かの縁です! 一緒に頑張りましょうねブラザー!」
何がブラザーだよ。にわかラッパーかよ。
「そういえばアナタのお名前は?」
言いたくねぇなぁ。まぁ家知られてるし言うしかないか。
「……九森空雄」
「漢字はどう書くんですか?」
「数字の九に、森林の森、青空の空、雄弁の雄っすね」
我ながら完璧な説明だな。
「空っぽの雄ですね!」
全国の空雄に謝れよ! コイツ発言するたびに人を傷つけていくな!
「じゃあ空雄さん! 私をフォロワー力一番にしてください!」
人任せかよ! 何がお天気お姉さんだ! ノー天気お姉さんだろ!
今、女はシャワーを浴びている。水音と鼻歌が聞こえて来る。よくしらねぇ家でリラックスできるな。
俺はというと、ボロアパートの居間で同居人の母親と対面していた。
雷でシャンプーしたみたいな爆発ヘアーに、ミドリムシを敷き詰めたような柄のパジャマを着たババアが眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
「アンタ遂に女の子をデリバリーしたのね」
「んなわけねぇだろ」
家族のいる家に呼ぶかよ。そんなガサツなことが出来たら今頃ハーレム形成してるわ。
「じゃあ誘拐?」
「俺をなんだと思ってるんだ」
コイツには息子が友達を連れて来るという発想はないのか。友達じゃねぇけど。
「じゃあお友達?」
何で第三候補なんだよ。一番初めに出す疑問だろ。
「まぁ、そんなとこだ」
さすがに拾ったとは言わなかった。
「避妊具買ってこようか?」
いらねぇよ! 何歳だと思ってんだよ! 二十九歳だぞ! この過干渉ババア! 二度目の反抗期突入するぞコラァ!
「いいからいいから。余計なこと言うんじゃねぇぞ」
そうこうしていると、女が髪を乾かし終わって洗面所から出てきた。ツヤのある黒髪ロングに整った顔立ちをしている。
「あ、お風呂いただきました! ありがとうございました!」
呪いのかかったメロンソーダみたいな柄のパジャマを着ている。ババアのやつだな。
「あら、いいのよぉ。狭かったでしょう、ごめんねぇ」
「足は伸ばせなかったけどいいお湯でした!」
地味に傷つくこと言うな。嫌味な奴め。
その後、俺の部屋に行って二人になった。
「それで、助けて欲しいってのはなんすか?」
「あ、まずですね、これお名刺です」
いたって普通のカード型の名刺を見る。
名前は乃和木風華。アイドルみたいな名前しやがって。それより気になったのは株式会社“天天天気”の文字。これって、俺が最近ハマっているお天気LIVE動画の会社じゃん。
「この会社……あの天気を垂れ流すやつっすか?」
「そうですそうです! やっぱり知ってましたか! 有名ですもんねぇ! 私、そこでお天気キャスターをしてるんですよ!」
ドヤ顔。自分の職業に誇りを持つのはいいことだが、なんかムカつくな。
まぁいいか。それよりこんなキャスターいたか? 動画を見始めて日が浅いから知らないだけかな。いや嘘の可能性もあるな。家を知られたのはまずかったか。なんか壺とか絵画とか売り付けてきたら追い出すとしよう。
「それでですね、私、野望がありまして。この会社で一番人気のキャスターになりたいんです!」
「はぁ……。何をもって一番なんすか?」
「それはもちろん、SNSのフォロワー力でトップになることです!」
フォロワー“力”ってなんだよ。戦闘力的なやつか? バトル漫画かよ。
「ちょっと調べさせてもらうっす」
「どうぞどうぞ!」
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えーっと、会社の公式が60万。人気だしそれくらいはいるよな。次にフォロー欄からキャスターを調べる。
一番人気が80万。ふーん、凄いじゃん。
んで次が50万。俺の最推しのキャスターだ。ちなみに人妻。脳を破壊され続けた俺は、人妻を応援したら良くね? ということに気がついたのだ。初めから男がいると分かっていたらダメージはないという逆転の発想だ。うひひ。
コホン、話を戻そう。後は三位が10万、それ以下はベテランが2万~5万、新人は1万くらい。
一人だけいる男は結構歴が長いにも関わらず5000。うーん、世知辛いね。まぁこの番組は疲れ果てた男が見る最後のサンクチュアリだからな。男キャスターの需要は低いのだろう。
肝心の乃和木風華は……無いな。公式にフォローされてないってマジかよ。一気に嘘くさくなってきたな。
仕方なく検索窓で名前を調べる。あ、あった。フォロワーは……えっ、ご、500!? 少なっ!
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「そうですそうです! いやぁ、新人とはいえ中々増えないものですねぇ」
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「あはは! やだなぁ、それは私が問題児だからですよぉ!」
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「問題児って……何したんすか」
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初手でそれは印象悪いな。
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俺に言い訳されてもね。
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なんだよそれ、すべらない話か?
「それ以来出演していません」
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「でももう一度出られることになったんです! 五分だけ!」
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いやいや、この短時間で結構ボロが出てるし、プロデューサーの方が正しいだろ。生放送番組でそれは致命的だと思う。ちょっとした下ネタ程度ならいいが、差別用語なんて出したらたちまち炎上して謝罪させられるだろう。俺が偉い人ならこんな問題児使いたくない。
「あはは……まぁあんまり良くなさそうな感じはするっすね。知らないっすけど」
「えぇ!? こんなに美人なお天気お姉さんなのに!?」
そういうところだろ。
「それで何で漫画アニメゲームなんすか?」
最初に会った時にバカみたいに叫んでいたことだ。人気キャスターになることと、いまいち結びつかない。
「それはですね、他の人気キャスターさんほとんど漫画アニメゲームのどれかを履修してて、プロデューサーさんにも勧められたので、やることにしたんです」
視聴者層おそらく男が多いし、いいかもな。ま、にわか仕込みじゃ人気に直結しなさそうではあるけど。
「それでとりあえずゲームやってみたんですけど、なんか訳も分からず歩かされて、いつの間にか辺鄙な場所にたどり着いて、焦ってゲーム機を川に落としてしまって、雨にも降られて、どうしようもなくなって泣いてしまいました」
コイツに健全なエピソードはないのかよ。純粋、つーか天然だろ。
「じゃあ他のキャスターに教えて貰えばどうっすか」
わざわざ俺みたいなどこの馬の骨か分からない怪しいやつに頼まなくてもな。誰が怪しいやつだよ。
「いやぁ、それはその、ライバルに教わってもナンバーワンにはなれないじゃないですかぁ?」
何だコイツ、天然と腹黒を罹患してやがる。医者もお手上げだわ。
つーかそれなら他の誰もやってない趣味探した方がいい気がする。漫画アニメゲームなんて罵詈雑言結構多いから言葉選びがますます悪くなりそうだし。でもまぁ、お天気お姉さんなんて大体上級国民だろうし、価値観を一般に近づけるという点では少しは役立つか。しらねぇけど。
「まぁ頑張ってくださいっす」
「何言ってるんですか! ここで会ったのも何かの縁です! 一緒に頑張りましょうねブラザー!」
何がブラザーだよ。にわかラッパーかよ。
「そういえばアナタのお名前は?」
言いたくねぇなぁ。まぁ家知られてるし言うしかないか。
「……九森空雄」
「漢字はどう書くんですか?」
「数字の九に、森林の森、青空の空、雄弁の雄っすね」
我ながら完璧な説明だな。
「空っぽの雄ですね!」
全国の空雄に謝れよ! コイツ発言するたびに人を傷つけていくな!
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