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第3章 王都防衛編

第95話 王都決戦2・戦友

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 トマティナとオイチが善戦ぜんせんするも鎧兵は全滅しかけていた。

 しかし、そこになぜか現れた宰相さいしょうルシフェルと北方騎士団団長グレイプニル。

「どうしてここに来た!?」

 俺は残った鎧兵を通して話し掛けた。

「王都が荒らされているのを見ちまったら行かずにはいられないさ」

 グレイが暗い赤毛をかき上げながらキザに応えた。

 さらにルシフェルが金糸きんしのような長髪を揺らめかせながら前へ。

「ルシフェルさんまでどうして!?」

「すまないな、グレイ達を止められなかった。その責任を取って私もここへ来た。戦場で指揮していたこともある。少しは役に立つだろう」

「死ぬかもしれないんですよ……!」

「覚悟の上だ。時間がない。どうすべきか指示しろ。まだ勝算はあるのだろう?」

 ……お見通しか。俺が王都に間に合えば、さっき思い付いたばかりの一度きりの奇策がある。

 もう来てしまったのなら仕方ない、二人とその配下に賭けよう。

「時間を稼いでください。あと数分、それだけでいい。それと命を粗末にするような決死の攻撃は辞めて欲しい」

 無茶なお願いだろう。でも言わずにはいられなかった。

「分かった」

 ルシフェルは何の躊躇ためらいもなく短く返事をして大きく息を吸った。

「総員、配置につけ! 第二作戦で行く!」

 大声で指示。軍師をしていたというだけあってよく通る声だ。

「了解っす!」
「わっかりましたー」
「うぃー」

 返事も服装もバラバラな筋骨隆々きんこつりゅうりゅう猛者もさ達が返事をした。まとまりは無いが、くせ者ぞろいだと分かる。

 俺はルシフェルの動きを観察しながら、トマティナとオイチへ音声を切り替えた。

「トマティナ、オイチ! 二人は残った兵でルシフェル達を援護してくれ! 鎧兵が壊れるところを見られても構うな!」

「了解!」

 二人揃って返事をした。

 直後、ルシフェルが動く。

「西側は火災の煙が流れてくる! 東側から攻撃しろ!」

 よく見てるな。今、風は東から西へ吹いていて、西側に居ると敵が見えづらくなる。それを計算しての動きだ。

「バラけ過ぎるな! 光線を撃たれるぞ!」

 なるほど、確かにビームは広範囲に鎧兵がいた時に撃たれていた。なので逆に兵を固めるわけだ。ビームは一度しか見ていないはずなのにさといな。ルシフェルという男、軍師をしていたというのも嘘ではないと分かる。

 兵達はみやこの東側で敵の鞭がギリギリ届くぐらいの距離から矢で攻撃を始めた。

 さらに後方から対巨獣兵器が出てくる。

 投石機とバリスタで攻撃。贅沢ぜいたくに一発撃つだけでその場に放棄ほうきした。俺の言った通り、命を粗末にしないようにしているのだろう。ありがたい。

「グルァ!」

 光ゾンビはもぬけのからの兵器を律儀りちぎに破壊している。所詮は図体だけが大きいケモノに過ぎないってことだな。

「荷台を落とせ!」

 ルシフェルの命令。それを聞いて、隠れていた兵が王都にある坂から馬車の荷台部分を落とした。上手い。敵は動くものに反応せざるを得ないので無人の荷台はデコイには最適だ。

「キキキ!」

 敵はまんまと釣られて馬車を攻撃で破壊していた。いいぞ、順調だ。

 だがしかし、突然、敵の指先に穴が開く。兵に狙いを定めている。やばい、マシンガンが来る! それなら!

「させるか!」

 俺が戻りながら放っていた複数の鎧コウモリが光ゾンビの目に突撃した。俺本体はまだ着いていないが、コウモリは間に合った。

 敵が鬱陶うっとうしそうに払い除ける。

「あれは!? 鎧を着た巨大コウモリだと!?」

 ルシフェルに召喚獣の存在がバレた。

「安心してください! あれは我々の操るコウモリです!」

 近くの鎧兵を通して伝えた。人が死ぬくらいなら俺の秘密なんてバレたってどうだっていい。

「ほう、なるほど……分かった」

 すぐに察したルシフェル。物分かりが良すぎる。

「グルル!」

 敵の体に再び穴が開く。またビームかと身構えるが、そうではなく“蚊の巨獣”が出てきた。

 どこに隠してたんだよ、くそっ!

 俺が歯噛はがみしていると、人間の兵が襲われそうになっていた。

「ひぇ、助け——」

 俺は想像したくない光景を幻視げんしして目をすがめる。

「泣いてる場合か、バーカ」

 グレイの嘲笑あざわらうような声がしたかと思うと、剣閃けんせんが走り、蚊の胸と腹が真っ二つに分かれた。

 グレイは深緑の鱗に包まれた鎧を着ていた。

「この鎧はクローザが貸してくれた。リザードマンの二足歩行と四足歩行を切り替えられる柔軟な鱗を使ったものだ」

 なんか勝手に説明してくれた。助かる。

 とにかくクローザの言っていた、ぽっちゃりのNo.4ドロダンゴでも着れる鎧があれっぽい。

「刺し合いなら負けないぜ」

 グレイが愛用のレイピアで蚊の巨獣の頭部を突き刺して行く。

 凄いな。特殊な鎧を着ているとはいえ一対一で巨獣に勝てるとは。伊達だてに騎士団の団長をしていないということか。

 俺がまばたきする間にも次々と蚊を切り落として行く。

 このまま全て片付けてしまうのではないか、と淡い希望を抱いていたが。

「オオオオ!」

 敵の伸びた指の鞭がグレイを襲う。

「マジかよっ!」

 鞭といっても巨獣の使うそれは、細長い尖塔せんとうのように巨大だ。それでもグレイは持ち前の身体能力と、歴戦のかんで、ギリギリかわし続ける。が、しかし。

 敵の攻撃により崩れた建物の残骸がグレイの腹に直撃した。

「クハッ……!」

 グレイは思わず息を吐き出して地面を転がる。

 まともに起き上がる間もなく、光ゾンビの魔の手が伸びる。

「あーらら、死んだなこりゃ」

 死を覚悟したグレイは笑いながら目を閉じた。

「——諦めるにはまだ早いぞ」

 敵の背後から鎧兵が現れ、翼とグレイをつかんでいる腕を爆破した。

 敵は衝撃で思わずグレイから手を引く。グレイの前には鎧馬に乗った聖騎士団アインの“団長ゼロ”。

「へっ、マジかよ。さすが聖騎士団様だ。いい時に来やがる」

 俺本体もすでに敵の背後にいた。どうにか間に合った。

「時間を稼いでくれて助かった。後は国民の側について守ってくれ」

「……仕方ねぇか。化け物は任せたぜ」

 体勢を立て直した光のゾンビ。団長ゼロと対峙たいじする。

「随分と好き勝手やってくれたな」

 色んなものを失った。聖騎士団としての信頼、思い出の詰まった建物。だけど人の命は失っていない。

「俺が生きている限り誰も死なせない……!」

 大ピンチではあったが何とか間に合った。勝負はここからだ。

 必ず勝つ……!
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