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第2章 新天地編

第55話 ホド砂漠3・オアシス

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 六日目。独り言をしゃべる余裕もないほど疲弊していた頃、ついにオアシスにたどり着いた。

 そこは乾いた砂漠に似つかわしくない一本の大樹がそびえていた。神樹セフィロトよりは小さいが、新天地組八十人を木陰に入れてもなお余裕のあるぐらい大きい。

 根元には緑が生い茂り、名も知らぬ虫たちが平和を享受している。全体を遠目に見ると、まるで天国の一部を切り取ったかのような異質な世界が広がっていた。

「やっと着いた……」

 安全を確認した後、新天地組を呼び寄せて長時間の休憩を取ることになった。

 団長ゼロを操作してまずはリンゴ農家のシラユッキさんに会いに行く。新天地組唯一の女性なので何かと心配なのだ。

「シラユッキさん、大丈夫ですか? 何か困ったことありますか?」

 黒髪ロングをポニーテールにしている彼女がこちらに振り返った。

「あら、ゼロ様。お気遣いありがとうございますわー。今のところ大丈夫ですのよ。これでも農家の娘、多少の問題は自分で解決できますわー!」

「さすがです」

「それに私には頼りになる執事が居ますからねー」

 疲れてぐったりしている七人の執事達。どう見ても頼りにならなさそうなんだが、こいつら解雇してきた方がよかったんじゃないか?

「ところであの大樹を近くで見てみましたのー?」

 シラユッキさんの視線の先にはオアシスの木があった。

「いえ。神樹セフィロトに似てますよね。大きさは比べものになりませんが」

「あの木はテネレの大樹と呼ばれているそうですわ。砂漠に悠然と構えた不思議な大樹。神樹と同じく巨獣にとっては毒なのに人間にとっては無毒な優しい木ですわー。果実も同じで安全に食べられるらしいですのよ」

 大樹には色とりどりの実がなっている。

「果実といえば、アダムッチとイブイブが知恵の実を食べて楽園を追放された話を知っていますの?」

 アダムとイブだろ。なんだよそのお揃いの服とか着てそうなポップな名前は。

「似たような神話なら聞いたことありますね」

「知恵の実って何の実だと思いますの?」

「……リンゴじゃないんですか?」

「普通はそう思いますわよね。でも実は諸説あるのですわー。ブドウ、イチジク、ザクロ、バナナ。他にもトマトや小麦とも言われてますわ」

 へぇ。あんまり興味ないな。ただただお腹が減るわ。

「面白い話ですね。でも何の果実かって重要ですか?」

「確かにどうでもいいですわよね。それでは、もし先ほど列挙した果実が同時に実っていて誰が初めに食べられるか競っていたとしたらどうでしょう?」

 万年中二病の俺的にはちょっと刺さる楽しそうな話だな。

「興味深い。果実達にも深い物語が存在したということですか」

「最後にそそのかしたというヘビすらも果実の使いだとしたら話が広がりませんの?」

「いいですね。全ては果実達の陰謀だった、的な」

「うふふ、全て想像のお話ですけどね。私は歌を作るのでこうやって既存の物語から妄想を膨らませて考えたりするのですわー。らららー!」

 ほぼ、ららら、しか聴いたことないけどな! というチクチク言葉は胸にしまっておいた。

「知恵の実の話、続きはないんですか?」

「続きはお顔を見せてくれたら話しますわー」

 ここから先は有料記事です的なのやめろ!

 結局、シラユッキさんにあしらわれてそれ以上の話は聞けなかった。

 仕方なく次に竜騎士バハムートを操作して眼帯の青年オレンジャの元へ向かった。

 彼は他の貧民達と楽しげに話していた。少しは人脈があるのか。貧民街のボスであるキャロブゥの息子だし若頭って感じか? いや、ガキ大将って感じだな。

「お、ハムじゃねぇか」

「どうもオレンジャさん。体調はいかがですか?」

「そりゃあ元気モリモリだぜ。この程度でへこたれるならここにはいねぇ」

 ま、コイツなら疲れてても虚勢きょせいを張るわな。今は周りに取り巻きもいるし。

「それよか、お前隊長のくせに何もしてねぇけど大丈夫か?」

 そうか新天地組目線だとコイツらのお守り以外何もしてないことになるか。ストックは前線で死にまくってんだけどな。

「あはは、これでもみんなを守るという大事な仕事をしているんですよ」

「はぁ? ほとんどボッーとしてるだけじゃねぇか」

 このガキぃ……腹パンしてやろうか!

「ま、クビになったらオレの下僕にしてやるから安心しろよな!」

「給金払えなさそうなのでやめときます」

「てめぇ!」

 その後、オレンジャを適当にあしらって逃げた。

 最後に再び団長ゼロを操作して遊牧民族族長代理テンソに会いに行く。

 テンソはオアシスの木の根元で木を見上げるように立っていた。

「テンソ殿」

「おや、ゼロさん。お疲れ様です」

「何をしていたんですか?」

「テネレの大樹を眺めていました」

 俺も見上げてみる。大樹は灰が降り積もっており、元気がないように見えた。

「不思議と木に触れると落ち着きます。こういう木が世界中にあれば巨獣に怯えることなく暮らせそうなのに残念ながら種を植えても接ぎ木をしてもダメなんですよね。時に神というのは残酷な試練を与えるものです」

「あはは、確かに」

「おっと、宗教的な話は軋轢あつれきを生みやすいのであんまり良くありませんでしたね」

「いいですよ。セフィロト教は他の思想にも寛容です」

 邪教ゼロと聖教ポテトとかいうクソ同人サークルも許されてるしな!

「ところでゼロ殿、お尋ねしたいことがあるのですがいいですか?」

「なんでしょう?」

「なんだか聖騎士団の人数が多い気がするのです。遠目にしか拝見していませんが百人にしては多いような」

 ギクゥ! 五百人いるしなぁ。立ち回りに気を使っているけど隠し切るのは難しい。

「気のせいですよ。恐らく蜃気楼しんきろうか何かでそう見えたのでしょう。もしくは我々が速すぎて複数に見えたとか」

 我ながら苦しい言い訳である。

「あはは、なるほど。追及はしないでおきましょう。助けていただいている事実があれば充分です」

 空気読み助かる。

 その後、少し雑談をして終わった。

 さて、問題児どもの様子を見終わったし休むか。旅はまだまだ長いしな。休める時に休まないと。

 俺本体は新天地組から離れ、鎧兵に囲まれながら眠りについた。
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