上 下
61 / 99
第2章 新天地編

第61話 火山地帯2・クリケット捕獲

しおりを挟む
 俺は巨獣サラマンダーの調査のため聖騎士団を率いてゲブラー火山を登っていた。

 人型巨獣スミーを倒した後、火山灰や火山弾が降り注ぐ中を慎重に進んで、ようやく山の中腹に着いた。

 目の前では虫型巨獣がウジャウジャとたむろしている。

 コオロギ型巨獣クリケットだ。クリケットってコオロギって意味じゃなかったか? ニートンめ、名付けも適当になってきたな!

 クリケットはサラマンダーの主食であり、本来はコイツを与えて満腹にさせて大人しくなっている間に新天地への安全な道を進むはずだった。

 それがサラマンダーの突然変異によって食べさせても効果は見込めなくなった。それでも何かしらの弱点を発見するためのきっかけになるかもしれないのでエサとして連れて行くつもりだ。

 クリケットは比較的温厚な巨獣で人間を見ても襲ってこない。

 コイツをどうやってサラマンダーの元へ誘導するかというと、クリケットの特性として頭の触角をつかむとわずかに操作できるのを利用する。

「さっそく試してみますか」

 敵がエサの岩石を食べている隙に上へ飛び乗って二本ある触角を掴んだ。とりあえず両方の触角を手前に引いてみる。

「うお!?」

 クリケットが突然ジャンプした。鎧兵の主観画面が大きく揺れる。3D酔いするわ。

 なんとか落ち着かせようと触角を強めに掴む。すると、片方の触角が千切れた。

「あ……」

 勢い余って鎧兵が振り落とされた。そのまま坂を転がり落ちていって死んだ。

 ちなみにその鎧兵は音楽騎士隊小隊長ピアーノだ。白黒だし、まるでおむすびころりんみたいだぁ……。

 メルヘンなことを考えながらクリケットを見ると、触角がなくなってバランスがおかしくなったのか、壊れたオモチャのようにその場でぐるぐる回り出した。

 うん、なんかゴメン。

 かわいそうなので殺してあげた後、新しいクリケットに飛び乗った。

「次は慎重にだな」

 右の触角を引くと右に、左の触角を引くと左に動いた。お、案外簡単だな!

 自動車教習所に通っていた頃を思い出すなぁ。

 ノロノロと動かしていると、カーブに差し掛かる。曲がる時は内輪差に気をつけてっと。タイヤはないから後ろ足だな。

 慎重にカーブを曲がっていると突然の衝撃。音の先を見ると別のクリケットに接触していた。

「邪魔だてめぇ!」

 ……ハッ! 俺はいつでも冷静沈着な男。運転の時だけ豹変して暴言を吐くタイプがいるが、俺はそうではない。安心安全運転を心がけよう。

 そう思った瞬間。別のクリケットが背後から衝突してきた。

「どこ見て走ってんだてめぇ!」

 おー痛ぇー。これ絶対むち打ちだわー。その証拠に首取れちゃってるもん。地面を見ると、鎧兵の首が転がっていた。おーいてぇー! 慰謝料払いやがれ!

 ……コホン、コントはここまでにして次だ次!

 今度は触角を前に傾けてみる。するとスピードが上がった。

「ヒャッホー!」

 教習で高速道路を走った時のことを思い出す。初めはビビるけど慣れてくると楽しいんだよな。

 高速移動させていると目の前に崖が見えた。

 危ないな。よし、ブレーキで減速してっと。……ブレーキどれ?

 触角をガチャガチャ動かすも止まる気配がない。まずいまずい。

「あ……」

 ブレーキを発見できず、勢いそのままにクリケットが崖から落ちていった。

 アハハ……ま、まぁ、巨獣だしいいよな! ほら、レースゲームだって何回か転落して操作を覚えるものだしさ! 後でレッカー車呼んどくから安心してくれよな! 多分来ないけど!

 その後、ブレーキは触角を横に広げるといいと分かった。なんか間違って手前に引いてジャンプしちゃいそうだな。もっと人間工学にのっとった優しい仕様にしろよな! ぷんぷん!

 とにかく車幅も理解してきたし、これでもうクリケット免許は取れるな!

 運転に慣れてきたところで、鎧兵を何体も乗せてクリケットの列を形成した。

 シュッシュッポッポ、シュッシュッポッポー!

 やっぱ二十三歳ともなると一周回って電車ごっこが楽しくなっちゃうよな!

 シュッシュッポッポ、シュッシュッポッポー!

 よーし、このままサラマンダーへGOだ!

 俺は人前では決して見せられないバカみたいなテンションで頂上へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...